処刑宣告は突然に
「・・・・・それで彼は焦って”望むところだ”って言っちゃったんだよ」
「なんだそれは。お前そんなので笑うのか?」
「えっ嘘、これで私しばらく笑い転げてたんだけど・・・」
貴様を笑わせる宣言からずっと、私は前世から引き継いだ”笑える話”をひたすら話し続けていた。
でも流石にもうネタが尽きそうだ・・・・・私の話に彼は時々「ふっ」と笑うことはあったが、ついぞ声を上げて笑うことはしなかった。私に伝達力が足りなかったのか、この世界じゃそもそもネタが理解されないか。どっちなんだろう、個人的には後者であってほしいけど・・・・・。
でもちょっと笑わせただけでも大健闘だろうと自分を励ましていると、後ろからゆっくりギィィ…と扉を開けながら、恐る恐るといった様子でお父様が顔を出してきた。
「おーいアイリスぅ・・・あいつどうな・・・・・お? おぉぉぉぉぉッ!?」
最初は物凄く不安そうな顔をしていたのだけど、私たちを見るなり表情をころっと変えて嬉しそうに、それはもう嬉しそうにはしゃぎだした。
「お父様?」
「なーんだ! 二人とも随分仲良くなったみたいじゃないか!! いやー、よかったよかった!!」
「・・・・・・。」
わーいわーい! と嬉しそうにはしゃぐお父様とは対照的にハイドはまた不機嫌そうな顔に戻った。
こ、これは仲良くなった・・・んだろうか? ひたすら私が話しまくっていただけなんだけどなぁ。
その後、お父様から少し遅れてロータス様やお母様たちもやってきた。みんな最初はとても不安そうにしていたけどお父様の話を聞くとすぐに安心したように喜んだ。大丈夫なのかなぁ?
ふと窓の外を見ると、空はすっかり朱色に染まっていた。
話に夢中になっていて気付かなかったが、大分時間が経過していたらしい。本当に色々あったが、これで私たちの顔合わせ会は終了らしい。ハイドはロータス様と一緒に帰って行った。
アイツとはこれからも時々会うことになるのだろうか・・・・・うーん、そう思うとやっぱりちょっと気が重くなる。あんな奴に会うのはすんごい面倒だし嫌だ。確かに嫌なんだけど・・・それでもまた会いたいとも思うなんて、なんか変な気分だなぁ。どうしちゃったんだろう。
ハイドとロータス様、馬車の中で仲直り出来てればいいけど・・・心配する私の目にサティウス家の馬車が・・・・・ひいては、風を吹かせた御者の人が目に入る。
業者の人が小さな木の棒のようなものを空中でクルクルさせると、辺りにふわっと心地いい風が吹き木の葉や花弁が宙を舞う。それはとても綺麗な光景だった。
「今のは・・・」
「アイリス? どしたの?」
「お父様! 今あの業者の人がクルクルしたら風が吹きましたの! あれが魔法ですか!?」
「あぁそっか、アイリスまだ何も魔法を見たことなかったっけ? そうだよー、あれが魔法・・・といってもかなり下級のやつだね。ウチが使ってる魔法は戦闘用の、もーっと強いやつなんだよ」
やっぱりか! というかアレが魔法じゃないなら何なんだって話だけど!
おおぉ、すごいすごい! 感動しちゃう!! はぁー・・・私も早く使ってみたいなぁ!
はっ!? というかコレはすごくチャンスなのでは!?
この流れなら魔法を使いたいとせがんでも不自然ではないだろう・・・レッツゴーファィッ!
「お父様! 私も魔法使ってみたいです!!」
「えぇ!? アイリス、魔法使いたいの!?」
「あんなの見ちゃったら当然です!」
「ははは、憧れる気持ちは分かるけどねー? でもダーメ。危ないし、それに・・・・・」
「貴族の女の子は、魔法使わないものなんだよ?」