第84話 恐怖の女性陣
やっと引っ越しが落ち着きました~
何だかんだで定期的に更新していましたが、
引き続き更新してきますので、よろしくお願いします(^^ゞ
それからしばらくして俺たちはアルフヘイムへと入国し、そのまま世界樹の近くにある森都メグレズへと入った。入国した途端、やっと故郷に帰ることができて安心したのか、元違法奴隷の森妖種たちは一様に涙を流し、笑顔を浮かべていた。
その様子に思わず笑みを浮かべ、俺は視線を周囲へと向ける。
話には聞いていたが、たしかに自然豊かで綺麗な場所で、心が安らぐ。住居は木造だったり石造りだったりと様々だが、中にはツリーハウスのように木の上に家を建てて暮らしている人もいた。自然と共存して暮らしていることが見て取れる。
見掛けるのは……まぁ妖精王国なのだから当然だが、森妖種を始めとして、土妖種や猫妖種、犬妖種などの妖精族ばかりだ。……っと、あの小さくて羽が生えているのは妖精種かな。
「幻想的で、良い所だな」
「気に入って頂けたようで良かったです。いつもはもっと人は少ないんですが、精霊祭が近いので人も沢山います」
ブルーベルさんの言うように、見掛ける人々は活気に溢れていて、出店を組み立てたり商品を並べたりと祭りの準備をしていた。
「なるほど。ところで、彼らをいつまで連れ回すんですか?」
俺が言っているのは護衛対象である元違法奴隷の森妖種たちのことだ。アルフヘイムに入国し、この首都である森都メグレズに来るまでずっと一緒に連れている。彼らも気になるみたいで、俺の言葉に反応して視線をブルーベルさんへと向けた。
それに気付いたブルーベルさんはにっこり笑う。
「大丈夫、もうすぐですよ。この先に講堂があるんですが、そこで皆さんのご家族が待っています」
その言葉にみんなが湧き上がる。「家族に会える」「家に帰れるんだ」と喜びの声が聞こえた。
「手回しが良いですね」
「バジル領主からの使者が違法奴隷の件について知らせに来たんですが、その時、被害に合った者たちの名簿も渡されていましたからね。私たちがカルダヌスに行くのとほぼ同時にご家族へ連絡をしていたんです。で、アルフヘイムに入国する時に門番へ講堂へ集めるよう言っておいたんですよ。始めからそうすることは決まっていたので」
だからすでに講堂へ集まっているのか。
彼女の言葉に納得していると、俺たちを乗せた馬車は大きな講堂へと辿り着いた。講堂の前には二十人近くの森妖種たちがいる。おそらくあの人たちが元違法奴隷たちの親族なのだろう。
……何か見た目の年齢が元違法奴隷たちの人たちとそう変わらない気がするけど、家族で合っているよな? 全員がお兄さんやお姉さんってわけじゃないよね?
「お父さん! お母さん!」
疑問に思っていると、違法奴隷となっていた十人のうちの一人が声を上げて馬車から飛び出して行った。それに応えるように、講堂側からも二人の男女が駆け出す。双方の勢いは止まらず、馬車と講堂のちょうど中間時点で互いを抱き締めあった。
「お父さん! お母さん!」
「あぁ、本当に……生きているんだな」
「良かった。本当に良かったわ」
そんな三人の姿に触発されたように元違法奴隷たちは続々と馬車を降りて、親族側は駆け出して、口々にその再会を喜んだ。中には喜びのあまり涙を流す者もいた。
感動の再会。まさにそんな言葉が似合う光景に、俺は相貌を崩す。すると、袖を引っ張られる感覚がしたので視線をそちらに向けると、ミオが俺の左袖を握って彼らの様子を見ていた。
その表情から感情を読み取ることは難しいが目は正直なもので、彼らの再会を喜んでいるようだった。
「救って良かったな、ミオ」
「……ん」
声音もどこか満足そうだった。
彼女の決断が報われて良かった、と俺はそう思った。
それからしばらくして、元違法奴隷たちの親族の人たちから各々にお礼の言葉を言われた俺たちは彼らと別れ、次の目的地へと向かった。次、というか本日最後の目的地になるが、俺たちを乗せた馬車が止まったのは何やら豪華な宿だった。
「こちらが、皆さまが泊まる宿になります。ご滞在の間はどうぞこちらをご利用ください。本件で動いてくださったフェアファクス皇国護国騎士団第八部隊の方々も、折を見てこちらへご招待することになっています。残念ながら今はすでに売られてしまった違法奴隷たちの捜索のために動いているようで都合が付きませんでしたが」
そういえば第八部隊の連中は違法奴隷の売買ルートを辿って、もうカルダヌスを出立していたんだよな。連絡要員として騎士を一人置いて行ったけど。
一先ずは俺たち。彼らは彼らで、また後ほど招待するわけか。
「(完全にVIP待遇だな。向こうからしたら俺たちはただのアルフヘイムまでの護衛でしかないのに)」
「(こっちはティターニア様との謁見が決まっていますからね。失礼な真似はできない、ということでしょう)」
小声で言った言葉にセツナが応える。
なるほどね。表向き、違法奴隷解放の功績はフェアファクス皇国護国騎士団第八部隊のものになっているから、向こうは森妖種たちを奴隷から解放したのが実は俺たちだということは知らない。
口には出していないが、ブルーベルさんもセリカさんもどうして俺たちがティターニア女王陛下と謁見することになっているのか疑問に思っているだろう。けれど自分たちのトップであるティターニア女王陛下と謁見が決まっている人物を無下に扱うこともできないってわけか。
「(もしかしたらティターニア様は真実を知っているのかもしれませんね)」
「(真実って、違法奴隷たちを解放したのが俺たちだってことをか?)」
「(はい。表向きは第八部隊のものになっていますが、被害にあった国ですからね。真実を知っていて当然だと思います)」
それもそうか。全く関係ない国はともかくとして、被害にあった国のトップが真実を知らないなんて、ありえない話か。
ともあれ、目的地に着いたので馬車から降りる。
「ティターニア様との謁見は明日になりますので、本日はここでお休みください。明日はセリカが迎えに来ます」
ブルーベルさんがそう言うと、彼女の背後にいるセリカさんが軽く頭を下げる。
謁見は明日か。女王陛下が相手だから下手な態度は取れないが、さして問題はない。何せフェアファクス皇国第三皇女のセツナと龍国ドラグニアの姫であるクレハがいるからな。彼女たちに礼儀作法を教えてもらえば乗り切れるはずだ。
「それと、服装はそのままでも構いませんが、武器はこちらで預からせていただくことになりますのでご了承ください」
「分かりました」
「謁見の翌日から精霊祭になりますが、皆さんはどうされるんですか?」
「せっかくなんで参加しますよ。支部長たちにもお土産をねだられましたから」
支部長に良いように使われているようで少し面白くないが、こちらに来て初めての祭りだ。異世界の祭りがどんなものなのか、楽しみではある。
「そうですか。屋台の他にも様々なイベントもあるので、存分に堪能して行ってください」
では、と言ってブルーベルさんとセリカさんは馬車へと乗り込む。すると、御者さんが俺に声をかけた。
「それではアラヤさん、自分はお二人を送っていきます」
「あぁ。よろしく頼む、クラウド」
ツンツンに尖った金髪に青い目をした、俺と同じくらいの年の頃の彼はクラウド。平民出身で人間族の、フェアファクス皇国護国騎士団第八部隊所属の騎士だ。
第八部隊はカルダヌスを出立しているが、領主は領主で、第八部隊は第八部隊で売られてしまった違法奴隷の捜索を行っているので、互いの状況を知るためにも連絡要員は必要だった。
彼はその連絡要員としてクレイグ部隊長の指示でカルダヌスに残ったのだ。今回、彼が御者として随伴したのも、送り届けるのが元違法奴隷たちであるからだ。なお、今は騎士鎧は着ていない。
余談だが、彼はあの話し合いの時にクレイグ部隊長の傍にいた二人の騎士のもう一人の方。そう。あのキラキラとした目で俺たちのことを見ていた騎士だ。
どうやら彼、英雄譚やそれに登場する英雄に憧れを抱いているようで、かの有名な聖戦時代の救世主の一人にして解放者と呼ばれた聖騎士、ミシェル・ローランに憧れているらしい。
そんな少年のような憧れをいまだに抱いている彼は、少人数で領主を相手取った俺たちを英雄視しており、憧憬の念を抱いているみたいだ。あの時のキラキラとした目も、それが影響しているらしい。
御者として紹介された時も……
『こうしてお話ができて光栄です! 御者はどうぞお任せを! 皆様のお役に立てるよう、全力を尽くします!』
と、本来の目的を忘れた、かなり暑苦しい挨拶をしていた。
「そういえば、クラウドは明後日以降はどうするんだ?」
「はっ! 自分も精霊祭に参加させて頂く予定です!」
「へぇ。じゃあせっかくだから一緒に周るか?」
どうせなのだからと思って提案すると、クラウドは喜色を露わにした。
「よろしいのですか!?」
「あぁ。一人が良いっていうなら無理にとは言わないけど」
「いえいえ! ぜひともご一緒させ――ひっ!?」
元気よく一緒に行くことに頷こうとしたクラウドだったが、どういうわけか直後に顔面を蒼白にした。
一体どうしたんだ? 何だか俺の後ろを見て顔を青くしたけど、俺の後ろには笑顔を浮かべるセツナたちしかいないしな。ミオは無表情だけど。
「た、大変光栄な申し出ですが辞退させていただきます。では、自分はこれにて!」
「あ、おい!」
呼び止める間もなく、クラウドは馬車を走らせて行ってしまった。
「……何だったんだ?」
「さぁ? 何か別の用事でも思い出したんじゃないですか?」
「……用事、ね。それで、お前らは何でそんなに笑顔なんだ?」
「何でもないですよ。気にしないでください」
「??」
疑問に思うも、三人はいつもの笑顔を浮かべるだけ。
何だか腑に落ちない気持ちになりつつも、俺たちは宿の中へと入って行った。
◇◆◇
阿頼耶たちのもとを去ってしばらくして、クラウドは御者台で深く息を吐いた。その頬に軽く冷や汗を流しており、先ほどまで緊張していたことが窺える。
「まさか女性陣からあんな反応をされるとは。殺されるかと思った」
言いつつクラウドは先ほどのことを思い出す。
実は阿頼耶からの誘いに対して参加の意を伝えようとした時、その背後にいた女性陣から「お前余計なことをしたらどうなるか分かっているよな?」と言わんばかりの目で睨まれたのだ。それはもう視線だけで殺されかねない勢いだった。
今思い出しても震えが出てしまう。
「あんな殺気を出す女性に好意を持たれていて、しかも喧嘩もなく仲が良いなんて……やっぱりアラヤさんは違うなぁ」
自分にはそんな甲斐性はない。そう思いながら阿頼耶への尊敬の念を強めて、クラウドは使者の二人を送り届けるために馬車の足並みを少し早めたのだった。
 




