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異界渡りの英雄  作者: 暁凛太郎
第4章 精霊祭の妖精編
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第82話 護衛依頼

魔族のルビを『アスモディアン』から『アスラ』へ変更しました。

読者の皆様にはご迷惑をお掛けします(_ _)

 向かう先は同じということもあり、俺たちはブルーベルさんとセリカさんと共にカルダヌスへ行くことになった。



「では精霊魔術といえど、その人によって契約できる精霊は限られるんですか?」



 その道中、先頭を歩いている俺の後ろでセツナがブルーベルさんと話をしていた。内容は様々だったが、今は精霊魔術について聞いているようだ。魔術学園にも森妖種(エルフ)はいたらしいが、腰を据えて会話をする機会はなかったのだとか。だからこれを機に精霊魔術について詳しく話を聞きたいそうだ。



「波長が合う合わないがありますから。私たち妖精族(フェアリー)は大体三種類ですが、人間族(ヒューマン)だと一種類でしょうね」



 背後の会話を盗み聞きながら「なるほど」と納得する。


 精霊魔術が使えれば、複数の属性も楽に使えるだろうなと思っていたけど、そう上手くはいかないか。ただ、妖精族(フェアリー)は種族柄、精霊とは波長が合いやすいから使える精霊魔術の属性も多い、と。



「ただ、【精霊の愛し子】様は例外になりますけどね」


「精霊の愛し子というのはなんですか?」


「その名の通り、精霊に特別愛されている御方やその称号のことです。好かれる度合いはまちまちですが、いろんな精霊に好かれるので複数の属性の精霊魔術を使うことができます。それに私たちの生活は精霊の力があってなりたっていますからね。【精霊の愛し子】様は敬うべき御方なんです」


「それはまた凄まじいですね」



 精霊魔術は精霊の力を借りて行使する魔術だから、精霊に気に入られなければ使うことはできない。だから精霊に好かれる【精霊の愛し子】は様々な属性の精霊魔術が使えるわけか。そして、精霊の力で生活が成り立っている妖精族(フェアリー)からすれば、それだけで尊敬、というか信仰の対象になるわけか。



「まぁ、そんな称号をお持ちの方は少ないんですけどね」


「そうなんですか?」


「私の知る限り、今代の【精霊の巫女姫】であるアザレア・フィオレンティーナ・ニコレッティ様お一人だけですね。何でも、ほぼ全ての属性だけでなく、上位の四大精霊全員からも力を貸して頂くことができるとか」



 四大精霊とは四大元素に対応する四体の精霊のことだ。


 火の元素を司る精霊――火精霊(サラマンダー)

 水の元素を司る精霊――水精霊(ウンディーネ)

 風の元素を司る精霊――風精霊(シルフ)

 土の元素を司る精霊――土精霊(ノーム)


 この概念は魔術の分野でも四大属性として火水土風が挙げられる。もっとも、魔術では精霊ではなく天使が対応するが。そしてブルーベルさんの言う上位の四大精霊とは先ほど挙げた四大精霊の上位に位置する四体の精霊のことを指す。


 火の上位精霊――炎精霊(イフリート)

 水の上位精霊――氷精霊(ジャックフロスト)

 風の上位精霊――空精霊(エアリアル)

 土の上位精霊――樹精霊(ドライアド)


 この上位の四大精霊から力を借りられるなんて、それだけでもそのアザレアという【精霊の巫女姫】の凄さが分かる。


 そうしてクレハが依頼したマンドレイクを採取しつつ歩いているうちにカルダヌスへと到着した。



「あれ? アラヤくんじゃないか。随分と早いな」



 南門から中へ入ろうとしたところで、槍と鎧を装備した番兵に声をかけられた。彼の名前はジョニー。名字は知らないが、何度か依頼で外へ出るうちに仲良くなった兵士たちの一人だ。



「一応、依頼は全部こなしてきたぞ」


「マジかよ。相変わらず仕事が早ぇな。っと、そっちの二人は? 森妖種(エルフ)が二人とは珍しい」



 ジョニーさんは俺たちの後ろにいるブルーベルさんとセリカさんに視線を向ける。行く時にはいなかった人物なので、番兵としても気になったのだろう。


 周りにいる他の兵士たちも気になって視線をこちらに向けていたが、その視線はどこか熱を帯びている。まぁ、ブルーベルさんもセリカさんも美形揃いで有名な森妖種(エルフ)だけあって容姿が整っているからな。見惚れているんだろう。



「領主のお客だよ」


「領主様の?」



 怪訝な顔をするジョニーさんに、ブルーベルさんが前に出た説明をした。



「私たちはティターニア様の命により、こちらの領主にお話があって参りました。こちらが、その旨の書状になります」


「なっ!? あ、あの有名なティターニア様の使者!?」



 彼女の口から出てきた名前に驚きを隠せないジョニーさんは「は、拝見します」と言って書状を受け取り、中身を確認する。すると、サァーッと顔を青くしたジョニーさんは近くにいた兵士に指示を出した。



「お、おい! 今すぐ領主館へ連絡を出せ!」


「りょ、了解です!!」



 弾かれたように兵士は領主館へと向かった。



「少々お待ちください。確認が取れ次第、迎えの者が来ると思います」



 その言葉を受け、頷いた二人は城壁内にある部屋で待つことになり、俺たちはそこで彼女たちと別れた。




  ◇◆◇




 カルダヌスへ到着し、領主館からの使いが来るまでの間、私――セリカ・ファルネーゼはこのカルダヌスへ来た目的を思い出していた。


 ここへ来たのは、違法奴隷にされていた森妖種(エルフ)をアルフヘイムまで連れて帰ること。その使者に選ばれたのが、私の従姉妹であるブルーベル・ガリアーノ。


 アルフヘイムの外である【シルワ大森林】は、高ランクの魔物が跋扈している危険地帯でもある。アルフヘイムは国全体を覆う結界のおかげで魔物の被害を受けずに済んでいるけど、相当の実力がないと外で狩りをすることもできない。


 ブルーベルはアルフヘイムでも珍しい火水風土光の五属性使いで、弓の腕も国内でトップクラス。だから彼女が選ばれた。それは理解できる。でも、どうしてその護衛に私が選ばれたのか、それだけが分からない。


 私と同程度の実力を持つ純血の森妖種(エルフ)は他にもいる。所詮、私は半森妖種(ハーフエルフ)人間族(ヒューマン)森妖種(エルフ)の間に生まれた――嫌われ者の雑種(ミックス)。そんな存在を、ティターニア様はどうしてお選びに?



「…………」



 何を馬鹿なことをしているのかしら、私は。考えるだけ無駄だというのに。


 ティターニア様のことだから、何かお考えがあってのことなのかもしれないけど、その深遠なお考えを私なんかに分かるわけないもの。


 それに私はただの護衛。それ以上でもそれ以下でもない。ここにいる森妖種(エルフ)たちを無傷でアルフヘイムへ連れ帰る。それが終われば、またいつもの無為な生活に戻るだけ。なら余計なことは考えず、与えられた仕事を淡々とこなせば良い。


 せめて仕事くらいはこなさないと、本当に私の価値は無くなってしまう。


 扉をノックする音で、私の意識は内から外へと引っ張られた。



「ブルーベル・ガリアーノ様、セリカ・ファルネーゼ様。お待たせしました。使いの者が到着しましたので、こちらへお越しください」


「分かりました。すぐに行きます」



 扉越しに聞こえる兵士の言葉に愛想の良い声で返事をしたブルーベルは、翻って私を侮蔑するような目で見る。



「良いわね、セリカ。森ではアナタの態度を大目に見ていたけど、アナタはあくまでも私の護衛。余計なことや、生意気なことをしたら承知しないわよ。この私が、ティターニア様の命で動いている使者なの。半端者の……半森妖種(ハーフエルフ)のアナタがティターニア様に認められるわけがないんだから」


 そんなことくらい、分かっている。




  ◇◆◇




 アルフヘイムからの使者を送り届けたその翌日。今日も依頼を受けようと、俺たちはアルカディアを訪れた。まだ朝早い時間帯だからか、冒険者たちは掲示板に貼られている依頼書を見ながら騒いでいる。


 どんな依頼を受けるのか仲間たちと相談をしているようだ。



「あ、アラヤさん!」



 冒険者たちの姿を何気なく見ていると、書類の束を抱えて目の前を通ったレスティに呼ばれた。



「良かった。少し良いですか?」


「構いませんけど、何かあったんですか?」


「いえ。大したことじゃありませんけど、支部長がお呼びです」


「支部長が?」



 疑問を投げかけると、レスティは周囲に聞かれないように俺に近付いて小声で教えてくれた。



「“例の件”についてです。何やらお願いしたいことがあるらしく」



 例の件……保護している元違法奴隷たちのことか。なら断る理由はない。



「分かりました」


「では、こちらへどうぞ」



 言いながら、抱えていた資料を他の職員に押し付け……渡してから、俺たちは支部長室へと通された。


 支部長室に入ると、支部長ラ・ピュセルさんは書類にペンを走らせていた。やはり支部長ともなると忙しいようだ。


 俺たちが入ったことに気付いた彼女は左手のペンを置き、レスティが彼女の後ろへ移動する。



「よく来まシタネ」


「お呼びだったようなので。……随分と忙しそうですね」


「キミが【グリフォンの爪】たちを処理してくれたので、長らく頭を悩ませていた『住民たちとの不和』は減りましたが、それでも問題を起こす冒険者はそれなりにいますカラネ。それでなくとも“例の件”で上の方から、関与した冒険者たちの管理について何度も指摘されマシタヨ」



 はぁ、と溜め息を吐くラ・ピュセルさん。思った以上に大変そうだった。支部長といっても、実際は中間管理職だからな。ストレスも多そうだ。



「それで、どういった用件なんですか?」


「昨日、キミが連れて来たアルフヘイムの使者についてデス。彼女たちの目的は知っていマスカ?」


「解放された違法奴隷の森妖種(エルフ)たちをアルフヘイムへ連れ帰ること、でしたか」


「そうデス。被害に合った森妖種(エルフ)たちもアルフヘイムへ戻ることを望み、バジルさんも快諾しまシタ。ただ、ここで少し問題が生じまシタ」


「問題?」


「解放された森妖種(エルフ)たちの数デス。全員で十名。この人数を守りながら【シルワ大森林】を突破し、アルフヘイムまで行くことなんて、たった二人では無理デス」



 確かに、あの二人は(黒ミノタウロスに追われたとはいえ)それほど怪我もなく【シルワ大森林】を踏破する実力がある。けれど、護衛対象がいたらそれも違ってくる。十人もの護衛対象をたった二人で守りながら【シルワ大森林】を抜けてアルフヘイムまで行くなんて無理だ。



「そこでキミたちに彼らの護衛を請け負ってもらいたいのデス。本来ならAランク相当の冒険者に任せる依頼ですが、違法奴隷事件解決の当事者であるキミたちなら実力も人柄も問題ないと判断しまシタ。加えて言うなら、これはバジルさんからの正式な依頼でもありマス」



 となると、話し合いの時に決めた通り、正式に依頼があったからこちらも動くことになったわけか。解放された森妖種(エルフ)たちを連れ帰るためと言っていた割に二人しかいないことを不思議に思っていたが、始めからこちらで冒険者に護衛を依頼する腹積もりだったのかもしれない。



「これが依頼書デス」



 ラ・ピュセルさんはレスティに指示を出し、彼女から依頼書を受け取る。横からセツナたちが覗き込んでくる状態で、俺は依頼書の内容を確認した。


 えっと? 移動は馬車で、これは領主側が用意する。移動日数は片道で数日。……数日?



「数日で到着するほど近いんですか?」


「普通の馬だと一週間はかかりますが、ハルピンナとプシュラを使うことになったので、数日で済みマス。御者の方も、領主側で用意してくださるようデス」



 ハルピンナとプシュラか。ギリシャ神話に登場するアレス神の息子であるオイノマオス王がアレスからもらった二頭の名馬だな。どちらも風のように速く走ったのだとか。


 言い伝え通りなら、たしかにこの二頭がいれば通常よりも速くアルフヘイムに着くだろう。



「あぁ、それと向こうに着いたらティターニア様と謁見することになっていますから、そのつもりでいてくだサイ」


「えっ!?」



 予想外の言葉に、俺は思わず驚きの声を上げた。



「謁見って、何でそんな……」


「自国の民を救ってくれた者が訪れるんデス。送り届けてもらって「はい終わり」というわけにはいきまセン」



 だからって、聖戦時代から生き続けているような存在が、自国の者を助けたからといってただの一介の冒険者と会うのか? てっきり俺は、森妖種(エルフ)のお偉いさんと会うだけで終わると思っていたんだけどな。


 まぁ、せっかく機会が巡ってきたんだ。その謁見の時に、もしかしたらティターニア様に【勇者召喚の儀式】について聞けるかもしれない。何だかんだで報酬も悪くないしな。


 両サイドから覗き込んでいるセツナたちを見ると、頷きを返してきた。それを確認した俺はラ・ピュセルさんに視線を向け直し、承諾する。



「分かりました。依頼を受けます」


「キミならそう言ってくれると思っていマシタ。ちょうどいい機会デス。キミがアルフヘイムへ着く頃には精霊祭が始まるでしょうから、それを楽しんでから帰ってきてはどうデスカ?」


「精霊祭?」



 聞き慣れない言葉に疑問を返すと、セツナが答えてくれた。



「年に一度、アルフヘイムで七日間開催されるお祭りのことです。アルフヘイム産の工芸品の出店や屋台のほか、【精霊の巫女姫】の護衛を務める近衛侍女の選抜を兼ねたアルフヘイム一番の実力者を決める武闘大会なんかもあるんです。まぁ、それに参加できるのはアルフヘイム在住の人だけらしいですけど」



 つまり精霊祭ってのは、地球で言うところの夏祭りみたいなものか。


 ここ最近はずっと依頼や訓練ばかりやっていたし、ラ・ピュセルさんの言う通り、良い機会なのかもしれない。慰安旅行も兼ねて、羽を伸ばすとするか。



「そうですね。せっかくなので、精霊祭を楽しんでから戻ることにします」


「あ、ならついでにお土産をお願いしマス。忙しくて中々行く時間が取れないんデスヨ」



 おいコラ。精霊祭の参加を勧めたのもそれが理由か!



「すいません。私もお願いします」



 レスティもかよ!

 ったく、仕方ないな。



「はぁ……分かりましたよ」



 溜め息を吐いて了承すると、二人は嬉しそうにハイタッチしたのだった。

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