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異界渡りの英雄  作者: 暁凛太郎
第4章 精霊祭の妖精編
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第81話 妖精王国からの使者

更新が遅れて申し訳ありません。

引っ越しの準備やらで遅れました。

まだいろいろと立て込んでいるので、更新は月二になるかもです。

落ち着いたら、また週一で更新していきます。

 



  ◇◆◇




 それから一週間が経った地の月の十五番(8月15日)。俺――雨霧(あまぎり)阿頼耶(あらや)はパーティメンバーと共に【シルワ大森林】に訪れ、ギルドで受けた依頼をこなしていた。



「これで受けた依頼は全部だったか?」


「レッドバイソンの角が三本。一角熊(ホーン・ベア)の肉が八頭分。コボルトの牙が五本。今集まっているのはこれだけですね」


「……残りは、マンドレイクが十本」


「となると、わたくしが受けた依頼のみですわね」



 クレハが受注した依頼だけか。マンドレイクならすぐに見付かるだろうから、今日中に全部終わりそうだな。


 クレハとミオの二人を加えた俺たち【鴉羽(からすば)】は、こうして一日に何件か依頼を受けていた。そのおかげでそこそこの額の報酬が日々入っており、パーティ資金は潤沢だ。まぁ、領主の一件でもかなりの謝礼金を貰ったんだけどな。


 あ、そうそう。パーティを組んでから、俺たちの服装にも少し変化があった。


 左腕が龍の腕になっていたこともあって俺は前までマントを着用していたが、今では元の腕に戻ったので、黒いフード付きコートを着用していて、セツナも同じデザインのコートを着ている。


 ミオは以前セツナに選んでもらった黒のフード付きケープのままだが、腰にあるのはミスリルの双剣ではなく魔剣のモラルタとベガルタだ。あのミスリルの双剣は予備として使うことにしたようだ。


 そしてクレハは灰色のマントから黒のマントへとチェンジしていた。


 ちなみに、こんなクソ暑い季節に上着なんて着て平気なのかというと、普通なら平気じゃない。けれど俺たちが着ている上着は【温度調節】の効果が付与されているため、夏場だろうが冬場だろうが関係なく快適に過ごせる。


 ヴァイオレット令嬢に頼んで良い物を選んでもらったのだ。便利な効果が付いているから割高だったけど。



「にしても、まだ討伐系の依頼が受けられないとは残念ですわ」



 はぁ、と溜め息を吐いてクレハは肩を落とす。


 討伐系の依頼が受けられるのはCランクからだからな。まだEランクのクレハは採取や雑用系の依頼しか受けられない。


 こういう時、どれだけ凄腕でも最低ランクからスタートするしかないギルドのランク制は少し不便だと思う。実力に応じて適正なランクにすれば良いのに。



「仕方ないですよ。そういう制度なんですから。それに、一口に討伐と言っても、ただ倒せば良いというわけじゃないですから」



 残念そうにするクレハに、セツナが苦笑して言った。


 彼女の言い分も、理解できる。


 セツナの言うように、討伐と言ってもただ倒せば良いというわけではなく、できる限り死体の損傷を少なくして素材としての価値を高める必要があり、それができてやっと一人前と見なされる。昇格の評価にも影響するため、できない者はいつまで経ってもランクが上がらず、三流のレッテルを貼られる。



「地道にやるしかないということですか。世の中、そう上手くはいきませんわね。……まぁ良いでしょう。郷に入れば郷に従え。人の世で生きるのならば、人の世のルールに従うのが道理というものですわ」



 地球のことわざを言いながら納得するクレハ。その言葉も、過去の異世界人が伝えたものなのかな?


 そう思いながら、俺はセツナに言葉を投げかける。



「そういえばセツナ、“目”はどんな具合だ?」


「良い感じですよ。思っていた以上に性能が良いみたいです」



 そう言ってセツナは自身の目元に触れる。


 実をいうとセツナはこの前の領主の一件でレベルが大幅に上がったことに加え、なんとエクストラスキルを一つ獲得したのだ。


 スキルの名前は【鷹の目】。


 魔眼系に分類されるエクストラスキルで、簡単に言えば遠くのものを視認することができるスキルだ。それだけならコモンスキルの【狩人の瞳】やレアスキルの【狙撃手の瞳】でも似たような効果を持っているが、やはりそこはエクストラスキル。この二つよりも強力な効果を持っていた。



「さすがエクストラスキルですね。射撃精度の向上に暗視効果。なにより三~四キロメートルほど離れたものもはっきり見えますから、より正確に射撃ができますね。とはいえ、この銃だとそこまでの遠距離射撃はできませんけど」



 当然だ。回転式拳銃(リボルバー)でそんな遠距離射撃ができるなんて化け物(Sランク)レベルのヤツだけだろう。


 それにサラッとセツナは言ったが、三~四キロメートル離れた物体を視認できることだって充分に異常だ。地球で最も遠距離射撃に成功した、かの有名な米国の狙撃手カルロス・ノーマン・ハスコックⅡ世だってその距離は約二千三百メートルが限界だったんだぞ。


 まぁ、彼よりも化け物みたいな逸話を数多く遺している人類史上最強の狙撃手もいるのだが。

 さて、そろそろクレハの依頼を達成するためにマンドレイクを探すか。


 そう思った時、「ブモオォォォォ!!」という魔物の雄叫び声が聞こえてきた。



「今のは……」


「魔物の雄叫び、ですよね」


「……結構、近い?」


「走ればすぐの距離ですわね」



 四人で耳を澄ませて言う。するとクレハがさらに情報を拾った。



「これは、誰か襲われていますわね」


「……何だって?」



 言われて俺は【気配察知】と【魔力感知】のスキルの効果範囲を広げると、彼女の言う通り、魔物以外に二つの気配と魔力がヒットした。



「どういたしますか、兄上様?」


「行こう。さすがに見過ごすのは寝覚めが悪い」



 助けが必要なら助けるべきだし。もし必要なさそうなら手を出さなければいいだけの話だ。

 俺の言葉に三人は頷き、俺たちは魔物の雄叫び声が聞こえた方へと駆け出した。







 向かった俺たちが見たのは、ミノタウロスに追いかけられている二人組の女性だった。



「何だってこんなことになってるのよ!」


「それはアナタが見境なく派手に精霊魔術を使ったからでしょ」


「だって! キラー・アントの群れに囲まれたら使うしかないじゃない!」


「だから、その使い方に問題があると……」



 何だか対照的な二人だった。


 一人はほとんど泣きそうな感じに逃げているのに、もう一人は至って冷静だった。一応、二人とも全力疾走でミノタウロスから逃げているけど。


 二人の武器は弓か。涙目の方が必死に駆けているその隣で、冷静な方が半身になって矢を射かける。しかしその程度の攻撃ではミノタウロスの厚い外皮を射抜くことはできない。悉く弾かれている。



「ブモオォォォォ!!」


「いやあぁぁぁぁ!! こんなことになるならアルフヘイムから出るんじゃなかったぁぁ!!」


「文句を言う前に少しでも攻撃をしてほしいのだけど」



 当人たちからしたら必死なのだろうが、どこか緊張感の欠ける二人に俺は一瞬迷う。


 あれは助けに入った方が良いのだろうか?

 ……助けた方が良さそうか。


 俺は一気に駆け出し、真横からミノタウロスを蹴り飛ばす。その勢いでミノタウロスは木を数本ほどへし折りながら飛んでいった。



「「え?」」



 それを見た弓兵の二人が目を丸くする。


 二人を背に庇うように蹴り飛ばしたミノタウロスとの間に立ったところで、他のメンバーたちもやって来て二人を守るように陣取った。


 それを確認しつつ、俺は二人に言う。



「大丈夫ですか? 加勢します」


「え? あ、はい!」


「気を付けてください。あのミノタウロスは変異個体種(ユニーク・モンスター)です」



 ん? 変異個体種(ユニーク・モンスター)


 二人のうち、冷静な方から言われた聞き慣れない言葉に首を傾げていると極夜が補足説明してくれた。



『解答。変異個体種(ユニーク・モンスター)とは魔物の中に稀に生まれる特殊な個体のことです。本来その魔物が持つことはないスキルを有していたり、通常より凶暴で強力であったりと様々ですが、総じて通常の魔物よりも一ランク上に格上げされます。また、変異個体種(ユニーク・モンスター)は通常の魔物とは異なる特徴を持っているため、一目で判別が可能です』



 言われてみれば、普通のミノタウロスは茶色の体躯をしているのに、さっきのミノタウロスは黒かったな。アレが変異個体種(ユニーク・モンスター)の特徴ってことか。


 ところで極夜さん? 変異個体種(ユニーク・モンスター)は通常よりも強いってことは、もちろん買取価格も高いんだよな?



『肯定。対象の魔物にもよりますが、通常の買取価格よりも数割ほど高くなります。加えて獲得できる経験値も豊富です。討伐を推奨します』



 へぇ。それは良いことを聞いた。今のところ俺たちの中で一番レベルが低いのはミオだからな。変異個体種(ユニーク・モンスター)を倒せば、一気にレベルも上がるだろう。


 と、そこで蹴り飛ばした黒ミノタウロスが攻勢に出た。


 体を起こし、こちらへ突進してくる黒ミノタウロスの速度は普通のミノタウロスよりも速い。それでも俺からしたら対応圏内だ。


 放たれる拳。普通の人間なら即死か瀕死になるだろう一撃を、俺はギリギリで躱しながら黒ミノタウロスに向かって跳躍する。黒ミノタウロスの拳は空振りに終わり、俺はすれ違いざまに極夜で黒ミノタウロスの右腕を断ち切った。胴体から右腕が地面へと落ち、斬られた断面から血が噴き出す。



「ブモオォォォォォォォォォォォォォォォォ!?」



 激痛から黒ミノタウロスは絶叫を上げる。片腕を無くしてバランスが取りにくくなったのか、片膝を着いて残った左腕で斬られた断面を抑えた。


 空中で反転した俺は跳躍した先にあった木の枝に足を着ける。木の枝はググっとしなり、俺をパチンコ玉のように弾き飛ばす。その勢いを利用し、今度は黒ミノタウロスの左わき腹を切る。



「ブモオォォォォ!!」



 地面に着地したところで、黒ミノタウロスが左手を伸ばして俺を捕まえようとするが、着地と同時に跳ねるようにして移動したのでそれは叶わない。


 次で終わらせよう。


 跳ねた先は木の幹だ。着地した俺は足を曲げて充分な力を蓄え、それを解き放つように黒ミノタウロスに向かって飛び出す。振るった極夜は黒ミノタウロスの体を袈裟斬りにした。



「――っ」



 もはや絶叫も叫び声もない。黒ミノタウロスは地面に倒れ、絶命した。



 ――【立体機動】スキルを獲得しました。



 ん? また新しいスキルが取れたな。

 軽く【鑑定】スキルで内容を見てみると、どうやら三次元的な動きに補正がかかる補助系のコモンスキルのようだ。

 っと、そんなことよりも今は助けた弓兵二人の方だな。


 地面に向かって振り、血糊を落としてから極夜を鞘に納めた俺はその二人に視線を向ける。その二人は何やら信じられないものでも見るような目で俺の方を見ていた。



「まさか、変異個体種(ユニーク・モンスター)をあんな一方的に倒すなんて」


「……」



 涙目になっていた方が言葉を漏らすが、冷静な方は沈黙している。とはいえ、同じように驚いてはいるようだ。


 よく見ると、どうやら二人は妖精族(フェアリー)森妖種(エルフ)のようだ。耳が長く尖っているから間違いないだろう。けど、冷静な方の人は長さが短いな。個人差か?



『解答。彼女は森妖種(エルフ)ではなく人間族(ヒューマン)との混血種である半森妖種(ハーフエルフ)です』



 半森妖種(ハーフエルフ)? だから耳が短めなのか。


 涙目だった森妖種(エルフ)の人はショートヘアにした深緑色(ふかみどりいろ)の髪と同色の目をしていて、驚きの他にも命拾いしたことによる安堵の色が見て取れた。


 もう一人の冷静な半森妖種(ハーフエルフ)の人は長く伸ばした翡翠色(ひすいいろ)の髪をアップヘアーにしている。瞳も同じ色だ。ただ、森妖種(エルフ)の人の方とは違って、死んだ魚のような目をしていた。


 最初に見た時にも思ったが、本当に対照的な二人だ。同じなのは、革鎧(レザーアーマー)の上にマントを纏い、弓を装備していることくらいか。



「怪我はありませんか?」


「あ、はい」


「問題ありません」



 二人の返事を聞きつつ、少し離れた場所で止まると、彼女たちを守るように配置していたセツナたちは俺の後ろへと移動した。



「俺はB-2級冒険者の阿頼耶です。この三人は俺のパーティメンバーです。そちらは?」


「あ、冒険者の方でしたか。私はブルーベル・ガリアーノと言います。助けて頂いてありがとうございます」


「私はセリカ・ファルネーゼです。まさかカルダヌスへ向かう途中でミノタウロスの変異個体種(ユニーク・モンスター)に襲われるとは思いませんでした。おかげさまで命拾いしました」



 二人して感謝の言葉を述べてくるが、ブルーベル・ガリアーノはまだしもこのセリカ・ファルネーゼは本当に命拾いしたと思っているのだろうか。そんな生気のない目で言われても説得力がないんだが……まぁいい。



「たまたま近くを通りかかっただけなので、気にしないでください。それで、どうしてミノタウロスに追い掛けられていたんですか?」


「あ、いえ、実は……その」



 ブルーベルさんが言い淀むと、セリカさんが代わりに答えた。



「そこのブルーベルが、キラー・アントの群れを突破するために精霊魔術を使ったのですが、その威力が強過ぎたせいでミノタウロスを刺激してしまったのです」


「あ、ちょっとセリカ! 何で言っちゃうのよ!」


「事実を隠すことが必ずしも悪いとは言わないけど、それは時と場合による。今は事実を伝える場面でしょ?」


「だからって!」



 言い争いを始めてしまった。


 セリカさんの話の通りだと、この森を通っている時にキラー・アントの群れと遭遇。それを突破しようとブルーベルさんが精霊魔術を使ったが、その威力が強過ぎた。群れから突破することは叶ったが、今度はミノタウロスの変異個体種(ユニーク・モンスター)に追われる羽目になった、と。



「話は分かりました。それで、カルダヌスへ向かう途中と言っていましたが、もしやお二人はアルフヘイムから来たのですか?」


「え、えぇ。ごほん。その通りです。……皆さんはフレネル辺境伯領の領主が変わったことはご存知でしょうか?」



 彼女の言葉に、俺たちは一様に苦笑いを浮かべた。

 知っているも何も、その当事者がここにいるわけだが。



「実は私たち、妖精王国アルフヘイムの女王であらせられる妖精女王ティターニア様の命により、フェアファクス皇国フレネル辺境伯領の前領主によって捕らえられていた同胞を故国まで送るために来たんです」



 思わず目を見開く。

 驚くべきことにこの二人は、妖精王国アルフヘイムからの使者だった。

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