第79話 調べ物
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昼食を取った後、俺たちは各自で自由行動を取ることにした。パーティを結成したからといって、いつも一緒にいる必要性はないし、仲間の行動まで制限しようとは思わない。シーザーの件でも、彼女たちには俺の我が儘に付き合ってもらってしまったし、基本的にみんなには自由にしてもらいたい。
それでみんなと別れた俺はというと、カルダヌスにある図書館へとやって来ていた。
アストラルの世界情勢、各国の特色や政治、勇者について、【勇者召喚の儀式】について、帰還方法の有無、魔王についてなどなど、調べることは沢山ある。
こじんまりとした図書館に入り、必要そうな本を抱えて空いている席へと座る。
さて、王国にいた頃は他にやることがまだまだあったからじっくり調べられなかったが、今は充分に時間がある。ゆっくり調べるとしよう。
それから三時間後。俺は高く積まれた本の山の頂上にさっきまで読んでいた本を乗せて溜め息を吐いた。
軽く調べてみたが、どうやら勇者という存在は大きく二種類に大別されるらしい。一つは、地球から召喚された異界勇者。そしてもう一つは、このアストラルで生まれるアストラル勇者だ。
まさかアストラル側の勇者がいるとは思わなかった。現在確認されているアストラル勇者の何人かはどこかの国に属しているらしく、勇者を有していることがそのまま国の戦力に直結するのだとか。まぁ、勇者の持つ強力なスキルを考えれば当たり前か。
そして異界勇者はおよそ三百三十三年周期で召喚されるらしく、今まで十五回召喚が行われた。今回を入れると十六回。あの豚国王の言う通り、今代の異界勇者は十六代目ということか。この辺りは嘘を吐く理由もないし、事実を言っていたようだ。
勇者を召喚する【勇者召喚の儀式】を執り行うのに必要な人物である【召喚の巫女姫】も、異界勇者と同じくおよそ三百三十三年周期で現れているようで、今代の【召喚の巫女姫】であるリリア・メルキュール・オクタンティスは異界勇者と同じ第十六代目の【召喚の巫女姫】となる。
異界勇者の数はどの代でも四十人であり、アストラル勇者も最大で五十九人と決まっているようで、それ以上の数になったことはない。少なくなったことはあるけど。
一つの時代に勇者は九十九人。【召喚の巫女姫】も合わせれば百人、か。そんなに勇者が必要なのかと疑問を抱くが、実は魔王側も一人ではないことが分かった。
【七大魔王】。
魔王の称号や職業、スキルを持つ七人の魔王のことだ。
七人の魔王に対して九十九人の勇者。過剰戦力じゃないかと思わなくないが、魔王たちの配下には強力な魔族が何百人もいるらしい。一つの特別な存在がいても、数の暴力には無力だ。そのためにこれほど勇者がいるのだろう。
そして肝心な【勇者召喚の儀式】だが、これについては異世界から勇者を召喚するということしか分からなかった。召喚の術式はもちろんのこと、起動方法や召喚する勇者の選定条件も不明だ。
「まぁ、国家機密レベルのことだから、本で調べた程度で分かるわけもないか。となると、それを知っていそうな人物に聞くのが一番だな」
真っ先に思い浮かぶのは【召喚の巫女姫】であるリリア・メルキュール・オクタンティスだ。彼女は【勇者召喚の儀式】を執り行うのに必要不可欠な人物で、召喚を行った本人だ。彼女に聞けば一発で分かるだろう。
けれど、残念ながら彼女はオクタンティス王国の王女だ。そう易々と聞きに行けはしない。
「どうしたものかな」
「何がです?」
「【勇者召喚の儀式】について知りたいんだけど――って、何でお前がここにいるんだ?」
いつの間にか俺の右側の席にセツナが座っていた。
何でここに? 自由行動が決まった時に「せっかくだから女の子だけで」とか言ってキミら女性陣は買い物に行ったはずだろ。
「一通り買い物が終わったんでこっちに来たんです。そうしたら先輩が本の山を沢山作っていたんで、どうしたのかなって思って」
「そうか。ミオとクレハは?」
「あっちでクレハさんがミオちゃんに読み書きを教えていますよ」
そう言う彼女が指差した方を見ると、セツナの言う通りクレハがミオに勉強を教えていた。俺の視線に気付いたクレハが手を振ってきたので、とりあえず手を振り返しておいた。
「それで、何を悩んでいたんですか? 【勇者召喚の儀式】がどうのって言っていましたけど」
「【勇者召喚の儀式】の詳細を知りたいんだが、リリア・メルキュール・オクタンティスに聞けるわけないからどうしたものかなと」
「それは……難しいですね」
俺の言葉にセツナは人差し指で下唇を摩って考える。
「先輩の言うように【召喚の巫女姫】である彼女に聞くのが一番ですが、それはできないでしょう。王女だから謁見は難しいですし、何より今あの国に先輩が行くことは避けた方が良いと思います。…………そうなると可能性は低いですが、妖精女王ティターニア様にお伺いするのはどうでしょう?」
「妖精女王ティターニア?」
「妖精王国アルフヘイムを統治する女王です。ティターニア様は聖戦時代に救世主と呼ばれた大英雄の一人である妖精王オベイロン様の奥様で、聖戦時代から現在まで生きている唯一の御方でもあるんです」
「なっ――むぐっ!?」
「大きな声を出しちゃダメです、先輩。ここは図書館なんですから」
衝撃的な言葉に思わず驚いて大声が出そうになったが、寸前でセツナに口を塞がれた。
彼女の言う通り、ここは図書館だ。大声はご法度である。
「ぷはっ。……悪い」
「いえ。まぁ驚くのも無理はないと思います。何せ、聖戦時代から現代までを知る――生きる歴史なんですから」
「生きる歴史、か。だからそのティターニア女王なら【勇者召喚の儀式】についても知っている可能性が高いってことか」
「はい。しかし、相手はアルフヘイムの女王様です。一人で千人規模を相手取ることができるSランク冒険者ならまだしも、謁見なんて到底無理でしょう。ラ・ピュセルさんにお願いするわけにもいきませんし」
だよなぁ。さすがにそこまでしてもらう理由もないし、恩を売っているわけでもない。ラ・ピュセルさんからすれば、紹介する理由もメリットもないんだからな。
「先輩が聖戦時代の救世主の息子だと証明できれば、あるいは可能かもしれません。聖戦時代の縁ということでお会いになって頂けるかと。救世主の息子というだけで、その影響力は計り知れませんし」
「けど、そんなのどうやって証明すれば良いんだ? セツナ、ミオ、クレハは俺の言うことをそのまま信じてくれてはいるけど、さすがにティターニア女王は口先だけで信じるわけじゃないだろ」
「そうなんですよね。何か物的証拠があれば良いんですけど、むしろ先輩は救世主のどの方がご両親なのかも分からないんですよね」
「何も聞かされなかったからな」
俺が、自分の両親が聖戦時代の救世主だと知ったのだって、創造神のアレクシアから聞いたからだしな。言ってしまえば、俺が救世主の息子だというのも言葉で伝えられただけで客観的証拠なんて一つもないから、俺が勝手に言っているだけってことになる。
「そうなると、手詰まりですね。すいません、先輩。お役に立てなくて」
しゅん、と落ち込むセツナの頭に手を置く。
「元々、そう簡単に分かることじゃないって思っていたから、そう気にするな。とはいえ、さっさと帰還方法は探さないとな」
いつまでも元クラスメイトたちをこっちの世界に居させるわけにいかないしな。俺の精神衛生的に。
「先輩は、やっぱり……」
「ん?」
「あ、いえ。何でも、ないです」
言い淀んだ彼女に聞き返したが、セツナはどこか不安そうな色を帯びた笑みを浮かべた。
どうしてそんな顔をするのかは分からなかったが、緊急性がない以上「何でもない」と言われたら黙っているしかない。
「それより先輩、副業は何にするか決めたんですか?」
彼女が言っているのは、先日クレハから打診されたことだ。実はクレハから「冒険者として働けなくなってしまっては問題なので、何か手に職を持ってはいかがです?」と言われたのだ。
その意見は充分に納得できたので、俺たちは副業で何をするのかを決めることにした。とはいえ、決める必要があるのは俺とミオだけだが。
クレハは――というか【灰色の闇】の面々は、元々平時では市井に紛れて暮らしているため、暗殺者とは別でいろいろと副業をしている。
セツナの場合はすでに魔術師としても大成しているため、冒険者業ができなくなっても、魔術の研究者という道もあるらしい。
ミオはまだ決めかねていて、俺はというと……
「鍛冶をやろうかなって思っている」
「鍛冶ですか?」
聞き返した彼女の言葉に頷いて肯定する。
「どうせなら自分が使う武器を自分で造ってみるのも良いかもなって思ってさ」
基本的に俺の主武装は【極夜】だが、副武装として現在【虚空庫の指輪】にはいくつもの刀剣や槍などの白兵戦武器が入っている。これはさまざまな状況に対応するためと、夜月神明流の技を余すことなく使うためだ。夜月神明流には剣術の他にも槍術や小太刀術なんかもあるからな。
そこで、武器屋で仕入れるのは簡単だが、どうせなら自分好みのものが欲しいと思ったのだ。
「だから積んでいる本の山の中に鍛冶に関するものも混ざっていたんですね」
「そういうこと。まぁ、俺に鍛冶ができるのかどうかにもよるんだけどな」
言って、俺は持って来ていた鍛冶に関する本を手に取って軽く読む。
――【鍛冶】スキルを獲得しました。
「……」
読んだだけで獲得できてしまった。
【創造神の加護】にスキル獲得難易度の低下ってあったけど、その効果でこれってことは、元々【鍛冶】スキルの獲得難易度はそれほど高くなかったってことなのか?
「先輩、どうかしましたか?」
「いや、その……【鍛冶】スキル、獲得したみたいだ」
「……先輩、規格外なのも大概にしてください」
「俺のせいじゃないのに」
セツナの言葉に、俺はガックリと項垂れるのだった。




