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異界渡りの英雄  作者: 暁凛太郎
第3章 捕らわれた奴隷編
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第73話 カルダヌス支部支部長

 



  ◇◆◇




 シーザーを領主の座から降ろした、その翌朝の地の月の六番(8月6日)。俺――雨霧(あまぎり)阿頼耶(あらや)とセツナ、ミオの三人は冒険者ギルド・アルカディア、カルダヌス支部の支部長室に訪れていた。


 目の前には、執務机に座ってこちらを見る支部長と、受付嬢であるレスティがいる。


 はぁ。何でこんなことになったのやら。


 昨日はシーザーをぶちのめした後、俺はヴァイオレット令嬢が保護してくれた違法奴隷たちの所へ赴き、全員の【奴隷の首輪】を解除して回った。戦闘後ということもあって、八十二人分の解除となると魔力が足りなくなってしまい、途中で魔力回復薬(マナ・ポーション)による回復を挟んだが、問題なく全員を解放することはできた。


 その後は案内してくれたヴァイオレット令嬢と別れ、俺とセツナとミオの三人は宿に帰宅し、そのまま泥のように眠った。当然だが三人ともかなり疲れていたようで、起きたのは翌日――つまり今日の早朝だった。


 そして今朝起きた時、レスティが俺たちの所に訪れて、ここに来るように言われたのだ。


 どうして支部長が? と疑問に思ったが、レスティは知らされていなかったので、仕方なく支部長の所に赴き、呼び出しの理由を聞くことにした。


 支部長の話だと、俺が派手に暴れ回ったせいで領主の館で騒ぎがあったことは多くの人が知っているらしい。


 さすがに詳しく何があったのかまでは知られていないようだが、領主の館で何かがあったとなると無視できないため、昨日俺たちが寝ている間にギルドの方が情報屋であるエストに何か掴んでいないかを聞きにいったら、俺が領主をぶちのめしたことを知ったのだとか。


 それで、詳しい事情や今後の話を行うために午後から、不正の情報を持っているエスト、違法奴隷たちを保護しているヴァイオレット令嬢、シーザーの兄であるバジル、事件を調査していた騎士団の部隊長、全世界各地に支部を構え、その影響力は計り知れない冒険者ギルド・アルカディア、カルダヌス支部の支部長が迎賓館に集まることになったらしい。



「話は分かりましたが、それでどうして俺たちが呼ばれたんでしょうか?」



 一通りの話を聞き終わり、俺は支部長に聞く。


 支部長とはその名の通り、世界各国にある各支部のトップのことだ。冒険者ギルド・アルカディアとしてのトップはギルドマスターではあるが、各支部を運営しているのは支部長だ。感覚的には、ギルドマスターが社長で支部長が部長、受付嬢を含めたギルド職員が平社員ってところかな。


 つまり、目の前にいるこの人はアルカディアの中でもそこそこ偉い人ということだ。



「……」



 改めて、俺はその支部長に視線を向ける。


 俺が言えたことではないが、別段特筆すべき点が見当たらないほどに平凡な女性であった。見た目から判断できる年齢はおそらく十九歳くらい。しかし実年齢はそれ以上なのだとか。セミショートの髪は金で瞳は青とセツナと似通っているが、セツナの方がぶっちぎりで綺麗だと断言できる。


 冒険者ギルドなどという荒くれ者たちが集う所の支部長というよりも、どこか田舎の村娘と言われた方が納得できるような人だ。


 加えて言うなら、この人はこの世に五人しかいない【最高位に至る者(ハイエストナンバー)】の一人でもある。


 冒険者ギルド・アルカディア、フェアファクス皇国カルダヌス支部支部長にしてS-3級冒険者、ラ・ピュセル。


 それが目の前にいる女性の肩書きと名前だ。


 それにしても、ラ・ピュセル、ね。いや、まさかな。あんな偶然がそう何度も起きるとは思えないし、きっと俺の勘違いだろう。



「それはもちろん、事の顛末を説明してほしいからデスヨ」



 彼女の名前に少し引っ掛かりを覚えていると、カタコトで言ってきた。



「説明と言われましても」



 とりあえず一連の出来事を順に話していった。ミオとの出会い、違法奴隷売買の事件、それにミオがいた村の連中が被害に合ったこと。それらを話すと、何故か支部長は「うんうん」と納得したように頷いていた。



「なるほど。『啓示』の通りになったというわけデスネ」



 ……啓示?


 言葉の通りだと、啓示は神からありえない知識や認識を賜ることを言う言葉だ。地球だとそれを信仰とした『啓示宗教』なんてのもあるんだったか。



『セツナ、啓示ってのは?』


『知覚系のエクストラスキルですね。神族(ディヴァイン)からの一方通行ですが、お声を賜ることができるスキルです。教皇や枢機卿といった高位の聖職者が獲得する傾向が多いと言われています』



 敬虔な信徒ほど獲得しやすいってことか? エクストラスキルだから、それ以外の要因もあるだろうけど。



「その口振りですと、支部長殿は今回のことを始めから知っておられたのでしょうか?」


「結論から言えば、そうなりマス。私は今回の事件を【啓示】によって知っていまシタ」


「……では、どうして何もなさらなかったのですか?」



 知っていて何もしなかったのか、と思わず食って掛かりたくなったが、どうにか堪えて理由を聞く。



「残念ながら、何が起こっているのかは分かっても、それを立証するだけの証拠を集めることができなかったのデス」



 沈痛な面持ちで支部長は言う。



「やろうと思えば、おそらく証拠を集めることはできたでショウ。しかし支部長である私が動けば大なり小なり、相手側に気付かれマス。そうなると最悪の場合、シーザー・マレク・カーライルを取り逃がすことになりかねませんデシタ。なので、私は下手に動けなかったんデス」


「それで手出ししなかったと」


「はい。ですが【啓示】ではキミが相手側に気付かれることなく、迅速かつ完璧に問題を解決してくれると分かっていましたので、歯痒くはありましたが、私が動くよりは確実だったので、動くことはしませんデシタ」


「……」



 つまり、この人は【啓示】スキルによって今回の事件の首謀者がシーザーだということは分かっていたが、証拠を集めるために動くには地位が高過ぎて、動けば逃げられるリスクがあった。だから【啓示】スキルで解決してくれるであろう人物が現れるまで待っていたというわけか。


 そして、それが俺だと。



「こうしてキミから聞いて整合性を取っていますが、やはり私の判断は間違っていなかったようデスネ」



 言いたいことは山ほどあるが、こうして彼女の言の通りの結果になってしまっていては何も言えない。俺は嘆息を吐いて会話を切り上げる。



「理由は分かりました。こちらからの説明は以上ですし、もう帰っても良いですか?」


「いえ、待ってくだサイ。実は午後から行われる今後の方針の話し合いに、キミたちにも参加してもらいたいんデス」


「俺たちもですか? それはまたどうして?」



 今回の件で表立って動いたのは確かに俺たちだ。しかし、支部長に事の顛末を話した時点で俺の役目は終わっている。これまでに売られてしまった違法奴隷たちを見付け、解放するためにまた俺が動くことはあるだろうけど、フレネル辺境伯領の行く末に関して言えばヴァイオレット令嬢に全てを任せてあるので俺はノータッチだ。


 冒険者ギルド・アルカディアはその強大さ故に、国政に関わることを禁じている。それはギルドから国に対してだし、国からギルドに対しても同じだ。冒険者個人が動く分には自己責任としているが、ギルドが直接関与することはない。


 だから今回の話し合いに関しても、あくまで今後のことを聞くだけに止まるのだと思っていた。だから、俺たちがわざわざその話し合いに参加する理由はないはずのだ。



「三つ理由がありマス。一つは、今回の件の解決者がキミたちだからデス。尽力したキミたち――というか解決のために最初から最後まで休みなく動いたキミたちを除け者にして話を進めるなど、誠実さに欠けマス。これはヴァイオレット令嬢と情報屋エストも同意見デス」



 指を立てながら、支部長は言葉を続ける。



「もう一つは、今回の件に関する謝礼を決める必要があるからデス。言ってしまえばキミたちはこのフレネル辺境伯領に住む領民全員を救ったことになりマス。であれば、その謝礼はしなければなりまセン」


「そんなもののためにやったわけじゃないんですが」


「キミからしたらそうだとしても、こちらとしてはそうはいきまセン。謝礼もしない恩知らずと後ろ指を刺されてしまいマス。なので、謝礼は何が良いか、決めておいてくだサイ。これに関してはすぐに解答する必要はありまセン」


「分かりました。メンバーと相談してから決めさせてもらいます。それで、最後の一つは?」



 聞くと、「あ~」と彼女はどういうわけか気まずそうな反応をした。



「実は、騎士団の方で少し揉めているようでシテ」


「は? 揉めている?」


「えぇ。何でも「こちらが調査に出たというのにならず者の冒険者が解決したのが気に食わん」だそうで。とはいっても一部の騎士団員だけのようデスガ」


「……まさかとは思いますが、それをどうにかしろって話じゃないですよね?」


「……てへ」



 顔を引きつらせて聞いた俺に対して彼女のふざけた反応に、思わず殴りたくなっても許されるんじゃないかと、そう思った。

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