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異界渡りの英雄  作者: 暁凛太郎
第3章 捕らわれた奴隷編
74/214

第72話 幕引き

 



  ◇◆◇




「何故、何故こんなことに」


 領主の館の執務室。そこで、領主のシーザー・マレク・カーライルは執務机に突っ伏し、頭を抱えて自問自答している。いや、より正確に言えば震え上がっていた。


 侵入者が現れたと報告を受け、その迎撃に出した。人数は然程多くないとのことだったので、すぐに片が付くだろうと思っていたのだが、いつまで経っても侵入者を倒したという報告が上がってこない。それどころか、迎撃に向かわせた者は誰一人戻ってきていない。



「おかしい。相手はたった数名なのだろう? それなのに、何故誰一人戻ってこないのだ」



 普通に考えれば、たった数名程度の相手に手こずるような者たちではない。大半はCランク相当だが、Bランク相当の実力者もいる。だからこのような状況になるなど、想像もしていなかった。



「そもそも、一体誰が襲撃に来たのだ。少数でこちら側の戦力を一網打尽にするなど、生半可な相手ではない。もしや……Aランク冒険者パーティがこの街に戻って来たのか?」



 ならばこの損害も納得いくが、即座にシーザーはその可能性を否定する。カルダヌスを拠点としているAランクの冒険者パーティは半月ほど前、別の大陸にある高ランクのダンジョンを攻略しに出立したばかりだ。


 その大陸には到着しているだろうが、まだまだ攻略には時間がかかるはず。もしも何かしらの理由で攻略を切り上げてきたとしても、戻って来るまでにはさらに半月はかかる。では他のAランク冒険者パーティが来た可能性も考えたが、それならそれで来訪の情報が来ていないことがあり得ない。


 Aランク冒険者パーティは有名な一党だ。その名前が出れば一日足らずで領内に知れ渡る。



「では一体何なのだ! 何が起こっているというのだ!」



 人は自分が理解できないものに対して過剰に恐怖を抱く。シーザーも、自分が理解できない状況とそれを行っているであろう人物に対して恐怖を抱いていた。彼が先ほどから一人で呟いているのも、恐怖心からくるものだった。



「クソッ。イゴールは何をしている! 何故、こんな肝心な時にヤツはおらんのだ!」



 今この場にイゴールはいない。実のところ、彼が普段どこで何をしているのかなんてシーザーは知らない。今までずっと彼からコンタクトを取ってきていたし、それで問題はなかった。だから、彼と連絡を取る手段なんて知らなかった。



「領主になって、まだ一年なのだぞ。このままでは……このままでは私は終わってしまう」



 こうなれば、とシーザーは執務机から立ち上がり、壁に飾られている絵画を取り外した。そこにはスイッチのようなものがあり、シーザーはそれを迷うことなく押す。すると、ズズズッと重い物を引き摺るような音を立てながら、スイッチの傍の壁がスライドした。


 それは下へと続く階段。領主がいざという時のために逃げるための脱出路だ。脱出路が開いたことを確認したシーザーは別の壁に飾られている剣を手に取り、それを腰に佩いた。



「一度地下二階の宝物庫まで降りて、隠しておいた資料を回収しておかねばならんな。アレが見付かってしまえば、私は本当に終わりだ」



 彼が言っているのは、これまで彼が売った違法奴隷たちの売買契約書や横領してきた税金の書類のことだ。これが見付かってしまえば、たとえこの場を生き延びたとしても処罰は免れない。あの資料だけは、必ず回収ないしは処分しておく必要がある。



「大丈夫だ。まだ私は終わっていない。ここを乗り越えて、再起すれば良いのだ。私ならやれる。私がここで終わるわけがないのだ」



 そう意気込み、階段を降りようとした時だった。ドバン! と乱暴を通り越して破壊しかねないほどの勢いで執務室の扉が開かれた。



「っ!?」



 心臓が飛び出すかと思うほど驚いたシーザーは扉の方へ視線を向けたが、入って来たその人物を見てすぐにその表情を怒りに変えた。



「貴様……一体何をしておる、バッカス!!」



 入って来たのは、侵入者を撃退しに出たはずのバッカスであった。



「うっせぇ! てめぇこそ何してやがんだ! 自分だけ逃げるつもりか!」


「当たり前だ! 私は領主だぞ! 貴様とは“価値”が違うのだ! ここで死ぬわけにはいかぬ!」


「っざけんな! こっちは仲間を全員殺されたんだぞ! むざむざ死んでられるかってんだ! そこを退け! 俺がその脱出路を使う!」


「貴様ぁ! この私に歯向かう気か!」



 二人して脱出路を使おうとするが、元々この脱出路の幅は狭く、人ひとりがやっと通れるくらいしかないのでつっかえてしまっている。傍から見れば、何とも情けない姿だ。そんな時、カツンと硬い足音が二人の耳朶を打った。恐る恐るそちら――扉の方を向くと、三人の少年少女がいた。


 阿頼耶、セツナ、ミオの三人だ。



「……子供?」



 何故、子供がこんな所に? とシーザーは頭を悩ませていると、隣のバッカスが慌てたように口を開いた。



「ま、待て! 待てよ! なぁ! こ、殺すのはなしにしようぜ? 確かに俺はいろいろやったけどよ。誰も殺しちゃいねぇぞ。だから、な? ここは穏便に済まそうぜ?」



 バッカスの言葉に答えることなく、阿頼耶は彼に向かって歩みを進める。それにたじろぐバッカスはさらに言葉を捲し立てた。



「そ、そうだ! 見逃してくれたら俺の財産をくれてやる! 元が付くが、Bランクの冒険者の財産だ! 悪くない取引だろ?」



 Bランク冒険者の財産となればそこそこのものだ。確かに悪い取引ではないだろう。バッカスたちから剥ぎ取った装備類を売り払ってもいるため、阿頼耶たちのパーティの懐事情は豊かではあるが、お金はいくらあっても困ることはない。


 だが彼は眉一つ動かすことなく、その歩みを止めない。彼の姿が、窓から差し込む月明かりに照らし出される。彼の右手に握られた漆黒の刃が月明かりによって怪しげに光った。一瞬、バッカスにはそれがギロチンの刃のように見えた。



「クソがぁぁ!!」



 このままでは殺される。そう直感したバッカスは腰の剣を抜くが、それよりも速くミオが魔剣を振るって彼の右腕を斬り落とし、セツナの魔弾が左太股を撃ち抜いた。



「ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 激痛でバッカスが叫び声を上げる。右腕と左太股から流れる大量の血液が床を染め上げ、彼の足元に血の水溜りが出来上がった。体を丸め、左手で斬られた右腕を抑えるバッカスの耳に、ばしゃりと水を弾く音が聞こえる。


 顔を上げると、そこにはバッカスを見下ろす阿頼耶が立っていた。靴が血で汚れるのも厭わず傍に寄った彼の瞳には何の感情も浮かんでおらず、見ている方の背筋が凍るほど無機質なものだった。まるで、最早何の価値も見出していないかのように。



「た、助け……て」


「一度目は見逃した。二度目はない」



 躊躇いなどない。阿頼耶はそれだけ言って、バッカスの首を刎ねた。胴体から離れた首が、シーザーの前に転げ落ちる。生気を失った目と合ってしまい、思わず「ひぃ!」と喉が干上がったような声を漏らした。



(な、何なのだ、こいつらは。こんな子供が、何故これほどの力を有している)



 目の前で起きた出来事を、シーザーは受け入れられなかった。理解できなかった。認めたくなかった。否定したかった。自分の半分も生きていないような子供がBランク冒険者を一方的に倒すなど、何の躊躇いもなく殺せるなど、受け入れられるものではなかった。


 阿頼耶はそんなシーザーのことなどお構いなしに、極夜を振って血のりを落とし、シーザーに向き直って左手を翳す。



「――【影の束縛(シャドウ・シャックル)】」



 魔法陣が展開され、術式名が唱えられた。すると、シーザーの姿を映し出していた影が蠢き、そこから縄のように何本も飛び出してあっという間にシーザーを拘束する。



「き、貴様! これは何の真似だ! 私はここの領主だぞ! 平民風情が、こんなことをしてただで済むと思っているのか!」



 彼らが何者であるかをシーザーは知らないが、おそらく平民だろうと当たりをつける。平民であれば、いくらでも報復することができる。


 そう思ってシーザーが強気に出たのだが、そんなものは阿頼耶には通用しない。彼は極夜を鞘に納めると、シーザーの顔面を殴った。ゴッ! と重く鈍い音が響き、衝撃で後ろに倒れそうになるが【影の束縛(シャドウ・シャックル)】で縛られているため、倒れることはない。口の中を切ったシーザーの口元から血が流れる。



「き、貴様……この俺を誰だと思っ――がっ!」



 叫んだところでまた殴られる。



「この薄汚い平民が――ぐふっ!」



 また殴られる。



「こんなことをしてただで済むとでも――げぶっ!」



 また殴られる。



「お、俺はこの国の辺境伯だぞ――ぶはっ!」



 そしてまた殴られる。


 何度も、何度も、何度も、ただ機械的に殴った。いつの間にかクレハたち【灰色の闇(グラウ・シュヴェルツェ)】全メンバーもやって来て、阿頼耶のやっていることにセツナとミオと一緒にドン引きしていたが、それに構うことなく阿頼耶はシーザーが静かになるまで殴り続ける。そうして殴った回数が二桁を超えた頃に、ようやくシーザーは静かになった。



「十七回、か。さっさと黙っていれば、顔がそんな月面みたいにならずに済んだものを」



 やれやれ、と呆れたように阿頼耶は溜め息を吐く。殴られ続けた結果、シーザーの顔はパンパンに腫れ上がり、元の顔の面影なんてなかった。



「さて、一応聞いておくが、エルフや獣人たちを違法に捕まえて奴隷と売り払った首謀者はアンタだな?」


「ぐ、ぅ……し、知らんな。俺には、身に覚えのないことだ」


「今さら知らぬ存ぜぬが通るとでも……!」



 しらばっくれるシーザーの態度にセツナは食って掛かろうとするが、それを阿頼耶が手で制した。すると、彼は【虚空庫の指輪】から何かの資料を取り出し、それをシーザーに見せ付ける。それを見た瞬間、シーザーは目を大きく見開いた。



「なっ!? き、貴様! 何故それを持っている!!」


「地下二階の宝物庫。そこに立ち寄ってな。そこで見付けたんだよ。――この売買契約書をな」



 そう。彼が取り出したのは、シーザーが宝物庫に隠しておいた違法奴隷たちの売買契約書だった。魔剣モラルタとベガルタだけでなく、この書類も回収していたのだ。そしてそれだけではない。彼が回収したものの中には、税の横領や密輸などの証拠となる書類もあった。これが公になればシーザーは終わりだが、彼はまだ強気に出た。



「ふん。それを流したところで、お前のような子供の言葉を一体誰が信用するというのだ。所詮は平民、誰もまともに取り合わん」



 残念ながらシーザーの言っていることは事実である。社会的信用を持たない無名の冒険者の阿頼耶がこのまま証拠を公開したとしても、それを信じて行動する者はまずいない。国のお偉い方も、「子供の戯言だ」と言って聞く耳を持たないことは自明の理だ。


 だがそんなこと、阿頼耶は始めから分かっていた。故にその対策は、すでに打ってある。



「「なら私(自分)たちの言葉ならどう(っスかね)かしら?」」



 突如聞こえてきた、二人の少女の声。その声の主の姿を見たシーザーは、その顔を絶望に染めた。



「ヴァイオレット公爵令嬢に情報屋エスト!?」



 あまりにも予想外な人物の登場に、シーザーは二人の名を叫ぶ。しかし、二人はそんなシーザーを放って阿頼耶に視線を向ける。すると、阿頼耶は二人ににやりと笑みを浮かべた。



「よう。わざわざ来てもらって悪かったな」


「本当よ。昨日の手紙の返事を今朝送ったばかりだっていうのに、その日のうちに行動するとか。フットワークが軽過ぎじゃない? こっちの準備だってあるんだから、もう少し待ってほしかったわ。龍の鱗なんてものを貰っちゃったから、急ピッチで準備したんだから」


「ちょっとズルいッスよねぇ。自分にも多めに情報料を払ってるッスから、協力することに文句が言えないんスよ。あらかじめ多めに払って断りにくくするなんて、中々にずる賢いッス」



 咎めるような二人の言葉に阿頼耶は肩を竦めて誤魔化す。


 阿頼耶が昨晩、クレハと戦う前に使い魔を放った先がヴァイオレットとエストの二人で、今回の事件解決のための協力を願い出た。


 ヴァイオレットに頼んだのは、救出した違法奴隷たちの一時避難場所の提供とシーザーの後釜となる領主の選定。エストに頼んだのは、入手したシーザーの不正の証拠を流すこと。その代価として、ヴァイオレットには阿頼耶の龍の鱗を、エストには以前に渡した情報料の残りで手を打ってもらったのだ。


 彼女たちがここにいるのは、クレハが仲間に指示を出して連れて来たからだ。


 彼らの親しげなやり取りで、シーザーは理解する。彼はあらかじめ手を回していたのだ。こうなることを見越して。自分に足りないものを正確に把握し、それを埋めるための手段を講じていた。



(頭の切れが良すぎるのではないか?)



 これが本当に、十七やそこらの少年なのか? と思わずシーザーは冷や汗を流す。しかし、もうできることはない。エストはその情報収集力と信頼性を買われ、皇族ですら利用している破格の情報屋。そしてヴァレンタイン家はフェアファクス皇国の建国時から続く三大公爵家の一つだ。どちらもその発言力は計り知れない。


 というよりも、どちらか一方だけでも充分なのに用心して双方に協力を取り付ける辺り、阿頼耶の慎重さと周到さが窺える。



「で、これが証拠の資料ッスか? どれどれ? ……うはー! これはまた随分といろいろやってるッスねぇ。違法奴隷売買を始め、密輸、横領、冤罪、麻薬、殺人……挙げたらキリがないッス。よくもまぁここまでやれたッスね。呆れを通り越してむしろ感心するッス」


「感心するなよ。不謹慎だ。……証拠としては充分か?」


「充分も充分。ここまで揃ってて何もしないと、国の信用が揺らぐッス。自分が直接、皇王に見せるッスよ」


「よろしく頼む」



 二人の会話を聞きながら、シーザーは必死になって頭を働かせる。このままでは死罪は確実だ。どうにかして命を繋げなければ。しかし、目の前にいる少年は情に訴えたところでバッサリと切り捨てるだけだろう。バッカスに対する対応を見ればすぐに分かる。


 であれば、自身にはまだ利用価値があることを示せば、まだチャンスがあるかもしれない。


 状況と周囲の反応から見て阿頼耶が中心となっていることを察したシーザーは彼に直接言った方が効果的だと考えて交渉する。



「お、俺を排したとして、次の領主はどうするつもりだ? 領主の選定など、すぐには決まらんぞ。領地経営の経験がある者のピックアップ。素行調査。政治的な配慮も考えなければならん。少なく見積もっても、決まるまで三ヶ月以上はかかる。その間の統治はどうするつもりだ。統治する者がいない状態はいろいろと問題が起きるぞ」



 統治する者が不在ということは、領内で問題が起こった時に対応する人物がいないということ。そうなれば問題はどんどん山積みになっていき、領民が各々で対応すれば無用な軋轢も生まれ、混沌とした状態になってしまう。下手をすれば無法者が跋扈するようにもなり、極論を言ってしまえばこのフレネル辺境伯領から人がいなくなるだろう。領地としてはお終いだ。


 阿頼耶はヴァイオレット令嬢に視線を向けると、彼女は頷きを返した。どうやらシーザーの言っていることは事実であるらしい。それが分かった阿頼耶は「チッ」と苛立たしげに舌打ちした。当然ながら阿頼耶に領主の真似事なんてできないし、すぐさま次の領主を決める手立てがあるわけでもない。


 そんな阿頼耶の態度に光明を見出したシーザーは捲し立てる。



「そ、その間の統治は俺が代行する。一年だが、実際に領地経営はしている。不安があるようなら監視を付けても良い」



 ここを乗り切れば、後はいくらでもどうにかなる。シーザーとしてはこんな子供相手に下手に出るのはプライドが許さないが、背に腹は代えられない。しばらく監視の目は付くだろうが、それも生きてさえいれば挽回のチャンスがあるかもしれない。


 そう思っていたシーザーであったが、その希望を断ち切るようにクレハが口を開いた。



「その必要はありませんわ」



 シーザーと阿頼耶の間にクレハは割り込む。その態度はまるで従者のそれのようで、阿頼耶は少し不思議に思ったが、即座にそれは頭の片隅に追いやって彼女の言葉の真意を聞いた。



「必要ないっていうのは?」


「実はアラヤさんと別れた後、わたくしたちは地下二階を少々探索致しました。その結果、宝物庫とは逆の位置に地下牢があることが判明したのですわ」


「地下牢?」



 彼女の言葉を測りかねて阿頼耶は疑問を呈していたが、反対にシーザーはそのパンパンの腫れ上がった顔面を蒼白にしていた。



「そこにいたのは、バジル・マレク・カーライルとブライアン・クリフ・カーライル。ここの前領主と、そこにいるシーザー・マレク・カーライルの兄ですわ。今は避難させた違法奴隷たちと一緒の場所に移動させ、衰弱していたので回復薬(ポーション)を飲ませて休ませておりますわ」


「……へぇ」



 思わずにやりと笑みを浮かべる。これは阿頼耶にとっても思わぬ収穫だった。彼はてっきりブライアンとバジルは殺されているものだと思っていたのだ。シーザーが正規の手順で領主の座に就いたのではないことは明白。だから、後々に周囲の者たちがバジルを担ぎ上げて反旗を翻す可能性は高い。


 ならばそうならないように一番確実なのは殺してしまうことだ。



(殺さなかったのは、父殺しや兄殺しの汚名は着たくなかったからか? 自分の手は汚したくなさそうなヤツだし、充分にあり得そうだ。なんにせよ、これで問題は全て片付く)

「まぁ、元々シーザーの提案を飲むつもりなんてさらさらなかったけど」



 零すように言った阿頼耶の言葉に、シーザーは「え?」と心底不思議そうな声を漏らした。それを聞き取った阿頼耶は、呆れて溜め息を吐き、エストに渡した不正の証拠を指差しながら言う。



「これだけのことをしておいて、お前なんかに統治をさせるとでも思ったか? 全く、この手の権力者はどの世界でも同じだな。自分だけは火の粉は降りかからないと思っている楽観主義者。我欲を満たすだけにやりたい放題やる快楽主義者。自分の行いに責任を取ろうともしない卑怯者。どれか一つでもクソ野郎確定なのに全部該当するから始末に負えない」



 ボロクソであった。


 そこまで言うかと思うほどの罵詈雑言に、クレハ、【灰色の闇(グラウ・シュヴェルツェ)】全メンバー、ヴァイオレット令嬢、エストは顔を引きつらせる。対して、セツナは苦笑を浮かべ、ミオは猫耳をピクピクと動かしていた。この二人だけ反応が違うのは、【グリフォンの爪】たちに絡まれた時の阿頼耶の対応を直接見ているからだろう。



「どのみち、お前に楽はさせない。聞きたいことは山ほどある。精々これまで自分がしたことを後悔して、覚悟しておくことだな」



 そこまで言ってシーザーはようやく観念したようで、力なく項垂れる。その様子を見て一息吐いた阿頼耶は窓に視線を向けた。



「……夜明けか」



 窓から射し込む朝日に、眩しそうに目を細める。

 こうして、長い長い一日が終わった。

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