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異界渡りの英雄  作者: 暁凛太郎
第1章 名も無き英雄編
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第6話 訓練

 国王との話が一通り終わり、俺たちは各自に用意された部屋へと案内された。とはいうものの、俺だけは少しの間だけ待たされた。


 勇者召喚の儀式の仕様上、召喚されるのは40人だというのは分かっていたのでその数の部屋や世話役(男子だとメイドさん、女子だと執事だ)を事前に用意していたらしい。だがまさか俺のように巻き込まれて召喚された者が出てくるとは思っていなかったらしく、急いで用意しているところなのだとリリア姫が教えてくれた。


 各自一人に世話役が付くとか豪勢だな。

 誰かに世話されるなんて、俺は御免被りたいけど。というかリリア姫に説明された時に遠慮した。


 しばらく待った後にメイドに案内されたのは、十畳ほどの広さのある部屋だ。そこそこ上質なベッドに、机と椅子。机の上には羽ペンとインクや燭台が置いてあった。


 急いで用意したわりには、上等な部屋だな。

 勇者じゃないから、てっきり待遇が悪いものだと思っていたんだけど。


 この部屋に案内された後、メイドに今後の説明をされた。

 説明、とは言ってもそんな難しいものじゃなかったけどな。簡単な話、城での生活のことだ。


 基本的に城の中は自由に動いて構わない。城外に出るのも問題はないが、事前にどこへ行くのか誰かに知らせること。問題行動を起こさないこと。嗜好品などはある程度用意するとのこと。などなどだった。


 あまり城の中に閉じ込めておくと問題が出るだろうし、勇者の存在は他国にも良い宣伝になるから外出もある程度認めているんだろう。外に出れば、勇者の存在を確認し、その情報が他国に知れ渡ることになるしな。公表こそすれ、隠すメリットなんてないし。


 問題行動っていうのも、これが絡んでくるからだろうな。勇者が問題を起こしたら、その人物を召喚した国も周囲から反感を買ってしまう。だから余計なトラブルを避けるためにわざわざ説明したんだろうな。


 それでも問題行動を起こしそうなヤツらはいるけど。

 ほら、立川組とか。立川組とか。立川組とか。

 むしろ問題行動を起こさない方が驚きだ。

 さて、夕飯までまだ時間はありそうだ。

 ベッドに横になり、俺は思案に耽る。

 この国の王は信用ならない。語る言葉には穴があるし、信憑性なんて皆無。そしてあの時に見せた薄ら笑い。



「早くここから出る算段を立てた方が良いのは確実だな」



 だが具体的にはどうする?

 今すぐここから出たとして、こっちの世界のことなんて詳しく知らない。

 そんな状態で出てしまったら、最悪すぐに死んでしまう。

 せめて、生き残れるだけの知識と力は必要だ。

 無論、リスクはある。勇者じゃない者が召喚されたことなんて、いってみれば召喚の失敗だ。それを隠すために俺を消そうとする可能性も、あの国王なら充分に考えられる。


 まぁ、すぐに殺そうとはしないだろう。勇者じゃなく、ステータスが低いにしても、異世界人なのだから何かしら有用性はあるかもしれないと考えているかもしれないし、今殺せば国王側が怪しまれるのは必至だ。



「タイムリミットは、向こうの下準備ができるまで」



 それまでに必要な知識と力を得て、どうにかしてここから脱出する!








 それから二週間が経った。

 この二週間、俺たちは騎士団の人たちに戦闘訓練を行ってもらい、宮廷魔導士に魔術の講義をしてもらった。


 宮廷魔導士は城お抱えの『魔導士』のことで、王侯貴族の子女に魔術を教えたり、国のために貢献したりすることを仕事にしている。ちなみに『魔導士』とは『魔術師』よりも上のランクの職業のことで、四つの属性の魔術を使えるようになると名乗れるようだ。


 そしてこの世界の魔術なんだが、一四種類も存在する。


 火属性魔術、水属性魔術、風属性魔術、土属性魔術、雷属性魔術、氷属性魔術、光属性魔術、闇属性魔術、無属性魔術、神聖属性魔術、暗黒属性魔術、付与魔術(エンチャント)、精霊魔術、召喚魔術だ。


 火、水、風、土、雷、氷は言わずもがな。


 光属性魔術は守りに特化した魔術で、神聖属性と暗黒属性を除けば属性随一の防御力を持つ。


 闇属性魔術は影や死霊を操る魔術だったりするもののことだ。


 無属性魔術はどの系統にも属さない魔術のことで、照明効果のある【光源(ライト)】や、対象を綺麗にする【洗浄(クリーン)】という魔術のことを指す。


 神聖属性魔術は聖なる力を持つ属性であり、聖剣と呼ばれるものは例外なくこの神聖属性を付与されている。加えて、神聖属性を使えるのは神族と龍族を除けば天族のみらしい。


 暗黒属性魔術は精神への攻撃や気を狂わせたりするような魔術が多い。これも神聖属性同様に、神族と龍族を除けば使えるのは魔族だけらしい。


 付与魔術(エンチャント)は様々な効果を後付けで付与させる魔術だ。


 精霊魔術は、この世界に存在する精霊の力を借りて行使する魔術のこと。主に妖精族(フェアリー)のエルフが好んで使っている。


 そして召喚魔術はその名前の通りで、大まかに言えば遠くのものを呼び出す魔術のことだ。今回行われた勇者召喚の儀式が、この召喚魔術に該当する。


 異世界人や勇者なら多数の属性を使うことなんて当然のようにできるらしいけど、普通の人は一つか二つ使えれば良い方らしい。そう話す宮廷魔導士の言葉を聴きながら『じゃあアンタが魔王退治に行けよ』と密かに思った。


 さらに魔導士の上には『魔法使い』という職業があるようで、これは『魔術』より上位の『魔法』を使うことができる者がなれる職業みたいだけど、これは生まれ持っての素質だとか才能とかで決まってしまう部類のもののようで、なれる者は少ないようだ。


 聖戦時に活躍した『解放者』たちの一人であるハミッシュ・アレイスター・クロウリーも魔法使いだったらしいが、本人は頑なに魔術師と名乗っていたらしいと宮廷魔導士に教えてもらった。



 さて、あれこれと魔術の話をしたけど、俺たちの一日の日程は午前に戦闘訓練、午後からは魔術の訓練を行っていた。そして今は午前中で、俺は他のクラスメイトたちと一緒に訓練場で騎士団の人たちと共に戦闘訓練を行っている。


 まずは簡単な型の練習と素振りを行っているのだが、俺と委員長と北条の三人だけは型の練習をしていない。俺と委員長はすでに向こうの世界で剣道をしていたのが理由だ。もう型が体に染み込んでいるので、今から別の型の練習をしても邪魔になるだけだ。


 北条はというと、アイツはたった二日で全ての型をほぼ完璧にマスターしてしまったのだ。だから練習をしていないというよりは、練習する必要がなくなったって言った方が正しいな。


 というわけで、俺と委員長と北条の三人は素振りをしたり打ち合いをしたりしていた。まぁ、ステータス値に大きな差があるから委員長と北条で打ち合いをして、俺はずっと一人で素振りをしているんだけどな。


 ちょっとでもいいから打ち合いがしたい。素振りも大切なんだけど、やっぱり生の人間と打ち合うのが一番なんだよなぁ。



「少し休憩するか」



 素振りと型の反復練習を一通りして、俺は借りていた刃引きされている剣を置いて訓練場の壁に背を預けて座る。


 俺から見て訓練場の左手を見ると、クラスメイト三八名が新人騎士と共に訓練を行っていた。とはいえ、今まで戦闘訓練なんてしてきたことがないんだ。彼らの表情は一目で疲労が色濃く出ているのが分かる。


 そこから視線をずらして右手の方を見ると、委員長と北条が打ち合いをしている。俺の目じゃ、その動きをかろうじて視認できるくらいだ。それほどのスピードで、二人は刃引きされた剣を使って打ち合いをしていた。


 二人があの速度で動けるのは、何もステータスが高いからだけじゃない。

 『身体強化(フィジカル・ストレングス)』という無属性魔術に分類される、身体能力を強化する魔術を使っているからだ。これを使うと、体表が硬くなったり、かなりの速度で動けたり、馬鹿みたいに筋力を上げることができるようだ。


 これを使っているから、二人はあの速度で打ち合いができているのだ。

 同じ道場に通っていたから、委員長がかなりの実力者なのは知っているけど、こっちの世界に来てからはそれにさらに磨きがかかったように見える。


 けど、驚くのは北条の方だ。北条は完璧に初心者。剣道はもちろんのこと、武術の心得なんてない。それなのに、わずか二週間で一一年も剣を振り続けてきた委員長に追い付くなんてな。『剣術』スキルの補正が効いているのだとしても、その成長具合には目を見張るものがある。



「勇者、か」



 たぶんだけど、クラスメイトたち全員が普通じゃ考えられない速度で成長していることから、勇者っていう職業が急激な成長の一因になっているんじゃないのかと思う。

 勇者の職業がない俺だけあまり成長してないのがその証拠だしな。



「もうへばったか、アマギリ君?」



 委員長と北条の打ち合いを見ていると、タンクトップのようなデザインの服を着た汗まみれの男が来た。オクタンティス王国騎士団団長ウィリアム・マカスキルだ。



「えぇ、まぁ。俺は勇者じゃないんで、他のヤツらと違って体力がもたないんですよ」


「それもそうだな」



 言いつつ、騎士団長は俺の隣に立つ。



「アマギリ君は、勇者ユウリと勇者コウタと友人なのだったな」


「まぁ、そうですね」



 二人がどう思っているのかは知らないけど、まぁ、北条はともかくとして委員長はお互い知った仲だしな。それなりに仲は良い。



「何でも、勇者ユウリとは同門だったとか」



 アイツ、そんなことまで喋っていたのか。



「えぇ。俺は五歳から一一歳までしていたんですけど、彼女が道場に来たのは俺が剣道を始めた次の年だったんで、実質五年間しか一緒に剣道をしていませんでしたね」


「なるほど。ではキミは勇者ユウリの兄弟子ということか」



 兄弟子って……そんな大層なものじゃないんだけどな。

 委員長は俺と違って、一一年間ずっと剣を振ってきたんだ。

 そんな彼女の兄弟子だと名乗るなんて、おこがましい。



「そんなキミから見て、二人の稽古をどう思う?」



 どう思うって、抽象的な言い方だな。

 ふむ。

 あの二人の稽古をどう思うか、か。



「時間の無駄ですね」


「ほう。それは何故だ?」


「委員長は熟練者なので、特に問題はありません。彼女の場合はひたすら誰かと戦った方が効率が良いでしょう。ですが、北条はダメですね」



 これは北条が気に入らないからとか、そういう理由じゃない。



「型のほとんどをマスターしたのは素直に凄いとは思いますよ。ですが、本来なら型の前に打ち込み稽古をしないといけないんですよ」



 打ち込み稽古とは、師にひたすら面を打つことだ。これを行い、師は弟子の打ち込みに悪い点があればそれを正すために小手や胴を打つ。これを掛かり稽古という。


 これを行うのは、心身共に鍛え上げ、技を学ぶ基礎を作り上げるためだ。

 しかし北条はこれを飛ばして型稽古を先に終えてしまった。

 要するに、心身が鍛えられていないのだ。



「というか、騎士団長ならこれくらいは分かっていたんじゃないんですか?」


「もちろんだ」



 なら何で委員長と打ち合いをさせているんだよ。

 指導者として、それはどうなんだ?



「まずは勇者コウタの実力を知りたくてな。だから経験者の勇者ユウリと戦ってもらっていたんだ」


「ということは、今後は騎士団長が北条の相手を?」


「そういうことだ。明日からになるがな。……む?」


「どうしたんです?」



 何かに気付いたような声を出す騎士団長。

 彼の方を見ると、騎士団長は訓練場の奥の出入り口に視線を向けていた。


 何があるんだ? ……って、あぁ。そういうことか。



「コウタ様ー! 頑張ってくださいましー!」



 訓練場の出入り口で大きな声を上げて北条を応援しているのは、金髪ツインテールに豪華なドレスを着ている少女だ。

 彼女はカーラ・カーリー・オクタンティス。オクタンティス王国の第二王女で、リリア姫の妹さんだ。



「カーラ王女殿下だな」


「また北条を見に来たんですかね」



 この国には第一王女のリリア姫のほかに、第一王子のバートランド、第二王子のギデオン、第二王女のカーラがおり、継承権第一位なのが長男のバートランドらしい。で、その第二王女のカーラ姫は北条にご執心のようだ。

 この二週間ずっと彼を付け回しており、昨日も一緒にいるところを見かけた。


 王女様に気に入られるなんてな。

 やったな、北条。

 逆玉の輿じゃないか。



「カーラ王女殿下は余程、勇者コウタが気に入られたご様子だ」


「みたいですね。当の本人は戸惑っているみたいですけど」



 カーラ姫に付き纏われて、北条はどうしたものかと困ったような表情をしていたのを何度か見たことがある。いつも周りにいる女子たちも、相手が王女だから強く言うことができないようで好き勝手されているようだ。

 そのせいで女子たちは絶賛苛立ち中だ。今だって素振りしながらカーラ王女のことを睨んでいるし。

 ちなみにそのとばっちりは俺の方に来ている。この前も訓練と称して複数人からボコボコにされた。



「カーラ王女殿下がキミの友人を気に入っていると聞いて、キミは何とも思わないのか?」


「別に何も。カーラ姫が北条を気に入ろうが、北条がそれに応えようが、俺には一切関係ないので」



 向こうの世界に帰りたくないのか、とは思うけど。

 まぁ、まだカーラ姫の好意に応えているわけじゃないから、もしかしたらカーラ姫を振り払って地球に帰るかもな。


 あんな優柔不断な男にそんなことができるのかは甚だ疑問だけど。



「それよりも、リリア姫はどうしたんです? 召喚の日以降、姿をお見かけしないんですが」


「実は召喚の反動で体を満足に動かせる状態でなくてな。休息しているのだ」


「それ、大丈夫なんですか?」


「命に別状はない。それに、つい先日ようやく部屋の中を歩き回るくらいに回復したんだ」



 それは良かった。

 彼女は俺たちをこの世界に召喚した人物だ。なら、送還の儀式には彼女の存在が不可欠になる可能性が高い。

 だからアイツらを元の世界に帰ってもらうためにも、リリア姫には無病息災でいてもらわないと困る。


 にしても、召喚の反動か。

 召喚の直後はまだ動けたみたいだけど、それなりに負荷は大きかったってことか。

 他の世界から四一人もの人間を召喚したんだ。どういう仕組みなのかは分からないけど、負荷が大きくて当然だよな。



「リリア姫のことが気になるのか?」


「……その言い方は誤解を生むんで訂正しますけど、別に恋愛対象として気にしているとかではないですよ?」


「そうなのか?」



 当たり前だ。

 彼女にはアイツらの送還という大切な仕事がある。それを果たしてもらうためにも、元気な状態でいてもらわないと困るだけだ。

 まぁ、騎士団長にそんなことを言えるわけないんだけどな。



「リリア王女殿下ほどの方なら、気に入ると思ったんだがな」


「確かに綺麗な女の子だとは思いますけど、それだけですね」



 綺麗だからといって、それがイコール魅力に感じるとは限らない。

 残念ながら、俺はリリア姫に何の魅力も感じていない。


 ていうか、それを俺に言ってどうするよ。

 俺は勇者じゃないんだ。取り込んだところでメリットなんてないぞ。

 それこそ、勇者筆頭の北条辺りに言えばいい。それか修司に。

 英雄色を好むとも言うし、ちょうどいいじゃないか。

 まぁ、英雄じゃなくて勇者なんだけどさ。



 その後、騎士団長といくらか話をして戦闘訓練は終了した。








 午前の戦闘訓練の次は昼食を挟んで魔術の実技訓練だ。

 これは、それぞれのスキルにある魔術の使い方を学び、それを実際に試している。とは言っても、俺は魔術系のスキルなんて一つもない。なので俺だけ別メニューだ。



「こんなことして、本当に魔力なんてものが分かるようになるのか?」



 俺が今しているのは瞑想だ。直立不動で立ち、目を閉じて集中する。これは魔力に目覚めていない者が魔力を目覚めさせるために行うものらしく、魔術系スキルのない俺はまず始めに魔力を目覚めさせることからさせられた。


 しかし、一向に魔力というものの存在を認識できない。この二週間ずっと行っているのだがさっぱりだ。宮廷魔導士いわく『魔力は誰にでも存在するもの。なのでアマギリ様にも魔力は備わっているはず』とのことらしいのだが。



「才能ないのかなぁ」



 ステータスの数値から考えるに、魔力自体は存在しているからそこは心配ないだろうけど。

 全くその存在を感じられないなんてなぁ。やっぱり俺が落ちこぼれだからか。

 というか、ご飯を食べた後だから眠くなってくるんだけど。



「隙あり!」


「ぶふぁっ!?」



 冷たっ!

 誰だ! いきなり水をぶっかけてきたヤツは!



「って、何だ。委員長かよ」



 後ろを振り返ると、委員長が手の平をこちらに向けてニッコリ笑っていた。

 どうやら魔術で水を作り出して俺にかけたらしい。



「いきなり人の頭から水をぶっかけるなんて、どういうつもりなんだよ」


「何だか雑念が多かったみたいだから、それを払ってあげたのよ。むしろ感謝してほしいわね」



 押し付けがましい物言いだが、彼女が言うと嫌味に聞こえないから不思議だ。

 まぁそれに、雑念が多かったのも事実だしな。



「それなら水をかけるんじゃなくて警策(きょうさく)で打ってほしかったな」


「警策って、長細い木の棒のヤツのことよね。アレって座禅している時にするものじゃなかったっけ?」



 心が緩んだ時にそれを戒めるために使うんだから、用途としては同じだと思うけど。



「まぁいっか。それよりも、訓練の調子はどうなの?」


「ご覧の通りさ。全く上手くいってない」



 嘆息を吐いて訓練場の中心に目を向けると、他のクラスメイトたちは魔術を使って訓練をしていた。


 おぉ、凄いな。でっかい火柱が上がっている。

 誰がやったんだろう? 北条あたりかな。


 北条、修司、姫川さん、委員長を始めとした、解放者と呼ばれた一三人の勇者の力を受け継いだ彼らの称号は、それぞれ『円卓の騎士』のメンバーの名前になっている。これは歴代の勇者たちの中に必ず存在するようで、しかもアストラルで活躍した『円卓の騎士』と地球で有名な『円卓の騎士』は同一人物らしい。


 あの円卓の騎士が空想上の産物じゃないってのは驚きだ。

 で、その円卓の騎士たちの力を今回受け継いだのが北条たちというわけだ。



「お前は訓練しなくて良いのか?」


「ちょっと休憩。魔力使いすぎちゃったし、午前中の模擬戦で体力も使ったから疲れたのよ」



 言いつつ彼女は腰の剣を地面に置き、そのまま座り込んだ。


 そこにあるだけで強い存在感を放つその剣は、聖剣『アロンダイト』。


 彼女の持つ称号『湖の勇者(ランスロット)』から召喚した武器だ。数日前に委員長自身から聞いた話だと、どうやら『円卓の騎士』の力を受け継いだ勇者たちは、円卓の騎士メンバーの名を冠した称号からそれぞれの武器を召喚できるらしい。


 ちなみに、北条は聖剣『エクスカリバー』、修司は聖弓『フェイルノート』、姫川さんは聖杯だ。



「自前で武器を出せるとか便利だよなぁ」



 そういえば、アレクシアと『聖書の神』がくれた『極夜』はどこに行ったんだろうか?

 俺の魂にどうのこうのって言っていたけど……。



「まぁ、確かにね。でも、この聖剣が私を選んだって国王様や騎士団長さんが言うんだけど今いちよく分からないから、少し釈然としないけど」



 聖剣や魔剣は意思のようなものを持っており、使い手を選ぶらしい。


 加えて聖剣や魔剣を使うには最低限、『聖剣適正』か『魔剣適正』のスキルがないといけないようだ。委員長もアロンダイトを召喚した際に『聖剣適正』と、ついでに『召喚魔術』のスキルも習得したとか。


 そんな簡単にスキルって増えるものなのか?

 俺なんて未だに一つも増えてないのに。



「そっちの訓練はどうなんだ?」


「ぼちぼちね。昨日やっと初級の魔術を全部習得できたわ」


「おいおい。充分凄いじゃないか」



 魔術にはそれぞれ等級があり、下から順に初級、中級、上級、最上級の四つに分類される。宮廷魔導士の話だと、初級の魔術を全て覚えるには年単位の月日がかかる。それなのにわずか二週間で習得するとは。さすが委員長だ。


 ちなみにスキルのレベル上限はLv.10で、レベルを上げる事に出来ることが増えていく。魔術系スキルがLv.3になると初級全てと中級の一部が、Lv.6になると中級全てと上級の一部が、Lv.10になると上級と最上級の全てが使えるようになる。



「私なんてまだまだよ。紗菜なんてもう中級の魔術を使いこなしているし」


「マジで?」


「あの火柱がそうよ」


「マジで!?」



 北条がやっているのかと思ったら姫川さんの魔術だったのかよ!



「まっ、紗菜は術師タイプの勇者だからね。覚えるのが早いのも当然なんでしょう。ていうか訓練に行き詰っているんなら紗菜に教えてもらったら?」


「姫川さんに?」


「あの子、魔力の扱いとか上手いみたいだし。それに紗菜になら頼みやすいでしょ?」


「まぁ、そうだけど」



 姫川さんに教えてもらおうにも、彼女の周りにはいつも人がいるからな。


 クラスメイトたち――特に男子生徒はこちらの世界に来て少し箍が外れたようで、委員長や姫川さんへのアプローチが目に見えて増えた。俺たちのクラス以外の、他の男子生徒がいないという状況で、自分たちにもわずかながらにチャンスがあると考えてのことだろう。


 それにこちらの世界の貴族たちも、勇者という有能な存在を手中に収めるべく行動をしている。簡単に言えば自分たちの息子や娘と勇者と婚姻させようとしているのだ。


 もちろん、勇者たちには魔王討伐という大役があるから大っぴらに行動することはできないが、裏で密かに手を回しているみたいだ。姫川さんや委員長も、それとなくアピールされているらしい。それだけでなく、騎士団の団員たちからもアプローチされているのだとか。


 男子も男子で貴族のご令嬢の他、見習いの女性魔術師や女騎士、メイドなどからもアプローチをされているらしい。


 俺はどうなのかって? むしろ女性に避けられていますけど何か。


 そういうわけで、姫川さんに教えてもらおうにも周りがウザイから容易に話し掛けられないのだ。こうして委員長と話しているのだって、珍しいくらいだ。



「機会があればな」


「教えてもらう気ないわね」


「いやいや。そんなことないって」


「アンタが『機会があれば』って言う時は、だいたいやらない時じゃない」



 はて、そうだったろうか?

 確かに姫川さんに教えてもらう気はないけど。



「よく分かっているんだな」


「何年の付き合いだと思ってんのよ。幼馴染みなんだから、それくらい分かるに決まっているじゃない」



 幼馴染み?

 俺が?

 委員長がそんな風に思っていたなんて初耳だ。



「さてと、私はそろそろ訓練に戻ろうかしら。アンタはどうするの?」


「そうだな。俺は……」



 と俺が言葉を続けようとした時だった。

 バレーボールほどの大きさの火球が俺に向かって襲い掛かってきた。

 俺は慌てて回避しようとしたが、間に合わない。

 火球は俺に直撃し、容赦なく燃やしてきた。



「――っ!」



 熱い! 熱い! 熱い!

 俺は叫ぼうとしたが、あまりの高熱に叫び声をあげることができなかった。



「“清らかに流れる水よ、我が元に集え”――『流水(アクア)』!」



 炎にのた打ち回っていると、次は大量の水をかけられた。



「阿頼耶、大丈夫?!」



 慌てた声と共に委員長が心配そうな顔で顔を覗き込んでくる。


 大丈夫って言いたいけど、さっきの炎のせいでまだ上手く声が出せない。

 それを見ていて察したのか、彼女はすかさず光属性魔術の治癒をかけてくれた。



「はぁ、はぁ、はぁ……ありがとう、委員長」


「そんなのはいいわ。それよりも――」



 委員長は火球が放たれた方を向き、鋭い視線を向けた。

 つられて俺もそちらの方を向くと、立川、工藤、藤堂、谷のいつもの4人組がニヤケ顔で立っていた。


 また、コイツらか。



「アンタら、これは一体何のマネよ!」


「何って、ソイツが退屈そうにしていたからさ。俺たちが訓練を付けてやろうと思っただけだよ」


「そうそう。ただでさえ俺たちより弱いんだから、しっかり鍛えないと」


「それを俺たちでやってやろうってこと」


「俺たちって優しいよなぁ」



 そんなことなんて欠片ほども思っていないだろうに、彼らはそれらしい言葉を並べて笑い声を上げる。


 そんな彼らを見て委員長は『アンタら……!』と、今にも壁に立てかけたままのアロンダイトを手に取って抜き放ちそうな雰囲気を出している。


 委員長はアレだな。すぐ頭に血が上って剣を抜きそうになるのが難点だな。

 そう言えば、よく委員長は道場の師範に『武士たる者、容易く剣を抜くことなかれ』って言われていたっけ。


 ……こんな時に、よくもまぁこんなどうでもいいことを思い出すよな、俺も。



「どうだ、阿頼耶? もちろん、受けるよな?」



 にやけた顔を向ける立川。それだけで、今から行うのが訓練という名の私刑(リンチ)だということが分かる。


 あぁ、でも



「……分かった」



 幼馴染み(女の子)の背中に隠れてるわけにもいかないよな。

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