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異界渡りの英雄  作者: 暁凛太郎
第3章 捕らわれた奴隷編
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第55話 弟子

 



  ◇◆◇




 バンブーフィールド商会でミオの武器と防具を買い揃えた俺たちは、冒険者ギルドでミオの冒険者登録とパーティ申請を行った。とはいえ、後々にミオを奴隷から解放するから、パーティ申請は本申請ではなく仮申請にしているのだが。


 そして現在、俺たちはギルドの裏手にある修練場で手合わせをしている。戦っているのは俺とミオで、セツナは審判代わりだ。本当はすぐにでも依頼を受けようかと思ったのだが、セツナに「まずはミオちゃんの実力を見た方が良いのでは?」と指摘された。


 もっともな指摘だったので、こうして戦っているというわけだ。


 二振りの剣を振るうミオの攻撃を【極夜】で弾く。猫らしくその俊敏性を生かして空中で一回転したミオは、着地と同時に勢いを殺すように地面を滑り、勢いが止まった所でこちらへ向かって突進してくる。ただ突進してくるわけじゃない。体勢を低くし、左右に動いてフェイントを混ぜ込んでいる。


 巧いな。一撃の重さが軽いのは否めないが、それを補うように相手の急所や行動不能にするのに最適な場所――例えば手足の腱などを的確に狙ってきている。


 少し動きがぎこちないが、おそらくそれは今まで魔物や動物を相手にしていたから対人戦の経験が少ないせいだろう。それ故に冒険者相手だと負けてしまうだろうが、そこら辺のチンピラ相手なら負けることはない。それくらいの実力がある。


 魔物相手なら……そうだな。ゴブリンやコボルトなら余裕だろう。リザードマンはギリかな。トレントはまだちょっと難しいって感じか。


 となると実力はD-0級くらいか。

 なら、このまま依頼に同行させても何ら問題はないな。



「よし。ここまでにしよう」



 そう判断したところで手合わせを終わらせると、ミオは双剣を鞘に納めてこちらに来た。審判代わりをしていたセツナも同様に俺の傍に来る。



「どうでした?」


「昔から剣で狩りをしていたってだけあって、実力だけなら【魔窟の鍾乳洞】に潜る前のセツナぐらいだな。今のままでも充分に戦えると思う」



 ただ、と言葉を続けてミオを見る。



「ミオ、お前は誰かに剣術を教えてもらったか?」



 俺の問いに、ミオは首を横に振って否定した。



「……他の人のを、見て覚えた」


「どういうことですか?」


「ミオの剣術は我流の色が強いんだよ。その割には理に適っているし、でも誰かに教わったにしては練度が低い。見て覚えたから、そんな歪な形になったんだろうな」



 誰かに師事していれば、ミオはもっと強くなっていたかもしれない。あまり良い扱いをされていなかったようだから、師事することなんてできなかったのだろう。


 さてどうしたものか。


 正直なところ、このまま依頼を受けに行っても然程問題はない。彼女の歪な剣術も、実戦の中で修正していけば良い。ここは、本人の意思に任せる方が良いか。


 そう思っていると、ミオが俺を正面から見上げていた。



「どうした?」


「……私に、剣を、教えて」


「剣を?」



 俺が、か?



「あ、それは良いですね。素人の私から見ても先輩の剣術は凄いですから。先輩がミオちゃんに教えるのが一番だと思いますよ」


「待て待て待て」



 話を勝手に進めないでくれ。



「俺が教えるのか?」


「それはそうですよ。私は剣術なんて使えませんし」



 確かにそうだ。セツナが使えるのは【銃術】であって【剣術】じゃない。ミオに剣を教えることなんてできない。そうなると、俺が教えるのが合理的なのかもしれないが……



「………………」


「………………」



 何を言うわけでもなく、ミオはジッと俺の目を見る。目は口程に物を言うとはよく言ったものだ。彼女の目は口よりも雄弁で、「お願い」と訴えかけていた。


 しばらくそうしていたが、俺は「はぁ」と溜め息を吐いた。



「しょうがないなぁ。分かった。俺が剣を教えるよ」



 根負けしたように言うと、ミオは尻尾をピンと立たせた。



「……ありがとう、お師匠様」


「お師匠様?」


「……ん。剣を教えてくれるから。だから、お師匠様」


「…………」


「……ダメ?」



 ……まぁ、別に良いか。剣を教えるなら、師匠と呼ばせるのが普通だろうし。俺が師匠と呼ばれるほどちゃんと教えられるかは分からないけど。


 ただ、アレだな。師匠と呼ばれると、少しこそばゆく感じるな。



「好きに呼ぶと良いよ」



 頭に手を置いて、軽く撫でる。


 計らずも弟子ができてしまったな。まぁ、夜月神明流剣術には五月雨月の他にも二刀流の技があるから、それを教えてやれば良いか。



「じゃあ、まずは依頼を受けるか」



 本来なら、登録したばかりでE-3級であるミオは討伐系の依頼を受けることはできないのだが、何事にも例外というのはある。パーティに加入しており、その総合的な戦闘能力がCランクを超えていれば受注することができる。


 俺がBランクで、セツナがDランクであるため、ギリギリCランクの戦闘能力があると判断される。規則的には問題ないというわけだ。


 とはいえ、弊害がないわけじゃない。この規則を利用してランクを上げようとする寄生組がいたり、迂闊に下位ランクの冒険者を入れたことが原因でパーティが全滅したといった事例も多いらしい。


 だからパーティを組む時はギルド職員も注意喚起をしているのだが、最後はやはり本人たちの自己責任になってしまうため、パーティの加入・脱退を強制することはできない。


 ミオを入れる時もレスティに「本当に良いんですか?」と何度も執拗に聞かれた。


 彼女の心配も分かるが、まだ下位であるミオを連れた状態で高ランクの依頼を受けるつもりはないし、彼女のことは鍛えるつもりでいるので問題ないのだ。


 なので、レスティには「大丈夫」だと言って加入手続きをしてもらったというわけだ。



「ミオちゃんに剣を教えなくて良いんですか?」


「それは追々な。急いで鍛えないとってわけでもない。とりあえずは、適当に何か依頼を受けて、ミオに冒険者業の空気に慣れてもらった方が良いだろ」


「なるほど。雰囲気を知ることは大切ですね」


「そういうこと。てなわけで、簡単なのでも良いから依頼を受けるぞ」



 俺の意図を理解した二人は力強く頷き、俺たちは修練場を後にした。

 俺たちが一騒動に巻き込まれるのは、この後すぐのことだった。




  ◇◆◇




 先輩とミオちゃんと私――セツナ・アルレット・エル・フェアファクスは修練場からギルドのエントランスへ戻りました。残っている冒険者はそれほどいません。ほとんどの冒険者はすでに依頼を受けて出ているようで、閑散としていました。



「掲示板にはあまり依頼が残っていないな。昼の貼り出しまでまだ時間があるから仕方ないが」



 ギルドの掲示板に依頼が貼り出されるタイミングは二回あります。日の出の時間と、昼の一時です。今の時刻は十一時になるちょっと前。先輩の言うように、昼の貼り出しまではまだまだ時間がありますね。



「けど先輩。今回はそんなに高ランクの依頼だったり人気のある依頼だったりを受けるんじゃないんですよね?」


「あぁ。肩慣らしと金稼ぎが目的だ。金稼ぎなら高ランクの依頼を受けた方が良いけど、肩慣らし込みだからな。簡単なヤツをいくつか同時に受ける形にしよう」



 そうなると、どれが良いですかね。討伐系なんてほとんど残っていませんし。採取系は沢山残っていますけど。


 こういった依頼は新人がやるものだからって、上のランクの人たちはやりたがらないから人気がないんですよね。ほとんどの人が討伐系を受けちゃいますし。


 っと、そう思っていたら一つ残っているじゃないですか。



「先輩、討伐系の依頼、一つ見付けましたよ。グレイウルフを五頭討伐です」


「グレイウルフ? それって確か、一体だけだとDランクだけど、群れになるとCランクに跳ね上がるんじゃなかったか?」


「その通りです。ですから、私と先輩で二頭ずつ、ミオちゃんに一頭でどうですか?」


「……それなら特に問題はなさそうか」


「ミオちゃんはどうですか?」


「……大丈夫。グレイウルフとは、戦ったこと、あるから」



 グレイウルフはそれほど珍しい魔物じゃないですからね。昔、狩りで戦ったことがあるのかもしれません。



「ところでセツナ」


「何です?」


「グレイウルフの肉って美味いのか?」


「…………………………………………」



 私の耳がおかしくなったのでしょうか? 何だかこのセリフ、前にも聞いた覚えがあるんですけど。



「まぁ、その、一応は食用肉としても親しまれていますから、精肉店で販売されていますし、飲食店で食べることもできます」


「……ん。グレイウルフのお肉は、ジューシーで美味しい」


「ということは美味いんだな!? っしゃー! 狩ったら早速食うぞ!」



 何でこの人はすぐに思考を食べる方に持っていくんでしょうか? この前はゴブリンが食べられるかどうか聞かれましたし。



「何でそうすぐに食べたがるんですか?」


「え? だっていざという時に何が食べられて何が食べられないのかは知っていた方が良いだろ? いつだって満足に飯が食えるわけじゃないんだから。それに地球には魔物なんていないからな。どんな味がするのか興味がある」



 前半は真面だったのに後半のセリフのせいで全部台無しです。というか後半が主な理由ですよね?



「はぁ、一応、売った方がお金になりますよ? それなりに高額で取引されていますから」


「そんな勿体ないことはしない。まずは自分で食う」



 そのあくなき食への探究心は一体どこから来ているんですか。



「……何だか、いつか目を離した隙に変なものを食べて食中毒になっていそうですね」


「………………」


「せめて否定くらいはしてくれません?」



 それはアレですか? 自分でもやりそうだなって思ったんですか? やりそうだと思うなら自重すればいいのにと思わず呆れてしまいます。



「まぁいいです。じゃあ討伐系はこれで決まりですね。先輩の方は……何かいっぱい持ってますね」



 何で依頼書を五枚くらい持っているんですか?

 ていうかいつの間にそんなに選んでいたんです?



「どれも採取系でな。納期はバッティングしてないから、どうせならいくつか受けておこうと思って」


「だからってそんなに受けなくても」


「だって、せっかく達成できそうな依頼があるのに受けないなんて勿体ないだろ?」



 仕事中毒者(ワーカホリック)のセリフですね。休んでいる時はすっごくやる気が無さそうなのに、何で仕事の時はそんなにやる気に満ち溢れているんですか。極端な人ですね。



「依頼、受注しに行くぞ」


「ですね」


「……ん」



 まぁ、私とミオちゃんとで手分けしてやれば明日か明後日で終わりますね。

 そう判断して先輩の言葉に同意して受付まで行こうとした時でした。



「あ? 何だ。お前ら、こんな時間から依頼を受けんのかよ」



 【グリフォンの爪】のリーダーであるバッカスさんが私たちの前に立ち塞がりました。

かえる様よりご感想にて指摘をいただきまして、財政難だから依頼を受けに行くというくだりを変更しました。(2018/11/24)

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