第51話 格子越しの出会い
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【シルワ大森林】の浅い場所にある洞窟。そこに私はいた。松明の光しかないから薄暗く、周りには見るだけで泣きたくなるほど怖い顔をした男の人たちが何人もいる。彼らはこの辺りを縄張りにしている野盗で、奴隷である私は彼らに捕まり、そして檻に入れられた。
「にしても今回はあまり実入りが良くなかったな」
「だな。今回は奴隷商人だったが、いたのは奴隷一人だしな。しかもこんなちんちくりん」
男たちの一人が私のことを指差して言うと、最初の男性が頷いた。
「愛玩奴隷だっつっても、全然ヤる気がおきねぇな」
「成長するのを待ってたんじゃねぇか? まぁ確認なんてできねぇけど。あの奴隷商人、殺しちまったし」
「そう言えばこんなガキが好みのヤツがいたな。そいつにやるか」
「あー、アイツか。また壊しちまわねぇか?」
「別に良くねぇか? 奴隷が壊れたところで誰も困らねぇんだしよ」
「はっ! それもそうだな」
ガハハハッ!と大口を開けて男たちは下品に笑う。奴隷には人権なんてものはない。しかも私は人間族じゃなくて獣人族。扱いはもっと酷い。それでも、鉱山送りになる【犯罪奴隷】よりはマシだけど。
一口に奴隷と言っても色々と種類があって、【一般奴隷】、【犯罪奴隷】、【戦闘奴隷】、【愛玩奴隷】、【労働奴隷】など様々。そして私は【愛玩奴隷】で、主に性的なことをされる奴隷。
私が奴隷になったのは一年前。両親が死んで一人になって、親戚に引き取られたけど、その時から奴隷のように扱き使われ、挙句の果てには奴隷商人に売り飛ばされた。ただ、野盗たちの言うように、奴隷商人は売れる年齢にまで育ったら売るつもりだったようで、今の内にと相手を喜ばせる方法は教えられた。
そしてカルダヌスへ向かう途中で彼らに襲われて、私を買った奴隷商人は殺され、私は彼らに捕まってこの檻の中に入れられた。
これからどうなるのか、なんて考えるだけ無駄。この人たちに犯されて、飽きられたら捨てられる。奴隷の扱いなんて、そんなもの。所詮は“物”でしかない。辛くて、寂しくて、泣きたくなった。
檻の隅でぼんやりと外を眺めていると、奥にある外へ通じる通路から野盗たちの仲間が何人かやって来た。
「そろそろ交代だぞ」
「あん? もうそんな時間か?」
「んじゃ行くか」
そう言って数名が立ち上がった時、交代に戻ってきた人たちの一人が私の方を見た。
「何だ? 誰も手ぇ付けてねぇのか?」
「お前じゃあるまいし、こんな色気のねぇヤツなんて相手にしねぇよ。何ならお前がヤッとけ」
「おっ。良いのか? 頭は何て?」
「好きにしろってさ」
その言葉を訊いて、男はニヤリと不気味に口角を上げた。
「なら、遠慮なくいただくかね」
下卑た笑みを浮かべながら男性はこっちに近付いてくる。
「ひっ!?」
怖くて、思わず後ろに後ずさる。それが余計に向こうを楽しませたみたいで、更にその笑みを深めた。彼だけじゃなく、他の野盗たちも同じように笑みを浮かべている。
「何だよ。無表情で面白味のない女だと思ったら、良い反応するじゃねぇか」
「おいおい。コイツは俺が楽しむんだぞ?」
「分かってるよ。ヤる気にはならねぇけど、見る分には楽しめるだろ?」
そういうことならと男は納得し、私の方に近付く。どこから持ってきたのか、それとも管理をこの男がしているのか、腰から鍵の束を取り出す。そして私の入っている檻の鍵を開けようと鍵穴に差し込もうとした時だった。
「た、大変だ!」
洞窟の出口に続く通路から男が慌てた調子でやって来た。
「敵襲だ! 仲間が次々と……っ!?」
「「「!?」」」
瞬間、男の首が飛んだ。比喩でも何でもなく、本当に首が宙を舞った。
私も、もちろん野盗たちも驚愕の出来事に呆然としている。けど私はそこで、首を刎ねられた男性の後ろに誰かがいることに気付いた。
見た目は、私より年上くらいの、けど少年と呼べるくらいの年齢の人。全身を外套で覆い隠しているけど、その右手には反りのある片刃で真っ黒な剣が握られている。
その人の右隣りには同じように外套を着ている女性がいた。年齢はたぶん、少年の人と似たり寄ったりだと思う。
剣を振り抜いた状態でいるし、あの人がやったの?
疑問に思っていると、ドシャリと首を切られた男の体が地面に倒れ込んだ。
それとほぼ同時に少年は野盗たちに向かって駆け出す。
「ちょ、ま……ぐぁっ!」
「コイツ! ……がっ!」
野盗たちは迫り来る少年に対応するために武器を取ろうとするけど、彼はそれよりも速い速度で次々と野盗たちを殺していく。もう一人の少女の方も……アレは魔法銃かな?それを使って少年を援護していた。
その様子を、私は呆然と眺めていた。
圧倒的過ぎる。数的に不利な状況であるにもかかわらず、二人は一切怪我を負うことなく野盗たちを殲滅した。
「これで全部か」
「そうですね。……あれ?」
「どうした、セツナ? ……ん?」
ザっと周囲を見渡して状況を確認していると、二人は私の方を見て疑問の声を上げた。
「この子は……奴隷、か?」
呟きながら持っていた真っ黒な剣を鞘に納めた彼は私と目を合わせるように片膝を着いた。ジッと私を見るその人の瞳は夜の闇のような黒色で、とても綺麗だと思った。
――こうして私は、冷たい鉄の格子越しに異世界人と出会った。




