第5話 ステータス
国王は話を続けた。
「それに騎士団の者がキミたちに訓練を行う。なに、キミたちは勇者だ。すぐに実践レベルにまでステータスを上げることができるだろう」
「そのステータスとは一体なんですか?」
「己の力量を数値化したものだ。心の中で『ステータスオープン』と唱えるといい。それで自身のステータスを知ることができる。ちなみに、一般成人男性の平均値はだいたい五〇ほどだ」
そう言えば、アレクシアもステータスのことも話してたな。ちょうどいい。俺もステータスを確認してみるか。
心の中で『ステータスオープン』と唱えると、目の前に半透明のウィンドウが現れた。そこには以下のように記されていた。
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雨霧阿頼耶 17歳 男性
レベル:1
種族:人間族
職業:学生、剣士
HP :50/50(+15)
MP :56/56
筋力:51(+15)
敏捷:52(+15)
耐久:80(+20)
スキル:
言語理解、鑑定Lv.1、隠蔽Lv.1、剣術Lv.2
称号:
異世界人、虐げられし者
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……なんか色々とおかしい。
確か異界を渡った人ってステータスが大幅に向上されるんだろ? なのに何で俺のステータスは耐久以外軒並み平均値なわけ? 耐久値が他よりもあるのは、虐められていたからだろうけどさ。もしかして、俺が勇者召喚とは別口で渡った異世界人だからか? アレクシアの話だと、俺は勇者召喚の儀式に巻き込まれて召喚されるけど勇者っていうわけじゃないらしいから、あり得なくもないけど。
それにこのスキルだ。『言語理解』は良い。『剣術Lv.2』も、昔剣道していたからだろうから不思議じゃない。でも『鑑定Lv.1』と『隠蔽Lv.1』って……。どうしてこんなスキルがデフォルトであるんだよ。いや、便利そうだけどさ。
極めつけは称号の『虐げられし者』だ。まさかこんなところまで虐めの影響が出るなんて。はぁ。まぁいい。ちょっと鑑定スキルを使って詳しく見てみるか。
言語理解
異なる言語を理解することができる。ただし読み書きはできない。
鑑定Lv.1
生物、無生物に限らず対象の詳細を見ることができる。
隠蔽Lv.1
ステータスを隠蔽することができる。
剣術Lv.2
剣術の技術を向上されるスキル。HP、筋力、敏捷のステータスに一定の補正あり。
ふむ。大方予想通りの内容だな。『剣術』スキルはLv.2の状態で一五プラスしてくれるのか。低いのか高いのかいまいちよく分からないけど。まぁいいか。次は称号を見るとしよう。
異世界人
異世界から渡った人物に贈られる称号。全ステータスが底上げされる。
虐げられし者
長らく虐げられてきた者に贈られる称号。耐久のステータスに一定の補正あり。
俺は目を覆いたくなった。アレクシアぁぁ。これは一体どういうことだ。『虐げられし者』の称号はステータスの耐久に(+20)と表示されているから、キッチリと補正しているけど、『異世界人』の称号が全く仕事をしてないじゃねぇかよ! 全ステータスが底上げされるってあるくせに平均値じゃねぇか!
それともアレか? 元々のステータスが低かったのか? 底上げされて、この数値ってこと?
うわぁ、もしそうなら泣けるわ。
ふと周囲を見てみると、クラスメイトたちも自身のステータスを確認しているようで、各々で騒いでいた。それはもう興奮気味に。
ちょっと他のヤツのステータスを覗き見してみるか。とりあえず北条、修司、姫川さん、委員長の四人から。
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北条康太 17歳 男性
レベル:1
種族:人間族
職業:学生、勇者、魔術剣士、魔導士
HP :100/100
MP :100/100
筋力:100
敏捷:100
耐久:100
スキル:
言語理解、鑑定Lv.1、火属性魔術Lv.1、水属性魔術Lv.1、風属性魔術Lv.1、土属性魔術Lv.1、雷属性魔術Lv.1、氷属性魔術Lv.1、光属性魔術Lv.1、無属性魔術Lv.1、精霊魔術Lv.1、魔術耐性Lv.1、物理耐性Lv.1、気配察知Lv.1、魔力感知Lv.1、勇者光輝
称号:
異世界人、光の勇者
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椚優李 17歳 女性
レベル:1
種族:人間族
職業:学生、勇者、魔術剣士、魔導士
HP :100/100
MP :80/80
筋力:100
敏捷:100
耐久:100
スキル:
言語理解、限界突破、鑑定Lv.1、剣術Lv.2、弓術Lv.1、火属性魔術Lv.1、水属性魔術Lv.1、光属性魔術Lv.1、無属性魔術Lv.1、精霊魔術Lv.1、魔術耐性Lv.1、物理耐性Lv.1、先読Lv.1、気配察知Lv.1、魔力感知Lv.、勇者不懼
称号:
異世界人、湖の勇者
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岡崎修司 16歳 男性
レベル:1
種族:人間族
職業:学生、勇者、魔術弓士、魔導士
HP :100/100
MP :95/95
筋力:82
敏捷:80
耐久:100
スキル:
言語理解、限界突破、鑑定Lv.1、弓術Lv.1、火属性魔術Lv.1、風属性魔術Lv.1、光属性魔術Lv.1、無属性魔術Lv.1、魔術耐性Lv.1、気配察知Lv.1、勇者必中
称号:
異世界人、悲恋の勇者
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姫川紗菜 16歳 女性
レベル:1
種族:人間族
職業:学生、勇者、魔導士
HP :86/86
MP :100/100
筋力:80
敏捷:80
耐久:80
スキル:
言語理解、鑑定Lv.1、火属性魔術Lv.1、水属性魔術Lv.1、風属性魔術Lv.1、土属性魔術Lv.1、雷属性魔術Lv.1、氷属性魔術Lv.1、光属性魔術Lv.1、無属性魔術Lv.1、精霊魔術Lv.1、付与魔術Lv.1、魔術耐性Lv.1、気配察知Lv.1、魔力感知Lv.1、勇者聖杯
称号:
異世界人、聖杯の勇者
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まさにチートの権化だな。
北条のステータスは全部一〇〇だし、スキルの数も多い。
委員長は職業から分かるように剣士タイプだから、そっちにステータスが偏っているな。同じ魔術剣士の北条よりも若干劣るって感じか。
修司は弓士だから筋力や敏捷の値は然程高くない。
姫川さんは術師タイプだからか、魔力値以外は低いが魔術系のスキルが圧倒的に多い。
この四人の他にも、勇者の名が付くスキルと『~~の勇者』と称号のあるヤツが九人いた。ソイツらは軒並みステータスが一〇〇近くあった。それ以外の者たちだが、職業に『勇者』が存在し、ステータスが八〇以下の者は誰一人いなかった。俺を除いて。やっぱり、俺が勇者じゃないからなんだろうな。
ある程度クラスメイトたちのステータスを聞いた国王は喜びを露わにした。
「おぉ! ではその者たちが『解放者』の力を受け継いだ一三人の勇者か!」
スキルに勇者の名が付くものを持ち、尚且つ称号に『~~の勇者』とある一三人の生徒がそう言われた。『解放者』という言葉に聞き慣れない単語に、北条は国王に問う。
「すいません。その『解放者』というのは何なんですか?」
「うむ。『解放者』とは、『聖戦』で最も活躍した二〇人のことだ。そのうちの一三人は異世界から召喚された勇者だったのだ」
「聖戦の時に召喚された勇者は一三人だったのですか?」
そこから国王が答えたのは、アレクシアが言っていたものと同じ内容だった。つまり、召喚されたのは四〇人で、最も活躍したのがその一三人だった。他の二七人も各自で活動を行っていたというものだ。
「……勇者は、四〇人?」
そう呟いて俺の方を見たのは委員長だった。どうやら、彼女は気付いたらしい。さすが委員長なだけはある。ここにいるのが全員で四一人だということはすぐに分かるか。
委員長以外にも、修司と姫川さんも俺の方を見ていた。ステータスを明かしていないのが俺だけだから、三人は俺が勇者じゃないってことに察しがついたんだろう。
「おい、みんな! コイツのステータスを見てみろよ!」
直後、俺の傍で大声が上がった。立川だ。
コイツ、俺のステータスを横から覗き見やがった!
俺は急いでステータスウィンドウを消そうとしたが、時既に遅し。
あっという間に俺のステータスが知れ渡ってしまった。
「マジかよ。ステータスがほとんど五〇台とか。平均値しかねぇじゃん」
「それに職業も勇者が無くて剣士って……コイツだけ勇者じゃないってこと?」
「スキルもクソみたいなものしかねぇし。完全に落ちこぼれじゃん」
「異世界に来てもゴミとか。さすが雨霧だな」
ざわざわと、クラスメイトたちの言葉を聞いて、周囲にいた貴族たちも騒ぎ始めた。
「どういうことだ?」
「勇者の中に偽者がいたということか?」
「だが、勇者召喚の儀式で喚ばれるのは四〇人なのだろう?」
謁見の間が不穏な空気に包まれる。
国王も疑問に思ったのか、娘のリリア姫に事情を訊いた。
ん? 何故かリリア姫が俺のことを見ている? 何だろう? リリア姫もどうして勇者じゃないヤツが召喚されたのか気になっているのだろうか?
「どういうことなのだ、リリアよ?」
「……」
「リリア?」
「え? あ、はい! な、何でしょうか、お父様!」
「どうやら彼の者は勇者ではないようだ。何故だか分かるか?」
「……おそらく、あの方は巻き込まれたのだと思われます」
「巻き込まれた?」
「はい。コウタ様にお聞きしたのですが、どうやら彼らは全員で四一人いるようです。そして召喚の際、彼らは同じ学び舎の一室にいたようです」
「ふむ。では、その時に喚ばれるはずのなかった四一人目も召喚されたというわけか」
考察してないでさっさとこの状況をどうにかしろよ、王族ども。てか北条。移動中にリリア姫と何か話していると思ったら、そんなこと話していたのか。
「皆の者、静まるのだ」
国王の声で、徐々に喧騒が収まった。そして完全に終息したところで、国王は俺に視線を向けた。
「そこの者よ」
「あ、はい」
呼ばれてしまった。
さて、何を言われることやら。
「名は何という?」
「雨霧阿頼耶。阿頼耶が名で、雨霧が家名です」
「そうか。アラヤ・アマギリよ。どうやらウヌは巻き込まれて召喚されてしまったらしい。ステータスが平均値なのも、それが原因だろう」
そっすね。
んなことは分かってるっつーの。
「先ほども言ったように、すぐに元の世界に返すことはできない。だが城に住まうことは許可しよう。訓練も、できる限りサポートを行わせてもらう」
ふ~ん。勇者じゃないからと言って、タダ飯を食わせるつもりはない。できる限りでも働けってことか。
「他の者たちも、城に住んで訓練をしてもらうことになる。訓練は騎士団長のウィリアム・マカスキルが行う」
国王がそう言うと、厳つい鎧を身にまとった騎士が低頭した。どうやらあの人がウィリアムとか言う騎士団長らしい。がっしりとした体躯が特徴的で、見た感じだとおそらく年齢は三〇代後半か。
「さて、勇者諸君よ。話を戻すが、我々に協力してくれないだろうか。我らの世界を守るために、どうか魔王を倒してほしい」
国王の言葉にみんながハッとした顔をした。ステータスで浮かれていたが、どうやらこのままだと自分たちは戦わないといけないということを思い出したようだ。
「みんな! 聞いてくれ!」
それを見た北条が叫ぶと、クラスメイトたちはその声に一度ビクッと体を震わせたが、みんな北条の方に顔を向けた。彼は真剣な表情でクラスメイトたちを見渡し、その注目が集まったことを確認すると言葉を続けた。
「みんなが不安になるのも分かる。正直、僕も怖い。けど国王様にだってどうしようもないんだ。それに、魔王を倒せば元の世界に帰れる。そうですよね、国王様」
「うむ。歴代の勇者たちも元の世界に帰ったらしい。中にはこちらの世界を気に入って残った者もいたようだが、帰ることは可能だ」
国王の言葉に、北条は頷く。
「それに、この世界の人たちが滅亡の危機に晒されてるんだ。僕は、それを放っておくなんてできない! だから僕が、魔王を倒してこの世界の人たちを守って、みんなを元の世界に帰す! 僕が全てを救ってみせる!」
グッと握った拳を天に掲げて高らかに宣言する北条。同時に、彼の無駄なカリスマ性が十二分に発揮される。
不安げで、同時に絶望していたような顔をしていたクラスメイトたちに活力が戻り、冷静になっていった。そんな彼ら彼女らの北条を見る目は、まるで一縷の希望を見出しているようだった。
しかも女子にいたっては、その大半以上が熱っぽい視線を向けている。
「まぁ、この状況じゃ仕方ないわよね」
「そうだね。それに、みんな一緒ならきっと大丈夫だもんね」
「まっ、どの道今のままじゃあ元の世界に帰れないしなぁ。なら、俺もやるかぁ」
委員長、姫川さん、修司が賛同する。後はその流れに乗るかのように他のクラスメイトたちも賛同していった。この状況だ。クラスメイトたちがリーダーに縋りたくなるのも分かるし、委員長、姫川さん、修司もあの空気だと賛成するしかないだろうからな。賛同するとは思っていた。
けど、そのきっかけを作った北条はなぁ。何だか、自分が勇者だってことにどこか酔いしれているようにしか見えない。
そしてそれとなく国王に視線を向けてみると、彼は誰にも分からないくらいわずかに、しかし確実にニヤリといやらしい笑みを浮かべていた。
……これは、早々にこの城から出た方が安全かもしれない。