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異界渡りの英雄  作者: 暁凛太郎
第3章 捕らわれた奴隷編
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第47話 盗賊との遭遇

 それから八日後。俺とセツナはカルダヌスに向かうために道中の街々で相乗り馬車を乗り継ぎ、今はその最後の馬車で移動している。


 どうして【魔窟の森】では馬車を使わず歩きだったのかというと、セツナが自分の正体がバレないように【魔窟の森】の手前まで馬車で移動し、そこからは街道を使わず森の中を突っ切っていたからだ。


 セツナのようにたまに森の中を通って国を渡ろうとする者がいるので両国が衛兵を使って見回りしているのだが、彼女はその警戒の緩いルートを知っているため、そこを通ったらしい。


 そして今、俺の右側に座っている彼女はフードを目深に被ってできるだけ存在感を消そうとしていた。【気配遮断】スキルを獲得できそうな勢いである。


 馬車には俺とセツナの他に乗っているのは五人だが、戦いを専門にしているような人はいそうにない。旅人や、どこかの村人とか、そんな人たちだ。御者の人に聞くと、普段は冒険者や傭兵といった人たちも乗るらしいのだが、今回はたまたま俺とセツナだけらしい。



「とりあえず問題なくカルダヌスに着きそうですね」



 コソッとセツナが耳打ちしてくる。



「前の街ではどうなるかと思ったけどな」



 前の街に入る時、警備していた兵士たちの様子を思い出す。


 彼女の姿を見たのは数人だったが、その全員が驚いたような反応を示した。案の定というか、やはりセツナは行方不明扱いになっていた。とはいっても、それは国境の兵士や近衛騎士、一部の貴族といった限られた者たちにしか通達されていなかったようだ。


 家族とはいえ、呪われた人間を大っぴらに探すことはできなかったということか。


 まぁそういう事情もあって、国境にいた兵士もセツナが行方不明になっていることは知っていたが、まさか目の前に現れるとは思っていなかったようで、驚きつつもすぐに皇王へ早馬を出そうとしていた。


 それをセツナが止めた。


 当然、兵士たちはどうするか戸惑ったが、そこで一言「今ここで皆さんの名前を言いますよ」とセツナが言ったら顔を真っ青にした。


 彼らはまだセツナが呪われていると思っていたため、呪殺されないためにも黙秘することに決まったのだ。


 あの時の彼らは気の毒だったが、呪殺されることはないのに慌てていたのは、少し面白かったな。



「今更だけど、もう呪われていないのにあんなことを言って良かったのか?」


「構わないですよ。本当のことを言っても面倒事になるだけですから。さすがに、家族に隠したままでいるのは心苦しいですけど」


「それでも、言わないのか」


「はい。……それに、お父さんは心配してないでしょうから」



 後半、聞こえないように言ったであろう言葉を俺の耳は聞き取った。


 そんなまさか、と思った。


 父親だぞ。忌み嫌われる呪われた娘だとしても、それを心配するのが家族というものだろう。

 何か事情でもあるのか?

 とある事情で妹に暴力を振るっていた兄がいたこともあったしな。

 そういう可能性があるって、考えられなくはないけど……。


 思い切って聞こうとしたが、使用していた【気配察知】スキルに何かが引っかかった。



「……」


「先輩? どうしました?」


「この先に何かいるな」



 おそらくは人間族(ヒューマン)だ。けれど、人数が多い。六人ほどいる。しかも誰も彼もが物陰に隠れている。明らかに怪しい。もしかして盗賊か?



「……セツナ、いつでも戦えるようにしておけ」


「え? どうしてですか?」



 その質問に答える前に馬車が急停止した。



「み、皆さん逃げてください! 盗賊です!」



 何があったのかを聞くよりも先に御者の男性がそう叫んだ。


 やっぱりというか、想像通り盗賊か。


 そう言えば何だかんだで今までずっと魔物とばかり遭遇していたから、盗賊と遭遇するのはこれが初めてだな。



「大人しくしてな!」


「さっさと馬車から出るんだよ!」


「手間かけさせんな!」



 言いたい放題に叫ぶ盗賊たち。


 大人しくしてほしいのか馬車から出てほしいのかどっちなんだよ。



「み、皆さん。ここは大人しく従いましょう」


「あー、御者さん。その必要はないですよ」



 御者の言葉にそう返すと、「何を言っているんだこのガキは」みたいな顔をされた。


 まぁ十七歳の子供に何が分かるんだって話だからな。

 これだから子供はって思われるのも当たり前だけど。


 ただなぁ。盗賊たちのレベルを見ると全員十くらいなんだよな。

 正直言って、俺一人で相手しても余裕でお釣りがくる。



「セツナ。こっちでの盗賊の扱いはどうなっているんだ?」


「殺したところで全く問題ないですね。悪名高い盗賊なら報奨金が出ますが、あの人たちはそこまでじゃないみたいですし。……どうします?」



 聞きながらセツナは太股のホルスターにある魔法銃――コメットをポンポンと叩く。

 自分がやりましょうか?と暗に言っているのだ。けど俺は首を横に振る。



「俺だけで充分だ。けど、一応警戒していてくれ」


「分かりました」



 俺とセツナは二人して馬車から降りる。



「ちょ! アンタら何してんだ!」



 驚く御者を無視して俺は盗賊たちの方へと歩き、セツナはコメットを抜いていつでも撃てる状態で御者や他の乗客たちに「大丈夫ですよ」と宥め始めた。


 あっちはセツナに任せるとして、こっちはこっちでさっさと終わらせよう。



「あん? んだてめぇ」



 リーダー格っぽい剃髪の大男がメンチを切ってくる。


 ふむ。【気配察知】スキルを全開にしたが、どうやらいるのはここにいる六人だけみたいだな。

 ……皆殺しにするか。



「へっ。どうやら命知らずがいるみたいだな。おい、お前ら! やっちまえ! 女は残しておけよ!」



 剃髪の大男の言葉に応じ、五人が前に出てくる。



「こんなガキ、俺一人で充分だぜ!」



 そう叫んで一人目が駆けて来た。俺は一気に踏み込んで極夜を振り抜く。俺と男が入れ違いになり、ゴトリと男の首が地面に落ちた。噴水のように血が噴き出し、残った体が倒れる。


 一瞬の出来事に、盗賊たちはおろか後ろにいる御者や乗客たちも唖然としているのが気配で分かった。



「て、てめぇ! 何しやがった!!」


「何って、すれ違い様に首を切り落としただけだけど?」


「んなことできるわけねぇだろうが! ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!」


「そう言われてもな。こうして実際に目の前で起こっているんだけど」



 そこまで速く移動したつもりはなかったんだが、見えていなかったのか。



「まぁいい。それで? 次は誰が相手だ?」


「チッ! てめぇら! 囲んで一気にやっちまえ!」



 剃髪の大男の指示で残りの四人が俺を取り囲むが、先程のこともあって安易に攻撃してこようとはしない。じりじりと俺との距離を測り、一斉に襲い掛かって来た。


 しかし、その動きは俺からしたら鈍足にも程がある。


 正面から来た男の剣を半身で躱し、首を切り落とす。次に横から来た男の足を引っかけて体勢を崩し、転んだ所で背中から極夜の刃を突き立てる。


 これで三人。さて、残りをさっさと始末するか。








 盗賊たちを始末するまで、然程時間はかからなかった。時間にしておそらく一分も経っていない。


 それに、戦闘と呼べるようなものでもなかった。俺に襲い掛かってくる盗賊たちの動きは緩慢で、まるで亀のようだった。そんな相手の攻撃なんて喰らうわけもなく、俺は盗賊たちの首を刎ねた。


 残っているのは、三番目に斬り付けた盗賊のみ。コイツはまだ首を刎ねておらず、背中から突き刺しただけだ。自分だけでもと思っているのか、血を流しながらも逃げようと地面を這っている。


 まだ生きているなんて、意外としぶといな。

 やっぱり、首を切り落とした方が確実か。


 俺は這いずる盗賊に近付き、何の躊躇もなく首を切り落とす。


 さて、これで全員始末できたな。


 極夜を振り、刀身に付いた血を振り払ってから鞘に戻す。



「セツナ、死体を処理するから手伝ってくれ」


「分かりました。武器や防具はどうしますか?」



 俺に方へと駆け寄りながら、セツナは訊いてきた。



「剥ぎ取ってこっちにくれ。物が良いわけじゃないが、売ったら少しは金になるだろうし」


「分かりました」



 指示通りセツナが盗賊たちの遺体から武器や道具を剥ぎ取るのを確認して、俺は剥ぎ取りが完了した死体を一ヶ所にまとめていく。


 にしても、初めて人を殺したが、思っていたほどショックはなかったな。

 もっと精神的にくると思っていたんだけどな。



「先輩? どうかしましたか?」



 考えているとセツナが怪訝な表情で聞いてきた。いつの間にか手が止まっていたようで、それで疑問に思ったようだ。



「……俺さ、死体を見るのは初めてじゃないけど、人を殺したのは今回が初めてなんだ」



 俺の言ったことが今一つ理解できなかったのか、彼女は小首を傾げたが、とりあえずは頷いた。



「初めての殺人だから精神的にくると思っていたんだけど、全然何ともないんだ。死体を一度見て耐性でもできたのかな?」


「それはたぶん、龍の魂と同化した影響なのではないでしょうか? 種族さえも変わったんです。先輩の性質が変わったとしても不思議ではありません」



 俺の性質が?

 龍と同化したから、人殺しをしてもショックを受けなかったと?



「ですが、心配することはないと思いますよ。精神崩壊を起こしている様子もありませんから。先輩的には、変化を起こしている自覚はないんですか?」



 彼女の質問に俺は首肯した。



「殺人に対する抵抗が少ないことを除けば、特に考え方は変わってないな。まぁそれが大きな変化といえば変化なんだけど」



 それとも俺が本当はアストラルの存在だからか?


 いや、それは関係ないか。殺せないヤツはいつまで経っても殺せないだろうし、逆に殺せるヤツはあっさりと殺すだろうし。


 そもそも、俺は一体どちら側の存在になるんだ?


 両親がアストラル出身だからアストラル側の存在か? けれど生まれも育ちも地球だし、ステータスの『称号』欄にも異世界人ってあったから地球側?


 ……まぁ、どちらでも良いか。


 こちらの世界――アストラルで生きるのに、どちらの世界の存在であるかなんて関係ないわけだし。

 調べるにしても、これから充分に時間があるわけだし、ゆっくりと調べていけばいい。


 ……調べても分からないような気はするけど。



「先輩、剥ぎ取り終わりましたよ」


「ん、分かった」



 最後の死体から道具類を剥ぎ取ったセツナから死体を受け取り、一ヶ所にまとめた所に放り投げた俺は火属性魔術を使って死体を焼いた。


 完全に焼却したところで相乗り馬車へ戻る。盗賊に襲われるのも珍しいことではないだろうに、御者や他の乗客たちは何やら青褪めたような顔をしていたが、その理由が俺にはよく分からなかった。


 そんなに刺激的だっただろうか?

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