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異界渡りの英雄  作者: 暁凛太郎
第3章 捕らわれた奴隷編
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第46話 とある夜の約束

 陽が落ちたばかりの森の中。


 右手に持った神刀【極夜】を構え、俺――雨霧(あまぎり)阿頼耶(あらや)は周囲に意識を張り巡らせる。


 背後から響く銃声。俺は反転し、飛来してくる銃弾を切る。魔弾ではなく実弾だ。



「そこか!」



 銃弾が来た方へ走ると、撃った本人――セツナ・アルレット・エル・フェアファクスの姿が見えてきた。まだかなり距離があるが、その表情までもハッキリと見て取ることができる。


 足に力を込めて踏み込み、一気に肉薄する。



「っ!?」



 セツナが、その大空のような青い瞳を見開いて驚くが、彼女は俺に銃口を向ける。弾丸が放たれるが、俺は左手を翳して対応した。龍の腕と化した左手が弾丸を弾き飛ばす。俺は極夜を下から振り上げるが、セツナはそれを魔法銃の銃身で受け止める。


 しかしそれも長くは続かず、俺が押し込むとセツナは後方へと飛ばされる。着地した彼女を追い、極夜を振るう。


 そこで、決着が付いた。


 彼女の魔法銃の銃口は俺の額に向けられ、俺の極夜の刀身は彼女の首筋に当てられている。



「ここまで、ですね」


「あぁ、引き分けだ」



 同時に武器を下ろし、戦闘態勢を解除する。緊迫した空気が霧散し、俺たちは手合わせを終わらせた。



「左腕、随分と動くようになりましたね」


「あぁ、もう右腕と同じくらい動くな」


「アレから三日ですか。経ったそれだけの時間でそこまで動かせるようになるなんて……どんな体をしているんですかね」


「人を化け物みたいに言うのやめてくれる?」



 軽口を叩きつつ、俺たちは荷物を置いてある場所へと戻る。その道中、俺はこの三日間のことを思い出す。


 三日前。クラスメイトたちに裏切られ、ダンジョンから脱出した俺はセツナに助けられ、命を繋ぎ止めた。それからはフェアファクス皇国へと移動しつつ、こうして暇さえあればセツナと模擬戦をしている。


 理由は単純に戦闘経験を積むことと、新しくなった左腕の動作を慣らすためだ。何度も戦ったおかげもあって、今では問題なく動かせる。これなら、イカサマもピッキングも大丈夫だろう。


 イカサマやピッキングができて大丈夫というのも、おかしな話だけどな。



「でもまさか実弾だけじゃなく、魔弾まで弾かれた時は驚きましたよ」



 そう。セツナと模擬戦を始めた最初の日、俺はセツナの放つ弾丸を実弾・魔弾に関わらず左腕で防いだのだ。龍の腕だからもしやと思っての行動だったのだが、案の定、防御力が上がっていた。


 では人の部分ではどうなのかというと、左腕よりも防御力は低かった。一度右手でセツナの魔弾を受けたが普通に怪我をしたのだ。その時に「馬鹿ですか!」とセツナに怒られたが、まぁ実証できたから良しとしよう。


 左腕は楯として使うことができるが、他は普通にダメージを負うから気を付けた方が良いな。



「体の調子はどんな感じですか?」



 ポケットから包帯を取り出して左腕に巻いていると、セツナが聞いてきた。



「まだ【人化】スキルに慣れていないから見た目を元に戻せていないけど、動かす分には問題はないかな。異常は見当たらないし、それどころか色々と性能が上がっている気がする」



 例えば先ほどの戦闘で、人間の目では判別できる距離ではなかったのに、俺の目には彼女の表情まで見ることができた。


 それと人間の一日に必要な睡眠時間は七時間だが、俺の場合は僅か四時間で事足りるようになった。これは、元々龍族の一日の必要な睡眠時間が一時間ほどだからだと思われる。


 他にも嗅覚や聴覚までも鋭敏になっている。


 おそらく、半人半龍になったことで生物としての性能が上がったのだろう。


 それは俺にとってはプラスになることなんだが、代わりに腕が目立つことこの上ない。そのため、左腕は包帯を巻いて隠し、ローブを羽織ることで対策を取っている。


 フードを目深に被れば完全に怪しい人物だ。



「セツナも随分と強くなったな」



 出会った当初よりも、セツナは格段に強くなっていた。





====================

セツナ・アルレット・エル・フェアファクス 16歳 女性

レベル:31

種族:人間族(ヒューマン)

職業:フェアファクス皇国第3皇女、魔術銃士、魔導士、冒険者

体力:820/820

魔力:1050/1050

筋力:731

敏捷:902

耐性:813

スキル:

 コモンスキル:

  戦闘系スキル:

   銃術Lv.3

  魔術系スキル:

   無属性魔術Lv.3、火属性魔術Lv.3、水属性魔術Lv.3、風属性魔術Lv.2、光属性魔術Lv.1

  魔眼系スキル:

   鑑定Lv.2

  補助系スキル:

   舞踏Lv.3、社交術Lv.2

称号:

 最年少魔導士

補助効果:

 隠蔽Lv.8、偽装Lv.4、経験値倍化、成長率倍化

====================





 ……いや本当に、随分と強くなっているなぁ。


 前に見た時はレベルが七で、ステータス値は平均で百四十くらいだったはずなんだが、今では別人のようなステータスになっている。


 まぁ、俺の【経験値倍化】と【成長率倍化】のスキルを共有化しているから、そのおかげもあるんだろうけどな。それに黒龍であるカルロスを倒した経験値もセツナに入っているだろうし。



「【光属性魔術】スキルまで獲得していたとはな」


「頑張りました」



 そこそこ発育の良い胸を張るセツナ。うっかりそこに目がいってしまうが、頭を振って目を逸らす。


 あぁ、クソ。

 前にセツナが「胸はそこそこあるから」なんて余計なことを言うから変に意識しちまうじゃないか。


 確かにそこそこはあるんだよなぁ。

 コイツ、寝惚けて俺に抱き着いてくるから、その時に意外と大きいことが分かった。

 たぶん、Dくらいあるんじゃないか?


 って、違う! そうじゃない! 気を引き締め直せ、雨霧阿頼耶。

 相棒にそういった目で見るのは不誠実だ。

 セツナは俺の相棒だ。決してそういう対象じゃない。


 深呼吸をして気持ちを落ち着ける。



「先輩? どうかしましたか?」


「っ!? あ、いや! 何でもない!」



 不意に話し掛けられたせいで驚いた俺は慌てて誤魔化す。それにセツナは首を傾げるが、深く追求してくることはなかった。



「それはそうと先輩。少しお願いしたいことがあるんですけど」


「お願い?」


「先輩が書き換えた術式について教えてほしいんです」


「書き換えた術式? あぁ、効率化したヤツのことか」


「正確にはどうやって効率化したのか、ですね。今まで術式の元となる部分を書き換えるなんてことをした人はいませんでしたから、どんな感じに書き換えたのか興味があるんです。代わりに、私が知っている魔術を教えます」



 そう言うセツナの目は心無し輝いているように見える。最年少の魔導士だけあって、新しい魔術のことは気になるらしい。


 魔術は大まかに七つの式から構築されている。


 術式の大本となる【基幹式】。

 魔術の属性を指定する【属性式】。

 魔術の発動に必要な魔力量を設定する【魔力式】。

 魔術の発動に必要な呪文と術式名を設定する【起動式】。

 魔術を制御するために必要な【制御式】。

 事象・万物にどれだけの規模と強度で干渉するかを決める【干渉式】。

 干渉した事象・万物をどのように変化させるかを決める【改変式】。

 

 この七つの式で組み上げたものを術式と呼ぶ。


 これが中々の曲者で、ただ単純にそれぞれを好き勝手決めればいいというわけではない。複雑で強力な効果を望むなら、それだけ書く式の量が多くなり、必要な魔力量も増える。もしそれ以下の魔力量を設定してしまったり、下手に式を削ったりしたら、定義破綻となって失敗する。


 そう言えば、「このアストラルの魔術師たちは【基幹式】以外の式を書き換えることで新たな魔術を作ったりしている」のだと、オクタンティス王国の王都でセツナと買い物をしている時に彼女は言っていたっけ。


 おそらくだが、この定義破綻を回避するために、アストラルの魔術師たちは【基幹式】をいじらないのだろう。【基幹式】だけでも文字数にするなら三万字以上になるからな。


 だが、俺の場合はこの【基幹式】を大幅に削って書き換えている。そのため、同じ魔術でも俺の魔術の方が少ない魔力量で高い効力を発揮するようになっている。まぁ、削った【基幹式】に対応させるために他の六つの式も書き換える必要があったが。


 【基幹式】はいわばテンプレートのようなものなので、これを理解していれば理論上全ての魔術に応用が利く。


 セツナは、それを知りたいのだろう。



「分かった。正直、魔術のレパートリーが増えるのはありがたいしな」


「じゃあ決まりですね」



 話しているうちに荷物を置いてある場所へ着いた俺たちはタオルを取り出して汗を拭う。



「明日には森を抜けられると思います。そこからまた十日ほどでカルダヌスに着きますね」


「どこかで馬車を調達しないとな」


「相乗り馬車があれば良いんですけどね。安いですから」


「だな。けど、街に入る時はどうするつもりなんだ? 聞く限り、俺は問題ないけどセツナはそのまま国を徘徊するとマズいんじゃないのか?」



 セツナは家族である皇族に内緒でオクタンティス王国にまで行った。居場所はまだ気付かれていないだろうが、とっくに姿を消したことは知られているだろう。セツナもセツナで、しばらくは姿を消すことにするつもりのようだったし。


 このまま普通に入国すると、セツナの居場所がバレてしまうんだが、どう対策をするつもりなのだろうか?



「見付からないにこしたことはありませんが、衛兵には口止めするから大丈夫です。それにまだ向こうには私の呪いが解けたことは話していませんから、万が一私の居場所がバレたとしても私を呼び戻すようなことはないですよ」


「わざわざ呪われたヤツと接触しようとは思わないからか?」



 俺の問いに彼女は頷いて肯定する。



「呪いを受けた者は忌み嫌われていますからね。皇女とはいえ、進んで関わろうとしません。……まぁ、どっかの誰かさんは呪われていると知っても、面白がって触れてきましたけど」


「はははっ」



 笑って誤魔化すが、セツナは「はぁ」と溜め息を吐いた。



「まぁ、別にいいですけど。明日に備えて寝ましょう」



 そう言って、セツナは布団に潜りこむ。


 あぁ。今夜も理性と戦わないといけないのか。


 ガックリと俺は肩を落とすのだった。

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