第45話 世界の傍観者
連続投稿、二日目です。
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神界。それは無数に存在する“世界”に君臨する神々が住まう異界。
その神界に存在する、白銀色に染まった広い一室に、白銀色の髪と眼をした人物がいた。
その人物は円卓の中心にある物を見ていた。円卓の中心に設置された宙に浮く水晶玉だ。そこには黒髪黒眼に平凡な顔付きをした少年――雨霧阿頼耶と黄金色の髪をした美少女――セツナ・アルレット・エル・フェアファクスが映っていた。
円卓の中心に備え付けられているのは【姿写しの水晶玉】という、アストラル全域を見ることができる、魔道具を超える神々の道具――神器だ。
水晶玉に映る少年と少女が旅に出た所でアレクシアは映像を切った。
「無事に出発しましたか」
女性は少し安堵したように口を開く。歳の程は二十代くらいで、顔立ちは整っており、白銀の髪はキュッと絞まった腰まで届いている。
アストラルを統べる創造神のアレクシアだ。
彼女はたまにこうして【姿写しの水晶玉】を使ってアストラルの様子を見ている。今回見ていたのは、自身が送った少年である阿頼耶だ。
アレクシアは席から立ち、窓際に移動する。窓の外に見えるのは、白銀の空。そしてそこに浮かぶ無数の巨大な浮島。その一つ一つが、各神々が統べる世界を管理するための島だ。アレクシアがいるのも、この無数に浮かぶ巨大な浮島の一つである。
「彼は異世界に渡っても、変わらないのですね」
阿頼耶の両親を地球へと送ったのはアレクシアだ。だから【聖書の神】に頼んでその後の生がどうなっているか見せてもらっていた。そのため、彼女は阿頼耶が地球で何をしてきたのかを全て知っている。
立川隼人に十年近く虐げられてきたことも。
『どうしようもない理不尽を前にただ涙を流すことしかできない誰かを救う』という誓いを立てたことも。
誓いを立てることになったきっかけも。
その後に行い続けた救済も。
何もかもを知っている。
異世界に渡ってもなお生き方が変わらない彼に半ば呆れるアレクシアだが、まぁ彼らしいと言えば彼らしいだろう。それに、凝り固まった生き方を変えることなんて容易ではない。
「さて、阿頼耶君。キミはこれから様々な人たちと出会い、また様々な理不尽と遭遇することでしょう。ですが、どうかその魂の輝きが曇らないでいてほしいものです。キミの物語は、これからが本番なのですから」
アレクシアは右手を胸に当てる。それはまるで、祈りを捧げているようだった。
「名も無き英雄よ。人の枠を外れた人外の英雄よ。どうか汝の行く末に、幸多からんことを」
第2章 裏切られた英雄編 完




