第44話 新たな旅路
今日から三日間、連続で投稿します。
レベルはこの際、置いておこう。倍くらいアップしているが、これはカルロスを倒したのと、ヤツの魂と融合したからだろうし。
次は種族だが、人間族から半人半龍になっている。半人半龍なんて初めて聞くが、これも恐らくカルロスと融合したから種族が変わったんだろう。
ある程度のことは覚悟していたが、まさか種族自体が変わるとはな。
父さん、母さん。俺、人間を辞めちゃったみたいです。
「半人半龍、か。セツナは何か知っているか?」
体を拭き終わった彼女に問いかけると、セツナは俺の隣に腰を下ろして一緒にステータス画面を見る。
「私も初めて聞きます。そもそも、龍と人とのハーフなんてあり得ないんですけどね」
「それはアレか? 遺伝子的な問題で?」
「まぁ、そうですね。それ以外にも、生物としてのスペックが違い過ぎて子を成せないんです」
あー。最強の種族と最弱の種族だしな。その辺りが理由で子供ができないのか。
俺は【鑑定】スキルで種族を詳しく見る。
半人半龍
人と龍の因子を持つ種族。あらゆる奇跡が重なって生まれた、この世で唯一の存在。人にも龍にもなることができる。龍族とは異なり、人の姿のままでも龍としての力が使用できる。
何かとんでもない説明文が表示された。
この世で唯一って……じゃあ、俺以外に半人半龍はいないってことなのか。
バレたら完全に面倒事を引き起こしそうだし、これは【隠蔽】と【偽装】のスキルで隠す方向で決まりだな。
さて次だが、ステータスの項目に【龍力】というのが追加されている。【鑑定】スキルで確認したが、これは魔力や神力と同様に波動に分類されるものらしい。
ただ、これは龍族にしか使えない波動であり、【龍の咆哮】や【龍の爪撃】など龍固有の技に使われる。薄鈍色をしているのが特徴だ。
値が魔力と同じく五千八百という馬鹿げた数値になっている。
まぁ、魔力や龍力だけじゃなくて、他の項目も三千や四千近くの値になっているんだけどな。これ、レベル八十台の値なんだけど、【成長率倍化】スキルのおかげで随分と値が伸びている。
スキルの方は、魔剣を扱うことができるようになる【魔剣適性】と全てのステータスを1.5倍にする【限界突破】の他に九つも増えている。
龍の栄光
龍族のみが使える種族固有のユニークスキル。環境と適応し、戦えば戦うほど強くなる。
龍の威圧
【威圧】スキル上位のスキルであり、龍族のみが使える種族固有のユニークスキル。相手を怯ませることができる。
人化
人間以外の種族固有のユニークスキル。人間の姿になることができる。
龍化
龍族のみが使える種族固有のユニークスキル。龍の姿になることができる。
他にも【暗黒属性魔術】、【危険察知】、【格闘術】、【投擲術】、【槍術】のスキルを獲得しているが、さすが最強の種族だな。龍固有のスキルが凄まじい。
特に【龍の栄光】スキル。環境と適応し、戦えば戦うほど強くなる。つまり、火山地帯にいる龍だと特に火に対して強くなり、水中に住む龍は水に対して強くなるということか。
そして戦えば戦うほど強くなるという効果。恐らくコレが、龍族が最強たる所以の一つなのかもな。普通は、ただ戦ったところで強くはならない。それなのに戦えば戦うほど強くなるのなら、そりゃ最強にもなるわ。
【龍の威圧】に関してはあまり説明がないが、通常の【威圧】スキルの上位なのだからそれ相応の効果があるのだろう。これは使いつつ効果のほどを確認していくとしよう。
そして【人化】と【龍化】のスキル。
これが、セツナが言っていた「元に戻る」っていう言葉の根拠だな。ステータスの閲覧は常に許可しているから、見て確認したんだろう。確かに、人間の姿になることができる【人化】スキルならこの左腕も元に戻るに違いない。ただ、【龍化】スキルもあるということは、俺は龍の姿にもなることができるんだろうな。
次に【危機察知】スキルだが、これはカルロスに襲われたから獲得できたのかな?
便利そうだが、危険を察知することができるって言われてもどんな感じに察知するのだろうか。
スキルを獲得するみたいな感じにアナウンスでもあるのだろうか。
最後に【暗黒属性魔術】スキル。普通なら人間族が獲得できるものじゃないけど、半人半龍になったから獲得できたんだろうな。
「かなりスキルが増えましたね」
あれこれ考えていると、セツナが感嘆の声を上げた。
「そうだな。増えたのは主に龍関係のスキルだけど」
【人化】と【龍化】も、カルロスと融合したから獲得できたスキルだろうしな。
「ていうか、スキルが増えすぎて見にくくなったな」
「あ、それならソートで表示できますよ。ステータス画面の右上に歯車のマークがありますよね。そこをタップして、『ソートで表示』を選択してください」
言われた通りに操作をすると、ステータス画面が見やすくなった。
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雨霧阿頼耶 17歳 男性
レベル:64
種族:半人半龍
職業:学生、魔術剣士、冒険者、魔導士、鑑定士、軽業師
HP :3854/3854(+819)
MP :5800/5800(+800)
龍力:5800/5800(+800)
筋力:3934(+819)
敏捷:3962(+836)
耐久:5970(+820)
スキル:
ユニークスキル:
強化系スキル:
龍の栄光
威圧系スキル:
龍の威圧
変化系スキル:
人化、龍化
エクストラスキル:
補助系スキル:
言語理解
適性系スキル:
聖剣適性、魔剣適性
強化系スキル:
限界突破
レアスキル:
強化系スキル:
経験値倍化、成長率倍化
コモンスキル:
戦闘系スキル:
剣術Lv.5、格闘術Lv.3、投擲術Lv.3、槍術Lv.3
魔術系スキル:
無属性魔術Lv.4、火属性魔術Lv.4、水属性魔術Lv.3、風属性魔術Lv.3、土属性魔術Lv.4、闇属性魔術Lv.4、暗黒属性魔術Lv.2、召喚魔術Lv.1
魔眼系スキル:
鑑定Lv.8
耐性系スキル:
物理耐性Lv.4、魔術耐性Lv4
知覚系スキル:
気配察知Lv.4、魔力感知Lv.4、危険察知Lv.2
阻害系スキル:
隠蔽Lv.8、偽装Lv.4
補助系スキル:
軽業Lv.4、不屈Lv.6、胆力Lv.6
称号:
異世界人、虐げられし者、名も無き英雄、龍殺し
補助効果:
隠蔽Lv.8、偽装Lv.4、創造神の加護、経験値倍化、成長率倍化
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うん。スキルが種類別に分類されたから随分と見やすい。
こう見ると、通常のスキルでもかなりの種類があるな。この分だと、俺が取得しているスキル以外にもまだ種類がありそうだな。
「いくつかのスキルがレベルアップしていますね。【物理耐性】と【魔術耐性】が二つずつ。【気配察知】、【魔力感知】、【軽業】、【不屈】、【胆力】が一つずつ、ですか。普通に比べて随分と早くレベルアップしましたね」
「まぁ、俺には【創造神の加護】があるからな。そのおかげでスキルレベルが上がったんだろ。普通はこんな簡単には上がらないんだよな?」
「はい。レベルを一つ上げるだけでも半年から一年の研鑽が必要になりますね」
ふむ。そうなると、セツナはやはり天才なんだろうな。
何せ彼女は魔術系のスキルと四つ獲得し、レベルも二にまで上げているんだからな。一つの魔術を極めるというより、多くの魔術を使えるようにしたといったところだろう。彼女の魔術のレパートリーは多いしな。
「称号も増えましたね」
「ん? あぁ、龍殺しのことか」
上位の龍族であるバハムートのカルロスを倒したのと、龍殺しの魔剣であるバルムンクを入手したからだろうな。
「先輩、自分が龍殺しであることは隠しておいた方が良いですよ」
「何でだ?」
「龍殺しの称号を得るには上位の龍族を単独で倒さないといけないんですけど、今の時代、そんなことができる人なんていないんです」
顎に手を当てて、言葉の意味を考えてみる。
今の時代、上位の龍族を単独で倒すことができる人はいない?
「つまり……現代に龍殺しは存在しないってことなのか? でも市場には龍の肉が出回ったりしているんだろ?」
「それは飛竜のような下位の龍族ですよ。しかもそれを倒すにも複数人で挑まないといけませんし」
「下位ですら複数人でないと倒せないのか」
「はい。なので実質、龍殺しは先輩だけです。これがバレると要らぬ面倒事を巻き込むことにもなりかねません。龍を単身で倒す実力があるって分かるとあちこち引っ張りだこになったりとか、嫉妬から絡まれたりとか」
「だから隠しておいた方が良いってことか。分かった。【偽装】と【隠蔽】のスキルで表示を誤魔化しておく」
彼女の指摘は尤もなので、俺は龍殺しの称号も秘匿することにした。
「そう言えば極夜は?」
『回答。私はここに居ます、マスター』
聞こえてくる極夜の無機質な声。周囲を見渡すと、隅の方に極夜が置かれていた。セツナはそれを俺の方へと持ってきてくれた。
『安堵。目が覚めたようで何よりです』
「あぁ、お前にも無茶をさせたな」
『否定。私はマスターの武器です。武器は使われてこそ意味がありますので、気遣いは無用です』
「そうか。少し、デザインが変わったな」
極夜を鞘から抜く。
鞘、刀身、鍔、柄の全てが漆黒なのは変わらない。だが、鍔と縁に龍の姿が彫り込まれていた。
『回答。私はマスターの魂を基に鍛造された神刀であるため、マスターの魂に龍の魂が混合した結果、デザインも変更されました』
返答した極夜の言葉に、俺は納得した。俺と混ざったカルロスの魂の部分が、鍔と縁に現れたのか。
「先輩はこれからどうするんですか? ……と聞きたいところですけど、また明日にしましょう。先輩、起きたばかりですから」
「ん? いや、俺なら大丈夫だぞ」
極夜を鞘に戻しつつ言うと、セツナは俺の肩をトンッと軽く押した。すると、何の抵抗もなく俺は寝転がってしまった。
え? あれ?
「な、何で?」
「何でって……当たり前じゃないですか。一週間も気を失って、目が覚めたばかりなんですよ? フラフラになっていて当然です」
「そんな感じはしないんだけどな」
「いいから大人しくしていてください。これから食事の準備をしますから」
「……分かった」
これ以上食い下がるとさすがに怒られるよな。
それにセツナの言っていることも当たっているし、大人しくしていよう。
そして彼女が用意してくれたご飯を食べ、いざ寝ようとした時だった。
「それじゃあ先輩、寝ましょうか」
「いや、待って。何でさも当然のように一緒の布団で寝ようとしているんだよ」
「添い寝するためですけど?」
いや、何でさも当然のことのように言っているんだ?
やっていることおかしいからな!?
「男と女が一緒に寝るなんて駄目だろ!」
「今更何を言っているんですかね。ダンジョンで散々一緒に寝たじゃないですか」
「別々の布団でな! 間違っても同じ布団で寝てねぇよ!」
「まぁまぁ。そんな細かいこと気にしないでくださいよ」
細かくないからな!?
俺にとってはかなり死活問題だからな!?
「ていうか、皇女ともあろうものがどこの馬の骨ともしれないヤツと同衾なんかしたら風評が悪くなるだろ。せっかく呪いが解けたっていうのに、皇女として戻っても苦労することになるぞ」
貴族社会だと、未婚の女性が男性と二人きりで一緒の部屋にいるだけでもマズイ。それなのに同衾なんかしたら貴族たちから尻軽女と見られてしまう。
せっかく呪いが解けて家族のもとにいつでも帰ることができるんだ。余計なリスクは回避するべきだ。
「別に構わないですよ。私、皇女の立場に戻るつもりはないですから」
そう思っての言葉だったのに、彼女はそんなことを言いやがった。
「元々私、皇女という立場は性に合わないんですよ。こうして冒険者として過ごす方が快適ですし。……あ、それとも先輩、私に興奮しちゃいますか?」
「…………」
あまりに予想外過ぎるセリフに、言葉を失った。
ちょっと待て。今コイツ何を言った?!
「べ、別にそんなこと……」
「じゃあ一緒に寝ても問題ないですよね」
「うぐっ! な、何か間違いが起こったらどうするんだ!」
「あぁ。それなら大丈夫ですよ」
大丈夫? 何が大丈夫なのだろうか?
もしかして、俺が手を出さないと信用してくれて……
「私、先輩に何をされても平気ですから」
全然大丈夫じゃなかったーー!
「胸はそこそこあるから大丈夫だと思うんですよね。あ、でも初めてですから優しくしてくれると嬉しいです」
「ストップストップストーップ! 何を口走っているだよ、お前は!」
「ですから、えっちをするなら優しくしてほしいって」
「分かりやすく言い直さなくて良いんだよ!」
女の子がそんなことを口にしてはいけません!
「ったく。やりにくいったらない」
「褒め言葉として受け取っておきます。それで先輩、どうするんですか? 言っておきますが、今拒否しても先輩が寝入ったら忍び込みますから」
それってもう俺に選択肢ないじゃん。
結局布団に潜り込むんじゃん。
「はぁ。分かったよ」
これ以上何を言っても押し切られそうだしな。
もうここは諦めよう。
俺の言葉を聞いて、セツナは満面の笑みを浮かべてガッツポーズをした。
何でそんなに嬉しいのか俺には分からなかったが、ともかくセツナと同じ布団で寝ることになった。
言うまでもなく、その晩、俺は中々寝付くことができなかった。
「先輩はこれからどうするか決めていますか?」
翌日。セツナが用意してくれた朝御飯を食べていると彼女がそう聞いてきた。
「ん? そうだな」
オクタンティス王国の王城では俺は死んだことになっているだろう。ダンジョン内の捜索は行っているだろうが、あそこには食い千切られた俺の左腕とカルロスの遺体が放置されている。
状況的に考えて、死亡したと判断するのが妥当だろう。
となると、今後俺を探そうと捜索隊が編成されることはない。
本来ならダンジョン探索が終わって王城へと戻る道すがらで行方を眩まそうと思っていたので予定とは大分違うが、結果的に俺は王城から脱出して自由の身となったわけだ。
当面の目的は、勇者である元クラスメイトたちを地球に送還する方法を探すことか。アイツらがこっちの世界に居たままだと、俺の精神衛生上に問題があるしな。それに佐々崎さんと約束したしな。『クラスメイト四十人を地球へ返す』っていう理想を守るって。
それまでは冒険者稼業で生計を立てて行く感じかな。
「とりあえず、どこかで拠点を構えて依頼を受けないとな」
今の所持金はほとんどないしな。
「でしたら、カルダヌスなんてどうですか?」
「カルダヌス? そこはどんな所なんだ?」
「フェアファクス皇国の東にある辺境都市で、海産物が特産です。近くには【シルワ大森林】があって、強力な魔物もいるので強くなるには持って来いの街ですね」
「海産物があるのか!?」
こちらの世界には一応冷蔵庫は存在するが、輸送となるとそう簡単なことじゃない。冷凍を維持するために術式の規模は大きくなってしまい、冷蔵庫の規格も比例して大きくなる。そのため、馬車で運ぶことができない。
だから内陸部であるオクタンティス王国では魚料理が食べられなかったのだ。
「それにカルダヌスでは珍しい食べ物が食べられるんですよ。確か……お米、でしたっけ。極東の島国ヤマトから輸入しているんですけど、それが食べられるんですよ」
「米!? 米だって!? 米があるのか!? マジで!?」
「は、はい。ありますけど……そんなにお米が食べたいんですか?」
「当たり前だ! こっちの世界に来てから一ヶ月近く! ずっっっっとパン食だったんだぞ!」
パン食が嫌いなわけじゃない。けれど一ヶ月以上も続けば飽きがくる。それに日本人ならやっぱり和食だ!
米があるなら絶対に食わねば!!
「ふふっ。分かりました。じゃあカルダヌスへ行きましょう」
その日、俺はセツナと共にカルダヌスへ向けて出発した。




