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異界渡りの英雄  作者: 暁凛太郎
第2章 裏切られた英雄編
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第28話 ダンジョン遠征、開始

 



  ◇◆◇




 翌日の早朝。


 俺――雨霧(あまぎり)阿頼耶(あらや)は訓練場に足を運んでいた。俺だけではない。クラスメイトたち全員が集まっている。とはいっても全員が一塊になっているのではなく、それぞれのグループごとに固まっている。


 今の俺の格好は、セツナが選んでくれた黒の上下の服(実は同じ物を複数購入している)に、腰には剣帯を巻いていて、ロングソードを吊るしている。後ろ腰には魔物を解体したりするのに使うナイフを装備している。


 セツナとダンジョンに潜った時にも着けていた基本装備一式だ。【虚空庫の指輪】の中身は確認済み。道具に不足はないが、少し多めに詰め込み過ぎたかな?


 俺が所有している【虚空庫の指輪】は二つ。一つは冒険者ギルド・アルカディアから支給されたもので、もう一つはオクタンティス王国側が用意したものだ。アルカディアの方には大量の武器を入れているが、王国側の方には回復薬(ポーション)なんかの道具類を重点に置いたものを入れている。


 俺が今装着しているのは王国側が用意したものの方だ。本当なら二つとも装着していたいんだが、二つも【虚空庫の指輪】を着けているところを見られでもしたら面倒だからな。仕方がないが、今回は一つだけ装備することにしよう。



『疑問。私を装備しないのも、それが理由ですか?』



 アルカディアの方の【虚空庫の指輪】に保管している神刀【極夜】から念話が響く。


 あぁ。俺がお前のような最高ランクの武器を持ってると、立川がまた変に絡んでくるからな。面倒事はできるだけ排除しておくに越したことはない。


『了解。亜空間内で待機します』



 まぁ、さすがに前回の時のように変に強い魔物が出てくることなんてないだろう。あの【規定外の階層主(イレギュラー・ボス)】だって、そうそう出る魔物じゃなかったんだしな。


 今の俺のレベルならダンジョンでも死ぬことはないだろう。むしろ、クラスメイトたちは俺のことを自分たちよりも弱いと思ってるから、ある程度手を抜かないとすぐに怪しまれる。


 昨夜の委員長との手合わせの時にはバレてしまったからな。とはいえ、委員長にバレたのは、彼女が手練れの剣士だからだろうから、他のクラスメイトたちに気付かれることはないだろう。ただ、随伴する騎士たちにはバレるかもしれないから、やはり注意は必要か。


 周囲を見渡す。


 少し離れた場所に、修司、委員長、姫川さん、北条のグループがいた。三人一組なのは同じだが、メンバーの性別や構成は少し異なっている。


 修司のグループは男子が二人で女子が一人。一人は生産職でもう一人は戦闘職だったな。二人とも剣を主軸に戦闘訓練を積んでいたから、前衛二人に後衛一人の編成か。前衛の二人に戦わせて、修司が後方支援する戦闘スタイルになるのかな。


 委員長のグループは女子が二人で男子が一人。二人とも生産職だったかな。戦闘訓練は魔術を主軸にしていたみたいだったから後衛か。委員長が前衛で戦って、二人がそれを支援する戦闘スタイルになるみたいだな。


 姫川さんのグループは女子が一人で男子が二人。二人は完全に戦闘職で、剣と銃で戦うタイプだ。姫川さんの持つ【勇者聖杯(ブレイブ・グレイル)】スキルを考慮するに、剣士のヤツが前衛で戦い、銃士のヤツが後方支援兼姫川さんの護衛といったところか。


 北条のグループは男子が一人で二人が女子。どちらも生産職で戦闘訓練も魔術を主に行っていたから、北条が前衛で他の二人が後方支援をするという編成になるだろう。



「北条君! 頑張ろうね!」


「しっかり支援するからね!」


「うん。僕も、ちゃんと守ってあげるから」


「「きゃー!」」



 ……何だかあそこだけ桃色の空間が広がっている。


 これから命のやり取りをするってことを、彼らは理解しているのか、していないのか。さすがに北条は分かっているとは思うんだが、痛い目を見そうだな。


 北条と委員長に生産職のクラスメイトを集中させているところを見ると、それなりに力のある者のところに割り振っているみたいだ。戦力を均一化しているという話だったし、当然の割り振りか。


 さらに視線を泳がすと、立川たちのグループが視界に入った。立川、工藤、藤堂、谷のいつもの四人組は【円卓の勇者】であるため、グループは別になっているが、横柄な態度は相変わらずだった。



「てめぇら生産職は役立たずなんだから俺の足を引っ張んじゃねぇぞ!」


「精々俺のために働きな!」


「気が向いたら守ってやるよ!」


「ったく、何で弱いヤツの面倒なんて見なきゃいけねぇんだよ!」



 四人がそれぞれのグループメンバーに怒声を放つ。メンバーたちは萎縮してしまったようで、顔を伏せて固まってしまっていた。


 何をしてるんだ、アイツらは。


 これからダンジョンに潜るっていうのに、初っ端から関係を悪くしてどうするんだ。いくら【魔窟の鍾乳洞】が初心者向けのダンジョンとはいえ、最高レベルは四十。ステータス値からするなら平均して七百台の魔物も生息している。


 今のクラスメイトたちのレベルは大体十ほどで、通常なら各ステータス値は百台なのだが、勇者であるために三百台になっている。普通よりも高いが、それでもまだ低い。いきなり最下層の階層主までは戦いに挑もうとはしないだろうが、それまでの道程にも彼らより強い魔物は沢山いる。


 だからこそ、複数人で連携を取って個人の力量を埋める必要性があるんだ。


 それなのに、ここでグループメンバーと不和を起こすなんて、下策というよりも愚行でしかない。



「はぁ」



 思わず溜め息が漏れる。


 あの四つのグループの先が思いやられる。今後行うであろう魔王討伐のための旅でも大変なことになりそうだ。


 まぁ、主に大変なのはまとめ役の委員長だろうけど。



「雨霧君」



 ふと、背後から名を呼ばれる。


 振り返ると、そこには腰に巻いた剣帯にレイピアを吊っている佐々崎(さささき)鏡花(きょうか)がいた。その後ろには同じグループメンバーである長瀬(ながせ)文乃(あやの)結城(ゆうき)(かける)もいた。


 眼鏡におさげ姿の長瀬さんは一メートルほどの長さの杖を両手で握り締めている。膝丈まであるスカートから伸びる足は内股で閉じられており、背中も丸まっていて、何だか怯えているようにも見える。


 髪をセミロングの長さまで伸ばしている結城の顔立ちは中性的で、身長も低く小柄だ。彼の腰にある剣帯には小振りの剣が吊るされているが、剣術は苦手らしい。自身がないのか分からないが、ずっと地面を見て顔を上げようとしない。


 ……俺、何かしたかな?

 怖がられるようなことをした覚えはないんだけど。


 それとも緊張してるのか?



「二人とも、今からそんなに緊張してると後がもたないわよ?」


「そ、そう、だよね」


「ご、ごめんね、佐々崎さん」



 佐々崎さんが優しく言うが、それでも二人は萎縮しているようだ。やはり、これから戦闘を行うから緊張しているようだ。


 よくよく考えれば、これが普通の反応なんだ。


 委員長の場合は夜月神明流で何度も格上の相手と手合わせしたことがあるからそれなりに度胸が付いている。だからダンジョンに潜る前になっても落ち着いているが、本来なら長瀬さんや結城のように緊張するものだ。



「どうしたものかしら。このままだと、ダンジョン探索に支障が出そうなのだけど」



 俺の隣に立った佐々崎さんがそっと耳打ちしてくる。


 彼女の懸念ももっともだが、俺はそんなに気にするようなことでもないと思っている。


 恐怖心というのは危険を知らせるためのシグナルだ。それを失くしてしまっては、早々に命を落とすことになるのだから。


 それに今回は戦闘に慣れることを目的としてるからな。今回の遠征で全く体が動かないってことになっても、それは予想の範囲内だ。



「そういう佐々崎さんは平気そうだな。初めて魔物と戦うっていうのに怖くないのか?」



 まぁ、この泰然自若とした彼女が怖くて震える場面なんて想像できないけど。



「そうね。訓練である程度の自信が付いたからかもしれないわ。それに騎士団の人たちも「そこら辺の魔物相手なら問題なく勝てる」って言っていたから」



 騎士お墨付きというわけか。それなら自信が付いていて当然なのかな。



「まぁそれでも何が起こるか分からないからな。備えておくに越したことはない」



 そう言って、俺は三人にある物を渡した。それは昨日、修司、委員長、姫川さんにと買ったついでに購入したタリスマンだ。



「これを、わざわざ私たちのために?」


「佐々崎さんのは『防御力の向上』。長瀬さんと結城のは『魔力の増幅』の効力を持ってる」



 ちなみに、姫川さんのは委員長と全く同じで『邪悪なものからの保護』の効力を持つタリスマン。修司には『常に北の方角が分かる』効力を持つタリスマンを渡している。



「この効力のタリスマンを選んだ理由を聞いても良いかしら?」


「佐々崎さんのようなレイピアを使う剣士は突きでの速度を重視した戦い方になる。そのせいで耐久が低くなってしまうらしい。だからそれを埋めるために選んだ。長瀬さんは完全に術師タイプだからな。魔力関係でサポートしてくれるものが良いって思った。結城は悩んだんだが、剣術よりも召喚獣で戦うタイプだから長瀬さんと同じ魔力関係でサポートするものを選んだんだ」


「よく考えているのね。じゃあ、ありがたく貰うわ」



 そう言って佐々崎さんはタリスマンを装着するが、他の二人は迷っているようで一向に身に着けようとしない。



「着けないのか?」


「えっと、その……本当に貰っても良いのかなって」


「これって、かなり、高いんじゃ……?」



 確かにタリスマンはそこそこ高い魔道具だけど、効力自体は珍しいものではないからタリスマンとしては普通の価格だ。気にするほどのものじゃない。



「ちょっとの出費だし、それだけで命の危機を回避できるなら安いものだ。それに、着けてくれないとせっかく買ったタリスマンが無駄になる。どうしても気になるって言うんなら、二人なりの方法でお返しをしてくれれば良い。方法は問わないから」



 肩を竦めながら言うと、二人は戸惑いながらもタリスマンを装着してくれた。


 さて、これでとりあえず、現時点で俺ができることはした。


 セツナの時はツーマンセルだったから魔物や罠の対応に四苦八苦したが、今回はフォーマンセルだからな。人手がある分、あの時よりは楽ができるだろう。



「……」



 そう。あの時より楽ができる。俺のレベルも上がって、ステータス値から考えてもそう容易く死ぬことはない。


 それなのに、先程から感じる不快な視線が俺に一抹の不安を抱かせる。


 誰だ? 誰が俺を見てるんだ?


 周囲を見渡すが、人数が多いせいで判別が付かない。それにうなじの辺りがチリチリする。これは一体何なんだ?


 疑問と不安を拭えないまま、護衛の騎士たちも全員集まり、俺たちは【魔窟の鍾乳洞】へと向かった。

次話は九月二十三日に更新する予定です。

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