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異界渡りの英雄  作者: 暁凛太郎
第5.5章 鴉たちの休日編
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第168話 その出会いは唐突に

筆のスピードを上げたい願望が募るこの頃。

仕事が忙しく思ったように書けず、読者の方々には本当に申し訳なく思いますm(_ _)m

今では月一の更新なのにも拘わらず、ブクマしてくださったり、高評価してくださったりと、大変ありがたく思います。

今後とも、よろしくお願い致します。

 アストラルにも運輸関係の仕事が存在する。


 商業ギルドに多数登録されているのだが、その中でも最も有名なのは『飛竜運輸』だ。


 魔物使いや召喚師のような魔物を使役する職業に就いている者が多く在籍しており、魔物を馬代わりにして輸送しているギルドだ。その名前からも分かる通り、飛竜(ワイバーン)を使った輸送を主軸にしている。


 飛竜(ワイバーン)を使役する能力を有する従魔師系統上級職である魔竜従魔師(ウィルム・テイマー)は数が少ないのだが、だからこそそんな貴重な職業に就いている者が所属しているということもあって有名なのだ。


 短距離なら馬での移動で充分なのだが、長距離だと時間がかかり過ぎるので、魔物を使った移動手段が一般的らしい。地球で言うところのトラックやバス、飛行機のようなものだ。


 余談だが、飛竜(ワイバーン)のような魔物の竜は魔竜(ウィルム)と呼ばれ、龍族(ドラゴン)とは明確な違いが存在する。人の言葉を話し、知性を有し、魔石を持たないのが龍族(ドラゴン)。人の言葉も話せず、獣並みの知性しか有せず、魔石を持っているのが魔竜(ウィルム)だ。クレハから聞いた話だと、人と猿ほどの違いがあるらしい。


 どうしてそんな話をしているのか。理由は簡単。目の前にその『飛竜運輸』所属の魔竜従魔師(ウィルム・テイマー)飛竜(ワイバーン)がいるからだ。


 約束までまだ少し時間はあるのだが、カルダヌスの西門の外にはすでに『飛竜運輸』の人らしき一行が待機していて、人ひとりが乗れるくらいの体躯を持つ四匹の飛竜(ワイバーン)とロープウェイに使われるような箱型のゴンドラがあった。


 このゴンドラには重量軽減の術式が刻まれており、それを飛竜(ワイバーン)が上部の四隅に付けられたワイヤーのようなもので吊って運ぶらしい。


 これなら数日は掛かる距離も数時間で済む。こんな便利なものがあるのに、どうして海を渡るのが普通の船だったり陸路だと馬だったりかというと、単純にコストの問題だ。


 先も言ったように魔竜従魔師(ウィルム・テイマー)は稀少だ。いや、魔竜従魔師(ウィルム・テイマー)に限らずあらゆる系統の中級職以上の職業に就いている者は数が少ない。だからその分、人件費の問題で馬鹿みたいに高額になってしまう。


 使用できるのはAランク上位以上の冒険者や第一級魔術師、大商人のような富裕層だろう。それ故に移動手段は馬車や船が主流なのだ。


 その飛竜(ワイバーン)たちの足元には防寒着にゴーグルを首から下げた、まるで昔の日本の戦闘機パイロットに似た格好をした男女が四人いた。彼らが今回、空路移動を担当する『飛竜運輸』所属のパーティ『クアッド・スカイ』か。


 四人の内の一人は、すでに来ていたヴァイオレット嬢と何やら話をしている。おそらく航路の確認でもしているのだろう。


 俺たちが来たことに気付いたようで、『クアッド・スカイ』の残り三人とヴァイオレット嬢の専属侍女であるマリーさんが会釈をしてきた。……のだが、どういうわけかここにいるのが不思議な人物が一人紛れていた。



「何でエストまでいるんだ?」



 ヴァイオレット嬢とマリーさんと一緒にいたのは、セミショートの栗毛と青い瞳が特徴的な、キャスケットを被った少女――エストだった。


 カルダヌスに拠点を構える皇室御用達の情報屋で、セツナとセツナの母親とは旧知の仲でもある人物だ。見た目は俺と変わらない年齢に見えるけどセツナの母親とも交流があったらしいから長命種なのではないかと俺は思っている。



「お久しぶッス、阿頼耶さん。いや~、実はジブンも野暮用でスルピキウス公爵領に行かなきゃならなかったんス。で、ちょうどヴァイオレット嬢が行くってんで、相席させてもらったんスよ」



 ニシシ、と悪戯っ子のような笑みを浮かべるエストの言葉に納得する。



「ところで阿頼耶さん」


「ん?」


「心なしか、何だか疲れてないッスか?」


「……」



 いろいろあったんだよ、昨晩。

 一線を越えないための熾烈な争いが。


 にしても、エストもスルピキウス公爵領に行くのか。野暮用と言っているが、情報屋らしく情報収集にでも行くのだろうか?


 何だかんだでエストって謎の女だよな。付き合いの長いセツナでさえ、実年齢と種族を知らないんだから。


 どうして知らないのか以前セツナ本人に聞いたら、



『だって、知らなくても不都合なんてなかったですし』



 と答えていた。まぁたしかに、実年齢と種族を知らないと困るような場面ってそうはないよな。


 エストのことは疑問に思うが、かといって不躾に聞く真似はしない。この多種族国家で自分の種族を明かしていないってことは、明かせない理由があるってことだろうし。


 セツナの言ったように、知らなくても問題ないことなのだから、きっとこのままでも良いのだろう。


 思案しているうちに準備は整い、ゴンドラに乗り込んだ俺たちはスルピキウス公爵領へと向かった。








 飛竜(ワイバーン)による輸送は思ったよりも快適だった。四匹でゴンドラを吊っている状態だというのに傾くことも不安になるような揺れ方もしない。これはつまり四匹が同じ高さ・速度を保って飛んでいるということで、それだけで『クアッド・スカイ』の四人と四匹の連携の高さが分かる。


 さすが運輸系トップクラスの商業ギルドに所属するパーティといったところか。



「ヤマトに行った時はクレハの背中に乗ったけど……これはこれでまた違った良さがあるな」



 クレハの時は猛スピードでの飛行に海を渡る関係上、景色を楽しむ暇はなかった。だが飛竜(ワイバーン)だと彼女より飛行速度は遅くなり、ゴンドラの窓から景色を楽しむことができる。



「あら嫌ですわ、兄上様。わたくしの体では満足頂けませんでしたか?」


「誰もそんなこと言ってないよな!? 何でそう誤解を生むような言い方をするわけ!?」



 まったく『嘘は言っていない』のだから恐ろしい。起きた事実だけを並べれば真実なんてこうも簡単に歪められるものなのかっ!



「ま、まさか阿頼耶君はクレハさんとそういう関係で……」


「いや~、人畜無害そうな顔をしてて、実はやることはやってたんスねぇ」



 ほらぁ! 頬に手を当てながら(しな)を作ってそんなことを言うからヴァイオレット嬢とエストが別の意味で解釈したじゃないか!


 誤解を解くべく口を開こうとした時だった。俺、クレハ、ミオの三人は同時に進行方向へ視線を向けた。



「どうしたの、三人とも?」



 突然の反応に異常を感じ取ったのか、ヴァイオレット嬢が遠慮がちに聞いてくる。



「【気配察知】スキルに反応があった」


「進行方向に魔物がいますわね」


「……まだ距離は、ある。数は、結構いる」



 護衛ということもあって、俺たちは話しながらでも各自で周囲を警戒していた。そのおかげで逸早く気付けたわけだ。


 俺はゴンドラの窓を開けて身を乗り出し、遠方にいる魔物の姿を確認しようとするが……今の状態のままだと見えないな。とはいえ、問題はない。



「(――【龍化】、三〇%。【人化】、七〇%)」



 ボソッとヴァイオレット嬢たちに聞こえないように呟き、龍の割合を高めて視力を強化すれば、人の視力では見えない距離でも一目瞭然だ。大鷲の頭に翼、獅子の体を持つあの魔物は、



「グリフォンか」



 地球でも古くから多くのフィクションに登場する伝説の生物として名高い怪物だ。このアストラルではAランク指定の魔物として認知されている。数は……三〇頭くらいいるな。


 にしても、何だか様子がおかしいな。どこかに移動するわけでもなく、一ヶ所で旋回している。一体何をしているんだ?


 浮かび上がった疑問の答えを出したのは、反対側の窓から同じようにグリフォンの姿を確認しているクレハだ。彼女は少し焦燥を滲ませた声で言う。



「いけません、誰か襲われていますわっ」


「何だって!?」



 ギョッとして【気配察知】と【魔力感知】のスキルを最大にすれば、彼女の言う通り、グリフォンたちが旋回している場所のすぐ下に人の反応があった。


 誰が襲われているのか知らないが、Aランクの魔物に集団で襲われるなんて、ただじゃ済まない。すぐさま助けにいかないと向こうに犠牲者が出る。


 だが、今はヴァイオレット嬢の護衛として随伴しているので、勝手な行動はできない。雇い主の許可が必要になる。ヴァイオレット嬢に視線を向ければ、彼女はこう言った。



「行って、阿頼耶君」


「良いのか?」


「グリフォンを放っておいたらこっちが被害に遭うかもしれないもの」



 どの道対処しなければならないなら、速く助けに入るべきだ。ヴァイオレット嬢はそう言ってくれた。



「ありがとう」



 俺たちは即座に行動に移る。


 安全のために施錠された鍵を開錠して扉を開け放ち、俺たちは順にゴンドラの屋根の端に手を掛けて、振り子のように体を振って屋根の上に移動した。


 クレハはそのままゴンドラの上を陣取ってもしもの時に備えて待機。俺は【獣化】スキルで子猫状態になったミオが上着のフードの中に入ったのを確認し、初級の無属性魔術【魔力障壁(マナ・シールド)】を発動する。目の前に魔力でできた円形の楯が上向きに展開され、それを足場にして一気に戦場へと向かった。


 途中で何度か追加で【魔力障壁(マナ・シールド)】を展開しつつ戦場に辿り着けば、三〇頭のグリフォンは馬車を護衛する鎧の一団と戦っていた。


 騎士のようだけど、フェアファクス皇国の護国騎士団……じゃないな、以前見た第八部隊の鎧とは意匠が違う。どこかの貴族の私兵か?


 疑問が浮かぶが、駄目だ。悠長に考えている場合じゃない! 騎士たちによる防御網を抜けた一体のグリフォンが、車椅子に座るドレス姿の少女に襲い掛かろうとしている!!


 俺はフードの中からミオの首根っこを掴んで上空へと放り投げると、瞬時にグリフォンとドレスの少女の間に割って入る。


 グリフォンはAランク冒険者がパーティを組んで倒すような相手なので、普通ならこの一撃で死んだだろうが、俺には龍族(ドラゴン)としての力がある。神刀『極夜』を腰から抜き、龍の馬鹿げた膂力で難無く受け止めた。


 グッと力を込めて振り上げるとグリフォンの前足が弾かれるようにして後ろに逸れ、体勢が崩れて防御も回避もできない状態になると、上空から降った、落雷のような斬撃がグリフォンの背中を深く斬った。【獣化】を解除したミオが魔剣『モラルタ』と『ベガルタ』にケラウノスの雷撃を纏わせた技――【紫電清霜(しでんせいそう)】で斬り伏せたのだ。


 突然の援軍に、騎士たちとグリフォンたち双方に動揺が走って全員が俺とミオを驚愕の目で見ていた。



「助力します。――【魔力障壁(マナ・シールド)】」



 騎士たちに向かって言うや否や、俺は魔術名を口にして周囲に【魔力障壁(マナ・シールド)】を二〇ほど作る。俺とミオはほぼ同時に動いた。



「――【速力強化(アクセル)】」


「――【迅雷(じんらい)】」



 それぞれで速度を強化し、【魔力障壁(マナ・シールド)】を足場にして縦横無尽に飛び回ってグリフォンたちを倒していく。


 セツナなら俺やミオの動きを読んで先回りして【魔力障壁(マナ・シールド)】を随時展開することができるけど、俺はそこまで器用じゃないからな。展開時にあらかじめ場所を設定しておく方がやりやすい。


 比較的に危ない状況になっている騎士たちを重点的にアシストして対処していけば、あっという間に残りは一〇頭ほどになった。ここまでくればさすがに不利を悟ったのだろう。


 グオオ! と他より一回り体が大きく威圧感もある、群れのボスらしき一体が(いなな)くと、仲間を引き連れて彼方へと飛び去って行った。


 訪れる静寂に、場の緊張が緩む。一つ息を吐いて極夜を鞘に収めた俺は傍にいるミオと共に後ろを振り返った。数十人の騎士に、先ほど庇ったドレスの少女がいて、一様に困惑した顔をしている。


 一つにまとめて前に垂らす、長く伸ばした青みのある黒髪と青い瞳。深窓の令嬢といった雰囲気を出す少女はストールを羽織って車椅子に座り、メイド服を着た等身大の人形に押させていた。


 庇った時には意識していなかった少女の姿を改めて見て、俺は思わず目を剥く。同時に、出立前にしたセツナとの会話を思い出す。



『え? エクレストン公爵令嬢の特徴ですか? 目は青色で、長く伸ばした青みのある黒髪をいつも一つにまとめて前に垂らしていましたね。あと、魔術が得意で、中でも魔力を糸状にして人形を操る技術は学園内でもずば抜けていました。それと、生まれつき足が悪いから車椅子で生活しているんです。それが原因でまともに婚約もできなくて、公爵家では肩身の狭い思いをしていたみたいです。……だから先輩、もし会ったら優しく接してあげてくださいね? 彼女も、私の大切な友達なんです』



 目の前の少女はまさしく、セツナが語っていたエクレストン公爵令嬢――エリノア・エセル・エクレストンの特徴と一致していた。

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