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異界渡りの英雄  作者: 暁凛太郎
第1章 名も無き英雄編
18/214

第18話 想い誓いて、剣を取る

 骸骨兵(スケルトン・ソルジャー)どもとの戦闘が始まってから、どれ程の時間が経っただろう。

 一時間は経っているだろうか?

 大量の骸骨兵に囲まるという、死を覚悟してしまう局面に、もう時間の感覚なんてものはなくなっていた。



「はぁっ!」



 鼓舞を上げ、目の前の骸骨兵を斜め上に斬り上げた後、勢いを殺さず返す刀で横薙ぎに払う。骸骨兵は防ぐことができず、そのまま胴体を二分された。スケルトンは頭を吹き飛ばしたくらいでは倒せない。こうやって、動けなくなるまでバラバラにする必要がある。


 背後ではセツナの魔術による攻撃や銃声などの衝撃が伝わってくる。

 だがさすがにもう中級を唱えることは難しいようで、初級魔術を連発していた。


 彼女が後ろに下がってきたことで、トンッと背中同士が軽くぶつかる。



「はぁ……はぁ……はぁ……せん、ぱい……大丈夫、ですか?」



 息が荒い。心身ともに披露して、かなり参っているみたいだ。



「どうにかな。回復薬(ポーション)魔力回復薬(マナ・ポーション)はどれだけ残ってる? 俺の手持ちは、もう回復薬一つしかない」


「さっき魔力回復薬を飲んだので、もうどっちも残っていません」


「そうか。どうにかしないと、な!」



 クルリとセツナを軸にして振り返り、迫っていた骸骨兵を一刀両断する。彼女も同様に回転し、俺の背後に来ていた一体を撃ち抜いた。セツナの肩に手を置いて跳び、大きく遠心力をかけて彼女の正面にいた二体を屠る。地面に着地してそのまま踏み込み、剣を振るったが、そこで楯を持った一体に防がれた。


 楯に剣が触れた瞬間、バキンと音を立てて剣が粉々に砕け散ってしまった。武器が砕けるのはこれが初めてではない。骸骨兵の持っている武器を防いだり、防具に攻撃をしたら悉く破壊されたのだ。その原因はすぐに分かった。ヤツらの持っている武器防具は全て銀灰色を帯びている。アレはミスリルという鉱石を使った武器の特徴だ。


 ファンタジー鉱石の代表格とも言えるミスリルは鉄より軽く、堅く、錆びにくい。加えて魔力との親和性も高く、魔力増幅機能も有しており、発動体として重宝される代物だ。エルダーリッチはこれを骸骨兵全てに装備させ、強化している。


 こんな物にただの剣をぶつけた所で、強度差の問題で壊れるのが当然。そのせいで俺の手持ちの武器は、さっき折れたのでロングソードが二本、槍が一つにまで減らされたのだ。


 剣が砕けたところで、骸骨兵が楯で攻撃しようと振りかぶるが、そこですかさずセツナがその骸骨兵の頭に魔弾を叩き込み、同時に火属性魔術で焼いて倒す。そのままセツナは更に魔弾を撃ち、奥にいた骸骨兵も次々と倒していく。


 はて?と心の中でセツナの行動に首を傾げる。


 この包囲網の中、俺と同じ個所を攻撃している?

 さっきまで俺の後ろの敵を倒していたのに、どうして俺と同じ方向の敵を?


 不自然な彼女の動きに疑問を抱いて周囲を改めて確認してみると、なるほど、彼女の狙いが理解できた。


 ここからでは分かりにくいが、俺たちの進行方向にはエルダーリッチがいる。セツナは、一点突破してエルダーリッチに近付き、これを倒そうと考えているのだ。


 エルダーリッチが使うこの【骸骨兵(スケルトン・ソルジャー)】という魔術は、召喚時の魔力消費だけで済む召喚魔術とは違って常に魔力を供給しなければならない。この骸骨兵を呼び出しているのはエルダーリッチだ。供給されている魔力源は言うまでもなくエルダーリッチなので、ヤツを倒せば魔力供給はストップし、自然とコイツらも消えるというわけだ。


 しかも、魔力供給の間は然程動くことができない。狙うなら今なのだ。

 アイコンタクトを交わして頷き合い、俺たちは行動に出た。


 俺は【虚空庫の指輪】から槍を取り出し、残りの魔力の半分を使用して、繊細に、槍の芯に魔力を流す。仄かに紫色の光を灯す槍を、力の限り投擲した。手近にいた骸骨兵たちを貫いていった。


 続いてセツナは魔法陣を展開し、そこから勢い良く水が放たれる。高圧水流の術式だ。術式名は【流水(アクア)】だったか。いつぞや、立川が仕掛けてきた時に谷が俺の脇腹をぶち抜いたものと同じ魔術だが、彼女のは貫通力を上げずに水流を太くして当たる面積を増やしている。


 アレならより多くの骸骨兵に当たり、威力もあるので確実にバラバラになる。


 案の定、セツナの放水によって骸骨兵の数体が倒された。魔術発動後のインターバルに入ったセツナがその隙を埋めるためにいつものように魔弾を放とうとするが、その前に彼女の前に出ることで中断させ、俺は【虚空庫の指輪】から残り二本となった剣を取り出し、再度【五月雨月】を使って骸骨兵に斬りかかる。


 チッ。

 ミスリル製の武具じゃなかったら遠慮なく振り回せるんだがな。

 下手にぶつければこちらの剣が折れてしまう。神経を研ぎ澄ませ、用心して振るわなければ。


 【魔力流し】を使えば幾分かマシだろうが、魔術と呼べる代物ではないとはいえ【魔力流し】はある程度の集中が必要となる。俺の魔力量と魔力操作技術では、常に動いて攻撃を続けていく【五月雨月】と【魔力流し】の併用なんてできない。ましてや、ミスリル製の武具に当てないよう気を付けながらの現状なら尚更だ。


 【五月雨月】を使いながら骸骨兵を倒していき、後ろからセツナが援護射撃してくる。斬り伏せ、撃ち抜き、そうして後少しでエルダーリッチに届くという所まで迫ると、エルダーリッチの声が聞こえてきた。



「一点突破を考えるのは自明の理。なればこそ、こちらもその対策をしていることを考慮すべきであったな」



 エルダーリッチが手を振ると骸骨兵の二体が一列になって俺の前に出た。構わず振り下ろしたが、二体分ともなると両断は容易ではなかった。骸骨兵の体を半分ほど斬った所で勢いが殺される。引き抜こうとするが思ったよりも食い込んでいるらしく、すぐには抜けなかった。


 軽く舌打ちをし、真横から跳びかかって来た骸骨兵を斬り払い、剣を止めた骸骨兵たちを蹴り飛ばして剣を抜く。すぐさま攻撃に転じようとしたが、視界の端にエルダーリッチが何かをしようとしているのが見えた。そしてそれを守るように骸骨兵たちは武器を構えて待機している。


 アレは、魔法陣か?


 先程とは微妙に模様が異なるが、おそらく召喚魔法陣だ。


 まさか、また骸骨兵を呼び出すつもりかっ!?

 これ以上増やされたら堪ったもんじゃないっ!!



「させるかぁぁ!!」



 左の剣に【魔力流し】を使ってエルダーリッチに投擲したが、数体の骸骨兵が楯になってそれを防ぐ。セツナの方も俺と同じ考えに至ったようで、魔弾を連射したがその悉くを大量の骸骨兵によって邪魔をされた。


 召喚魔法陣が光を放つ。そこから現れたのはやはりアンデッド系の魔物であったが、周囲に展開する骸骨兵たちとは姿形が異なっていた。体は骸骨だが大きさは一回り大きい。装備は甲冑に楯と剣という、まるで騎士のような様相だ。その威圧感は骸骨兵などとは比べ物にならない。


 俯いていた顔が上がる。怪しく光る眼を見た瞬間、俺の背中に言い知れぬ寒気が走った。


 これは、殺気?



「セツナ! 下が……」



 良くないことが起こる。そう思ってセツナに「下がれ」と言おうとした時、認識できないほどの速度で目の前に骸骨騎士が移動していた。意識を逸らしていたわけじゃない。集中が途切れたわけじゃない。全力で警戒していたにも関わらず、その知覚を超えられてしまった。超えられてしまったが故に、その事実に気付くのが遅れた。


 ヤツの持つ剣で、俺の胸が刺し(・・・・・・)貫かれたことに(・・・・・・・)



「あ? ……あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!?」



 筋肉が、細胞が、血液が、一斉に沸騰したような激痛が走った。のた打ち回りたくなるような痛み。だが剣が刺さっているせいで身動きが取れない。



「その【骸骨騎士(スケルトン・ナイト)】に持たせている剣には【痛覚増幅】の術式が付与してある。倍率は三倍。さぞ痛かろう」



 エルダーリッチが何か言っているが、激痛が邪魔をして聞き取れない。もがき苦しむ俺を鬱陶しく思ったわけでもないだろうが、骸骨騎士は乱暴に剣を抜き、楯で薙ぎ払う。防御も何もできずに、バラバラになるんじゃないかと思うような衝撃を受けた俺の体は鮮血を撒き散らしながら何度も何度も地面をバウンドし、フィールドの壁に激突してようやく止まった。



「ぐ……うっ……」



 体が動かない。動かそうとする度にドクドクと大量の血が滝のように流れ出る。立川たちと戦った時もかなりの血が出ていたが、今回はあの時以上だ。そのせいか、激痛の他に物凄く寒い。そのクセ、刺された胸の傷は焼けるように熱い。


 カチャカチャと奇妙な音が聞こえる。骨がぶつかり、武器防具が擦れる音。顔を上げることができなかったので目線だけを動かすと、骸骨兵たちが俺の周囲に集まっていた。



「先輩!」



 セツナが俺を呼ぶ。


 彼女はどうにかこちらに来ようとしているようだが、骸骨兵たちに妨害をされて中々動けないようだ。骸骨騎士はセツナのことなど眼中にないようで、エルダーリッチの隣に侍っている。


 血はまだ流れ出ている。自分のHPを確認すると残りは四割ほどだったが、今も少しずつ減っていっている。血を流し過ぎると、HPも減っていくらしい。このまま放っておくと、出血多量で死んでしまうのは確実だ。急いで【虚空庫の指輪】から回復薬を取り出すが、ガッと骸骨兵に蹴られてビンが手から離れてしまった。



「しまっ……!」



 取り戻そうと手を伸ばすも、そこで骸骨兵の剣によって手を貫かれる。痛みに声を上げそうになるが、それを遮るように次から次へと剣を刺されていった。


 グサグサグサと何度も何度も執拗に俺の体へ剣が突き立てられる。その度に俺の口から声が漏れるが、骸骨兵がそんなことを気にするわけもない。複数人で寄って集って俺を攻撃する。


 HPがドンドン減っていき、もう残りが一割を切ってしまった。


 本気でマズい。本当に死んでしまう。


 そう自覚した時、遠くで爆発音と共に骸骨兵たちがコメディーのように吹き飛んだのが見えた。セツナだ。彼女が最大出力の魔弾を放って骸骨兵たちを攻撃したのだ。



「そこを……退けえええええッッッ!!!!」



 普段の温厚なセツナからは全く想像ができない、獣のような荒々しい怒声が響く。骸骨兵の武器で自分が傷付くことも厭わず、魔力の残量も考えることなく、全力で魔弾を放ち、魔術を行使し、ただがむしゃらになって敵を薙ぎ払っていく。


 いつの間にかマントを脱いでいたセツナは俺の周囲を囲んでいる骸骨兵たちに被せることで目隠しをし、そこから広範囲に広げた【流水(アクア)】で押し流した。それと入れ替わるように、彼女は俺の前に立って骸骨兵たちを牽制する。


 ……彼女はボロボロだった。


 彼女の体型は全体的にほっそりとしているのだが、外界に晒された眩い白の柔肌にはあちこちに剣による傷が出来ていた。皮鎧も所々裂かれ、そこから血が滲み出ている。ショートパンツから伸びる足は弱々しく震え、すでに限界を迎えていることが手に取るように分かる。


 彼女の華奢な体躯が、それを余計に痛々しく見せた。


 止せ、セツナ。



「ごっ……がふっ……っ!」



 クソ。

 喋ろうとする度に血が喉を逆流して上手く喋れない。


 あれだけ剣で刺されたんだ。肺も傷付いているだろうし、おそらく内臓も滅茶苦茶になっているだろう。今もまだ生きているのが不思議なくらいだ。


 血を吐きながらセツナの方へと視線を向ける。


 まるで俺を庇うように――いや、実際に庇っているんだろう。自分の呪いを解くためにここへ来たのに、誰かを助ける余裕なんてないはずなのに、それでも俺のことを守ろうとしてくれている。


 切り捨ててしまえば良いのに、どうして……そこまでしてくれるんだ?


 呪いを解く手助けをしているから?

 そんなわけがない。手助けをしてるからって、ほとんど赤の他人である俺を見捨てない理由にはならない。


 三日間、ダンジョンで生死を共にしたから?

 それも違うだろう。ある程度の信頼を結べているだろうけど、だからと言って骸骨兵の軍勢を全力で薙ぎ払ってまで必死に俺の所まで来て、自分だってとっくに限界を超えているのに庇おうとなんてするほどじゃないはずだ。


 俺は彼女に何もしてやれていない。それどころか、逆に彼女を泣かせてしまっている。


 それなのに、何でだ?

 何で彼女は、俺のことを守ろうとするんだ?

 どうして今にも骸骨兵に向かって行きそうな雰囲気を出しているんだ?



「ごめんなさい、先輩」



 ポツリと、後悔を滲ませた悲しげな声音でセツナは呟いた。



「私の事情に巻き込んじゃって。私の我が儘のせいでそこまでボロボロにしてしまって。ごめんなさい」



 何を……何を言ってるんだ、セツナ?



「でも、もう良いんです。私にかかった呪いのことは、もう良いんです」



 ……違うだろ。

 それは違うだろ!


 セツナの事情に巻き込んだ?

 首を突っ込んだの間違いだろ!


 ボロボロにしてしまった?

 俺が調子に乗って無茶したせいだろ!


 お前が気にすることなんて、諦める理由なんて、何一つないだろ!!



「充分です。先輩は充分頑張ってくれました。何度もボロボロになって、他人事なのに必死になってくれて、私は充分救われました。だから、もう、充分なんです」



 俺の方を振り返った彼女が浮かべたのは笑み。

 自らの命を諦めたような、そんな儚く淡い笑顔。



「残りの魔力全部使って、エルダーリッチに特攻を仕掛けます。残りは四分の三ですが、エルダーリッチを倒すくらいはできるはずです」



 確かにそれはできるかもしれない。

 けど、それじゃお前が死ぬことになるだろ!!


 セツナの残りの魔力は一割を切っている。


 そんな状態でエルダーリッチを倒すのに必要な魔力を無理に引き出そうとしたら、体がズタズタになって確実に死ぬぞ!?



「――っ! ぐっ!」



 今すぐ彼女を止めないと取り返しのつかないことになってしまう。

 そんな焦燥感に苛まれて必死に体を動かそうとするが、ピクリとも動きはしない。


 動け。

 動けよ!


 今ここで動かないで、何のためにここまで来たっていうんだ!


 悲劇を悲劇で終わらせるなっ!

 追い詰められた彼女に選択肢を与えろっ!


 救いたいんだろ!?

 助けたいんだろ!?

 勝たなきゃいけないんだ!

 絶対に負けられないんだ!


 だから!

 だから!!

 だから!!!




 だからもう一度戦わせろっっ!!!!




 誰に叫ぶわけでも何に願うわけでもなく、ただただ心の中で吠えた瞬間、パキィィィィィィン!!!!と甲高い音を立て、目の前で光が弾けた。



「な、なに!?」



 驚愕の声を漏らしたのはセツナだった。骸骨兵に睨みを利かせていた彼女はこちらを向いて目を丸くし、魔法銃を持った手も下ろしている。意思なんてものはないはずなのに、骸骨兵たちも警戒しているかのように動きを止めていた。


 光が弾けたそこにあったのは、一振りの漆黒の刀。【女神アレクシア】と【聖書の神】が俺に与えた、神刀【極夜】だ。


 どうしてこのタイミングで【極夜】が?


 疑問に思う俺を無視して、一気に情報が頭の中に流れ込んできた。



 ――【召喚魔術】スキルを獲得しました。

 ――神刀【極夜】の召喚を確認しました。

 ――神刀【極夜】の召喚に伴い、神刀【極夜】の【不壊属性】が有効化されました。

 ――神刀【極夜】の召喚に伴い、神刀【極夜】の【共鳴成長】が有効化されました。

 ――神刀【極夜】の召喚に伴い、神刀【極夜】の【波動解放】が有効化されました。

 ――条件を満たしていないため、神刀【極夜】の【××××】の有効化に失敗しました。

 ――条件を満たしていないため、神刀【極夜】の【×××】の有効化に失敗しました。

 ――神刀【極夜】の召喚に伴い、【ステータスロック】が無効化されました。

 ――【ステータスロック】の無効化に伴い、【ステータスロック】が消失しました。

 ――【ステータスロック】の無効化に伴い、ステータスの制限が解除されました。

 ――制限の解除に伴い、レベルが上昇しました。

 ――制限の解除に伴い、【火属性魔術】スキルが解放されました。

 ――制限の解除に伴い、【水属性魔術】スキルが解放されました。

 ――制限の解除に伴い、【風属性魔術】スキルが解放されました。

 ――制限の解除に伴い、【土属性魔術】スキルが解放されました。

 ――制限の解除に伴い、【闇属性魔術】スキルが解放されました。

 ――制限の解除に伴い、【気配察知】スキルが解放されました。

 ――制限の解除に伴い、【魔力感知】スキルが解放されました。

 ――制限の解除に…………



 鬱陶しいくらいに次から次へとアレクシアの声が響くが……そんなことよりも、不思議なことに俺の体が問題なく動いていた。


 どうしてかは分からないが……願ったり叶ったりだ。これならまだ戦える。


 【極夜】を掴んでスラッとなだらかな鞘滑りで鞘から抜くと、初めて見た時と同じ、鏡のように磨かれた漆黒の刀身が光を反射する。手にした感触としては、驚くほど手に馴染む。まるで何年も使い込んだような馴染み方だ。俺の魂を基にしているという話だったから、それが影響しているのだろうか。


 俺は改めて前方を見据える。



 状況は何も変わっていない。


 変わらず俺たちの周りには骸骨兵たちが壁のように立ちはだかっていて。

 奥には俺に致命傷を与えた凶悪な骸骨騎士が控えていて。

 HPを減らしたとはいえエルダーリッチはまだ健在である。


 強大な敵を前に全く恐怖心を抱いていないわけじゃないけれど。

 多勢に無勢のこの状況を打破し、エルダーリッチを仕留める具体的な作戦なんてないけれど。


 勝算を考える段階は疾うに過ぎたんだ。


 勝たなきゃいけない。

 負けられない。


 助けたいと思った。

 救うと決めた。


 だから湧き上がる恐怖心を飼い慣らせ。

 歯を食い縛ってもう一度戦え。


 理不尽に晒された少女を絶望の淵から救い上げるために。

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