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異界渡りの英雄  作者: 暁凛太郎
第5章 東方魔境の悪鬼編
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第137話 予期されなかったエンカウント

 ゲノム・サイエンスの本拠地と実験施設は帝都から小高い山を挟んだ向こう側にある。


 こういった実験施設は、万が一実験が失敗したら周囲に被害が及んでしまう可能性があるため、人が密集する都市部からは離れた場所に建設するのが常だからだ。


 ゲノム・サイエンスの本拠地は人の背丈を軽く越すくらいの高さがある塀に囲まれている。概算だが、広さは一平方キロメートルほど。建物の高さは一番高いもので五階建てだ。だが地上の建物に関しては無視して良い。あれは対外的に誤魔化すためのフェイクなので、本命は地下に広がる施設の方だ。



「正面ゲートには武装した見張りの警備兵が二人いるな」


「ですね。それで、先輩。騒ぎを起こすって言っていましたけどどうするんですか? 塀でもぶち破りますか?」


「それはそれで度肝を抜けそうだな」



 たしかにあれくらいの塀なら壊すのは簡単だけど、正面から壊せばその時点で見付かってしまう。実験体一〇〇名を救出しないといけないからな。派手にやりつつも隠密行動が必要にあるから、別の方法を使う。



「門から一番近い建物は……魔石を保管している倉庫だったか?」



 本拠地の見取り図を頭の中で思い出しながら椎奈に問うと彼女は頷いて肯定した。



「魔力炉を動かすための燃料として……魔石が、いっぱいある、よ」



 一般家庭では魔石をエネルギー源に使うが、魔力量に自身のある人は自前の魔力を使うかのどちらかで照明やコンロなどの魔道具を動かす。


 だからこちらの世界には電力会社のようなものは存在しないわけなのだが、大掛かりな施設だと規模や出力の観点から一般家庭のようにはいかない。


 一つ一つ魔石を取り替えたり、魔力を込めたりするなんて非効率で手間がかかり過ぎるので、一つの装置から大量の魔力を生み出してそれを施設全体に行き渡らせる方式を取っている。


 それが魔力炉だ。


 詳しい仕組みは知らないが、魔石を炉にくべることで魔力を増幅させて、大量の魔力を生み出すらしい。そういう意味では、炉というよりは増幅器という方が正しいのかもしれない。


 魔道具や魔力炉に使用される魔石は、魔物から取り出したり魔力濃度の高い場所から採掘したものをそのまま使っているわけではなく、それ用に加工されている。つまり原石の魔石よりもさらにエネルギーを取り出しやすくなった燃料と同義だ。


 しかし燃料とは言っても魔石をただ割ったくらいでは爆発なんてしない。圧縮された魔力なら入れ物が壊れた瞬間に拡散するようにして爆発するが、魔石程度であれば爆発する心配は皆無だ。


 さてどうしようかな、と考えているとミオがクンクンと鼻を鳴らした。



「……火薬の臭いがする」



 小鳥が囁くような声でミオは言った。


 獣人族(シアンスロープ)は動物の特徴をその身に宿す種族であるため、身体能力が高く五感も鋭い。人猫種(ウェア・キャット)である彼女は人犬種(ウェア・ドッグ)人狼種(ウェア・ウルフ)ほどではないが嗅覚と聴覚も優れているので、いち早く火薬の臭いに気付いたのだろう。



「どこからだ?」


「……向こう」



 魔石貯蔵倉庫がある方か。

 椎奈の見取り図によれば、たしか他にあったのは武器庫だったはず。



「なら、あそこに魔術を一発ぶち込もう」



 火薬の臭いがしたということは、魔法剣や魔法槍なんかの他に魔法銃があって、尚且つ『魔弾の薬莢』以外に火薬を使った実弾も置いてあるということだ。


 そこに攻撃魔術を一発撃ち込めば大爆発間違いなしだ。



「どうしてあんな所に武器庫なんてあるんでしょう?」


「隠蔽している自前の戦力のためのものだろうな。併設しているってことは、公式には二つ目の魔石貯蔵倉庫ってことにして偽造しているんじゃないか?」



 となると、尚のことあの武器庫を狙うのが都合良いな。


 事前に提出したであろう警備マニュアルに記載した数以上の武器が見付かったら言い訳ができなくなるので、あの倉庫を爆破すればゲノム・サイエンスは躍起になって火消しをするに違いない。



「それなら今すぐにでもできますね。何なら私がやりましょうか?」



 セツナが手のひらに魔法陣を浮かび上がらせる。


 術式を見る限り、初級火属性攻撃魔術の【火球(フレイム・スフィア)】だな。武器庫にある火薬に引火させれば良いだけだから充分だが、俺は手で制して首を横に振った。


「まだ陽が出ている。やるなら夜の闇に乗じた方がこっちに有利だ。それに、潜入と脱出のルート構築をする必要があるから、もう少し作戦を詰めたい。一度帝都に戻ろう」


「やることは大胆なわりに意外と慎重なのですね、ご主人様は」



 何せ今回は椎奈も合わせて一〇〇名のホムンクルスをあの施設から無事に連れ出さないといけないからな。嫌でも慎重になるさ。


 踵を返してその場を立ち去ることにした。


 帰り道は来た時と同じく、小高い山にある切り拓かれた山道を通る。山中の道なので街道よりも魔物は出やすいが、人の通る道は冒険者や騎士団もしくは兵士(ヤマトの場合は御剣衆か)が定期的に間引いているので、然程危険性はない。


 まぁ、全く危険はないとは言えないが。


 その山道に入ってすぐだった。突然、ミオが山の奥の方に視線を向けて立ち止まったのだ。



「どうした、ミオ?」


「……人の足跡」



 しゃがみ込んで彼女は一点を指差して答えた。

 彼女の言うようにそこには無数の足跡があり、山道から逸れて山の奥へと続いていた。



「冒険者の足跡じゃないのか? 魔物を狩るためなら山の奥に行くこともあるだろ?」



 しかしミオは首を横に振った。



「……冒険者なら、装備の重さでもう少し深い足跡になる。でも、そうなっているのは、一〇種類のうち一つだけ。大きくてかなり深いから、これは重装備。残りは浅い。たぶん、魔術師」



 山の奥に入った人は一〇人。しかもその構成が重装備の(おそらく)戦士が一人に、魔術師が九人だって? 何だか妙な組み合わせだな。



「……しかもこれ、まだ新しい」


「つまり、この奥にその妙な一行がいるってことか?」



 ミオは頷いて肯定する。


 ますます妙だな。今、帝都では即位式が行われている。帝都中がお祭り騒ぎだっていうのに、わざわざ外に出ている物好きなんてそうはいない。


 まぁ、日銭を稼ぐだけ精一杯っていうレベルの冒険者なら祭り返上で仕事に勤しんでいるっていうのもあり得るから、必ずしも怪しいってわけじゃないけど。


 でも、



「少し気になりますね」


「だな。……確認だけしてみるか」



 セツナの言葉に頷き、俺たちは山の奥へと足を踏み入れた。




  ◇◆◇




 阿頼耶たちが踏み入れた小高い山の奥。そこには一つの集団がいた。大半が魔術師のローブに身を包み、フードを目深に被ることで個人を特定しにくくしていて、見るからに怪しい。



「全員揃っているな?」



 集団の中心人物らしき者が確認する。声からして男性のようだ。



「はい。滞りなく」


「よろしい。では今回の任務について復唱しろ」



 中心人物の男性が部下の一人に指示を出す。


 これは任務前にはいつもやっていることで、認識の齟齬をなくすための意識統一を図っているという話だったが、この上司以外の全員は単に自分がイニシアチブを取りたいだけだということを知っていた。


 尊敬なんてしていないが、今のところ大きな失敗をしていないので従っているだけである。



「我々ゲノム・サイエンスの素材収集部隊は現在、実験の触媒となる伝説級以上の魔道具を集めています。今回の標的は(すめらぎ)の実の娘である桜小路(さくらこうじ)陽輪(ひのわ)。彼女が継承する『三種の神器』の奪取が任務となります」



 ヤマトの君主である皇には一つ、大きな特徴がある。


 それは『三種の神器』として名高い神話級の魔道具、『天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)』、『八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)』、『八咫鏡(やたのかがみ)』を代々継承しているということ。


 本来、伝説級や神話級の魔道具のような『意思を持つ武器(インテリジェント・ウェポン)』は、それに応じた適性スキルを持つ者が武器側に認められることで所持できるようになるのだが、皇位継承の証ということもあって『三種の神器』は世襲で受け継がれている。


 つまり、『三種の神器』に適性を持つ桜小路家の者が次の皇になれる、ということだ。


 ただ、神話級の魔道具の力を全て引き出せるのは神族(ディヴァイン)くらいなものなので、必要な適性スキルも【神剣適性】ではなくランクが一つ落ちる【聖剣適性】などの適性スキルだ。


 なので、使える力はかなり減衰したものになる。



「うむ。姫という立場上、桜小路陽輪は滅多に表舞台に現れないからな。今回の即位式は絶好の機会というわけだ」


「即位式にはヤン獣王国とジャウハラ連邦王国の重鎮も出席しています。護衛も確認しています」


「当然だな。即位式で警備に当たっている戦力は?」


「ヤマトの御剣衆(みつるぎしゅう)の精鋭である『天下五剣』の他、ヤン獣王国で国王に匹敵する権限を有する『付与の巫女姫』(ヤン)梨花(リファ)が率いる『六煌刃(りくこうじん)』、ジャウハラ連邦王国で最強の大槌使いと称されるナディア・ムフタールが率いる戦闘部隊『モルタザカ』です」



 どれも冒険者でいうところのAランク相当、つまり達人の領域にいる実力者ばかりだ。


 その武勇は彼らも知っている。中でも御剣衆の『天下五剣』とモルタザカのナディア・ムフタールは、それぞれ天下五剣と呼ばれる伝説級の名刀と神話級の聖鎚『ミョルニル』を所持していることでも有名だ。



「御剣衆の天下五剣持ちが五人、ジャウハラ連邦王国の『ミョルニル』の使い手か。触媒としては申し分ないが……」


「さすがにそちらにまで手を付けるのは得策ではないかと」


「うむ。下手に色気を出して本来の目的を果たせないようでは本末転倒だな」



 部下の言葉に満足したように頷いた男は視線を動かす。



「お前にも働いてもらうぞ、テオドール・クロイツァー」



 視線を向けた先にいたのは、重厚な西洋の騎士鎧を着た男だった。


 身の丈ほどもある両刃の大剣を右肩の後ろにある突起に引っ掛けるようにして吊り下げ、さらに背中には頑丈そうな大楯もある。身長も二メートル前後で、見るからに防御力が高そうな出で立ちだ。


 この集団の中で一際異彩を放つその騎士は、フルフェイスの兜の奥から渋みのある声で言う。



「ふん。言われずとも分かっておる」


「何だ、不満か?」


「いいや」



 否定の言葉を述べるが、それが本心でないことは口調から丸分かりだった。



「貴様らが即位式に乗り込み、目標を奪取。儂は追跡してくる追っ手をここで相手するという手筈であろう? 心配せずとも、仕事はこなす」



 一見、どこも不審な点はないように見えるが、十中八九追っ手は三大国でそれぞれ最強とされる一団だ。そんな者たちを一人で足止めなど、自殺行為に等しい。彼のレベルは二〇〇後半だが、相手はレベル一〇〇台が七人とレベル九〇台が複数いる。


 逃走に注力すればどうにか逃げ切ることはできるだろうが、守りを得意とする彼でもさすがにそんな数の実力者たちを相手に守り一辺倒で耐え切る自信はない。足止めをするなら、命懸けになるのは必至だ。



(儂は完全な囮役。生き残りたくば死ぬ気で足止めをせよ、ということか。ふざけおって)



 囮役である彼の身の安全なんて何一つ考慮されていない仕事内容に、騎士の男――テオドールは内心で毒づく。だが、断るという選択肢は存在しなかった。



「そうだな。でなければお前の主、テレジア・エアハルトがどうなるか分からないものなぁ?」



 ピクリと、テオドールはわずかに反応した。



「無様なものだな。聖戦で活躍した種族も今では絶滅の危機に陥り、大切な者を人質に取られ、我々の命令に従わざるを得なくなっているのだからな」


「貴様……」



 怒りを滲ませ、思わず右肩に懸架している大剣に手が伸びそうになるが、どうにか思い留まる。彼の実力をもってすれば、目の前の男なんて秒で肉塊にできる。


 だがそんなことをしたところで人質が解放されるわけでもなく、殺したことがゲノム・サイエンスのトップであるアスラン《サンジェルマン》イドリスに知られでもしたら人質がどのような目に遭うか分かったものではない。


 テオドールには、命令に従うしか選択肢はなかった。


 自分の手のひらの上で転がしているという優越感で気分を良くしたのだろう。男は喜色を含んだ声で言い放つ。



「お前の大切な者は我々ゲノム・サイエンスの手の内にある。ヤツの身の安全はお前の態度次第だということを忘れるな」



 ローブを翻し、男は仲間を引き連れて帝都へと向かった。

 それを見送った彼は、ギリッと手を握り締める。



「……テレジア様」



 誰にも聞こえないくらい小さな声で、テオドールは悔しそうに己が慕う女性の名を口にした。








 その様子を阿頼耶たちは木の上や幹の影や茂みに隠れた状態で目撃していた。


 ミオが異変を察知して様子を見に来たが、予想外の邂逅だ。まさかゲノム・サイエンスの実働部隊らしき集団がいようとは。



(狙いは桜小路陽輪が継承する予定の『三種の神器』か。騎士鎧の方はここで待機するみたいだけど、あの九人だけで奪取なんてできるのか?)



 即位式の会場には陽輪だけではなく、ヤン獣王国とジャウハラ連邦王国の首脳陣もいる。当然、警備体制はガチガチに固められた状態だ。それをどうやって突破して陽輪に近付き、『三種の神器』を奪取するつもりなのか。


 たった九人の魔術師にできるとは、阿頼耶にはとても思えなかった。



(成功させるための『何か』があるってことか?)



 それが何なのかは分からない。

 だが、あるからこそあの魔術師たちは行動したのだろう。そう考えるべきだ。



(だとすれば、今の警備体制を突破される可能性もゼロじゃない)



 結論を出すと、即座に阿頼耶はクレハに念話を繋げた。



『クレハ、今回連れて来た「灰色の闇(グラウ・シュヴェルツェ)」のメンバーは?』


『海を渡ることになったので、然程多くはいません。わたくしを含めて四名ですわ』


『なら、そいつらを連れてあの魔術師たちを追え』


『よろしいので? 陽輪姫への襲撃を阻止することは寄り道になってしまいますが』


『だからこそだよ。ヤツらはゲノム・サイエンスの実働部隊だ。それもおそらく裏稼業のな。捕まえることができれば、何か情報を吐かせることができるかもしれない』



 むろん、それだけではない。


 殺人事件が終息していないこの状況下で陽輪の身に何かが起きたら、国民の溜まった不安が爆発する恐れがある。そうなれば後に起きるのは暴動だ。


 助けるために見過ごして、回避できたはずの災禍を巻き起こすなんて本末転倒だ。



『あちらもこちらも気を回さなければならないとは。気苦労が絶えませんわね、兄上様』



 言葉とは裏腹に呆れるようなニュアンスはなかった。逆にどこか納得しているように笑みさえ含んでいる。



『なればこそ、その気苦労を少しでも取り除いて差し上げるのがわたくしの役目。……たしかに、助けるために見過ごして、その結果あの魔術師たちの思い通りになるのは面白くありませんわ。それにその企みを阻止して陽輪姫を守ることができれば、ヤマトに対して恩を売ることができますものね』



 音もなく幹の影からクレハの姿が消える。それを見送った阿頼耶は、次に自身と同じく木の上にいる椎奈へと声を掛けた。



「椎奈、あのテオドールって騎士に見覚えはあるか?」



 今度は【念話】ではなく声に出して会話をしているのは、椎奈は冒険者登録をしていないのでパーティ間で使える【念話】での会話ができないからだ。


 セリカの時とは違ってレベル上げのために【経験値倍化】と【成長率倍化】のスキルをパーティ機能で共有する必要はないので省いたのだが、【念話】の利便性を考えるとやはり登録しておいて方が良かったなと阿頼耶は自らの不手際を恥じる。


 そんな彼の心境を知ってか知らずか、椎奈は遠慮がちに頷いて肯定した。



「え、えっと……彼はテオドール・クロイツァーって言って……その、今では絶滅危惧種の……純血の巨人族(ギガース)、だよ」



 巨人族(ギガース)は聖戦の際にその個体数を大幅に減らした。


 そのため今は純血の巨人族(ギガース)は絶滅危惧種となっているのだが、まさかこんな所でお目にかかれるとは思わず、阿頼耶たちは瞠目した。いつも無表情なあのミオでさえ目を丸くしているほどだ。



「巨人ってわりには、体格は思ったほど大きくないんだな」


「あ、あれは意図的に小さくしている、だけだよ? 本来は、もっと大きいんだって」



 おそらくそういうスキルを持っているのだろう。巨人族(ギガース)は自らの意思で体のサイズを変えられるようだ。



「か、彼は、表側じゃなくて……裏側の部隊の一人、で……今までも、度々ゲノム・サイエンスの命令で、動いていた、みたい。……実際に話したことも、あるんだけど……本意で、働いているわけじゃ、ないみたい。テレジア・エアハルトっていう女性を、人質に取られていて……仕方なく従っているだけ、だって」



 あの一行の会話から推測はできていたが、椎奈の言葉で確証を得た。



(だとすれば、どう動くのがベストだ?)



 口元に手を当てて少年は思案するが、



「……お師匠様っ」



 直後にミオから注意を呼び掛ける声が飛んで思考が中断された。視線を向けると騎士の大男がこちらを見ていて、右肩の大剣を抜いていたのだ。



「――っ!?」



 警告も何もなかった。


 騎士の大男――テオドールは大剣に魔力を込めると、横薙ぎに振る。すると大剣の軌跡をなぞるように、刀身から魔力を纏った斬撃が射出されて阿頼耶たちに襲い掛かった。【飛剣】と呼ばれる技だ。


 阿頼耶たちは各々瞬時に判断して躱すが、放たれた斬撃は木々を倒し、拓けた空間に姿を晒すことになった。



「わずかに気配を感じたが、まさか女子供とはな」



 その姿を捉え、苛立ったようにテオドールは大剣の切っ先を地面に突き立てて舌打ちをした。



「ここでの話、聞いていたのであろう?」


「……」


「否定はせぬ、か」



 はぁ、と深く溜め息を吐く。



「因果は巡るとはよく言ったものだ。これも儂の行いが悪いせいか? 女子供を手に掛けねばならんとは」



 大剣を引き抜き、テオドールは背中の大楯を左手に持って構える。慌てて阿頼耶は制止にかかった。



「待ってくれ! 俺たちに戦う気は……」


「おぬしらにはなくとも儂にはあるのだ! ここでのことを聞かれた以上、生かして帰すわけにはいかぬ! 恨んでくれて構わぬ。だが、おぬしらにはここで死んでもらう!」



 ダンッ! とテオドールが地面を踏み鳴らす。それに呼応するようにして地面が盛り上がり、まるで阿頼耶たちを逃がさないように四方が背の高い壁で囲まれた。

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