第14話 息潜み、怨念は膨らむ
この話では一人称ではなく三人称で進めています。
次話では一人称に戻る予定です。
雨霧阿頼耶がダンジョンに出発してから三日目。
王城内にある広い会議室で十数人の人間が円卓を囲んで議論を交わしていた。
「勇者様がたの様子はどうですかな?」
「ウィリアムの話では順調のようですぞ。レベルも上がり、近々肩慣らしにダンジョンへ潜る予定だそうで」
「それは大丈夫なのであろうな? ダンジョンの魔物は外にいる魔物よりも凶暴で強力だ。いざダンジョンに潜って死んでしまっては目も当てられん。星の位置や触媒の関係上、次に勇者を召喚できるのは五〇年後なのだぞ。もっと慎重にすべきではないか?」
「心配ありますまい。ダンジョンとは言っても、あそこは初心者向きの『魔窟の鍾乳洞』。勇者様がたの力ならば、怪我こそすれ死にはせぬでしょう」
会話をしているのはこの国の貴族たち。その中でも上の位にいる公爵家や伯爵家の者たちで、それ以外にも宰相や財務大臣、軍務大臣なども参加している。
「しかし、さすがに彼らのみではマズイでしょう。対外的な問題もある」
「でしたら、騎士団の者を何人か護衛に付かせるというのはいかがでしょうか? 軍務大臣、許可していただけますか?」
「構わん。死なれたら儂も困るからな。腕の立つ者を選出して護衛させよう」
話がまとまった所で、次の議題に移った。
「それよりも問題はあの少年のことです」
その言葉で、この場にいる全員の顔が険しくなる。
「勇者召喚の儀式に巻き込まれたあの愚鈍。ずっとこのままここに居させるわけにもいくまい」
「勇者召喚の儀式で呼び出されるのは四十人ということは誰しも知っていることであるしな」
「もしもこの四十一人目の存在が露見すれば、我々の責任になりかねんぞ」
その発言により、全員が黙り込んでしまう。今回のような事態は、聖戦の時代から今日までの気の遠くなるような長い歴史の中でも一度として起こらなかった。それなのにまさか勇者召喚の儀式に巻き込まれて召喚された者がいるなんてことが知られでもしたら、勇者の所有権を他国に持っていかれる。そうなってしまえば、オクタンティス王国と対立している他国が攻め落としにくるだろう。
そう考える面々は更に重苦しい雰囲気を出す。
雨霧阿頼耶を殺害する。
その方向で話は前々から進んでいた。だがいざ殺すとなると、これが簡単にはいかない。
刺客を送り込んで内々に処理したとしても、召喚してから今日までの短い期間で王城内で殺害してしまっては勇者側から怪しまれる。王城の外では逆に今後勇者たちが「街中ですら命の危険がある」と認識してしまう。それでは今後の魔王討伐に支障が出る。それでなくても阿頼耶は勇者の中でも強力な力を持つ【円卓の騎士】のうちの四人と仲が良い。しかもその一人がリーダー格である北条康太だ。
むやみに手を出して王国側に不信感を抱かせてしまっては、最大戦力となる彼らと不和が生じてしまう。
故に阿頼耶を始末するには、自然かつ確実に殺す必要があるのだ。
「……魔物相手による不運な事故死、というのが良いであろうな」
発言したのはこの国の国王であるカーエル・グル・オクタンティスであった。
肥え太った顎の贅肉を揺らしながら、彼は言葉を続ける。
「先程、勇者たちは近々ダンジョンに潜る予定だと話しておったな。それにアラヤ・アマギリも参加させるのだ」
「ダンジョンであの少年を始末する、ということですか? しかし、それではまだ生き残ってしまう可能性がありますが」
「であれば、宮廷魔導士どもに強力な魔物をダンジョン内部に召喚させれば良い。標的をアラヤ・アマギリにすれば、他の勇者への被害も少なくなるであろう」
刺客を使わない分、より事故に見せかけやすい。不足の事態が起きてもすぐに撤退せず、阿頼耶が死ぬようにさり気なく誘導するよう、自分たちの考えに同調している騎士に命じ、随伴させればさして問題ではない。
そうと分かってからは早かった。どうやってダンジョン内部に召喚するか、召喚する魔物は何にするか、どのタイミングで召喚するかなどが話し合われていく。
(アラヤ・アマギリ。たしか娘がえらく気に入っておったな。気は進まぬが、リリアにはしばらく大人しくしてもらうとしよう)
言葉とは裏腹に、カーエルの口元は醜く歪んでいた。
◇◆◇
「……はぁ」
国王と過激派が会議室で議論を交わし終えて少しした頃。
会議室からそこそこ離れている自室で、リリア・メルキュール・オクタンティスは溜め息を吐いていた。
「どうしましょう。本当に、どうしましょう」
自室ということもあってか、今の彼女は姫としての威厳なんてなく、年相応の少女の顔をしている。まぁ、それが頭を抱えている姿でなければ言うことはないのだが。
彼女の頭を悩ませているのは、四十人の勇者たちのことだ。彼らが召喚されて一ヶ月近く。戦闘職と生産職での差はあるものの、勇者たちはほぼ全員それなりにステータスを上げることができている。王都周辺の魔物程度なら、難無く倒すことができるだろう。
それ自体は良いことである。少なくともオクタンティス王国側としては、勇者たちが順調に強くなっていることは喜ばしいことに違いない。だがその反面、いくつかの問題も起こっている。一部の男性勇者が娼婦館に通ったり、街中で暴力沙汰や迷惑行為を起こしたりと、その他多数の諍いが浮上している。行動を制限すべきかとリリア姫は思ったが、それはウィリアムに止められた。
『ただでさえ彼らはいきなりこちらの世界に来て不満を感じております。加えて慣れない環境や鍛錬。そして彼らの話では、こちらの世界には彼らの世界よりも娯楽が圧倒的に少ない。魔王を倒せば元の世界に帰ることができるとはいえ、今むやみやたらと制限をしてしまえば無用な反感を買ってしまいます。ここは、注意するくらいでよろしいかと』
ウィリアムのその言葉に納得したリリア姫は進言通りに注意するのみに止めたが、他に娯楽となるものを用意した方が良いと考えていた。
(お父様に進言してみようかしら)
さすがにあの愚王である父も、勇者への対策なら耳を貸すだろう。
リリア姫の頭を悩ませる勇者たちでも、もちろん中には問題行動を起こさない勇者もいる。
北条康太の場合は持ち前のカリスマ性を活かして他の勇者を元気付けて励まし、士気を高めている。椚優李の場合は他の勇者たちに目を光らせ、何か問題を起こしたら諫め、落ち込んでいたら慰め、気を配っている。実際、街中で横暴な振る舞いを見せて問題を起こした立川隼人も優李に怒鳴り散らされた。岡崎修司の場合はコミュニケーションを多く取っている。魔王討伐となると、並大抵のことでは達成できない。それを少しでも補うためにコミュニケーションを取って、お互いの関係を少しでも円滑にしようとしているのだ。姫川紗菜の場合は、王都にある教会に通っている。彼女の持つ武器は聖剣だが、それよりも注目すべきは【勇者聖杯】である。そのスキルのレベルを上げるために彼女は教会に赴き、無償で怪我人・病人の治療を行っている。
(まぁ、その方たちは良いわ。問題を起こさず、自分のできることをしているのだから。一番の問題はアマギリ様ね)
彼がダンジョンに潜ってから三日。未だに彼は帰って来ていないのだ。
「依頼を受けたらどんなものか教えてもらう約束だったのに。確かに、ダンジョンに行くということは聞いたけれども、何日ほど潜るのかくらいは教えてくれても良いと思うのだけど」
信頼されていないのだろう、とリリア姫は思う。
前に「信じてみよう」と阿頼耶は言っていたが、リリア姫からしてみればどうにも信じてもらえていないように感じて仕方ない。だが、それも当然のことである。阿頼耶自身、本当にリリア姫を信じているわけではないし、そもそも他人をすぐに信用するなんて無理な話だ。
「あぁ、だからダンジョンに潜る日数を教えてくれなかったのね」
納得した直後、言って悲しくなったリリア姫は肩を落とした。
しばらくぼんやりしていると、部屋に置いてある置時計の針が十三時を指していることに気付いた。勇者たちの午後の訓練が始まる時間だ。内容は確か魔術の訓練だと思い出していると、前に見た勇者たちの訓練風景も同時に思い出した。
「やはり勇者様って規格外ね。アレだけの種類の魔術を扱えるなんて、普通なら無理だもの」
実を言うと、【巫女姫】である彼女は十四種類ある魔術系スキルのうち、たった一つしか使えない。いや、正確には一つの魔術に特化していると言うべきだろう。それが【巫女姫】という存在であり、その数はリリア姫を入れて三人いる。
【召喚の巫女姫】である人間族のリリア姫。
【精霊の巫女姫】である妖精族の森妖種。
【付与の巫女姫】である獣人族の人狼種。
リリア姫以外の二人も女の子であり、【付与の巫女姫】は彼女と似通った年齢だが、【精霊の巫女姫】は見た目こそリリア姫と同い年に見えるが、長命種であるエルフなので実年齢はかなり年上である。三人の巫女姫はその名前の通り、それぞれ召喚魔術、精霊魔術、付与魔術に特化した存在であり、普通の魔術師ではできないようなことができる。
例えばリリア姫の場合では、普通の召喚魔術は召喚獣の呼び出しや特定の武器の召喚くらいしかできないが、今回リリアが行ったような異世界からの勇者召喚や、条件が揃えば自身の体に神を宿らせる【神懸り】もできる。
このように、普通の魔術師ではできないようなことができる反面、他の魔術が一切使えないのだ。【召喚の巫女姫】の称号を持って生まれた以上は仕方のないことだと、この十七年の間で疾うに諦めたが、それでもリリア姫は時折、普通に魔術を使ってみたいと思ってしまう。
「そういえば、昔はよく三人で集まってあれやこれやと愚痴を零し合ってたなぁ。やれ世話役の老人が口煩いとか、どこぞのお偉いさんの視線がいやらしいとか」
懐かしいなぁとわずかに頬を緩める。
最近は勇者召喚の関係で忙しくて暇なんてなかったが、また集まるのも良いかもしれない。そんなことを考えていると、ドアをノックする音が響いた。ピクリと眉を動かし、一気に緊張を高め、ドアをジッと見詰める。
「リリア王女殿下」
直後に聞こえてきたのは、聞き慣れた男性の声。それに安堵したリリア姫は息を吐き、意識を“少女”から“王女”へと変えてから入室を許可した。
「失礼します」
入って来たのは執事服姿の中年男性。数年前からこの城で働いている人間族で、名前はテッドという。
「仕方のないこととは言え、少し緊張のし過ぎです。外まで警戒していたのが伝わりましたぞ」
「そうは言いますけどね、テッド。私の立場ではいつ父が私を監禁するか分かったものではないのです」
勇者召喚を行うことができるのは【召喚の巫女姫】たるリリア姫のみ。そしてまた、彼らを元の世界に帰すことができるのも、リリア姫のみなのだ。星の位置、必要な触媒と儀式、魔力の質と量などの制約は存在するが、それでも最終的に必要になるのは【召喚の巫女姫】である。故に、いくら帰すために必要な準備を整えたとしても、それを執り行う人物がいなければ全く意味がない。
だからこそリリア姫は警戒している。勇者を返す気がない父が、そのために自分を監禁するのではないかと。
「それはそうと、首尾の方は?」
「順調にございます。しばらくは城の者も、アラヤ・アマギリ様がどこかへ行ったとは気付かないでしょう」
「それは安心しました。アマギリ様がどこかへ行ったことが知れたら事ですから。テッドには迷惑を掛けますね」
「お気になさらず。私もここに侵入していることがバレては首が飛ぶので。それに今回の件は私にとっても都合が良いですから」
この会話から分かる通り、彼はただの執事ではない。
諜報、暗殺などを生業とする暗殺ギルドの一つ、【隠れる刃】に所属する一流の暗殺者だ。故にテッドという名前も本名ではなく偽名である。
【隠れる刃】はオクタンティス王国を拠点に構える暗殺ギルドの中でも有数のギルドで、暗殺組織としては珍しく『オクタンティス王国にとって害であるかどうか』を基準に活動している。そして彼は今の王が国にとって有益か無益か、それとも有害か無害かを調べるために忍び込んでいるのだ。
このことはリリア姫も知っている。では、どうしてリリア姫がそんなことを知っているのか。
それは彼が諜報活動している時にちょっとした誘拐事件があり、それにリリア姫が巻き込まれた。彼女を失うことは国にとって大きな損失になると判断した彼が救ったのだ。その際にリリア姫は彼が暗殺者だと知り、黙認している。助けられたとはいえ、本来ならば国王であるカーエルに報告しなければならないことだが、今はまだ判断している途中ということもあって見逃すことに決めた。
まぁ、一番の大きな理由はリリア姫もあの父親のことは良き王とは思っていないからだが。
そんな暗殺者の彼に、リリア姫はいくつか頼み事をしている。
「彼がダンジョンに潜る前に姿を見ていたのが幸いでした。【変装】スキルは、一度見たことがある相手ではないと化けることができないので」
これが一つ目の頼み事。彼が持つ【変装】スキルを使って、阿頼耶が不在の間、彼に化けてもらう。いつ帰ってくるか分からない以上、いつまでも阿頼耶の姿が見えないとなると過激派の者たちに不審がられてしまう。幸いなことに阿頼耶のステータスはテッドよりも下であるし、勇者たちのように珍しいスキルを持っているわけでもないので、いくらでも誤魔化しようがある。
彼と親しい修司、優李、紗菜の三人と会話をしてしまったらさすがにボロが出てしまうだろうが、そこもできる限り関わらないように立ち回ることで対応してもらっている。
「上々です。もう一つの方はどうですか?」
「調査自体は順調です。むしろ私としてはそちらが本命ですので」
リリア姫が頼んだもう一つの件は、過激派の動きを調べることであった。
「はっきり言って良い状況ではありませんね。過激派はアマギリ様を本格的に始末するつもりのようです」
「そう、ですか」
テッドの言葉にリリア姫は意気消沈する。
分かっていたこととはいえ、改めて聞かされるとやはり心に刺さる。
「過激派はどうやら近日中に行われるダンジョン探索にアラヤ・アマギリ様も参加させ、そこで始末するようです。場所は初心者用ダンジョンの『魔窟の鍾乳洞』」
「ダンジョン探索を利用してアマギリ様を暗殺、ですか。おそらく魔物による仕業に誤魔化すためでしょう。しかし、解せません。ダンジョンは冒険者ギルド・アルカディアが二十四時間体制で管理しています。そう易々と刺客を送り込ませることができるものでしょうか?」
アルカディアはどの国にも属さない、自治領のような扱いになっている組織である。世界各地に支部を持っていることに加え、アルカディアが存在するおかげで各国の魔物による被害も最小限に抑えられていると言っても過言ではないことや、どの国よりも長い歴史がある組織でもあるため、どの国も余程の馬鹿でない限り手を出せない。それ以前に、聖戦時代の英雄たちが作った組織に敵対するなどタブーに等しいので、好んで敵対する者なんてまずいないが。
そういった事情もあって、王都では辺境よりも手練れの冒険者が少ないとはいえ、そんな組織が管理しているダンジョンに、国の暗部がそう容易く出入りできるとは、リリア姫はどうしても思えなかった。
「会議室では召喚獣を使って始末させようと議論していました。私は召喚魔術を使えないので何とも言えませんが、殿下ならば何かお心当たりがあるのではと思いまして」
「……つまり、ダンジョンに入らずにダンジョン内で召喚を行おうとしているのですか」
呟き、リリア姫は思考を巡らせる。
リリア姫は召喚魔術のみならば右に出る者はいないほどの腕を持つ。超一流の召喚師という一面も持つ彼女の頭には、召喚魔術に関する知識がこれでもかと詰まっている。その知識と照らし合わせると、目視できる範囲ならばまだしもダンジョンのような場所が把握しにくい遠隔地へ召喚する術はない。
「分かりません。召喚獣を封じた魔水晶の線も思案しましたが、それでもやはりダンジョンへの侵入という問題の解決には成り得ませんから違うでしょう」
魔水晶は魔石を特殊な方法で不純物を取り除いた魔力の結晶体のこと。これに魔術や召喚獣を封じ込めることで、一度だけそれを使用することができる。だが魔水晶を使うということは、やはり使用者がその場で直接魔水晶に魔力を流す必要がある。そうなると、二人が頭を悩ませている『ダンジョンに入らずダンジョン内で召喚を行う』という条件が成立しない。
「テッド、もう少し詳しく話を伺ってもよろしいですか? アマギリ様がお戻りになられる前に相手の手口を掴まねばなりません」
「承知致しました」
頷き、二人は考え得る限りのことを考え抜く。ただ一人の、不遇な少年を救うために。
……そして阿頼耶が王城に戻る前日に、リリア姫とテッドは揃って近衛兵によって捕縛されることになる。
◇◆◇
リリア姫と暗殺者テッドが話をしている頃、薄暗い部屋の一室にその少年はいた。
自らに用意された部屋には自分以外に誰もいない。
家具もテーブルやベッド、クローゼットくらいしかなく、私物と呼べる物なんて然程なかった。
それも当然で、少年は別の世界からこのアストラルに召喚された異世界人であり、召喚されてから一ケ月近く経っているとはいえ、私物なんてほとんど持っていないのが普通なのだ。
あったとしても、服などの生活必需品か、ちょっとした本くらいなものだ。
余談だが、阿頼耶は王都で依頼を受けた際に住民からお礼にと、手伝いをした店のアクセサリーや食べ物や本、いらなくなった食器などを貰って、私物が増えていたりする。
まぁ、用途としては少し微妙な物ばかりではあるが。
「クソッ、クソッ、クソッ!」
部屋の隅で蹲る少年は、親指の爪を噛みながら忌々しそうに悪態を吐く。
「あの人の傍にいて良いのは俺だけだ。俺だけなんだ。それなのにアイツ、調子に乗りやがって」
脳裏に浮かぶのは、どこにでもいそうな平凡な顔をした特徴のない男。
「何で……何でアイツばかり姫川さんと楽しそうに話してんだよ」
少年は、この王城で本を抱えた阿頼耶と横に並んで話す姫川紗菜の姿を見掛けたことがあった。
地球の頃でもよく見掛けた。ニコニコ笑いながら「どんな本が面白かった」「この場面が良かった」「あのセリフは感動した」など、それほど本が好きではない自分が入り込めない会話を、紗菜は阿頼耶としていた。
そればかりか剣道部主将にして学級委員長である椚優李とも親しい。
調子に乗っている、と少年は阿頼耶に対して常に思っていた。
「あんなに綺麗で可愛い二人が、阿頼耶なんかと釣り合うわけないんだ」
二大アイドルと関わるには、如何せん阿頼耶はあまりにも普通過ぎた。
普通の顔立ちに、普通の学力に、普通の運動神経。しかも人付き合いに関してはあまり良いとは言えず、立川には目の敵にされている情けないいじめられっ子。
それが阿頼耶への苛立ちに拍車をかけていた。
とはいえ、紗菜や優李がどこの誰と仲良くしようが彼女らの自由であり、そこに少年の許可なんて不必要であるし少年が口を挟む筋合いなんてこれっぽっちもないので、完全に八つ当たりであるのだが。
「アイツの……アイツのせいで、姫川さんは俺の方を振り向いてもらえないんだ……!」
ブツブツと、まるで怨嗟の如く呟く。
しばらくそうしていると、ふと何かを思い付いたように少年は顔を上げた。
「そうか。殺せば良いんだ」
少年の中で浮かんだそれは、少年にとって天啓のように思えた。
「そうだ。そうだよ。始めから、そうしていれば良かったんだ。どうせ阿頼耶が死んだところで誰も悲しまないんだから。なら殺してしまえば良いんだ。はははっ……ははははははははははははははははははっ!」
地球にいた頃では絶対に決めなかったであろう判断。
明確な、過去の自分との異質な差異。
それを自覚しないまま、少年は怨念を膨らませていった。




