第106話 予選通過者、発表
第2話 神々との謁見と第3話 転移当日を修正しました。
加筆や表現を変えたりしているので、よろしければご覧ください。
まさか軍務大臣直々のご登場とはな。問題を起こしているのが甥のアルキンだからか? となると、警備担当が来るのが遅かったのは、ジスルフィドさんを呼んでいたからか。
二人の部下よりも前に立つ彼は俺たちとアルキンを見遣り、目付きをする。
「アルキン、貴様というヤツは」
「お、伯父上。俺様は……ぐぶっ!?」
親族である伯父のジスルフィドさんに睨まれたアルキンはその威圧に圧倒されつつも言い訳しようとしたが、その前にジスルフィドさんがズカズカと歩み寄り、その横っ面を裏拳で殴った。その衝撃で口の中を切ったのか、アルキンの口の端から血が滲んだ。
「この慮外者が。己が誰に噛み付いておるのか分かっておるのか。彼らは我らが同胞をここまで安全に連れて来てくださった方々じゃぞ。それを貴様は、恩義ある彼ら【鴉羽】に食って掛かりおって」
「待ってくれ、伯父上! 俺様は何も間違ったことは」
「黙れ。儂が何も知らんとでも思ったか。貴様のしたことは全て部下たちから聞いておる。予選終了直後に貴様がそこにいるセリカ・ファルネーゼに喧嘩を売り、謂れなき暴言を吐き続けたこともな。これ以上恥を晒すようであれば、予選結果の発表を待たずして貴様を出場停止処分にするぞ」
さすがに武闘大会が絡むと強く出られないらしい。アルキンは悔しそうな顔をしながら押し黙った。
本当にジスルフィドさんがそれをするかどうかは判断に悩むところではあるが、こういうのは『やるやらない』ではなく『できるできない』の話だからな。精霊祭の運営に携わるジスルフィドさんならできるだろう。脅しとしては充分過ぎる効果がある。
にしても、驚いたな。血縁だからてっきりアルキンの肩を持つかと思っていたけど、まさか真っ先にアルキンを殴って叱責するなんて。部下から前もって事情を聞いていたようだし、そこを踏まえて運営責任者として公平にジャッジを下したのか。それか、血縁だからこそ厳しくしているのか。
どちらにせよ、職務に誠実な人のようだ。
「儂の甥が大変失礼な真似をした。お詫びする」
セリカを含めた俺たちに向き直ったジスルフィドさんは、深々と頭を下げた。その行動に、周囲の野次馬たちはざわざわと騒ぎ始める。軍務大臣という立場にいる者が、部外者である俺たちのみならず半森妖種のセリカにも同様に頭を下げるなんて思いもしなかったといった反応だ。
彼らはアルキンほどセリカを排斥しようとは思っていなさそうだが、それでも無意識にセリカを下に見ている。彼らの反応に不満がないと言えば嘘になるが、こういう反応は織り込み済みなので一々文句を垂れても仕方がない。黙殺してジスルフィドさんへ意識を向け直す。
目上の人にこうも真摯に頭を下げられては溜飲を下げざるを得ない。俺は感情をリセットするように息を吐く。
「いえ。こちらも頭に血が上り、言葉が過ぎました。どうにも仲間を侮辱されると我慢ならなくて。申し訳ありません」
こちらも頭を下げると、顔を上げたジスルフィドさんはアルキンを怒鳴り付ける。
「貴様も謝らんか!」
「す、すい、ませんでした」
アルキンはゆっくりと頭を下げて謝罪の言葉を述べる。
顔は下を向いているからどんな表情をしているのかは分からないが、まぁ納得はしていないだろう。謝罪の言葉もどこか渋々といった言い方だったし、それ以前にこのタイミングで本気で謝るような人物ならそもそもこんな騒ぎは起こさない。
「謝罪を受け入れましょう。……セリカは? どうする?」
「私も、謝罪を受け入れます。どうぞ頭をお上げください」
しかし、だからといってこの往来で頭を下げさせたままの姿を見て悦に浸るような趣味は俺もセリカもない。俺たちの言葉を聞いてアルキンは頭を上げるが、顔は俯き加減であった。
「痛み入る。勝手ながら、今は多忙なため失礼させていただく。正式なお詫びはまた後日にでも」
さすがに精霊祭運営の最高責任者だけあってジスルフィドさんは多忙なようだ。彼の申し出を快諾すると、彼は会釈してからアルキンを伴って闘技場の方へと去って行った。アルキンの親族だから予選結果発表に立ち会うというよりは、ジスルフィドさんの場合は最高責任者として出席しなければならないのかもしれない。
「さぁ、お前たちもいつまでも集まっているんじゃない!」
「さっさと立ち去れ!」
ジスルフィドさんと共に来ていた二人の兵士が野次馬たちを散らしていく。これで一応、収拾はついたのかな。
「アラヤさん」
「ん? あぁ。予選、ご苦労様、セリカ。あんなのに絡まれるなんて運がなかったな。ちょっと大事になったけど、怪我がなくて良かった」
「申し訳ありませんでした」
寄って来た彼女は両手に前にして重ね、綺麗に腰を折って頭を下げた。一体何に対しての謝罪なのか分からず怪訝な顔をしていると、彼女はその状態のまま言葉を続ける。
「あんな些細な揉め事は私個人で収拾を付けなければなりませんでした。それなのにまたお手を煩わせて、ご迷惑をお掛けしてしまいました。私が頑張って、一人でもどうにかできるようにならないといけなかったのに」
重ねた両手も声も小刻みに震わせながら、まるで自責の念に駆られたような言葉を言う。
……いや、でもちょっと待て。何だか少し呼吸が荒くないか? それにこれは……自責というよりは、何かに怯えている?
「――っ」
そこまで考えて、あまりにも完璧なポーカーフェイスだったから判断を誤ってしまったと、俺はようやく気付いた。
そうだよ。俺は何を勘違いしていたんだ。心の傷は決して癒えることはない。小さくなったり大きくなったりすることはあっても、決して消えることはなく、そいつの心の奥底に深く刻み付けられている。そう簡単に消えるようなものじゃないからトラウマというのだ。
これは俺の落ち度だ。分かっていたはずなのに、危うく見落とすところだった。
どれだけ涼しい顔をしていても、どれだけ痩せ我慢しているように見えていなくても、本当は全力で逃げ出したくなるほど怖かったに違いないのに、それでも俺たちに迷惑を掛けまいとなけなしの勇気を振り絞ってアルキンに立ち向かったんだ。
ここで俺が「気付かなくてすまなかった」と謝罪しても、きっと彼女は否定してさらに自分を責めるだけ。ならばと、俺は彼女の肩に手を置いて労いの言葉を投げかけることにする。
「頑張ったな、セリカ」
「っ!?」
弾かれたように顔を上げた彼女は鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしていた。
本当に頑張ったと思うよ。人と――とりわけアルフヘイム国民と関わるのは彼女にとってはとんでもない精神的な負担になるはずだ。それなのにアレだけ恫喝されたのに恐怖心を押し込んで言い返した。
彼女と同じ立場に立たされて、果たして俺にもできるかどうか。
そんな彼女を尊敬していた俺だが、生憎と予選結果発表の時間が迫っている。
「さて!」
パンッと空気を切り替えるように両手を合わせる。
「結果発表の時間も近付いていることだし、そろそろ行こうか」
「そうですね。セリカさん、予選の狩りの手応えはどうでしたか?」
「えっと、それなりに、といったところでしょか。ポイントは随分と稼いだとは思うのですが、生憎と今までの本選出場者がどれだけポイントを獲得していたのかを知らないので判断できないのです」
「そうでしたのね。……大丈夫だと言いたいところではありますが、こちらではセリカさんの狩りの様子は映されていませんでしたから、わたくしたちも予想が付きませんわ。もしも予選通過できなかったどうしましょう?」
「……その時は、そのままカルダヌスに来る、とか?」
「「「それいいな(ですね)(ですわね)」」」
何気ないミオの言葉に、俺とセツナとクレハは提案に乗っかった。真面目な話、彼女を偏見の少ない所へ連れて行けば環境は劇的に変わるんだから、最後の手段としては充分にありなのだ。俺としても最後の手段としていたのだが、もし予選敗退していたら面倒なのでそのままカルダヌスへ招く方が良いかもしれない。
当の本人であるセリカを完全に置き去りにした状態でヒートアップする俺たちだったが、彼女はそのことを気にした様子はなく、逆に満たされたような顔をして、ポツリと小さな声で言った。
「……ありがとうございます、皆様」
聞き逃してしまいそうなほど、とてもとても小さな声。けれど小さくて短くとも万感の想いが込められていた言葉を、俺たちは確かに聞いたのだった。
闘技場の舞台は随分と広い。十数名ほどの大会出場者とその関係者でかなりの人数がいるはずなのに、それでもまだ幾分か余裕があった。舞台の円周側にある観客席にも相当な数の観客が予選の結果発表を見に来ている。あちらは舞台ほどの余裕はなく、観客で一杯一杯といった状態だ。
一体どれくらいの広さがあるんだと疑問に思っていると、無口系【意思を持つ武器】極夜が疑問に答えてくれた。
『解答。闘技場の広さはおよそ4.5ヘクタール。地球でいうところの東京ドームとほぼ同じ大きさで、収容人数は六万~七万人ほどです』
そんなにあるの? まぁ、ローマ帝政期に造られた円形闘技場のコロッセウムも収容人数は五万人ほどだって話だし、それを考えれば地球の建築技術を持ち出さなくても建築可能なのか。それにきっと魔術的な加工もされているんだろうし。
俺たちは他の人たちと同じように、選手を前にして関係者は後ろに立つというスタイルで立っていた。つまり、セリカを前にした状態で俺たちは後ろで待機している状態だ。配置としては、セリカの左斜め後ろに俺で、俺の右側にセツナで、俺とセツナの間の後ろにクレハだ。
……ミオ? あの子は【獣化】スキルで子猫状態になってセリカに抱っこされているよ。
「(予選の中継映像で見た人たちも何人かいますね)」
結果発表を待っていると、隣のセツナがそっと小声で耳打ちしてきた。彼女の言うように、周囲にはセツナと共に中継映像を確認していた時に見た参加者が何人かいた。全員じゃないのは、おそらくその人たちの集合場所が他の都市にある闘技場だからだろう。
「(森妖種の魔術剣士、マリーゴールド・コンスタンツォ。妖精種の魔術師、ピーコック・ベラルディ。暗森妖種の魔術弓兵、キャラウェイ・ロッシーニ。他にも本選出場に手が届きそうなヤツが何人もいるな)」
全体で見れば中継映像で見た人物は極少数だが、中継映像で見ただけに嫌でも意識してしまうな。
さらに見渡すとアルキンの姿があったが、ジスルフィドさんの姿は見えない。予想通り彼は最高責任者として出席しているようだ。おそらくVIP専用の観客席で見ているのだろう。
ん? あそこにいるのはブルーベルさんじゃないか。彼女も参加していたのか。その後ろにいるのは……母親か? 背後にいるし、見た目は四十代か五十代くらいに見えるけど顔立ちがブルーベルさんと似ているから間違いないと思う。
森妖種ってことは実年齢は凄いんだろうな。ブルーベルさんやセリカも見た目は二十代前半くらいなのに実年齢は二百歳くらいだし。それはクレハも同じだけど。
「痛っ! クレハ!? 何でいきなり背中の肉を摘まんでいるんだ!」
「いえ。何故か兄上様が失礼なことを考えたような気がしまして」
俺の後ろにいるクセに何で分かるの!? そもそも「気がして」ってことは確証はないんだよな!? それなのに攻撃するなよ!
どうにか彼女の手を引き剥がしていると、いよいよ予選の結果発表の時間になった。
『お集まりの皆様! 大変長らくお待たせいたしました! これより、予選結果の発表を行います!』
備え付けられているスピーカーからスタッフの声がした。声から察するに、予選の中継映像を実況していた人と同一人物だろう。待ってましたとばかりに歓声が沸く。
『発表は例年通り、一位から十六位まで……つまり予選通過者のみを発表させていただきます! 何せ三桁単位の出場人数ですからね! 全員分発表していたらそれこそ夜が明けてしまいます!』
ではこちらをどうぞ! と司会者の声と共に、俺たちの前に巨大なスクリーンのような光の枠が空中に現れた。そこには上から順に一位から十六位とナンバリングされており、その右側はスペースが空いている。
光属性魔術か、光精霊辺りを使った精霊魔術で投影しているのだろう。
ナンバリングの右側のスペースは二枠ほど空いているが……あぁ、上の方に『順位』『名前』『ポイント数』と表記されているな。ということは順位と共に予選通過者の名前と獲得ポイント数も発表されるわけか。
『では一位から順に発表させていただきます! 第一位! ……カトレヤ・プロネル! 二万七千五百ポイント!』
わぁー! と闘技場全体を震わせるような大歓声が響く。大熱狂だ。
周囲に視線を向けてそれらしき人物を探すと、見付けた。緑系統の髪をした森妖種の女性だ。手には片手で持てるほどの長さの魔法杖が握られていることから、おそらくは魔術師だろう。彼女は嬉しそうに背後にいる関係者と喜びを分かち合っている。
ふと思ったけど、森妖種がみんな美男美女なのは有名だが、それ以外にも髪や目の色は緑系統なんだな。あと女性は貧乳ばかりで、それはセリカも同じだった。
脇道に逸れた。本筋に戻ろう。
彼女が予選通過第一位か。となるとかなりの実力者なのだろう。トーナメント表の引きが悪ければ初戦で彼女と当たってしまうが、そうならないことを祈ろう。
『さぁ! ドンドン行きますよ! 続いて第二位! ……マリーゴールド・コンスタンツォ! 二万七千四百六十二ポイント!』
そう考えている間にも司会者はマイクパフォーマンスを混ぜつつ発表を進める。
一位と二位の差が三十八ポイントか。僅差だったな。マリーゴールドという人はさぞかし悔しいだろう。
その後も三位四位と順次に発表されていく。俺とセツナが注視していたピーコック・ベラルディは六位でキャラウェイ・ロッシーニはまだ呼ばれていなかったが、セリカの名前もまだ呼ばれていない。
『第八位! ……キャラウェイ・ロッシーニ! 一万九千九百五ポイント!』
と思っているとキャラウェイの名が呼ばれてしまった。もう半分まで発表されてしまったぞ。
一瞬、ダンデライオンがポイントの集計か出場者名簿そのものに細工をしてセリカの名前が呼ばれないようにしたんじゃないかと邪推したが、ポイントの集計管理は公平を期すために【精霊の巫女姫】アザレア・フィオレンティーナ・ニコレッティが担当しているし、出場者名簿に細工なんてしていたらそもそもこの場に立っていることもできない。
ダンデライオン陰謀説はありえないことが俺の頭の中で叩き出されてしまった。
視線をセリカに向けるが、後ろからだと彼女の顔色は分からない。けれどわずかに肩が震えている。名前が呼ばれないから「もしかしたら本選に出られないのでは」と焦燥感に駆られているのかもしれない。
慰めの言葉をかけてやりたいが、そんなものは気休めにもならないだろう。
その時だった。
『第九位! ……セリカ・ファルネーゼ! 一万九千六百二十五ポイント!』
バッ! と俺は空中に浮かぶスクリーンに似た光の枠に目を向ける。第九位の欄にはきちんと『セリカ・ファルネーゼ』の名前が表示されていた。
ということは、つまり……
「よっしゃー!」
「やったー!」
同時に声を上げ、俺はセツナとハイタッチをした。前方でセリカが俺たちの声に驚いてビクッ! と体を揺らしているし周りはセリカが予選通過したことにざわついているが構わない。知ったことか。本選出場が決まったんだ。喜ばない道理はない。
「凄いですわ! 初出場で第九位にランクインだなんて! この成績は快挙ではなくて!?」
クレハも絶賛だ。ミオも「にゃあ!」と嬉しそうに鳴いている。
「え、えっと……その、ありがとうございます?」
「何で疑問形なんだよ。それに随分と反応が薄いじゃないか。嬉しくないのか? 本選出場が決まったんだぞ?」
「い、いえ。それはそうなのですが、皆様が私のことのように喜んでくださるので、圧倒されてしまいまして。それに、あまり実感がなくて」
事実に認識が追い付いていないのかもしれない。けれど、明日には本選が始まるんだし、嫌でも自覚するだろう。
『第十位は……』
っと、発表がまだ途中だった。喜びの気持ちはまだ燻っているが、だからって予選通過者の情報を聞き逃すは愚の骨頂だ。気を取り直し、俺たちは発表に耳を傾けた。
結果、残り七人のうち五人はこことは別の会場にいる選手の名前が呼ばれたが、あとの二人は何とブルーベルさんとアルキンだった。
第十一位、ブルーベル・ガリアーノ、九千九百三十二ポイント。
第十六位、アルキン・カルドーネ、九千七百八十九ポイント。
二人の様子を観察していると、ブルーベルさんは脱力したように息を吐き、アルキンは歯を食い縛っていた。ブルーベルさんは安堵、アルキンは悔恨といったところか。予選を通過しても反応はそれぞれだな。
『さてさて! これで予選通過者の名前は出揃いました! お次はこちらです!』
司会者の言葉と共に、光の枠の表示が切り替わる。第一位から第十六位までを表示したランキング表から、十六の空枠があるトーナメント表になった。それだけではなく、出入口の方から台車を押してくる人物がいた。
茶髪に茶色の目をした小人。民家に住み着いて家事を手伝うという逸話が有名な、家妖種だ。マイクらしきものを持っているから、おそらく彼がずっと喋っていた司会者なのだろう。
台車はそのまま光の枠の真下で止まった。台車に乗っているのは輪切りにした八角柱の側面に取っ手を取り付けたもの――商店街などでたまに見掛ける抽選機だ。
『これよりトーナメント表の発表をさせて頂きます! 発表、とは言いましたが、運営側で決めたわけではありません! それではフェアではありませんからね! なので、こちらの抽選機を選手の皆様に引いていただき、今ここで対戦相手を決めます!』
司会者の家妖種から視線を光の枠へと向けると、トーナメント表には左から順にナンバリングされている。抽選機の中にあるくじの玉にも同じようにナンバリングされていて、それを引いた人の玉とあそこのトーナメント表の数字が一致した場所に名前が記載されるんだろう。
『では予選通過者の皆様、どうぞ前へ!』
司会者に促され、セリカを含めた十六人が抽選機と家妖種の正面に立つ。どうやら一位から順に引かせるようで、まずは第一位のカトレヤ・プロネルから抽選を行い、彼女は『二』を引いた。それに伴ってトーナメント表に名前が追加される。
そういった流れで次々と予選通過者たちがくじを引いていき、セリカの番になった。
『それではセリカ・ファルネーゼさん! どうぞ!』
緊張気味に喉を鳴らすセリカはゆっくり抽選機の取っ手に手を掛けて回す。ガラガラと中の玉がぶつかり合う音が響き、側面に開いた穴から玉が一つ転がり出た。
司会者がそれを手に取り、刻まれているであろう数字をハイテンションで読み上げる。
『出ました! セリカ・ファルネーゼさんは……『一』です!』
『一』だって? ということは……対戦相手は予選通過第一位のカトレヤ・プロネルじゃねぇか!
「……」
どうしよう、と言いたげに顔を引きつらせてこちらを見るセリカ。
彼女のあまりの引き運の悪さに俺たち全員は揃って頭を抱えたのだった。




