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異界渡りの英雄  作者: 暁凛太郎
第4章 精霊祭の妖精編
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第102話 セリカ・ファルネーゼ訓練記録

皆様のおかげでPV数が60万を突破しました。

これからも頑張っていきますので、どうぞ『異界渡りの英雄』をよろしくお願い致します。

 



  ◇◆◇




 アラヤさんに抱えられて、私――セリカ・ファルネーゼはフェアファクス皇国フレネル辺境伯領カルダヌスへとやって来ました。



「大丈夫ですか?」


「ふぁい。らいじょうぶ、れす」



 うあぁ。頭がクラクラしてちゃんと喋れない。やっぱり、馬で一週間の距離で一時間の速度で飛ぶなんて無理があったじゃないかしら。



「それじゃあ、冒険者登録をしに行きましょうか」



 アラヤさんがそう言って歩き出し、セツナちゃんがいまだ頭を回している私の手を取って誘導してくれる。


 北の【戦士たちの地下修練場】に直接行かずにカルダヌスへ寄ったのはそれが理由だった。何でも、アラヤさんは【経験値倍化】と【成長率倍化】のスキルを持っているからそれの効果を私と共有するために冒険者登録をして、彼らのパーティの【鴉羽(からすば)】に所属させるつもりらしい。


 彼の半人半龍の件もそうだけど、まさか【経験値倍化】と【成長率倍化】のレアスキルまで持っているなんて。もう、彼が何をしても驚かない。彼のすることに一々驚いていたらこっちの身が持たないって分かったもの。


 その後、カルダヌス支部で冒険者登録をして、すぐに彼らのパーティへ加入した。


 意外にもあっさりと手続きが済んだので不思議に思ったけど、担当してくれた受付嬢のレスティさん曰く、彼はミオちゃんとクレハさんの時にも同じようにいきなり冒険者登録をさせて自分のパーティに入れたのだとか。


 登録と加入の手続きを行う際、レスティさんは「アラヤさん、またですか」と呆れた顔をしていた。当の本人はケラケラと笑っていて反省の色はゼロだったけど。


 手続きが滞りなく終わり、そのままカルダヌスを出て【戦士たちの地下修練場】へとやって来た。その第一階層で私は、ここを逃すともう機会はないかなと思ったので彼にお願いをすることにした。



「アラヤさん」


「何です?」


「これからアナタに強くしてもらうわけですし、私に対して敬語はなしでお願いしたいのですが。呼び方もセリカで構いません」


「分かった。じゃあそうしよう」



 あまりにもあっさりとした対応に思わず目を丸くする。彼と知り合ってまだ間もないけれど、それでも彼は真面目な性格をしているのは分かっているので、てっきり渋るかと思っていた。


 私がそう思っていることが分かったのか、彼は苦笑交じりに言う。



「本来なら年上や目上の相手には敬語で話すところなんだけどな。礼を失するから。けど、どうにもこっちの世界に来てから、いろんなヤツにタメ口で話せって言われるんだ。リリア姫然り、クレハ然り、カルダヌスの門番をしているジョニー然り、他の冒険者たち然りな。しかもそれを全く譲る気がないものだから、もうこっちが折れるしかないんだよ」



 だから私のお願いも渋らなかったのね。

 私が納得したところで彼はギルドで購入した地図を見ながら言う。



「さて、目的の【戦士たちの地下修練場】に来たわけだが、第一階層の攻略にかかる時間は四十分って話だったよな、セツナ?」


「あくまで魔物と遭遇せず、宝箱も無視で罠にかからず、最短ルートで駆け抜けたらの話ですけどね。まぁそんな上手くいくことなんてまずありませんから、所詮は空論で仮説でしかありませんけど」


「何にしてもそういう時間が算出されているならできないことはないし、仮説は実証するものだ。というわけでセリカ。今から時間を計るから、三十分でこの階層を踏破しろ」



 流れるように無茶振りを言ってくる彼に、私は自分の耳が一瞬おかしくなったのかと思った。



「ちょ、ちょっと待ってください! 魔物と遭遇せず、宝箱を無視して罠にもかからずに最短ルートで駆け抜けることができて始めて四十分で踏破できるというレベルなのですよ!? それをさらに短縮して三十分!? そんなの無理に決まって……」



 無理難題を吹っかけてくる黒髪の少年に異議申し立てをするけれど、鬼畜野郎は笑顔で言った。



「行動範囲は第五階層までだから大丈夫。つべこべ言わずにやれ」








 無茶振りされたけど時間は有限。とりあえずやるしかない。私は第一階層を駆け出し、その背後では龍の翼を生やした彼がセツナさんを抱きかかえて追従していた。一定の距離を空けていることから、どうやら戦闘に参加するつもりはなく、本気で私に制限時間内でこの第一階層を踏破させる腹積もりらしい。



「セツナ、時間を計測してくれ」


「はいはい。分かりました。全く、先輩も無茶苦茶言いますね。これじゃあダンジョンアタックじゃなくてタイムアタックですよ」



 呆れた声で言いつつも、彼女は彼と同じデザインの真っ黒なコートの内ポケットから懐中時計を取り出して時間を計り始めた。何だかんだで素直に彼の指示に従っている辺り、彼女も彼女で充分に容赦がない。


 遭遇する魔物と戦い、罠にかかりつつもどうにか突破し、宝箱は無視して、ようやく私は第二階層へ続く下り階段に辿り着いた。



「タイムは?」


「一時間四分二十六秒です。目標タイムから三十四分二十六秒のオーバーですね」



 だから無理だってこんなの! と言いたかったけれど、戦闘と全力疾走で大幅に疲弊している状態では反論する元気も湧かない。



「じゃあもう一度やろうか、セリカ。次はここから外への出口まで。制限時間はさっきと同じで」


「っ!?」


「ははっ。何をそんな思いもよらなかったって顔をしているんだ? 制限時間を設けているってことは何が何でもそれを実現しろってことじゃないか。なら、それを達成するまでやらせるに決まっているだろう?」


「笑顔でなに恐ろしいことを言っているのですか! 鬼! 鬼畜!」


「恨み言を言うのは自由だけど、だからって設定した制限時間が伸びるわけじゃないし、達成できるまで何回でもやらせる方針は変わらないからそのつもりで」


「ひぃぃいいいいいい!?」



 有無を言わさない彼の圧力に負け、私は悲鳴を上げながら走り出した。








 二回目は道順をある程度覚えていただけあってタイムは縮んだけど、それでも目標には届かなかった。



「ほらもう一度! ぼーっとするな! 何で目標に届かないのか、届くためにはどうすれば良いのか、そういうことを考えながらやれ!」


「うわぁぁぁぁん!」



 アラヤさんの叱咤を受けて泣きそうになりながら再チャレンジする。








 三回目。タイムを縮めるにはどうすれば良いのか。考えた末に私は【気配察知】と【魔力感知】を全力で使うことにした。


 タイムが縮まらないのは、罠もあるけど一番は魔物と遭遇して戦闘になってしまい、大幅に時間をロスしてしまっているからだ。ならばこちらが素早く向こうの位置情報を掴んで、それを避けて進めばいい。どんな魔物がいるかは分かる必要はない。どこにいるかさえ分かればどうとでもなる。


 ただ、罠に関しては場所と種類を覚えておくだけだと足りなくて、すぐに反応して避けられるように神経を集中していないといけない。


 そういった努力が実ってか、私は四回目にして制限時間内にゴールできて、夕飯を食べてから第二階層へと進むことになった。








 第二階層。第一階層から合計して七回目のタイムアタック。彼に容赦という言葉はあるのか疑問に感じ始めた。



「ア、アラヤさん。そろそろ休憩にしませんか? さすがに魔力も尽きてきましたし」


「なら完全になくなるまで絞り出せ。それに大丈夫。もし無くなっても大量に魔力回復薬(マナ・ポーション)を買ってあるからすぐに訓練を再開できる」


「一つも安心できないっ!!」



 彼に慈悲なんてものはなかった。








 第三階層。第一階層から合計して十一回目のタイムアタック。ようやく私は彼の性格が分かってきた。普段の彼はとても優しいけれど、その本質はサディストだ。



「ほらほら! 死ぬ気で走れ! じゃないと死ぬぞ!」



 だって満面の笑みで後ろから襲ってきているんだもの! セツナさんを背負ったままなのに何でそんなに動きが俊敏なの!? ちょっとでも緩めたら当たりそうになるし!



「あらよっと」


「ぎゃああっ!? スカートの裾がちょっと切れたぁ!?」



 そんな軽い調子で嬉々として襲ってこないでよ! 制限時間内にゴールすれば良いんじゃなかったの!?


 この直後に私は【危機察知】スキルを獲得して罠を感知することができるようになった。解せぬ。








 第四階層。第一階層から合計して十五回目のタイムアタック。ダンジョンに潜っているから分からなかったけど、もう深夜の時間帯になっていた。



「それじゃあ寝ようか。見張りは俺とセツナでやろう」


「私はよろしいのですか?」


「お? やる気満々だな。じゃあ見張りもやってもらおうか」


「ごめんなさい。無理です。もうそんな元気なんてありません。へろへろなので勘弁してください」



 ともあれこれでようやく一息付ける。さすがにアレだけ体を酷使すれば疲労もピークに達する。目を閉じただけで強烈な眠気が襲ってきて、私は秒で意識を手放した。


 てっきり寝る時も寝込みを襲ったりして訓練をするかと思っていたけど、そんなことはなかった。さしもの彼も寝る時くらいはしっかり休ませる優しさを持ち合わせていたらしい。








 翌日の早朝、第五階層。この階層では今までのタイムアタックとは違った方針で訓練をすることになった。



「特定の魔物を指定した数だけ討伐、ですか?」


「あぁ。魔物の位置をある程度特定して、それを回避しながら踏破することができるようになったからな。ここからは一段階上げようと思う」



 言外に難易度を上げると言う彼に思わず身構える。



「差し当たり、ゴブリンを十体討伐。時間は三十分だ」



 制限時間は変わらず、ゴブリンを十体も討伐しないといけない。さっきまでとは違って上層と下層それぞれの階段に向かって階層を駆け抜ける必要はない。でも難易度は上がった。探し、見付け、倒す。これを十回、しかも三十分でやらないといけない。


 全てを手早く、できるなら一矢一殺でしないと。損傷を少なく仕留めるのは狩りの基本。それを思い出して事に当たろう。








 第五階層。魔物討伐式タイムアタックに切り替えて九回目。ゴブリンの他に、コボルト、リザードマン、スケルトン、ゾンビ、リビングアーマーを討伐した。【戦士たちの地下修練場】には二足歩行系の魔物しかいなくて対人戦を想定した戦い方をしないといけなかったから、何度も足元を掬われた。


 時間も制限時間内に中々達成できなかったから、【気配察知】と【魔力感知】と【危機察知】をフルで使って索敵をして、移動はただ走るのではなく、精霊魔術で追い風を起こすことで速力を上げて、見付けたところを即座に急所へ矢を射るという手段を使った。


 そうやってどうにか制限時間内に倒していったから、必然と私のステータスレベルもステータス値も随分と上がった。ちょっと上がり過ぎなほどに。始めは彼の【経験値倍化】と【成長率倍化】のスキルの影響かなと思ったけど、それだけではなかったらしい。



「まさか私が戦っている間にセツナさんと交代で魔物を倒していたなんて」



 そう。あろうことか彼は私が戦っている最中、セツナさんと交代して別で魔物と戦っていたのだ。人に課題を出しておきながら自分は自分で別のことをしているとはどういう了見か。



「せっかく【魔窟の鍾乳洞】以外のダンジョンに来たんだ。経験値は稼いでおかないとな。それに、そのおかげでレベルも大幅に上がっただろ?」



 まぁ、それに関しては確かに否定できないけれども。彼のせいというべきかおかげというべきか悩ましいところだけれど、たったの一日で私のレベルは何と62から70に、ステータス値だと平均で大体2100ほどにまで上がっていた。


 普通ならあり得ない速度なのよね。長命種はレベルやステータス値が上がりにくいから尚のこと。これが【経験値倍化】と【成長率倍化】の恩恵ってことなのかしら。



「さて、時間も時間だし、昼食にしようか」



 と、彼は【虚空庫の指輪】から調理器具を取り出す。けれど食材はない。それを調達して持ってくるだけの余裕はなかったとのこと。だから食材は全て現地調達。つまり、このダンジョンで手に入れるしかない。


 ただ、彼のゲテモノ思考が功を奏してか、それに困ることはなかった。



「飯は俺たちで準備するからセリカは休んでいろ。……にしてもゴブリンは食えないけど、オークは食えて助かった。何が食えて、何が食えないか、調べておいて正解だったよ」


「実際に食べて確かめるやり方はどうかと思いますけどね、このゲテモノ食い。まぁ、役に立っているのは事実ですけど」


「ゴブリン肉を混ぜるぞ、この野郎。……っと、その辺に食べられそうな植物もいくつかあるな。組み合わせればそれなりの物ができそうだ」



 と語るアラヤさんとセツナさん。冒険者なら当然なのかもしれないけれど、サバイバル能力が高過ぎるんじゃないかしら。魔物が蔓延る森の中に放り出されても問題なく生き延びそう。



「セツナさんは、随分と自然に順応しているのですね」


「え? あぁ、まぁ、先輩ですからね。これくらいのことはもう慣れちゃいました」



 それは慣れて良いのかしら?


 疑問に思う間も着実に昼食の準備は進んでいく。ゲテモノ思考の割に意外と料理上手な彼に若干の不満を感じながらも私たちは昼食を取ることにした。








 魔物討伐式タイムアタックは一旦中断だと聞いたのは昼食を食べた後のことだった。場所は同じく第五階層の、階層主がいる豪華な大扉の前。さっきまではこの近くにある安全区域(セーフエリア)にいたけど、今はそこに移動している。


 ダンジョンにはどういうわけか、階層主の扉の近くには必ず安全区域(セーフエリア)があるみたい。階層主に挑む前に準備を整えさせたいのか、それともそういう造りで固定されているのかはいまだに判明していないけれど。



「ここに来たということは、階層主にチャレンジするということでよろしいのでしょうか?」



 私の素朴な疑問に彼は頷きを返して答える。



「その通り。ただし、階層主を倒すのはセリカ一人でだ。とは言っても、一から十まで一人でやれとはさすがに言わない。基本的にはセリカ一人でやってもらうが、俺とセツナもサポートとして戦う。あくまで最低限だけどな」



 完全に一人ではないんだ、と安堵する。さすがに階層主相手にソロで挑ませるほど非常識ではなかったらしい。けれど、それでも基本的には私一人で戦うことになる。これは、武闘大会の本選を想定しているのかしら?


 今までの訓練を思い返してみると、彼は武闘大会を念頭に置いて訓練内容を組んでいたことが窺える。


 第一階層から第四階層までで行ったタイムアタックは、予選での『狩り』で必要になる索敵と危機管理能力の向上のため。


 何も狩りと言っても、ただ高得点の魔物を狩ればそれでいいというわけでもない。他の選手の妨害が禁止されていないのだ。だから、こちらが索敵して魔物を狩って油断している時に襲撃されて予選敗退、なんてことも充分にあり得る。というか今までの選手はほとんどそれで予選敗退している。


 それを危惧して、彼はわざとシビアな時間設定をして、途中から私へ攻撃をした。第五階層で魔物討伐式に変更したのも、たぶん同じ理由。広いダンジョンで特定の魔物を討伐させたのも、高得点の魔物を素早く見付けさせるため。おかげで【気配察知】と【魔力感知】のレベルが上がって、広い範囲でどんな魔物がいるかある程度分かるようになった。


 この階層主にしてもそうだ。


 本選に進めば、相手と一対一の勝負になる。しかも相手はおそらく私よりも格上。彼はそれを想定して、階層主というソロで相手にするなんて自殺行為でしかない魔物を仮想敵に設定した。


 ただ、あまりにも無茶だというのは彼も理解しているのでしょうね。だから必要最低限とはいえサポートはすると言ったのね。



「階層主はジャイアント・スケルトン。スケルトンといえど、相手はジャイアント級。骸骨騎士(スケルトン・ナイト)よりも上で、上位のBランク冒険者パーティが相手にするような魔物だ。見掛けは骨でもその強度はかなりのものだし、普通のスケルトンよりも動きは俊敏で力も強いらしい」



 階層主の情報も地図と一緒にギルドから買ったのかしら? 準備が良いわね。



「倒して十分後のリポップを待って、そうしたらまた倒す。これを何回か続けよう。そうすれば今よりももっと戦闘に慣れるし、レベルも上がって強くなれる」


「………………」



 彼は私のために訓練してくれている。それは理解しているし、実際に強くなっているし、それでなくても私のためにここまでしてくれているのだから心の底から感謝している。でも、これだけは言わせてほしい。


 彼、実は人の皮を被ったオーガなんじゃないの?

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