01 呪いの蔓延
師弟共にプレイデータ有。執筆のためにピラカミオンまでメインクエスト進めました。
なるだけ気をつけますが、ある程度の既存キャラクターの口調や性格のズレはご容赦願えると幸いです。
二次創作書くのは初めてですので、これあかんやつや! 等ありましたらご指摘頂ければ助かります。
ある所に、夢見る者たちの訪れる美しい国がありました。
そこに住む人々は、聖女の祈りの力によって、それはそれは平和に暮らしていました。
ところが、聖女が「いばらの塔」を訪れた、ある月のない夜の事……。
暗雲が空に立ち込め、世界はひと晩のうちに謎の呪いに覆われてしまいました。
(とある吟遊詩人の歌より)
「師匠、これは……?」
「世界が、呪いで覆われていく……」
「呪い?」
きょとん、と金色の瞳を丸くさせたその様子は、今は隠れている満月のようで。それが救いの光になればいいのに、と願わずにはいられなかった。
「平和の陰に潜んでいた、呪い」
「でも師匠、その呪いってなんですか?」
「少しは自分で考えてみろ、馬鹿弟子」
「えぇー…」
ぐしゃぐしゃと銀色のくせっ毛を撫で回して、「いばらの塔」がある方角へと視線を向けた。
呪いの正体はわからない。わからないが、それでも。よくないものであることには間違いない。濃厚な闇の気配。薄れゆく聖女の気配。
やがて、小さく見えていた「いばらの塔」は呪いのいばらが絡みつき、徐々にその姿を巨大な呪われた塔へと姿を変えていく。
「まずいな……」
一つ舌打ちをして、弟子である彼の背を強く押した。
「師匠!?」
「よく聞け。あの塔へ向かうために、騎士となれ」
「えぇっ!?」
「できないはずがないよな? なんと言ったって、お前は私の弟子なんだから」
「いや、まぁ、騎士になれなくはないですけど、でも。僕はそれ以前に師匠の弟子」
「御託を抜かしている暇があれば行け!」
「うぁ、は、はいっ!」
それでいい。素直に言うことをきく弟子の姿に、満足そうに頷いていたが、それを見届けるのはこれまでになりそうだ。
もつれる足を動かしながら、それでも「いばらの塔」が見える方向へと走る自慢の弟子。教えていないことは数多くあったが、それも仕方ない。また今度機会があれば修行をつけてやるのも悪くない。
「まぁ、それよりも今は……」
金色の光を放つ真新しい武器、『神双剣ヤヌス』を構えて、ソレに視線をやった。
暗闇の中で蠢く物体。人の胴体ほどもあろう棘の生えた茨。瘴気から発生した魔物。
そのどれもがこの呪いで触発されて出現したものだろうと予測はしているが……。
「私が相手をしてやらないと、だろう?」
なぁ、私では相手不足か?
茨や魔物はその問いに答える代わりに、ただ攻撃をしてくるだけだろうが。
師匠と呼ばれていた存在は、にやりと口元に笑みを浮かべ、ソレらに金色の斬撃を放った。
月明かりのない暗い晩に煌く金色の剣筋。
一筋煌くごとに赤いローズリーフが、血の流れない魔物の血の代わりに、あでやかに宙を舞ったという。
* * *
「……い。……る…か」
誰かが肩を叩いているような気がする。ゆっくりと覚醒に向かっている意識を、無理やりにでもたたき起こそうとしているように感じる。
―…嗚呼うっとおしい。
安眠を妨害するなと、あれほどまでに言い含めておいたのに。この馬鹿弟子は何をやっているんだろう、仕置きに【セイントレイ】の一つでも落としてやろうか。
そう思いはすれども、何故か体が動かない。石化でもしただろうか? いや、それにしても感覚がしっかりとある。不思議には思ったが、体を起こそうという気にはなれなかった。
「おい……! おい、生きてるか…!」
ただ、どうにも声が違うような? それでいて、どこか切羽詰まっているかのようにも聞こえ……る?
いやいや、生きているかとは一体どういうことだ?
疑問が頭にたどり着いたときにようやく、重たい瞳を押し開けよ、と言う伝達が体に伝わったらしい。
ゆっくりとまぶたを押し上げる。
わずかな光ですら、暗闇に慣れた視界にはまぶしく感じた。
「大丈夫ですよぅ! この方、見かけほど重症ではないようです!」
「本当か! なら一安心だな! おい、アンタ大丈夫かっ?」
ぼんやりとした視界は、やがてハッキリと姿を映し出す。
キラキラと光の粉を飛ばしている小さな可愛らしい妖精と、頭からすっぽりとローブを身にまとった短い赤毛と夕日色の瞳をした男。
心配そうに見下ろしている彼らは、一体誰だろうか?
少なくとも弟子ではないことに警戒しながら、『神双剣ヤヌス』に手をかける。
「……ここ、は?」
掠れた喉からこぼれたのは、自分でも驚くほどのかすれた声だった。
確か、最後の記憶は……、そう。呪いが蔓延し始めて、増殖する茨と魔物を前に立ち向かったことだろうか。何度も何度も剣を振るい、茨を切り、魔物を切り。何本ものポーションを使い切り、もう駄目だと妖精の帰還石を手に取ったところまでは覚えている。それがしっかりと発動したかは覚えてはいないのだが……。今、生きているということは、なんとか、耐えしのぐことができたと思っていいのだろうか。
「えっと、ここってどこだ?」
「ここはですね、教会の村アルトグレンツェ近くに広がる茨の森、ロゼシュタッヘルです」
「ロゼなんとかかんとか……?」
「ロゼシュタッヘルですよぅ!」
この辺りに住む小さな子でもしっかりと言えますよ! と彼に教える妖精をぼんやりと見つめる。
しかし、ここがロゼシュタッヘルだとしたら……いや、今まで自分はどこにいたのだっけか。思い出そうにも、ぼんやりと記憶に靄がかかったような状態で、何も思い出せない。
一人混乱する姿に触れることなく、妖精とローブを被った男はまるで漫才をしているかのような会話を続けていた。
「そんなさー、意味もなく長ったらしい名前なんか覚えられないってば」
「意味はありますよ、これはですね」
「俺ならもっとカッコいい名前を付けるね。闇夜を切り裂く漆黒の翼村、みたいな?」
「それ数年後に頭抱えて悶えてしまう感じの名前だと思いますが……」
「なんでだよ! カッコいいじゃないか!」
あきれる妖精の視線などものともせず、彼は高らかに拳を掲げて宣言した。
その動作に伴いローブが揺れる。驚くべきことに、彼はなんの装備もしていなかった。何もと言えば語弊があるが、それでも武器と言えるのは鈍らの大剣に木の盾のみ。防具など何もない。子供が騎士ごっこだ! と精一杯真似た姿とよく似ている。
そう気付いてしまったら、言わずにはいられなかった。
「漫才はそこまでだ。続きは村の中でしてくれ」
「いや漫才じゃねぇし!」
「漫才ではないですよ! ……ではなく、確かにこんなことをしている場合ではありませんでしたね」
妖精だけでも気付いたようでなりよりである。彼の方は、若干不服そうではあるが、それは飲み込んでもらうほかあるまい。
「この辺りは、例の「呪い」が蔓延していて、とても危険なのです」
「あぁ、魔獣の気配もする。早急にこの場から離れた方がいいな」
ばきばきと鳴る、自分でも不思議なほど衰えているように感じる体をほぐしながら、なんとか動けるくらいまでには調子を整えたいと考えている。
なにせ、騎士ごっこ装備の男と、戦力にはならない妖精のみ。
もし戦うこととなったら、自分が動くほかないのだから。
「私のランタンで、アルトグレンツェまでご案内いたしますね!」
「頼むな! あ、そうそう。俺はシュテルツキンって言うんだ。んで、こっちは」
「妖精のエインセールと申します!」
「そうか」
「そうか、じゃなくて、アンタの名前は?」
やけに人懐っこいところは、どこか弟子と似ているなと思いながら、そう言えば名乗っていなかったか、と己の名前を口にした。
「緇雨」
「シウ?」
「あぁ。今はあちこち旅をしている、ただの探究者だ」
アルトグレンツェまでの短い旅路だが、まあよろしく頼む。
我ながら素っ気ないとは思いながらも、こればかりは性分だしと変える気もない。気を悪くしただろうか、とちらりと彼……シュテルツキンの方を見れば、何も気にした様子はなく、ただ「おう!」と元気よく答えただけだった。
なんとも、毒気の抜かれる男である。
それが、彼との出会いだった。