表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神  作者: 勝目博
2/13

記憶

亮二は不可思議な世界に、紛れ込む

そこで亮二が見たものは・・。

その朝亮二は、寒さから目を覚ました。そろそろ3月、春の太陽が差し込む時期だ。ところが、カーテンを開けた亮二の目に飛び込んだのは、一面の銀世界だった。冬の最後のあがきだろうか、見渡す限り雪化粧が施されていた。昨夜のニュースでは、雪のゆの字も言ってはいない。亮二は、軽く身震いを起こした。食卓兼のコタツは、つい最近片付けたばかりだった。ストーブの灯油はわずかに残っている。去年の残りだ。北国育ちの亮二には、東京は異常に暑く感じ、ストーブはずっと使っていなかった。そんな亮二が寒く思ったのだ。表はかなり冷え込んでいるように思えた。それでもストーブに灯がともると、幾らか寒さは和らいだ。そそくさと出勤準備を整えて、亮二は表に飛び出した。ところが、外はおだやかに晴れ、どこにも雪は積もってもいなかった。

「えーなんでだ」つい言葉が口から漏れた。振り返った部屋の中では、消したばかりのストーブが、まだチンチンと音を立てていた。窓側に回り込んで見たが、そこにも雪はなく、穏やかな朝の日差しがあたりを照らしていた。キツネに化かされたようだった。窓からの景色はなんだったのだろう。亮二はもう一度部屋に駆け込み、カーテンを開いた。やはりそこにも雪はなかった。夢でも見たのだろうか。それにしては、ストーブもつけ、寒さに震えた感覚は事実だった。しかし、悠長に考えている暇はない。出勤時間は当に過ぎていた。いつもより、乗った電車は一本遅い。だが、一本ならば、駅から走れば十分に間に合う時間だった。会社の最寄の駅までは、30分ほどで着くが、その電車は異様に空いていた。何度かこの時間の電車にも乗った事があったが、こんなことは初めてだった。一瞬、祭日ではと思ったが、週の真ん中祭日でもなかった。席は十分空いている。亮二はゆったりと腰をおろした。暖房のせいでお尻が温かい。亮二はいつの間にか眠ってしまった。目覚めたときには、電車は見たこともないところを走っていた。腕時計に目をやると、始業時間はとうに過ぎ、そろそろ、午前の休憩だった。亮二は慌てて携帯を取り出した。乗客はほとんどいない。同じ車両には、年老いたおばあさんと、学校さぼりらしい学生だけだった。

ところが、アンテナ表示は出ているものの、いっこうに電話はつながらなかった。まるで携帯の会社が消滅したように、何の反応もないのだ。早く降りなくてはと立ち上がった亮二を、更なる驚きが襲った。電車は三両なのだ。亮二の乗る車両の前後に、一両ずつしか連結されてないのだ。亮二の頭は完全に混乱していた。通勤電車で三両編成など、見たこともないのだ。更によく見てみると、明らかに古いのだ。車両は新しいが、形が古いのだ。まるで故郷のローカル線のよう見えたのだ。しかも、車窓の外を流れる景色は、故郷そのものだった。見慣れた山並みは亮二の記憶にも、しっかりと残っている。ただ、時折見える家々は、今の作りとは明らかに違っていた。サッシもなければ窓もないのだ。見えるのは、木製雨戸と障子紙だった。亮二は思い切り目を擦った。夢ではないかと思ったのだ。しかし電車はゆっくりと駅のホームに停車した。見慣れたホーム。見慣れた改札。まぎれもなく亮二の故郷の駅だった。ただ、記憶に残る記念樹はない。駅の開設50周年記念に植えられた木だ。亮二の頭は混乱の極みに達した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ