第92話 最終回
最終回です。
「さて、ヘスター聖王国もヘスター王国になって不可侵条約結んだし、しばらくこっちに来る必要もなくなるかな」
能天気な実の言葉に、何言ってんだという視線を投げるのは早苗と浩一郎と嗣治だ。
「お前、王太子としての勉強があるんだぞ。高校卒業したら勿論こっちだし、それでなくても週イチでこっちで勉強になるな」
「そうよ、私もこっちで勉強しなくちゃいけない事がいっぱいあるから、実君も未来の王様としての勉強は必要よ」
「僕はそんなに頻繁で無いけど、将来の就職先も決まったからたまにこっちに来るよ。自分だけ来ないって選択肢はないんじゃないかな」
散々な言われようである。しかし、確かに王族としての教育は今まで受けていないので、勉強の必要はあるのだ。
「早速だが、来週はヘスター王国の使者を迎えての晩餐会がある。お前も王太子として恥ずかしくない形で出席せねばならないな」
既に退路も断たれていたようだ。この晩餐会は早苗も出席するよう要請されているため、実が出席しないと早苗も出席できなくなってしまう。
「あ、そうそう、ミハル様がお話があるって。いつもの客室に居るから、行ってあげて」
早苗が急に話題を変える。実は何の話だろうと訝しみながらも承諾し、客室へと向かった。
「さて、私も行きますかね」
実を見送った早苗も、こっそりとミハルが居る客室へと向かうのだった。
「ミハル様、よろしいでしょうか」
「は、はい。どうぞ入ってください」
実は客室へ到着すると、ノックして中を伺う。ミハルの返事を待ってからドアを開けると、顔を真っ赤にして着飾ったミハルが立っていた。
「どうぞ、こちらへ」
「はい」
勧められるままに椅子に座る。ミハルはその向かい側の椅子に座ると、意を決したように実へ言った。
「実さん、私を第二夫人にして下さい」
「えっ」
実としては意外な申し出だった。ミハルは可愛いが元男である。神にもなってしまったことだし、男には興味がないだろうと思っていた。ところが、この申し出である。実はミハルが元男とか関係なく好印象を持っていたが、ミハルの方は好印象どころか恋になってしまっていたようだった。
「早苗さんとも話をしました。勿論正夫人は早苗さんです。神となった者が王妃になるわけにもいきませんからね。でも、この気持ちをずっと持ったまま過ごすのは嫌だったんです」
ミハルの告白は続く。実はそれをじっと聞いていた。
「突然な申し出なので、実さんが私を振ってくれても構いません。でも、言いたかったんです」
ミハルの目からは、自然と涙がこぼれてきていた。実はいつの間にか入ってきた早苗に気付くと、早苗は静かにうなずいた。それで実もここで答えを出すことにする。
「本当に突然で吃驚しました」
「そうですね…」
「でも、本当に第二夫人で良いんですか?」
「実さんなら、その地位で愛し方が変わるとは思えませんし、早苗さんという相思相愛の関係を崩したくもありませんから」
「わかりました。早苗も納得しているようだし、俺もミハル様の事は嫌いじゃない。早苗と全く同じとは言いませんが、第二夫人として間違いなく愛すことを誓いましょう」
「あ、ありがとう…」
「良かったね、ミハル様」
「うん、良かったよぅ」
喜びのあまりうれし泣きが止まらないミハルと、それに抱き着く早苗。告白された実は手持ち無沙汰ながらも、この二人をいつまでも幸せにしようと心に誓うのだった。
それから三年後、王太子結婚式にて。
「実兄さん、かっこよいです」
「ありがとうリン。でも、リンは花嫁さん達のそばに行かなくて良いの?」
「あ、もうそんな時間?それじゃ行ってくるね。式場で待ってるからね」
竜は卵から生まれてからの成長は早い。ある程度の年齢までは急成長し、その後は竜の姿にもなり数百年以上生きていくことになる。リンはこの三年で、三歳程度から十歳くらいになった。とても可愛らしくじっとしていれば人形のようだが、お転婆でじっとしていることが苦痛のようだ。ナーダは、「竜は放浪癖があるからのう」と言っていたが、この親子以外に上位竜を見たことがないので、この親子だけの癖なのかもしれない。
「殿下、そろそろお時間です」
「分かった。よろしく頼む」
実は側近となった浩一郎に促され、控室から式場へと向かうのだった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
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このお話は最終回を迎えました。
とにかくエタらないようにと、あがいてみた1年9カ月でした。
今まで小説何て書いたこともなかったのですが、こんな稚作を読んで頂いた読者の方々に感謝です。
ただ、この設定は結構気に入っているので、もしかしたら別主人公で同じ世界を満喫させるかもしれません。
兎に角、次回作も見切り発車で年明けにでも投稿始めるかもしれませんので、その時はよろしくお願いします。




