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第91話 戦い終わり

あと2話、次回で最終回になります。

 その一報がベアル王国軍に届けられたのは、ヘスター聖王国軍に対する一方的な攻撃がひと段落着き、警戒の兵を置いて主力が陣へ引き上げた時であった。


「うん、アルファンケル辺境伯の方も上手くいったみたいだね。このまま包囲を続けておいても良いけど、この内容を相手に向けてばら撒いてくれないか」


 浩一郎が兵士に指示を出す。今現在ベアル王国軍の全指揮権は、浩一郎が一手に担っていた。なお、浩子は出番があまりないと愚痴っていたので、一人でヘスター聖王国軍の退路を断ちに行かせていた。

 実と早苗はベアル王国軍本陣に移動していたが、流石に疲れが溜まっていたのだろうか既に就寝しており、この場には浩一郎と護衛に駆けつけてきたユーリーの二人だけだった。


「コーイチロー、ヘスター聖王国との戦いは終わりなの?」

「うん、どうやら条約が結べそうだ。ここの兵はできれば投降してくれるのを願うけど、そうじゃなければおう一戦かな」

「それ、フラグ」


 短期留学や文化祭の手伝いで来た時に、どうやらラノベにはまったらしい。一体誰が勧めたんだと、浩一郎は頭を抱えたが、ユーリーはそんな浩一郎の悩みには気付かず、報告書に目を落した。


 そんなベアル王国軍とは対照的に、混乱していたのはヘスター聖王国軍の方である。将軍は捕らわれ、副将は射殺された。既に指揮系統もずたずたの状態で、更にベアル王国軍からはヘスター聖王国の情報とやらが見たこともない紙に書かれてばら撒かれている。


「こんな、こんな事あってたまるか!」


 この状況が信じられないのは創世神教司教だった。これが本当なら、自分は捕縛されて牢につながれてしまう。今までの豪奢な生活どころではない。既に一部の兵には投降の動きがある。彼らは敬虔な創世神教信徒ではなく、周りが信じているからという理由で信徒になっていただけであり、それが間違いであったなら容易く棄て去るだけなのだ。

 だが、司教と言う立場の者が軽々しく創世神教を棄てるわけにはいかない。それにこの報告書とやらも本当の事かどうか分からないではないか。


「だれぞ居らぬか!」


 司教の叫びは、むなしく響くのみだった。


 そして、この報は程なくベアル王国王都にも届けられることになる。


「ふむ、ではヘスター聖王国は今後ヘスター王国として、我が国と不可侵条約を結ぶという事か」

「その通りのようですな。これで長年の憂いが一つ解消されますな」


 王城で留守居役をしているアルテリアは、ウォースと話をしていた。ウォースとしても前線に出たい気持ちはあったのだが、後進の育成と実戦を経験させることで実績を上げさせるという目的があったため、こちらも留守居役になっていたのだった。

 両国は長いこと戦争を行ってきていた。ここ二十年程は休戦状態であったが、仲が良くなったわけでなくこれ以上戦争を続けると国が成り立って行かなくなるという現実的な理由からであった。戦力がほぼ互角でお互いの領土がほぼ動かない状態であったこともあるが。

 その両国が不可侵条約を結ぶというのは、今後の周辺諸国にとっても一大事である。今後ヘスター王国、ベアル王国両国と周辺諸国は外交戦略の練り直しが必要になるだろう。


「これも、時代の変化、か」


 そうこぼしたのは、捕らわれとなったグラフィーノ将軍である。彼はベアル王国軍の捕虜となっていたが、武器を取り上げられ、実と早苗の監視下に置かれていた。具体的には実と早苗の部隊で戦術顧問となっていたのだ。

 これは彼自身が願ったことではなく、実の「将軍なんだから、ヘスター聖王国軍の動きがわかるでしょ。両国軍の消耗を減らすために色々教えてよ」との一言で決まったことであった。


「それでグラフィーノ将軍、貴殿はどうされるのかな?」

「私は捕虜となった身。自らの身の振り方について意見できる立場ではありません」

「戦が終われば、捕虜の交換も行われる。その時に戻ってもらっても構わない。だが、ベアル王国は魔法使いが多く、純粋な戦術眼に長けた人材が不足している。そう言った者達の指導をして頂きたい」

「…ありがたき幸せ」


 グラフィーノ将軍も覚悟を決めたようである。実が身分を明かし、丁重に扱ったのも有効になったようだ。これからのベアル王国は魔族だけの国ではなく、多民族国家となる。その先鞭となるべきな、有能な人材を取り込むのに躊躇はなかった。ナーベステアルあたりは文句を言ってきそうだが。


 こうして、ヘスター聖王国最後のベアル王国への侵攻はわずかな日数で終わるのだった。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

ご意見、ご感想、評価やブックマーク等お待ちしております。


次回、最終回は明日投稿予定です。

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