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第90話 コール峡谷の戦いとヘスター聖王国王宮

このお話も、あと数話。

ラストスパートですので、毎日投稿しますね。

「グラフィーノ将軍は居らんのか!奴はどこ行った!」


 そう声を荒げるのは、教会幹部であるヴィーダ司教であった。彼は本来後方部隊に居るのだが、この時は偶然グラフィーノ将軍に命令するために前線へ向かっている途中だったのだ。それが功を奏したのか、彼はコール峡谷で再編したヘスター聖王国軍の中央に居ることができた。


「将軍は第三軍を率いて後方へ向かいました。第三軍そのものがほぼ壊滅しておりますので、既にこの世に居られないか、捕虜になっているものと思われます」

「なんと!ではこの軍の指揮は誰がとるのだ!」

「はっ!ここは副将である私が責任をもって勝利に導きましょう。ここからコール峡谷の出口に橋頭保を築き、魔族どもをこの地から追い払います」


 この副将、野心家であった。グラフィーノ将軍がいない今、自分が最高責任者である。その自分が華々しい勝利を飾れば、グラフィーノ将軍を追い抜くことも可能であると考えていたのであった。だが、そんな彼の運命は、峡谷の奥に入った時に決まっていた。


「ベアル王国軍が崖の上から弓矢で攻撃しています!既に死傷者多数!」


 考えてみれば峡谷なので当たり前であった。谷があれば尾根もある。当然崖だってある。ベアル王国軍は、その崖の上からヘスター聖王国軍に向けて矢を放っていた。


「射れば当たるぞ!どんどん矢を放て!」


 ここの指揮は、コンラッド・モーベル辺境伯が執っていた。特に弓に長けた兵三百を率いて崖に陣取り、矢の雨を降らせている。魔法対策として魔法使い部隊も連れてきているが、出番がないかもしれない。


「矢の残りが少なくなりました。交代させましょうか」

「そうだな、よし、次は投擲部隊、槍を降らせろ」

「はっ」


 弓兵隊が下がり、短槍を抱えた兵が前に出る。彼らは短槍投擲部隊である。風魔法を短槍に纏わせることで飛距離を上げ、弓矢に負けない射程距離を実現させているが、短槍は弓矢以上に荷物になる。そのため、一度に持てるのは十本程度であり、短い時間の防衛戦でしか活躍の場がなかった。


「取りあえず弓兵隊が補充するまでの間だ。その後交代し、こちらも補充する。準備は整っているんだから、思いっきりやるぞ」


 投擲部隊の兵達は久々の活躍の場で、テンションが上がりっぱなしであった。そして、そのうちの一本が副将の身体を貫いたときが前線崩壊の合図となった。




「さて、私は一旦王城へ向かう。皆は王都の周囲を固めておいてくれ」


 ナーベステアルは側近と護衛の兵を連れ、王都へと入っていった。兵達は指示通り王都の周囲、特に各門の周りを固めて出入りを制限するよう移動を開始した。

 ナーベステアルはそのまま王城まで行くと、更に一人の女性と思わしきフードを深くかぶった人物を連れ、謁見の間に向かう。そのための先触れも既に行っていたので、すんなりと謁見の間に行くことができた。


 謁見の間に入ったナーベステアルは王への拝謁のために跪いたが、もう一人は我関せぬとばかりに立ったままである。周囲の貴族や創世神教の司教や司祭達が怒号を発するが、そんなのはスルーし、王を見つめていた。


「で、アルファンケル辺境伯よ、余に重大な報告と提言があると聞いたのじゃが」

「はっ、まずはベアル王国との戦ですが、ヘスター聖王国軍は、壊滅しつつあるそうです」

「何!それは真か!」

「信頼できる情報です。何でも敵はグラフィーノ将軍を捕虜とし、第三軍及び第一軍を既に壊滅させているとの事」


 ナーベステアルの報告に一番驚いたのは、王の傍らに居る創世神教の大司教であった。彼の打つ手打つ手全てが上手くいかない。何者かに邪魔をされて失敗してしまうのだ。


「そして、こちらに居られるのは、この世界の主神アマテラス様です」

「神である故、人の作法に従う事はせぬ。先程の煩わしい声を発した者共よ、知らぬ事ゆえ今回は許すが次は無いものと思え」


 アマテラスの声は決して大きくはないものの、謁見の間に居た者達全てに強く響いた。思わず膝をつくものまで居る程に。


「そ、それでアマテラス様はどのような…」

「ふん、くだらん遊びをしておる者共が、我らが神を定義して貶めようとしておる。その者共に真の神を見せにきただけよ」

「そ、そんな創世神様は」

「そんな者はおらぬ。いや、はるか昔は居られたが、今は既に居られぬ。この世界を我ら神達に移譲され、別の世界へと赴かれた。知っておるであろう、ベアル王国の王を。異世界は実在する。言うなれば創世神は世界を作るのが仕事ゆえ、別の世界を作るためにこの世界から離れた」


 ヘスター聖王国の面々にとっては衝撃的な事実であった。創世神は既にこの世界にいない。それは創世神教の根幹を揺るがすものであり、ヘスター聖王国の「聖」を否定するものでもあったのだ。


「ええい、この者は痴れ者ぞ!衛兵、取り押さえよ!」


 大司教の命令で衛兵がアマテラスとナーベステアルの周囲に駆けつけるものの、それ以上は先に進めない。アマテラスの威圧によって動けなくなるのだ。


「その者が大司教とやらか」


 アマテラスが一歩を踏み出すと威圧と殺気を大司教に向ける。大司教は自らの気力を振り絞るが、気絶しないのが精いっぱいで言葉を発することもできない。


「そこな近衛兵よ。この国に忠誠を誓うのなら、国を危うくする者はどうするのじゃ?」

「そ、それは勿論捕えて罰します」

「ではそうするがよい」


 近衛兵団長がその言葉に従い、大司教を捕縛する。また、他の団員に教会幹部の捕縛と教会の閉鎖を指示すると、アマテラスに向けて跪いた。


「我ら神は、基本的に人に介入はせぬ。また、人から神になるものもおるが、それは担当神が認めた者だけ。我らの上になる者は居らぬことを知れ。

 また、お主等が魔族と呼ぶベアル王国民だが、魔素の多いベアルの地に長く住んでいたために自然と魔素を多く使えるようになっただけの人である。元はお主等と同じなのだぞ。それに亜人とお主等が蔑む人達も創世神の造りし者達である。それを差別するは創世神、また我ら神々を愚弄するものと心得よ」


 アマテラスはそこまで言うと、ナーベステアルに合図してこの場から消え去っていった。それを境に謁見の間は混乱が広がっていく。それまでのヘスター聖王国にあった常識が神によって否定されてしまったからだ。創世神教はもう何の力も持たないし、普人至上主義も表立っては何も言えなくなってしまった。


「さて、王、私に提言がございます。お聞き頂けますでしょうか」

「う、うむ。申せ」


 ナーベステアルの提言は採用される事になり、ベアル王国との折衝を一手に引き受けることになった。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

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