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第88話 ヘスター聖王国軍

「ふむ、『影』はこちらに潜り込んでいた三隊全てを殲滅か。これは十分過ぎるほどの手柄だな」

「ありがとうございます。で、明日の我が隊の予定ですが」

「おお、明日は休養日にしていたんだったな。勿論許可だ。ゆっくり休むが良い」

「了解しました。それでは、皆に知らせてきます」


 実が辺境伯の前から退室する。辺境伯は、実が提出した報告書に目を落した。


「一番隊、三番隊は全滅、二番隊だけ半分は捕虜。流石は王の息子よな」


 その目は、以前内乱で修羅と化し敵を殲滅していった嗣治の若い頃を映していた。息子の戦いぶりは二番隊戦だけだが、その苛烈さは父親を彷彿とさせる。そして、魔法の威力は母親譲りだ。


「歴代でも最強と言っても良い王になるだろう。それに、あのサナエとかいう女性もかなりの実力の持ち主であった。異世界は平和な世と聞いていたが、なかなか侮れない人物がいるようだな」


 辺境伯はそうつぶやくと、実達の隊を軍の切り札として編成を組みなおし始めるのだった。


 その同じ頃、へスター聖王国ナーベステアル・アルファンケルは、出立の準備に忙しかった。目的地は勿論ベアル王国国境、ではなくへスター聖王国の王都である。彼はベアル王国から入手した情報を元に、クーデターを起こすべく行動を開始していた。


「政治の場から創世神教をたたき出し、正しい政治を行う。普人だろうと魔族だろうと関係ない。見よ、ベアル王国はあの内乱を異世界の普人の力を借りて終わらせ、王にまでしているではないか。我らにできぬわけはない」


 ナーベステアルの弁で、今まで抑制されてきた普人以外の獣人やエルフ達、それに寄付も満足にできない貧困層から兵になった者達の士気は大いに上がった。勿論クーデターがうまくいったからと言って、すぐに待遇が改善されるわけではないが、自分達がその先鞭をつけることに興奮していた。


「ヘスター聖王国から、偽りの『聖』の字を取る!」


 アルファンケル軍一万五千の兵は、王都から出立した正規軍に会わないよう、少し遠回りをしながらも王都へ向かう。ナーベステアルのカリスマ性と、その言葉に奮い立つ兵達は静かに、だが猛然と驀進していくのだった。


 ベアル王国王都もこの時、全軍を国境地帯へ向けて出発させていた。王自らが率いる、親征である。王都には王妃アルテリアが残り、現王体制に反感を持つ貴族達に備える。流石に普人である嗣治に反感があっても、元々王家の人間である魔族のアルテリアには弓を引くわけにはいかない。そんな事をすれば謀反人だ。貴族達は反感を抑え、各領地からヘスター聖王国国境へ向けて兵をだすのだった。


「今回は防衛戦だ。おまけに向こうの兵の方が数は多い。平地での戦は避けるのが当然だな」

「はっ、それにつきましては王太子と辺境伯より知らせが届いております。コール峡谷に誘い込むので、そこで殲滅するのが上策であると」

「ふむ、そうだな。あそこならば兵の数は気にならない。だが、先に陣を敷いておかねば崖上から狙われるぞ」

「そこは既に対処済みとの事です」

「ならばその策でいこう」


 ベアル王国軍は国境地帯の一部、コール峡谷に身を潜め、まだ見ぬ敵に備えた。


 そして、辺境伯軍は休養の後、全軍を三つに分け、国境地帯に二つを潜ませ、残り一軍二千人を使って国境の警備を厚くし、ヘスター聖王国軍の進路をコール峡谷へ向かうよう仕向けることに腐心することになる。

 具体的には実の軍がヘスター聖王国軍の少し前でうろちょろし、攻撃を受けるとコール峡谷方面へと逃げることにしたのだ。攻撃を受けると言っても実の防御結界により被害はないが、聖王国軍にはそこまでは分からない。

 しかも、その時は何故か聖王国軍側だけ被害が出るのだ。時に兵糧が焼け、時に大隊単位で落とし穴にはまり、深刻ではないが、無視するには大きい被害が出るのである。そのせいもあり、いつも取り逃がしてしまうのだった。


「ふん、いい加減イライラも頂点に達してきてるんじゃないかな」

「セコイ作戦だけど、戦慣れしていない教会幹部には効果ありそうだね」


 実と浩一郎は、作戦が上手くいっていることに満足していた。今は実の軍でも三分の一しか率いていない。残りの三分の一が夜のうちに罠を仕込み、残り三分の一が休養だ。これをローテーションさせることで疲労度の蓄積を抑えていた。


「実君は出ずっぱりだけど、大丈夫?」

「夜はちゃんと寝てるから大丈夫。浩一郎もこの後作戦推移の見直しするんだろ?大丈夫か?」

「ああ、僕は基本ここにいるだけだからね。作戦に問題が出ないかちゃんとチェックしとかないとね」

「この戦、浩一郎の作戦が肝だ。頼んだよ。あ、そうだ、今日はこんなの届いていたんだった。浩一郎にって」


 実は傍らに居た早苗に声をかけ、自室へと戻っていった。浩一郎は受け取った通信具がユーリーからのものに気付くと、すぐさまユーリーに連絡を取り、その日はたっぷりと語り合ったのだった。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

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