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第85話 討伐開始

「うーん、今回はこの作戦で行こう」

「そうだね、初戦は確実に勝っておかないといけないからね」


 実と浩一郎は、明日からの討伐依頼に向けて、作戦を立てていた。何しろ部隊の人数が百人に満たないのだ。確実に包囲して殲滅する方法は使えそうにない。資料として地図や賊の大まかな構成情報をもらっているが、それを見るに攻めにくく守りやすい、山の勾配がきつい箇所にある洞窟を拠点としているようであった。しかも木々が生い茂ってはいるものの、上の方からは何か動くものがあればすぐわかるのに対し、下からは洞窟の位置すら把握するのは難しい。


「意外と考えてあるんだな」

「そりゃ敵地だからな。あちらさんも知恵を絞っただろうさ」


 実と浩一郎は、明日の結果を万全にするため、更に打ち合わせを行うのだった。




「よし、全軍ここで一旦止まれ」


 実の号令で部隊の行軍が止まる。位置は洞窟から一キロ程離れたところで、洞窟からの見張りも見つかりにくいところだ。

 尚、実も含めて全員冒険者風のいでたちであるが、今回はあまり意味がないだろう。ただ、防寒対策だけは万全であり、雪の降る中でも満足に動けるようだった。


「これから、やつらを結界に閉じ込める。その後やつらを氷魔法で攻撃するから、その後に突撃だ」


 そう、今回の作戦は実の魔法ありきのものであった。巨大な結界魔法で賊を全員閉じ込めた後、氷魔法で動きを封じる。兵達はそれらを捕縛していくだけのお仕事だ。


「では、まず探査魔法で洞窟の中を調べる。その後洞窟の奥から氷魔法を使って結界を張っていくから、奴らは出口から出て行かざるを得ないはずだ」


 言うが早いか、実は洞窟に向けて魔力の糸を伸ばす。訓練により、魔力の糸から魔力が漏れることは殆どなく、一流の魔法使いでもない限り気付かれることはない。

 魔力の糸はするすると洞窟まで延び、中に入っていく。洞窟内の探査も兼ねているので、糸と言っても数十本がひとつのように動き、枝分かれしている箇所があれば半分、また半分と分けていけるようにしていたのが功を奏したのか、いくつかの枝分かれを経てそれぞれの最深部まで到着した時には、まだ本数には余裕があるようだった。


「うん、やはり通信魔法で定期的にやり取りしているようだ。これもそっくり頂こう」


 実が更に魔力の糸に魔力を籠める。魔力の糸の先からは物理耐性、魔法耐性を備えた氷が静かに作られ、結界の一部となっていく。

 賊が異変に気付いた時には、既に通信魔法を使える魔法使いはその姿勢のまま魔力の糸によって拘束され、洞窟の壁には薄く氷が張っている状態になっていた。見張りもこの時は魔力の糸により自分でも分からないうちに拘束されており、声を上げることもできなくなっている。


「よし、全軍前進!洞窟の入口も今は氷で塞いでいるから、奴等は中で凍えているはずだ。寒さで動きが鈍らないよう注意して事に当たれ!数は多いが可能な限り殺さず捕えろ!」

「サー!イエッサー!」


 全軍が前進を始める。その速度は決して速くはないが、まだ距離があるこの状態で急がせても疲れるだけだし、賊は逃げられないのでこの速度でも十分なのだ。


「どうやら、連携をとっている別の賊が気付いたみたいよ」

「そうか、やはりそうなるよな」


 浩子も周辺に探査魔法を放ち、他の賊の動きを探っていた。そこに引っかかったらしい。


「いけるかな?」

「うーん、どうかしら。私はこんな結界魔法なんて使えないわよ」


 浩子は基本攻撃魔法がメインであり、結界魔法はあまり得意ではない。だが、実の答えは違うものだった。


「いや、先輩にはこちらの結界内に張っている氷魔法の温度を下げてください。賊が死んでも構いません」

「で、実君たちは別の賊に当たるわけね。わかったわ」


 実は魔力の糸を実体化し、浩子に渡す。基本的にこの魔力の糸に魔力を通せば氷魔法は強化されるようにしているので、浩子でも魔力を籠めれば実の氷魔法が使えるのだ。

 これは普通にできることではなく、実の発想と実力があってこそであった。魔力と一言で言っても人によりそのパターンは異なり、他の人の魔法を引き継いで強化したり使ったりすることはできない。だが、実は浩子の魔力パターンを向こうでの特訓時に身をもって知っているので、それを魔力の糸に登録し、登録された魔力パターンの魔力であれば使えるようにしておいたのである。


 こうして、実と早苗は十人の小隊を連れ、別の賊に当たるべく移動を開始していった。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

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誤字、脱字等の指摘も待ってます。m(._.)m

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