第83話 到着
行軍中は特に書くようなイベントもなかったので、ちゃっちゃかストーリーを進めちゃいます。
と言いつつ今回も動きらしい動きは無いですが。
「やっと着いたか」
慣れない部隊を率いて国境の砦に到着した実の第一声は、疲れ切っていた。
兵士達もテンションこそ高いものの、流石に疲れが見える。それでも予定通り到着できたのは、急造の部隊にしては上出来であった。
「実君、辺境伯が来ているそうよ。こちらから挨拶に行かないと」
「そうだね。それじゃあ浩一郎と河内先輩で案内の人が来たら、兵を宿舎に連れて行ってもらえるかな」
「ああ」
「辺境伯って、コンラッドさんでしょ。私も行くよ」
浩子は辺境伯と知り合いらしい。何でも冒険者ギルドで気があい、よく組んで依頼を受けていたそうだ。それならばと三人で辺境伯コンラッド・モーベルの元へと向かった。
「お久しぶりです、コンラッドさん」
「おう、ヒロコじゃねーか。こっちは弟さんかい。姉に似ず賢そうだな」
「もぉー、私頭悪くないよ」
「本当に頭悪くなかったら山吹き飛ばすなんてしねーよ」
実と辺境伯の型どおりの着任挨拶のあとの浩子と辺境伯の会話である。あまり貴族らしくなく、気安い態度で接してくる。浩子の方も旧知の仲なので敬語もおざなりだ。
今ミノル達が居るのは砦の執務室、ではなくその横に設けられた休憩室である。王子と旧知の冒険者が挨拶に来て特に畏まって執務室で会うのも面倒なので、リラックスできる休憩室に通されたのだ。
コンラッド・モーベル辺境伯は、当年五十六歳。決して背は高くないが、それでも百七十はある。がっしりという体型ではないものの、必要な筋肉が各所についており、今でも鍛錬は欠かしていないようだ。
「さて、ミノル様。小隊以上中隊未満の援軍ですが、運用はどのようにお考えで?」
「主に遊撃ですね。ヒロコさんが鍛えたので戦力としてはだいぶ上がりましたが、他の隊との連携がまだまだです」
「そうでしょうなぁ。ヒロコに連携は似合わない。でしたら、こちらからいくつか討伐依頼を出しますので、まずはそれをこなしてこの辺の地理を覚えて行かれてはどうかな?」
「それはありがたい!地図だけでは分からないところもありますから、実際に確認できるのは願ってもない事です」
実と浩一郎にとっては願ってもない申し出だった。この辺りは実も早苗との旅では通らなかったところなので、イマイチ地理に自信がなかったのだ。
勿論辺境伯側にもメリットはある。情報は掴んでいるが規模が小さく、正規の駐留軍を動かす手間を考えるとあまり旨味がない。しかも、これが他の箇所と連携していた場合は尻尾切りになってしまって相手に警戒心を与えてしまい、情報を集め辛くなってしうのだ。
これをミノルの軍で討伐した場合は、人数の少なさから正規に配属された軍とは思われず、与える警戒心も正規軍に比べれば少なくなるというメリットがある。装備も冒険者っぽくすれば尚良いだろう。
「辺境伯のお考え通り、装備は冒険者風にバラバラにしておきましょう。出発は明日朝にしますが、その前に周囲に敵の斥候がいないかの確認をお願いします」
「勿論だ。王子も腹心が頭良くて良かったな」
「ははは、そうですね」
言外に姉は頭が良くないと言っているように感じられてすぐには肯定しかねるが、浩一郎の戦術眼には期待している。実の返答は苦笑交じりの肯定であった。
「そこのお嬢さんだが、結構やるな。この後で手合わせ願ってもよいかな?」
「こちらからもお願いします」
浩子から「辺境伯って強い人には模擬戦を挑んでくるのよ。特に早苗さんは正式な地位もないし、注意しときなさい」と事前に言われてなければ、その腰の軽さに驚いたかもしれない。だが、早苗も武人である。辺境伯の実力が自分以上と見て、良い機会だと思ったようだ。
「魔法は禁止、獲物は訓練用で良いかな。剣のレベルが知りたいから、わしの方はそれで問題ないだが」
「私もそれで問題ありません。どうせ魔法は使えないのですし」
「そうだったか。だが、その刀は魔剣ではないのか?」
「いえ、違いますが」
「ふむ、どうやら王子もその刀については知らぬご様子。その刀はどうやら魔力を流すことで切れ味を向上させるようだ。属性魔法を纏わせるより良いかも知れんぞ」
「えっ、そうなのですか。実家に代々伝わる刀だったのですが、そんな能力があるとは…」
早苗が吃驚している。地球の刀に「魔力」に反応する能力があるとは考えられなかったのだ。だが、その刀にはこういう言い伝えがあるのだった。
「心を籠めれば鋼をも両断する」
どうやら、地球では「心」を籠めることが「魔力」を籠めることと同義であったらしい。実達はその言い伝えを知らないがためにそこまで気付かなかったが、その意外な能力に喜ぶのだった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
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いやー、これってテンション上がりますね。このところ仕事で書き溜めをする時間すら取れずテンション下がり気味だったのでありがたいです。
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