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第81話 特別な部隊

 鍛錬場には、三十人程の兵士が一人を囲っていた。壁際には、気を失っているであろう兵士もかなりの数が居る。囲まれている一人は実で、囲っているのは部隊の兵士だろう。気を失っているのは、既に実に倒された兵士と思われる。


「これは…」


 思わず声が漏れた浩一郎に気付いた実が、訓練終了の合図をする。兵士たちは囲みを解いて整列するが、皆疲れ切っているのが見て取れる。


「あぁ、編成時に人となりよりは実力を優先したからな。こちらの力も見せとかないと、いざという時言う事を聞いてくれない可能性があったんでね」


 兵士達は今まで表に出てこなかった実の実力を疑っていて、かなり舐めた態度を取っていたようだった。そこで最初は早苗が、次に実が十人程と模擬戦を行ったところで乱戦になったようだった。


「早苗さんは?」

「あぁ、こいつらに使わせる武器を見に行ってもらってる。基本は剣だけど、長柄の武器もあった方が良いってさ」


 その早苗は武器庫にいた。保管してある剣を一つ一つ確認しつつ、ノートに記入していく。その際、剣の柄にも番号を記入するのを忘れない。

 編成された兵のうち、最後まで立っていた兵には長柄の武器が良いと考え、そちらも確認済みだ。気を失った兵は強さはともかく勇猛さはあるので、剣でも大丈夫だろうという早苗の考えは実と同じだった。


「思ったより状態の良いのがないわね。やっぱり平和になってから実戦をしなくなった弊害かしら」


 早苗は一人溜息をつきながらも、武器のチェックを続ける。この世界、武器での闘いだけではなく魔法も使うため意外と近接戦闘は少ない。特にベアル王国は魔力が普人より多い魔族の国だ。近接に持ち込む前に魔法で何とかするのが定番の闘い方であった。

 そういう意味では浩子や実は、ベアル王国の典型的な戦い方がメインとなっている。だが、この二人も近接戦闘ができないわけではなく、普通の兵士とはレベルの違う戦い方もできる。


 チェックを終えた早苗が戻ってきたのは、河内姉弟が実と合流した一時間後だった。鍛錬場では気を失っていた兵も起き上がり、浩子と実の指導のもと訓練を行っている。

 早苗が戻ってきたのに気付いた実が片手をあげて休憩を告げると、兵士達はへなへなと崩れ落ちた。河内姉弟が合流した後は、ほぼ全力での訓練だったようだ。浩子はけろっとしているが、戦力把握のためにあちこちチェックしていた浩一郎は少し疲れているように見える。


「どうだった?」

「うーん、武器は全員分というのは無理ね。数はあるけど、手入れされてないからボロボロのが多いわね」

「それなら盾を持たせよう。タンク役と中距離、遠距離攻撃役で一グループとして、編成すればいいんじゃないかな」

「それで行こう。乱戦になるとまずいけど、そうなる前に引くか押し切ればよい戦法だ」


 浩一郎には、既に戦術の雛型があるようだ。王子直属の部隊とは言っても百人程度。大した戦力でもないし、大きく戦局を動かせるわけでもない。だが、浩一郎の頭の中ではこの部隊を最大限に生かす戦術がシミュレーションが行われていた。敵の戦力は嗣治に聞いていたが、過小評価してはいけない。逆に最悪の状態を考えて手を打つのが参謀の役目だ。浩一郎は、この役目を与えてくれた嗣治に感謝しながらも、姉の手綱をとる難しさに頭を悩ませるのだった。


「で、この兵士達はどんな人達なの?」


 浩子が実に質問してきた。どう見ても普通の兵とは思えない。装備も練度もバラバラだ。


「貴族の三男以下と、近衛兵からあぶれたやつらだな。練度が低いのが貴族、練度は高いが協調性があまりなさそうなのが近衛兵くずれだね」

「近衛兵くずれはどうにかなるけど、貴族は使い物になるの?」

「なるんじゃない、するしかないんだ。意欲はあると思うから、特訓を続けるしかないね」


 貴族の三男以下は王子直属の部隊で戦果を上げれば、新たな爵位を与えられ家をたてることができる。基本、彼らは実家で兄達の部下になるか、家を出て平民として暮らしていくかしかないので、このようなチャンスは逃したくない。


「それじゃ、特訓は私に任せて。しっかり鍛え上げるから」


 大学では教育学部にいるという浩子が立候補する。先日の特訓を思い出し、「ご愁傷さま」と兵士達に言いたくなる実達であった。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

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