第80話 嵐を呼ぶ姉と巻き込まれ弟
2016/10/16
話数を間違えていたので修正しました。
「うーん、久しぶりの王城だけど、変わってないわねー」
「そうそう変わるもんじゃないでしょ。ほら、王様のところに早く行かなくちゃ」
とある姉弟が王城の正門へ向かっている。着衣はこの世界のものではない。姉は白いシャツの上に紺色のスーツ、タイトスカートも紺色で、所謂リクルートスーツ姿だ。弟はいつも着ている学生服姿である。
「あ、久しぶり~。元気でした?」
「げっ!あぁ、元気にしてますが、何用でしょうか」
「私達、王様に呼ばれて来たんですけど。何か連絡来てません?」
「えーっと、ああ、来ていますね。案内の者を来させますので、こちらで暫くお待ち下さい」
守衛は河内浩子の事をよく知っていたようだ。浩一郎は心の中で大迷惑をかけたんだろうなと思いつつも、それを顔に出すことなく守衛所の椅子に座る。姉もその隣の椅子に座ると、浩一郎に向かって言った。
「ねぇ、本当に戦争が始まりそうなの?」
「木葉君から聞いただけだから分からないけど、不審な事件が何度か起きたのは確かだよ」
「確かに攻め時ではあるのよね。まだ内乱の後片付け終わってないし、兵も多くはないし」
「だから姉ちゃんなんだろ」
「確かにね」
ふふん、と浩子はドヤ顔で胸をはる。確かに少数で多数を相手取るのに浩子の力はうってつけだ。実もかなり広範囲に術式を展開、顕現させることができるが、浩子はそれ以上の範囲と威力を誇る。だてに「災害」の二つ名は持っていない。
そうこうしているうちに守衛が案内人を連れてきて、二人は席を立って王の元へと向かうのだった。
王の執務室、河内姉弟と嗣治の他にも客人がいた。その人物は河内姉弟に向かって軽く会釈すると、再度嗣治の方を向いた。
「今回の戦、神々は表立って動きませんが、何かあれば手を回すことはできますから」
「いや、そこまでして頂くわけには…」
「あの宗教には皆頭にきているんですよ。私が抑えきれないくらいに」
やはり、神々の間では創世神教は嫌われているようだ。何しろ自分達を「下位」と位置付け、信仰によりそれより上位になれる等と言われて受け入れられるわけがない。
今までは主神アマテラスが抑えてきたが、それも限界のようであった。だが、表立って動くのは神としてのルール「基本的に非干渉。自分の担当で問題が発生した時だけ対処」を破ってしまうことになる。
「では、ミハル様をまずは保護してください。彼女は神になって短く、武力もない。狙われる可能性があります」
「それは勿論行います。この戦の間、神は神域にて待機を命じていますので、ミハルもそこに来なければいけません」
「アマテラス様、私の魔力をもう少し…」
「ヒロコ、あなたはそれ以上魔力を多くしてどうするのですか。既に大陸一つを更地にできるくらいの魔力があるのですよ」
「えー、やっぱり多い方がいいじゃない。魔力が枯渇するのは嫌だし」
「それよりも、姉だけではなく俺も呼ばれた理由ですが…」
「浩一郎君には、お姉さんの手綱を握ってほしいのと、参謀として実の部隊に参加してほしい。短期留学の時の報告書を見せてもらったが、戦術、戦略共によく考察されていた。今の軍にはそこまで考えられる人間が少なくてね」
浩一郎は浩子の手綱を握らなくてはいけないという嗣治の言葉にがっくりきたが、その後に続く言葉には嬉しそうだった。彼は戦略シミュレーションゲームや戦術シミュレーションゲームが大好きで、過去の戦略、戦術を研究するのが趣味だったのだ。
勿論、部下になる人間は軍の人間で自分より年上だし、上司は同級生だ。大した事は出来ないだろうが、浩子というある意味最終兵器もこちらにはある。うまくすれば地形を変えなくても勝てるだろう。最悪は地形が変わって勝つことだろうが。
いくつかの打ち合わせを行った後、河内姉弟は新たに編成されたという実の部隊を見に鍛錬場へと向かった。今の時間は実も交えて鍛錬を行っているらしい。
「どんな部隊なのかなぁ」
「ま、私がいれば戦う必要もないでしょ」
「姉ちゃんは基本支援だよ。地形が変わってしまうような攻撃魔法はこちらにも被害が出ちゃうから」
「えー、そんなぁ」
そんな事を言いつつ、鍛錬場へ着くと、そこは予想外の光景が繰り広げられていた。
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