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第8話 飛竜( not ワイバーン)との戦い

「で、最後はワイバーン退治ですか。」

「依頼通り、ワイバーンなのです。」

「うん、確かにそうだね。ワイバーンの群れだね。」


 三つ目の依頼はワイバーン退治であったが、オーガと同じく魔物が群れで居たのを確認した実は、投げやりに言った。既に頭の中では、母親からの新たな課題について、何を言ってくるかの考察に入っている。


「さすがに、こんな状態は予想していなかったのです。」


 ところが、アルテリアからの返事は、こちらも予想していないものであった。えっという顔をしてアルテリアを見ると、何やら難しそうな顔をして考え込んでいる。


「うーん、ここは実に攻撃魔法のみでいってもらうのです。私は結界代わりにシールドを張るから、逃げられる心配はないのです。残念ながら、伊倉さんは今回は私と一緒に居るだけになってしまうのです。」

「そうなんですか。やっぱ魔法使えないと、こういう時困りますね。

 それじゃ、木葉君、頑張ってね。」


 やっぱりロクな事を考えてなかった。今度は動きの速いワイバーンに対して物理攻撃を封じて、魔法のみで戦わせようというのだ。先程のオーガとは逆のパターンである。多分術式展開の速度向上と、狙いの正確さ向上を狙っているのだろう。早苗の方は今回全く出番がないからか、気楽に手など振っている。


「それじゃ、術式を展開するよ。」

「んー、ちょっと待つのです。今回は、範囲魔法で行くのです。できるだけ少ない回数で倒しきるのです。」


 意外だった。だが、範囲攻撃魔法であれば、細かい調整をしなくてすむ。実は、ありったけの魔力を込めて、術式を展開した。


「それじゃ、顕現させてみるのです。」


 アルテリアのその言葉を合図に、魔法を顕現させる。

 斑大熊の時を遥かに超える冷気の波が辺り一面に満ちていく。

 魔物達が周囲の異常に気付いた時には、アルテリアの張ったシールド内は、かなりの低温になっており、三人を除くと満足に動ける生き物はいなかった。


「ギャアッ。」


 また一匹、魔物が飛び立とうとして失敗し、そのまま地上に落下する。羽には薄っすらと氷がついており、かなり重そうだ。また、その寒さから満足に筋肉を動かすこともできないであろう。何匹かが地上に落下してもがく中、実とアルテリアに気付いた魔物も現れた。ただ、それらは気付いたは良いものの、実達に攻撃できるような位置におらず、また動けない。


「ギャッ!ギャッ!」


 一匹の魔物が短く鳴くと、数匹の魔物が固まってそのうち一匹をガードするような形を取り始めた。そして、ガードされた一匹が、なんと魔法の術式を展開し始めたではないか。


「ワイバーンって、魔法使えたの!?」

「そんな話は、聞いたことないのです。もしかして、こいつらワイバーンではなくて本当の竜の可能性があるのです。」


 ワイバーンは、飛竜とも呼ばれるが竜ではない。実際には竜とは全く別系統の生き物である。言うなれば、飛ぶトカゲと言っても過言ではない。前足が鳥や蝙蝠と同じように、翼になっただけである。ただ、大きさがトカゲというにはでかすぎるが。

 それに対して本当の飛竜は、ワイバーンとは異なり前足は翼になっておらず、別になっている。つまりワイバーンより、前足の分だけ自由になる足が多い。それでもワイバーンと間違われるのは、単純にどちらも詳しい目撃例が少ない為であり、特に飛竜に関しては、それを見ることなく一生を終える人間が大多数である。

 よって、アルテリアであっても飛竜とワイバーンを見比べた事はこれまで皆無であり、それに気付かなかったのであった。

 尚、ワイバーンは中位の中くらい、飛竜は同じ中位でも上位にかなり近いところと、その実力はかなりの差がある。


「どうしようか…。」

「うーん、温度をもっと急速に下げて凍らかしてみる事は可能なのです?」

「やってみるよ。」


 言うや否や、実は魔力を込め、冷気を強める。更に温度が下がり、木々や草花は完全に凍ってしまったようだ。ものによっては、そのままバラバラに壊れてしまったものもある。

 これにより、更に数匹の飛竜が命を落としたが、先程までよりはペースが悪くなっている。そして、術式を展開させた飛竜が、火の玉を顕現させた。何匹かは、複数の火の玉を顕現させて、三人に攻撃してくる。しかし、それはアルテリアが展開しているシールドに阻まれて、全くダメージを与える事ができなかった。


「先ずは周囲や自分達の温度を上げて、動きを取り戻そうとしているようなのです。」

「それじゃ、こっちも温度の変更の仕方を変えてみるよ。」


 実はあっさりと「温度を下げるイメージ」での冷気での攻撃を諦めると、顕現している冷気の魔法を「空気中の分子を固定させることでその空気に触れている物体の温度を下げる」イメージの魔法に置き換えた。一旦顕現している魔法を別の魔法に置き換える事は、殆どの場合失敗するために勧められていない。しかし、イメージこそ違えど同じ冷凍魔法であるし、術式展開のロスを減らすためにも実は置き換えを選んだ。


「この方法だと…。」


 そう言うと、三人を中心とした半径一キロの半球の世界は、あっと言う間に何物も動かない、死の世界に変わっていった。それには流石の飛竜も抗えない。樹の上にいた飛竜達は次々と地上に落ちていき、そのまま落ちたガラス細工のようにバラバラになっていった。




「これは、イメージの勝利と言って良いのかもしれないのです。」


 実が分子固定の冷凍魔法に切り替えてから三十分後、全ての飛竜が息絶えた中、三人は飛竜の魔石集めを行っていた。

 見える範囲全ての飛竜が動かなくなったのを確認してから冷凍魔法を解除し、ある程度通常温度に戻るまで待っていたのに必要な時間が三十分だったのだ。


「確かに分子の動きが熱と関係あるのは知っていたけど、イメージでここまで変わるもんなんだね。」

「まさか、ここまでとは思っていなかったけどね。ただ、飛竜の中の方まで固まらなかったのは幸いだったよ。」


 確かに、凍っているのは飛竜の体の表面から十センチくらいのところまでで、肺などはカチカチになっているが、空気に触れない中心部はまだ柔らかい状態を保っている。おかげで魔石も粉々にならずに収集することができ、飛竜の肉も採っておくことができるのはかなり良いことであった。


「今晩は、飛竜の肉を調理してみるのです。以前から絶品と言われていたので、楽しみなのです。」


 どうやら飛竜の肉も、需要は高いようだ。再度魔法の箱を創り出すと、そこに飛竜の肉と魔石を放り込んでいく。オーガの時も感じたが、中の容量によって消費魔力が変わるわけではないようだ。おまけに、かなりの量が入るみたいで、全ての飛竜を入れてもまだ余裕がありそうだった。




「今度は飛竜ですか!依頼内容の確認方法に問題があるとしか思えません。」


 冒険者ギルドの王都支部長が、アルテリア達の戦果を見て嘆く。三つの依頼のうち、二つの依頼でターゲットとなる魔物が違っており、しかもどちらもかなりレベルに差があるものがでてきたのだ。

普通の冒険者だったら、戦う前に逃げるか、なす術もなく殺されてしまうかだろう。

 ワイバーンと飛竜に関しては、アルテリアも最初分からなかった位なので仕方がない部分もあるが、ゴブリンとオーガは明らかに確認ミスで済ませられない。


「申し訳ございません、アルル様。お詫びに追加報酬としたいのですが、何分飛竜討伐そのものの例が少なく、どの程度になるのか算出に時間がかかります。

 そこで、本日中には算出を終わらせますので、明日にまた来て頂けないでしょうか。」


 アルテリアはそれを了承すると、取り敢えず魔石のみ納品してから城に戻ることにした。飛竜の肉については、城の料理人に料理してもらってからどうするか決めることにしている。


「飛竜の魔石が八十六、と。一つでも銀貨レベルですのに、これだけでもかなりの金額になりますよ。」

「へぇ、という事は、大銀貨か金貨のレベルって事ね。」

「そうなるなぁ。さっき口座作っておいて正解だったかな?」

「母は、意味のない事はしないのです。認識を改めるのです。」


 買い取り金額だけでこの有様だ。報酬も含めた金額は如何程になるのか、多少不安になりながらも三人は城に戻って行った。



見て下さってありがとうございます。

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