第72話 お風呂同盟 ~ その1~
一話で終わらせるはずが、思ったより長くなったので二話で分けました。
早苗視点になります。
次々回から、また高校に戻ります。
「ミハル様ー、お風呂行きませんか?」
普段は神々を祀る神殿で寝起きしているミハル様だけど、今日は迷宮から帰ったばかりなので私達と一緒にお城に泊まっています。
神殿では元メイドのカーラさんがお付きで居るのですが、今回は旅に出るので休暇を取ってもらっていました。なので、今は本当にミハル様の他は誰もいません。
「え、私一人で…」
「いや、一人はまずいですよ。護衛を兼ねた人と、必ず一緒に入らないと」
元男の子だったからでしょうか。ミハル様は恥ずかしがって一緒に行こうとしません。
更に聞いてみたら、神殿でも一人で入浴していたとの事。
その場合は、浴場の外に警備の女性神官兵と、お付きのカーラさんが立哨していたそうです。
でも、今は女の子なんだし、髪の毛やボディケアもちゃんとやらなきゃいけないのにできてないようなのは許せません。他の神様からの引き継ぎに伴うお勉強で女性としての勉強も受けたそうなのですが、どうやらあまり頭に残っていない様子です。
「神様と言っても女の子なんですから。髪の毛とかちょっと痛んでるから、ちゃんと洗えてないでしょ」
「ううう、慣れないものですから…」
「そういうところも、教えてあげますよ。さぁ、一緒に行きましょう」
私は二人分のお風呂の準備をし、ミハル様の手を取った。
ミハル様はあぅあぅ言いながらも私に引っ張られるままについてくる。妹が居れば、こんな感じなのかもしれないね。
神様とは言っても、元は同じ日本人だ。こちらの世界の人と比べると親近感がハンパない。
「今日はじっくりゆっくりと入りましょうね」
「えぇ~、そんな、恥ずかしいです…」
顔を真っ赤にして俯くミハル様。女の私から見ても、とても可愛らしくて庇護欲をそそられる。
やっぱり元男の子とは思えない。今度湯前さんに向こうではどうだったのか確認してみよう。
あ、お風呂の件は言わない方が良いかな。
到着したお風呂は、中世ヨーロッパ風のお城に全く似合っていなかった。
なんと「男湯」「女湯」ののれんがかかっているのだ。
まぁ、何度か入らせて頂いているのでもう慣れたが、これを最初に見たときはびっくりした。
ミハル様は最初に来たときくらいしかここを利用していないらしいので、まだ違和感があるようだ。
「いつみても、違和感感じますね」
「そう?私は慣れちゃった」
暖簾をくぐって脱衣所に入る。
そこも純和風で懐かしさも感じられる、棚に脱衣籠が置かれ、床は板張りの日本の温泉施設によくある様な脱衣所だった。
「流石にコインロッカーは無いのね」
「そこまでは…」
ミハル様は否定したが、体重計と冷えた牛乳類が入ったケースを見ると、最初は作るつもりだったのではないかと思えてくる。
私は側の籠に着替えを放り込むと、まだもじもじしているミハル様の着替えを取り上げ、別の籠に丁寧に置く。自分のならまだしも、他人のものを雑に扱ってはいけない。
「ではミハル様、服を脱ぎましょうねー」
「え、いや、自分で…」
「いえいえ、お手伝いさせて頂きますね」
そう言いながらも、なかなか服を脱ごうとしないミハル様の背後に回り込んで、あっという間に服を脱がせた。
「ひぃぃ、襲われるぅ」
「お、襲いませんよ。私もすぐ準備しますから、ちょっと待ってて下さいね」
私も手早く服を脱ぐ。身体を洗う為のタオル類を手に持つと、ミハル様の手を引いて浴室のドアを開けた。
「ここまで和風だと、ホント温泉旅館みたい」
ミハル様の感想ももっともだ。
流石に床はタイル張りだが、十畳はありそうな巨大な檜風呂に、竹らしきもので作られたお湯の給水口。壁には四角い鏡がいくつもはめ込まれ、シャワーと蛇口も取り付けられている。
これはまさしく旅館のお風呂だ。
私はミハル様の手を引いたまま、体を洗うために壁の方へ向かう。ちらっとミハル様の方を見ると、顔を真っ赤にして俯いてとぼとぼとついてきている。
(これはヤバい。可愛がりたくなる)
きっと日本でも、同級生や上級生の女子には人気だっただろう。主にマスコット的な意味で。顔は殆ど変わっていないそうだから、特にそれが容易に想像できる。
そのまま壁際の椅子に座らせ、洗髪や身体を洗う際の注意点を念入りにレクチャーする。髪は気付かなかったようだが、身体は男性だった時に比べて皮膚が弱くなったので優しく洗うようになったそうだ。きちんと洗えているようで、私より白くきめ細やかな肌をしていた。ちょっと嫉妬しそう。
先に浴槽に行っててもらい、私も洗髪を始める。目を前に向けると、鏡の向こうでミハル様が湯船の中でとろけているのが見えた。私も早めに浴槽に向かうとしましょうか。
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