第71話 夕食会(?)にて
お待たせしました。
「ミノル様、サナエ様、初めまして。エストード伯爵の長女、エヴァンジェリンと申します。今後とも宜しくお願い致します」
「ああ、今後とも宜しく」
夕食会というか、これじゃパーティだよ。俺も早苗さんも、挨拶責めで夕食会という名前とは裏腹に全然食事にありつけていない。しかし、二人でいるのに貴族のお嬢さん達がこぞって挨拶に来るのはあれかね、側室狙いなのかね。
あと、ミハル様は逃げた。今頃厨房へでも行って賄いでも食べてるだろう。俺もそっちが良いんだけど、主役だからなぁ。
「ミノルさん、お疲れ?」
早苗さんが俺の方に言葉をかけてくるが、真意は言葉通りではないだろう。安心させてあげないとな。
「あぁ、早苗さんがいるから大丈夫だよ」
俺の返事が嬉しかったのだろう。早苗さんが俺の方を向いて少し微笑んでくれた。だが、その早苗さんもかなりお疲れのようだ。どこかで休憩させよう。
そう思った俺が周囲を見渡すと、ナーダさんが小さく手招きしているのが見えた。早苗さんに合図し、二人でそちらへ向かう。その間にも挨拶にこようとする者がいるが、そんなもの無視だ。殊更親密さを見せつけるように腰に手を回して早苗さんと密着した状態で移動すれば、そうは声もかけられまい。
「実君、ちょっと恥ずかしい…」
「ごめん、この方が声かけられないから、もう少し我慢して」
小声で会話しながら移動するが、それすらも側室狙いには牽制になる。そのまま俺達は注目こそ浴びたものの、スムーズにナーダさんのところへたどり着くことができた。
「お熱いことでござんすな」
「もう勘弁してください。慣れない挨拶責めで、もうヘトヘトです」
ナーダさんの軽口にも、まともに返事する元気がない。取りあえず早苗さんをナーダさんに預け、リンちゃんと一緒に食べ物を取りに行こう。
「早苗さん、悪いけどもうちょっと待ってて。食べ物を取ってくるよ。」
「ごめんなさい。ナーダさんとここにいるわ」
「了解。リンちゃん、一緒に食べ物取りに行こうか」
「うん!」
リンちゃんは癒しだな。
沢山取ってしまうと目立ってしまうので、さりげなく多すぎない程度に皿に盛る。リンちゃんも取ってきてくれるので、それはこっそり空間魔法でしまっておこう。
早苗さん達のところへ戻ってひっそりと目立たないように食事をし始めたが、やはり視線は感じる。うーん、俺だけなら兎も角早苗さんにはプレッシャーだよな。そっと移動し、早苗さんを他から見え辛くする。ナーダさんは気付いたようだが、特に何も言わず微笑んでくれた。間違ってはいなかったようで安心だ。
こうして、俺のお披露目を兼ねた夕食会も終わったところで、父ちゃん、ナーダさん、リンちゃん、早苗さん、俺の五人は、私室へと集まった。リンちゃんがプレゼントをくれるのだそうだ。
「これね、ようこおねーちゃんにもあげたの」
「ありがとう。とってもかわいいリボンね」
リンちゃんがくれたのは、リボンだった。見た目は百均の安っぽいリボンだが、ものすごい加護がかけられている。ナーダさんからリンちゃんがかけてくれた事を教えられ、再度「ありがとう」と言いつつ頭を撫でてあげると、目を細めて喜んでいた。
このリボンの加護だが、湯前さんにあげたのとは違うらしい。教えてもらったら、確かに違っている。
湯前さんのリボン:状態保持、防御力倍増、限界突破
早苗さんのリボン:状態保持、身体強化、限界突破
俺のリボン :状態保持、魔法効率化、限界突破
早苗さんの「身体強化」は、力、敏捷度等が向上するらしい。素早い動きで剣を振るう早苗さんにはぴったりの加護だ。
俺の方は「魔法効率化」。今まで以上に魔力制御が細やかに行えるようだ。
リンちゃんが頑張って付与してくれたリボンを、とりあえず懐に入れておく。早苗さんなら大丈夫だが、俺の場合はあまり目立つところにつけられない。中が空洞の腕輪でも買ってきて、そこに入れておこう。
さて、明日は日本に戻る日だ。ゆっくり休むとするか。
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