第70話 迷宮へ行こう ~ 今後について ~
話が進まなくてすいません。
大騒ぎの謁見から一夜が過ぎた。気の早い連中は自分の領地に早馬を出し、贈り物の選定を始めようとしている。まぁ、来年とは言ってももう秋だからあと数カ月の話なんだよな。
俺達はそれぞれ個室を与えられ、それぞれの部屋の前には俺の作ったゴーレム達が護衛として立ち塞がっていた。昨日、ゴーレム達の事も発表され、「このゴーレムに害なす者は王家に弓引く意思があるものと見做す」という王の言葉もあって押し入ってこようとする者は居なかったようだ。
「しかし、今日からはここではこの格好なのかよ」
中世風の煌びやかな服をクローゼットから出して、溜息をつきながらも手早く着ていく。早く着替えをしないと侍女連中がやってくるからね。今までは目立たないように他の兵士と同じような格好をしていたのに、王子という身分が確定した途端この格好だ。
着替えて部屋を出ると、まずは早苗さんの部屋に向かう。昨日はフリーズしていたから、ちょっと心配だったのだ。
「早苗さん、入っても大丈夫かな?」
「あ、実君、ちょっとまだ準備終わってないから、あと十分部屋で待ってて。私の方から行くよ」
女性の着替えは長いが、早苗さんはいつも早かった。だけど、今日はそうもいかないみたいだ。仕方なく部屋に戻ると、侍女が待機していて、俺の着こなしにダメ出しをし始めた。曰く襟が曲がっている、ボタンは一番上まできちんと止める、髪の毛がホザボサのまま。
それらを聞き流しながら、早苗さんが来るのを待つ。既に十分は過ぎたと思うが、まだ来る気配がない。
「他の連中も、君たちみたいな侍女が行っているのかい?」
俺は入口で待機している侍女に問いかけると肯定の返事が返ってきた。うん、これはかなりかかりそうだな。
結局早苗さんが俺の部屋に来たのはそれから更に三十分経過した後だった。いつものラフな格好ではなく、ドレス姿だ。ドレスについては詳しくないが、露出も少なく色も落ち着いた青系統のものだ。早苗さんはちょっと動きづらそうだが、ここまで公になってしまっては仕方がない。
「昨日はちょっと吃驚しちゃったね」
「そうだなー。おかげで身動きがとりづらくなっちゃったな」
「そうだね」
軽く会話をしながら、早苗さんと部屋のソファーに並んで座る。早苗さんはドレスの皺を気にしていたが、侍女が気を利かせて手伝っていたので大丈夫だろう。ふと時計を見ると朝食まではまだ少し時間があるな。軽く今後の予定でも話し合おうか。
「今日、明日は動けそうにないかなぁ」
「そうね。それでなくてもこの格好だもの。朝練もできそうにないわ」
「あぁ、無理っぽいね」
そんな話をしていたら、ドアをノックする音が聞こえてきた。
「ミノル様、サナエ様、朝食の準備が整いました」
何はともあれ、朝食は食べないとね。俺も早苗さんも朝食はきちんと食べる方だ。今日はどんな朝食なんだろう。そう思いながら、食堂へと向かった。
朝食は父ちゃんと俺、早苗さん、ミハル様の他、何人かの事情を知る者が一緒だった。そこには昨日の貴族もいた。
「ミノル様、昨日は失礼しました。私ヨラク領領主の息子、トマス・ヨラクと申します」
「ヨラク殿は王家の親戚にあたる方だ。俺も良く相談に乗ってもらってる」
「そうだったんですね。こちらこそ、宜しくお願いします」
トマスさんは公爵の息子とは思えない気さくな方だ。昨日も父ちゃんとトマスさんで打合せを行った上での謁見だったそうだ。魔族至上主義者達が担ぎ出しそうだが、自分は至上主義者ではないし、向こうの世界の技術にも興味があるから今の状態が壊れるのは嫌なのだそうだ。
早苗さんとミハル様は、身内とは言えあまり面識のない人達がいるので一夜漬けのテーブルマナーを駆使して朝食を食べていた。これでは味もあまりわからないだろう。助けてあげたいが、今後も必要になるだろうから放っておこう。
「ところで、ミノル達はいつまでこっちに居るんだ?」
父ちゃんの言葉に、俺達の頭上に一瞬疑問符が浮かぶ。そう言えば、いつまでとは決めていなかった気がするな。
「明日ナーダとリンが戻ってくるらしくて、入れ違いにならないようにしたいのだそうだ」
「そうですか、それなら明日までは居ますよ」
理由を聞いて納得した。確かに入れ違いは良くないな。早苗さんもリンに会えるのが嬉しいのだろう、顔が綻んでる。
「それじゃ、今日はこの後大臣達との会議にも参加してもらうから。夜はごく一部の貴族達との夕食会もあるから期待しとくんだな」
悪戯っ子みたいな表情の父ちゃんの言葉に、俺と早苗さんは先程までの明るい雰囲気から、絶望の表情になるのだった。
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