第68話 迷宮へ行こう ~ 王城への帰還 ~
「くそっ!担当神が居るなんて聞いてないぞ!」
ボス部屋から更に先にあるコアの部屋。そこで俺達に捕えられた男が、そう言って毒づいた。
「まぁ、普通はそう思うよな。だが、これが現実だ」
「何で魔族如き連中のベアル王国ばかり…」
「逆に問おう、お前の国は他種族を認めていないんだろ?」
「当たり前だっ!はっ!」
こいつバカだ。これでは黒幕がヘスター聖王国だと暴露しているようなものだろう。同じ普人至上主義でも、ナスライア帝国ではここまで露骨なマネはしない。あっちは帝国とは言っても、商人の国と言っていいからな。
「兎に角、こいつの能力を封じてからコアを戻しましょう。ってミハル様?」
ミハル様の様子がおかしい。何かそわそわしてこちらに目を合わそうとしない。
「…コア、どこの亜空間に入れたか忘れちゃった」
全員がずっこけた。
結局コアを見つけることは断念し、迷宮の外へ出る。勿論盗賊共も一緒だ。ゴーレム達が周りを固めているので、逃げ出そうとするものは一人もいない。いや、一人いたが、速攻で捕まってとっても恥ずかしい縛られ方をしていた。おっさんの亀甲縛りなんて誰得なんだ。
「兎に角、依頼は達成だよね。補習はないよね?」
「いや、俺らに聞いても分かりませんて」
ミハル様は、よほど補習を受けたくないようだ。まぁ、普通の学校の補習もあまり受けたいものではないので、その気持ちは分からないでもない。
しかし、ミハル様に課題を出した神様って誰だろう?なんて埒もないことを考えながら迷宮を出ると、学校で見たことのある男性が出迎えてくれた。
「ミハル、課題は無事終了かね?」
「は、ははははい」
この男性は武芸担当神。武芸一般を司る神様だ。かなりしごかれたんだろう、ミハル様が子羊のようにプルプル震えながら答えている。
「ふむ、転移罠の封印はできている、と。コアをどこに閉まったのかを忘れたのは減点だが、まぁ問題ないだろう」
「本当ですか!?」
「ああ、俺は嘘は言わねぇよ。ただ、実際に判定を下すのは主神であるアマテラス様だ」
アマテラス様。日本の天照大神と同じ名前だが、違う神様だ。何でも、元は名前が無く、ただ「主神」としか言われていなかったのだが、日本の神々と交流を持つようになってから天照大神より「同じ主神なんだし、名前も同じでいいんじゃない?」と提案されたのが切っ掛けで名乗るようになったらしい。
結構いい加減なんだな。
「はいはーい、主神のアマテラスですよー。ミハルちゃんの課題だけど、一応合格ね。だけど、コアはちゃんと探しておいてね」
後ろにいきなり現れたアマテラス様に、俺達は吃驚した。この主神、普段はきちっとしているくせに、たまにこんな風にお茶目な事をするのだ。
さらさらの金髪ストレートヘアを腰まで伸ばした、パッと見二十歳くらいの絶世の美女がボンキュッボンな肢体を白いドレスに身を包んでニコニコと微笑んでいる。ディバインとサフィアスは初めて会うのか、見とれているようだ。
「ミノルさん、ご苦労様でした。ミハルちゃんの課題につきあって頂いて、アマテラス感謝しております」
「いや、どちらかと言うとこっちの都合にミハル様を巻き込んだようなものですから」
「いえいえ、ミハルちゃんに神としての自覚を促す為にはこのような試練は必要ですから、今回のような事は好都合だったのです」
アマテラス様が俺に頭を下げる。そんな大層な事はしてないんだけどなぁ。早苗さんもちょっと複雑な顔をしているし、ディバインとサフィアスは驚愕の表情だ。そりゃ主神が頭を下げるなんて、普通はありえないもんな。
「聖王国には、罰を与えたいところですが、私達神にも事情というものがありまして…」
「あぁ、基本不介入でしたっけ」
「そうです。今回のように職分を侵された場合は排除しますが、それ以外では基本的に人の世に介入はしません。ミハルちゃんや、知恵の神のように人の世に住むのが好きな神は、この限りではありませんけどね」
そっかー、知恵の神も人の世に居るんだ。どんな人なんだろうね。兎に角、早く帰ろうか。
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