第66話 迷宮へ行こう ~ それぞれの思惑 ~
すいません、遅れました。
ボス部屋は、元々居たであろうケルベロスが部屋の外へ出てきてしまったため、がらんとしていた。念の為に探査魔法による探査を行ったが、全く反応も無い。
「絶対に何か居るものと思ったが、今のところは大丈夫そうかな?」
サフィアスがそう呟く。それでも気を抜かずにボス部屋を通り抜け次の階層へと向かう一行を、コアとそれを制御する調教師が監視していた。
「ケルベロスまで退けるとは。もうこのコアではそれ以上の強さの魔物は用意できないが、最後のボス部屋では数で押してみるしかないか」
調教師はありったけの魔素をコアに吸収させると、最後のボス部屋に魔物を配置させ始めた。
「魔物が居ないね」
「罠も無くなったな」
「転移罠も見つかりませんしねぇ」
「もうちょい経験値積みたいんだけど…」
ディバイン、サフィアス、ミハル様、早苗さんの呟きである。確かに四十階層を過ぎてからは魔物の姿も罠も無い。普通はここまで深層だと強力な魔物がどこかに居るはずなのだが、探査魔法にもかからない。
「次のボス部屋は、ちょっと覚悟した方が良いかもな」
「何で?」
俺の呟きにサフィアスが返す。他のメンバーも、どうやらわかっていないようだ。
「んとさ、コアが調教されている可能性があるって話したよね。
その結果が三十階層、四十階層のボスだと思うんだ。だけど、俺達がそれを倒したもんだから、もう後が無いんじゃないかな。
そうすると、考えられるのは…」
「ラスボスの部屋に戦力を集結するって事か」
ディバインの回答に頷きで返す。ボス部屋での待ち伏せは間違いないだろう。だが、どの程度の戦力なのかはわからない。ケルベロスは強力な魔物だが、最強ではないからだ。
「ドラゴンとかだと、少しやばいかもな」
俺はフラグになりそうな言葉をつい呟いてしまい、ちょっと自己嫌悪に陥ってしまった。
「戦力としては十分と言えそうだが、相手はこれまでの最強布陣を突破してきた猛者共だ。もしかすると、『魔女』が居るのかもしれん。もう一押し必要だな」
コアのそばにいた男は、そばに置いていた板を手に取って言った。
「この『転移陣』を発動させれば、周囲三メートルの生物をランダムな場所に転移できる…か。前回はうまくいったようだが、今回もうまくいくか?
だが、この部屋に来させるわけにはいかんからな」
転移陣。それは、この男の言う通り陣の周囲三メートル以内の生物を転移する魔法を実現する為の触媒である。転移陣そのものは既に存在していたが、術者が必要であり、魔力をその都度術式展開し、顕現させる必要があること、込める魔力もかなり必要で、魔族の国であるベアル王国ですらウォース程の術者でないと顕現できない等の問題がある。
男が持つ転移陣は所属する国で密かに改良が施され、術者が居なくても発動するようになったのだが、転移先をしていできずランダムな場所に転移する為に失敗作扱いされていた。
だが、男が調教したコアで迷宮ではコアを破壊する為にやってきた冒険者を退けるだけでよいので、新型の転移陣が完成するまでの切り札として持たされていたのだ。既に一枚は当時四十五階層に配置してテストに使っており、あと二枚が残されている。
「テストで飛ばされた冒険者は、『異世界』に行ったと聞く。今回もうまくいってくれれば罠として使える事の証明となるだろう」
部下からの報告では、その冒険者の報告で事前調査の為のパーティが来ることがわかっていた。レベルはそんなに高くなかったためにそれまでの配置から大きく変えていなかったのだが、門番替わりの盗賊どもが全滅したため、急遽三十階層からボス部屋の配置を変える羽目になっていたのだ。
しかし、彼らはそれを打ち破ってきた。それもほとんどノーダメージでだ。戦闘を行ったのだから、多少の疲れはあるものの、大きな怪我等はない。
こいつらは低レベルの冒険者達ではなく、実力のあるかなり高レベルの冒険者と言ってもよいのだろう。調査という名目ではあったが、その実転移罠の発見と破壊が目的なのだろうな、と男は理解していた。
だからこそコアは確実に守り通さなければならない。陣を踏むと発動するよう仕掛けがされた転移陣をコアの部屋入口に設置したのは念のためだが、できればラストのボス部屋で討ち取れれば良いのだが、と男は思った。
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