第7話 ゴブリン退治?
「さて、次はゴブリン退治なのです。」
「って、アレはゴブリンじゃなくってオーガじゃない?」
「どうやったらゴブリンとオーガを間違えられるんだろう。母ちゃん、依頼内容は間違ってないよね?」
「そんなのは知らないし、間違ってもいないのです。兎に角、林に魔物が巣を作っているのなら、排除するまでなのです。」
ゴブリンは先日も戦ったが下位の魔物であり、人型とはいえ子供程度の大きさで力も弱かった。ついでに言えば小賢しくはあったが、あまり頭が良いとは言えない魔物である。
それに対してオーガは中位の魔物であり、ゴブリンと同じ人型であるものの大きさがまるで違う。こちらは人間より更に大きく力も強い。頭の良さはゴブリンと同じくらいらしいが、厄介さで言えばオーガの方がはるかに上だ。
そして、そのオーガが巣と言うよりは集落と言っていい規模で集まっていた。その数はざっと数えてみたところ二百は居るようだ。
「ウィンドカッターで倒すのも限界ありそうだな。」
「実、ここでは範囲魔法以外で討伐するのです。」
アルテリアが、また無茶な事を言い出した。一々魔法を当てていかないといけないというのは、結構集中力を必要とする。最初は不意打ち等で倒せるだろうが、その後は魔法での対処は難しくなる。
「何の為に、腰に剣を下げているのです。
魔法でコーティングすれば、魔力の続く限り基本的に折れもせず、斬れ味の変わらない便利な武器になるのです。伊倉さんも、剣や刀への魔法コーティング練習はしてあたはずなのです。」
「うっ、そりゃごもっとも。」
「はい、ちゃんと練習してました。」
「では、また母がお手本を見せてあげるのです。」
言うや否や、剣を抜き放つのと同時に術式を展開、剣に炎でコーティングして、火炎剣を作り上げていく。斑大熊と実が戦ったときは炎そのものを剣にしていたが、アルテリアは剣に炎でコーティングすることによって火炎剣の安定度を高めて魔力消費を抑えるようにしていた。
「では、右の方から行くので、ある程度見て覚えたら二人とも左の方から行くのです。」
火炎剣を引っ提げて、スカート姿にも関わらずオーガの群れに飛び込んで行く。炎の剣の安定度を高めたせいか、余裕の出た魔力で斬れ味をかなり高めたらしい。オーガが盾や剣でガードするも、それごと切り裂いていく。
「うわぁ、これ、俺にもやれってか。」
そう言いつつ剣に同じように炎をコーティングして、火炎剣を作り上げる。早苗も同じように炎の剣にしたようだ。お互いに準備ができたのを確認すると、アルテリアとは逆の方から突っ込んでいく。
「よっと!やっぱり、母ちゃんのようにはいかないな。」
流石に防具や剣ごと斬るのは無理で、それなりの斬れ味の剣しか作れなかったが、それでもオーガを一体あたり二合か三合くらいで斬り捨てているうちに、剣のコーティングに流す魔力のコツが少しずつ掴めてきた。
「よっと、まだまだ先生のようにはいかないわね。もっと練習しないと。」
早苗の剣も斬れ味はイマイチであったが、流石は剣術家。上手く刃筋を立てて、少ない力でオーガを切り裂いていく。
「これで、もう少し斬れ味が上がったはず。」
実は余分な魔力を斬れ味にまわして、横から襲い掛かってきた別のオーガの胴を薙ぎ払う。先程よりは軽く真っ二つにされたオーガがそのまま倒れると、更に別のオーガが後ろから槍のようなものを突き出してきた。
それを軽くよけて、剣を斬り下ろす。腕や槍ごと斬られたオーガが、うめき声をあげて倒れていった。
「もうあと四体くらいなのです。」
気が付くと、殆どのオーガが地に倒れていた。残る三体のオーガも、二体をアルテリアが一閃して倒すと、一体を実が刺し殺す。早苗も縦に真っ二つにしたところで、全部で二百三十体のオーガは、たった三人の冒険者(しかも二人は登録したばかりの初心者)の前に全滅したのであった。
「討伐証明の魔石収集なのです。」
アルテリアはオーガの前にしゃがみ込むと、ナイフでオーガの胸を切り開き、黒い玉のようなものを取り出した。
「これが魔石なのです。実達も集めるのです。」
「これって何なの?」
「魔物が、魔力を蓄えておくものなのです。当然強い魔物ほど、たくさんの魔力を蓄えた魔石を持っているのです。そして、魔石から魔力を取り出して、魔道具を動かす事ができるのです。」
どうやら、魔道具を動かす電池のようなものらしい。実もアルテリアに見習って、オーガの躯から魔石を取り出す。拳大の魔石はずっしりと重く、これを二百三十個も持って帰るのはちょっと大変かもと思った。
全ての魔石を取り出して袋に詰めてみたものの、半分以上は入りきれなかった。どうしようかと思案する実に、アルテリアが解決方法を提案した。
「魔法で袋か箱を作れば良いのです。できれば持たずにすむ空間魔法なんかが良いと思うのです。」
「それは見本は見せてくれないの?」
「…人には、得意不得意があるのです。」
どうやらアルテリアは、空間魔法は比較的苦手としているようだ。
「試しにやってみるよ。でも、失敗しても文句は言わないように。」
「それくらい、わかっているのです。」
実は、術式を展開させる。そして、魔力で作った大きくて丈夫な箱をイメージしながら、顕現させる。
なお、箱を顕現させてはいるが実際には箱の入り口だけが見えており、箱そのものは外からは見えない。また、唯一見えている入り口も、実が掴んだり術式の配置を変えることで移動させることはできるが、他の人は多分動かせないだろうし、中が暗くて見えない以上、気味が悪くてだれも触りたがらないだろう。
「うーん、できたかな?」
「ぶっつけで見たこともない魔法を成功させちゃうなんて、やっぱ木葉君すごい。」
「やはり地球で過ごした方が色々とイメージがつきやすく、魔法も成功しやすいようなのです。さて、作ってみたなら、試しに何か入れてみるのです。」
取り敢えず、そこら辺に落ちていた石ころを拾うと、顕現させた箱の口に放り込んでみる。石ころの重さが大したことがないのか、消費魔力には変わりがない。
次に、箱から石ころを取り出してみる。体を入れるのは怖かったので、手だけ突っ込んで石ころを手に渡すようにイメージしてみると、手に石ころが飛び込んできた。それを掴んで箱から出してみるが、あまり変わりがない。
「取り敢えず箱としては機能しているようなので、もうちょっと重いものを入れてみるのです。丁度良いぐあいにどうなっても良い重いものがそこらじゅうに転がっているのです。」
オーガの事だろう。取り敢えず一体を抱えて箱に放り込んでみる。それなりの重さなのに、消費魔力に変わりがない。どうやらイメージとしての箱を顕現させる消費魔力だけが必要で、中身の重さや大きさは消費魔力に関係ないようだ。
「どうやら、大丈夫みたい。」
「では、一旦魔法を解除して再度同じように魔法を顕現させた時に、中身がどうなるか実験してみるのです。」
「わかった、やってみるよ。」
「本当に、実験ね。」
箱に流す魔力を遮断し、魔法を解除する。入れっぱなしだったオーガの躯は外に出てこないようだ。その状態で再度魔法で箱を作ってみる。今度は、先程の箱を作り直すイメージで顕現させてみた。
「おや、オーガの死体がちゃんと箱の中にあるみたい。」
「なら、オーガを取り出して、魔石を入れていくのです。」
オーガを放り出すようイメージしたら、箱の入り口からオーガの死体がぽーんと飛び出してきた。どうも使い勝手はイマイチのようだ。
それでも無いよりはマシなので、全ての魔石を三人で魔法の箱の中に放り込み、また冒険者ギルドへと戻って行くのだった。
「アルル様、もう二件目の依頼をクリアなされたのですか?」
「そうなのです。でも、このくらいは出来て当然なのです。」
トーラスが、呆れたように言う。野ウサギの件はともかく、二件目はゴブリン退治の巣を見つけ出しての殲滅作戦だ。通常、巣の場所を確認するだけで一日。それから準備と、必要であれば追加メンバーの募集を二日、そして実行に一日。最低でも、四日は必要となるはずなのだ。
「しかも、ゴブリンじゃなくてオーガですか。」
討伐証明の魔石を手に取る。二百三十個の魔石は、窓口では置ききれないからと二階の個室のテーブルに山積みにされている。あと、実が箱に余裕があるからと、念の為に持って帰って来たオーガの死体も部屋の片隅に転がされていた。
この場合、依頼内容に不備があるために依頼そのものが一旦破棄されて、新たにオーガ討伐の依頼を発行するか、現在の依頼報酬に追加報酬を出すかのどちらかになるのだが、今回は既に討伐まで完了してしまっている為、追加報酬を出すべきだと思われた。
「ところで、報酬の件ですが。」
「実と伊倉さんの訓練も兼ねているので、依頼の報酬のままでも良いのです。」
「いや、そうはいきません。オーガをこれだけ討伐しておきながら、ゴブリンの報酬で済ましたとなると、私が本部から怒られてしまいます。」
「むぅ、それでは仕方がないのです。」
「では、ゴブリンの報酬銀貨五枚に、オーガの追加報酬金貨二十枚銀貨五枚で、金貨二十一枚を今回の報酬にしておきますね。」
「ちょっと、報酬出しすぎな気がするのです。」
「中位魔物のオーガでしたから。」
今回の報酬は金貨二十一枚という事であるから、だいたい二百十万円の報酬になる。
命がけの報酬としては高いかどうか微妙なところであるが、数時間でこれだけの報酬を手にする事ができるのも、冒険者の人気が衰えない原因の一つではあった。
「取り敢えず、口座に振り込んでおくのです。」
「了解しました。実様と伊倉様の口座もお作りしますか?」
「勿論、なのです。」
勝手に口座開設までされてしまった実と早苗であった。
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