第64話 迷宮へ行こう ~ 迷宮考察と階層ボス ~
遅れてすいません。
俺達は盗賊達のいた一階層から更に五階層程進み、休憩をしていた。ここはそれなりの広さの部屋になっていて、入口はゴーレム達に見張ってもらっている。
「今のところ、転移の罠は無いようですね。もしかしたら、彼がかかってしまったことで転移罠が使えなくなってしまったのかもしれません」
ミハル様が地図を見ながら報告する。彼がかかったのはつい最近だ。だから再配置後というのは十分考えられるが、だからと言ってそのままにはしておけないだろう。もしかしたら、配置した奴らの情報が見つかるかもしれない。
「それだと良いんですけどね。取りあえず先には進みましょう。コアをどうこうするつもりはありませんが、可能な限り下層まで行ってみないといけませんね」
俺は、今後の行動を再度確認するためにも皆に話す。それに対してではないだろうが、サフィアスから疑問が発せられる。
「しっかし、こんな田舎迷宮になんで転移罠なんか仕掛けたのかね」
そう、それは俺も思ったことだ。同じ転移罠なら、もっとメジャーなところに設置した方が確認もとりやすいだろう。だが、ここはそこまで発展しているわけではない。転移罠なんて仕掛けてもそこに潜んで監視していない限り確認しようがないではないか。
「もしかしたら、この迷宮そのものがどっかのだれかが意図的に作り出したものなのかもしれない。コアだって魔法生物なんだから、だれかに従属している可能性もないとは言えないよ」
ディバインの意見は、ちょっと新鮮だった。確かに魔物や魔法生物を調教して従属させる方法はある。だが、それは自分の代わりに戦わせたり、何らかの使役をさせるためであることが殆どなので、基本的に動くことのできないコアを調教するなんて考えることはしない。
しかし、これが一種の「実験室」だったらどうだろうか。ダンジョンに来る冒険者を相手に、普通の迷宮を装いながら作り出したものを試していくというのは、確かに考えられる事だ。
「これは、コアを破壊する必要があるかもな」
コアを破壊すると迷宮は新たな魔物を生み出す事をせず、そのうち崩壊していく。魔物を倒すことで糧を得ている冒険者にとっては、コアを破壊して飯の種を無くしてしまうよりも、適度に発生する魔物を間引いて稼ぎにした方が良いわけで、コアの破壊までは考えていない事が多い。
だが、これが実験室だとすると話は別だ。破壊するか、より強い魔力でコアの支配権を奪取するしかない。
新たな目的に向けて、俺達は先を急ぐことにした。
「これで三十階層目か。ボスがいるんだったっけ?」
「うん、オーガらしいね」
コアを目指すことにしてから約八時間、俺達は三十階層目のボス部屋の前で休憩をしていた。
この迷宮は十階層毎にボスがいるが、十階層のゴブリンエリート、二十階層のオークキング、三十階層のオーガ、四十階層のワイバーンまでが判明している。勿論、ゴブリンエリート、オークキングは既に撃破済みだ。次はオーガらしいが、今のうちのパーティではオーバーキルもいいとこだ。
念のためにボス部屋の中を探査魔法で調べたいが、どうやらボス部屋は他とは違い魔力を通さないようで、壁から先に魔力が通った感じがしない。
「よし、入るぞ」
俺はボス部屋のドアを開け、ゴーレム三体と共にダッシュでドア周辺に散開する。これは不意打ちを防ぐとともに、このパーティが場所を確保できるようにするためだ。
周囲を見渡し、改めて探査魔法を顕現させる。今度は大丈夫なようで、部屋の中央部にオーガ、その後方にもオーガが二体の計三体が居た。
「オーガ三体!橋頭保は確保しているから、ミハル様と早苗さん、ディバインとサフィアスの順で来てくれ」
「了解したわ」
早苗さんの返事が聞こえたのを確認し、三郎を左翼、次郎を右翼、一郎を俺とともに中央に配置し、オーガへと突撃する。その際も探査魔法は顕現させたまま、周囲への警戒は続けたままだ。
それに対し、オーガ達も迎撃態勢を整える。それぞれ手には両手斧を持ち、腰にも両手剣らしきものを差しているようだ。どうやらこいつらも二十階層のオークキングと同様、斧しか使わない普通のオーガとは違う可能性が高い。
「こいつら普通のオーガじゃない!気を付けろ!」
俺は後方へ注意を促す。後方から了解した旨の返事をもらい、再度オーガ達を見ると、無手のゴーレムと互角に戦っていた。
ゴーレム達は無手なので近接でないと十分な威力を与えられない。それがわかっているのか、オーガ達は両手斧を巧みに操って懐に近づけさせず、隙あらば腕の一本でも切り飛ばそうとしている。
それに対してゴーレム達も巧みに回避したり、手を斧の腹に当てて受け流したりして何とか反撃の糸口をつかもうとしている。作った俺よりも格闘戦は強いんだけど、あいつら。
「!上!」
探査魔法に新たな敵を感知した。上から現れたのはワイバーンだ。こいつ、四十階層にいるんじゃないのか?
俺の叫びにディバインが反応。すぐさま上部に結界魔法を顕現させ、ワイバーンからの攻撃を無効化する。ワイバーンも結界魔法を感知したのかそのまま突っ込まず、上空をホバリングし、尻尾を降って結界魔法を壊そうと叩きつけている。
「ワイバーンを落とすから、後よろしく!」
俺は自分の周りに氷槍を数本作り出すと、ワイバーンに向けて発射した。この角度なら避けられてもパーティメンバーには被害は出ない。
「ギャワッ」
飛ばした氷槍の一本がワイバーンの右羽を突き破り、落下させることに成功する。そこに待ち受けたのは早苗さんとサフィアスだ。
二人は左右から剣を振るい、瞬く間にワイバーンの羽を切り飛ばす。ワイバーンも尻尾や前足で応戦するも、素早い二人に対応できていない。
「あっちは大丈夫だな。それじゃ、ゴーレム隊、下がれ!」
俺の命令でゴーレム達がオーガの前から飛び去ると、俺が顕現させた氷柱がオーガ達を包み込んだ。以前ダルマンとかいう商人に対しては生かしておくよう手加減していたが、オーガ達には不要だ。絶対零度に近い氷柱に閉じ込められたオーガ達は、既にその生命活動を止めている。
「…ちょっとやりすぎたかな」
俺は気温がかなり下がってしまい寒さに震えることになったボス部屋で、次は少し手加減しようと反省した。
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