第58話 迷宮へ行こう! ~準備編~
お待たせしました。
「行き帰りにそれぞれ二日、迷宮の罠はそんなに深くないそうだから、念のために全体を確認するとしても三日あれば大丈夫だろう。食糧とかは余裕を見て十日分あればいいかな」
一緒に行くことになったディバインが言う。このところ「実習」と称して冒険者ギルドで依頼を受けまくっているそうで、十日以上の護衛依頼等も何度かこなしているらしい。なんでも「騎士見習いとしての下地づくり」なのだそうだ。
他国への侵略を行わないと宣言しているベアル王国での「騎士」は、基本的に近衛騎士団を指す。言うなれば王族の護衛が主任務となるのだ。そのためにも、冒険者として護衛任務をこなしておいて護衛任務のイロハを覚える必要があるのだった。
「ミノルの空間魔法で荷物を入れておけば馬車を用意する必要もないし、便利だよね」
こちらも同行するサフィアスが羨ましそうに言う。実が実践して教えたが、どうもマスターできなかったようだ。護衛任務の時も、空間魔法があればと思った事が何度かあったそうで、ディバインにも覚えるように勧めたのだが無駄だったとの事。
「なんなら、もう一度挑戦してみるか?」
「うーん、また今度ね。向こうの本とかでそっち方面の知識とかしれたらマスターできるかもしれないけど、まだまだ語学レベルが足りないよ」
サフィアスには、今度異世界もののラノベでも差し入れしようか…。
準備は食糧以外にもある。今来ている防具屋もそうだ。ミハル様は戦闘職ではないが、完全に護衛ができない可能性もある。その際、彼女自身で身を守れるようある程度の防具は必要だろう。
「では、この革鎧一式で良いですか?」
「うん、本当はプレートメイルを着てみたかったけど、今の体じゃ無理だからね」
元は男だったそうだが、湯前さん曰く「今とあまり変わってない」との事だったので、今でなくても無理だろう。プレートメイルは騎士くらいの体力がないと、重くて動くことさえできないのだ。とりあえずミハル様には「きっとこれもお似合いですよ」と言いつつ革鎧一式を渡し、フィッティングを店員にお願いした。早苗さんが、妙に張り切った店員に連れられて行くミハル様と一緒に個室へ移動する。流石に女性用の個室に、護衛とは言え男がついて行くわけにはいかないよね。
しばらくディバイン達と雑談しつつ、女性陣の戻りを待つ。フィッティングだけのはずなのに長いな…。
革鎧に限らず、身につけるものは当然ながら装着者の体型に合わせる必要がある。それがフィッティング。革鎧の場合は、脇の部分の調整と、垂のベルト調整。あと今回は手甲と革のブーツ、それとローブも買ったので、そちらの調整もある。手渡したのは標準的な革鎧一式だったけど、土壇場で違うものに変えたのだろうか。
「お待たせー」
やけに元気な声でミハル様が戻ってきた。当然買ったものを身に付けているが、あれ、手渡したものと違うぞ。それに早苗さんも来た時と恰好が変わっている。
「せっかくだから、ちょっと変えてみた。早苗さんとお揃いにしてみたんだ!」
そうですか。ミハル様、随分と女性としての自覚が出てきたのか、女性向けの革鎧の中でもちょ可愛らしいタイプにしたようだ。早苗さんの方も同じタイプのようで、とても似合っている。
革鎧は、本来元になった魔物の革の色そのままなのだが、女性二人が身に付けた革鎧は明るい赤色をしており、左胸に小さく花柄のブローチが取り付けられている。このブローチはマントやケープの留め具としても使えるようだ。そして腰回りはピンク色のベルトに真鍮のバックラー。バックラーには花の刻印がされており、武骨さを和らげている。
「お二人とも、とてもお似合いですよ」
「そーでしょ!」
「う、うん」
ドヤ顔のミハル様と、ちょっと恥ずかしそうな早苗さん。早苗さんのこんな表情を見るのは初めてかもしれないな。だって、鎧の形も、何故か胸の大きさに合わせているようで、ラノベの挿絵にあるような乳袋っぽい形だからなぁ。恥ずかしがるのも仕方ない。
「いや、ホント。よく似合ってて可愛らしいですよ」
「そうですね。とても可愛らしいです」
ディバインやサフィアスも同意見のようだ。が、その胸の形に視線が行ってしまっているのはどうなのか。
「今ほどミノルが羨ましいと思った事は無い」
ディバインの呟きは聞かなかった事にしよう。
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この話書き始めて、もう一年経つんですねぇ。途中リアルがデスマ状態になって更新ができなかったりしましたが、エタらないように頑張ります。




