第54話 リンの異世界見聞録~その4~
仕事が忙しい & 今回は特に難産で、遅くなってしまいました
今週からは土曜が半強制で休みになるので、少しは進むかも。
「考えてみれば、普通の週末だったのよね。当然今日からは学校か」
洋子は、まだ新しい制服に着替えながら呟く。転校して、まだ一週間も経っていないため、制服も教室の雰囲気も慣れていない。面倒を見てくれた実と早苗も、今日からは異世界でミハルの護衛だからそれも期待できない。
「意外と授業の内容濃いから、ついて行けるかしら」
そう、高瀬川高校は普通科のレベルが高い事で有名なのだが、異世界留学科もかなりのレベルなのだ。しかも異世界の知識も同時に取得しなければならないため、授業の内容は、普通科と比べても濃かった。
慣れないクラスと、慣れない授業内容にため息をつきそうになりつつも、登校する準備を止めることはなかった。
「湯前さん、放課後になったら職員室に来て欲しいのです」
アルテリアの授業が終わったところで、洋子は職員室への呼び出しを受けた。アルテリアの様子を見るに、怒られたりするような内容ではなさそうだ。
「湯前さんはこのクラスが一年の時に受けた『加護』を受けてないので、今回受けてもらうのです」
訝しげな顔をした洋子に、言葉が足りなかった事に気付いたアルテリアが理由を伝える。何の加護かは分からないが、悪くはないのであろう。承諾の返事をすると、アルテリアは満足した表情で教室を出て行った。
「そっかー、湯前さんは転校生だから『加護』は受けてなかったんだよね」
そう声をかけてきたのは、河内浩一郎だった。クラス委員でもある浩一郎は、実や早苗と共に洋子の面倒を見ていた。因みに、異世界からの留学生で、浩一郎の家にホームステイしていたユーリーは、既に向こうの世界に戻っているが、また会う約束をしていたし、実が行ったり来たりする度に手紙を預けたりしている。
「え、ええ、そうなんですけど、『加護』って何ですか?」
「うーん、実際に加護を受けた方が早いんだけどね。
この学科は特殊でしょ。だから、普通の生活では要らないんだけど、ここでは必要になってくる能力がある。それを授けてくれるのが『加護』なんだ。このクラスは全員受けているから、安心していいよ」
「まぁ、放課後には受けるんだし、それまで楽しみにしておくわ。ありがとう」
「どういたしまして」
浩一郎が去っていく。加護なんて、まるでRPGかファンタジーのようだわ、と洋子は思ったが、剣と魔法の異世界と行き来出来ている時点で既にファンタジーなので今更と言える。
「異世界の彼女を持つ男、ね。確かにここは普通の高校とはだいぶ違うわね」
浩一郎の後姿を見ながら、以前の高校生活との違いに思いを馳せる洋子だった。
「では、『加護』を授けます。菅原道真公、お願いします」
「あい分かった。それでは、他の生徒と同じく『思考速度上昇』、『記憶力上昇』、『言語理解能力向上』の加護を授ける」
同じ九州だからか、大宰府より菅原道真公が来て加護を与えてくれるようだ。その時に聞いたのだが、『加護』というのは与えられる者の能力を向上させる神からの贈り物の事である。但し、ここで行われ加護の付与は、本人の潜在能力以上の能力向上は行われないよう制限をかけたものであるため、他の高校生に比べて有利過ぎる事はない。
「これをやっておかないと、普通の高校生のより習う事が多いこの学科では不利になるからな」
道真公が優しく声をかける。自分を罪に陥れた公家達を呪って死んだ彼だが、今では穏やかな顔をしたおじさまだ。
「ありがとうございます。私、頑張ります」
「うむ、精進するがよいぞ」
道真公は洋子に手を振ると間の神に一言声を掛け、大宰府天満宮に帰って行った。
「さて、他の生徒と同じ加護を授けましたが、洋子さんは他に欲しい加護はありますか?
勿論洋子さん自身の潜在能力以上能力向上は行いませんが」
「うーん、いえ、特にはありません」
「そうですか、それではこれで終わりです。お疲れ様」
加護を授かったものの特に実感がなかった洋子だが、次の日の授業でその効果に驚くのだった。
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