第52話 リンの異世界見聞録~その3~
サブタイトル詐欺です。
「くそっ!一体ここは何処なんだ!?」
日本語、いやこちらのどの国の言葉でもない言葉で短く罵った男は、周囲を警官や野次馬に囲まれていた。
革のハーフメイルに動きやすいブーツ。明らかに彼は「冒険者」であった。勿論彼の手には長年連れ添った愛剣がある。冒険者である彼なら、こんな人ごみを蹴散らすのは訳もないだろう。
「だが、流石に殺すのは避けた方がよさそうだな」
服装等は自分の知るものとはだいぶ違うが、どうやら彼らは一般人らしい。同じような服と帽子の男たちは衛兵のようなものだろう。
「きみ、そんな武器を持ってないで、おとなしく投降しなさい!」
警官の一人がへっぴり腰で男に命令する。だが、男には言葉が通じていないため、そのままこう着状態が続いている。早苗が気付いたのはそんな状態の時であった。
「あれ、冒険者じゃない?」
「どれどれ。あー、確かにそのようだな。でも、何でこんなところにいるんだろう?」
「どうやら言葉も通じてないみたいよ。こちらへの転移は事故じゃないかしら」
「とりあえず騒ぎを収めよう。リン、ちょっとごめんな」
「いいのー、あのおにいちゃん、たいへんそう」
実達は、野次馬をかき分け、前に出る。警官がすぐに気付いて下がらせようとするが、実はそれに対して、
「あの人、僕の知り合いなんです。外国からきたばかりなので戸惑っているんですよ」
などと返す。納得し難い顔をする警官をよそに、実は男に声をかけた。
「おい、ここはお前の世界とは違う世界だ。身元は俺が引き受けるから、おとなしくしてくれないか」
「なに?お前みたいなガキが引受人になれるわけないだろう。嘘をつくな」
「まぁ、確かに俺だけじゃなくて親にも出てもらうけど。とりあえず、どこのギルドの所属か教えてくれないか?」
「…ベアル王国だ」
「なら大丈夫だ。ミノル・トルアメイストの名においてお前を保護する事を誓おう」
「トルアメイスト?王家!?」
「まぁ、そうなるな。親はアルテリアだ。魔女に保護してもらえて嬉しいだろ」
実はニヤリと笑うと、男に武装解除を命じて警官に向き合った。
「この人、何か器物破損とかしましたか?」
「いや、その剣を持っていたと言うだけで人を傷つけたり物を壊したりはしていない。だが…」
「銃刀法ですか…」
剣は当然銃刀法に引っかかる。2年以下の懲役又は30万円以下の罰金だ。何か良い案は無いか思案した実だが、そんなにすぐ思いつくはずもない。
「あんまり気は進まないけど、転移事故だしなぁ」
間の神から渡されたスマホを手に、連絡先を検索し始めた。
「また転移事故ですか。あちらでは何が起こってるんですかね?」
間の神が、不機嫌そうに言う。それに対し、ミハルが申し訳なさそうに縮こまる。勿論、間の神はミハルのみを責めるつもりはない。だが「神」であるからには、それなりに責任がある事も知ってもらわなければならないのだ。
「申し訳ありません。未だ未熟で発生箇所すら特定できなくて…」
「本当なら前任がフォローすべきところなんで、まだ強くは言いませんが、できれば原因となるものを早めに見つけて下さいね」
「はい」
まるで部活の先輩後輩っぽいな。等と実は思ったが、それを口にする事はなかった。何故なら、冒険者の男が実に話しかけてきたからだ。
「私は冒険者ギャオ。迷宮探索中に転移の罠にかかってこちらに転移されてきたようで、右も左も分かりませんでしたが、王子に助けて頂き、本当に助かりました」
「そうですか。転移の罠…って迷宮に転移の罠なんてあるんですか!?」
「あぁ、滅多にないが、ありますね」
「そうかぁ。あ、神様達、原因分かりましたよー。迷宮の罠だそうです」
「あ、そうだったんですか。後で迷宮の名前と場所を教えて下さい。転移の罠を異世界に飛ばさせないようにしないといけないので」
転移の罠は、そこを踏むと転移の魔法が顕現してランダムな場所に転移させるというものである。この「ランダム」というのが曲者で、迷宮の持つ魔力によっては今回のように異世界にまで転移させられてしまう事があるのだ。これを迷宮内だけに留めておくよう制限をかけるのも時空担当神の仕事なので、ミハルは汚名返上とばかりに張りきっていた。
「絶対護衛の仕事入るよな…」
明日からの予定を組みなおす必要がありそうだ、そう実は結論を出し、確認をとるためにスマホを取り出すのだった。
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