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第5話 冒険者ギルド

 朝食後の街中を、アルテリア、実、早苗の三人が並んで歩いている。この三人が並ぶと、親子と言うよりは姉弟に見える。

 因みにこちらの服装は地球の中世ヨーロッパに近く、アルテリアはこちらの世界に居た時に着ていた少し厚手のスカートにシャツ、そして皮の上着を羽織っている。早苗もアルテリアと同じような服を着ている。これは、アルテリアがコーディネートしたものだ。

 実は嗣治が若い頃に着ていた厚手のズボンにポロシャツのような麻のシャツに、皮の胸当てを着ている。下半身の服が厚手なのは、防具類は主に上半身用がメインであり、下半身用があまり揃っていないことが挙げられる。


「実、先ずは冒険者ギルドに行くのです。」

「行ってどうするの?」

「当然、実と伊倉さんの登録なのです。」


 予想外の目的地に、実と早苗は驚いて言う。


「そんなの聞いてないよ!?」

「冒険者になるんですか!?」

「でも、冒険者ギルドに登録しておけば、どこにでも行けるのです。一々小難しい理由を考える必要もないのです。」


 西の森や北の山のような魔物が発生するような場所は、基本的に立ち入り禁止となっている。

 例外は冒険者であった場合と、調査団の派遣の様に何らかの理由がある場合になるのだが、何らかの理由の場合は許可を出すために色々と面倒な手続きがあるため、冒険者の方がフットワークも軽くて良いのだそうだ。

 王家なのだからその辺どうにでもなりそうだが、以外と規則に縛られてかえって面倒になっているのです、とアルテリアが答えたところで、目指す冒険者ギルドが目に入ってきた。


 冒険者ギルド。


 一般的なイメージでは、粗野な野郎共が一攫千金を狙って遺跡にもぐったり、魔物を退治したりするものだが、実際にはきちんと登録された冒険者が、出された依頼を契約して実行するという、極々ビジネスライクな仕事なのである。ただ、その内容が魔物の討伐だったり、危険な場所での貴重なアイテムの採取だったりするだけだ。


「さて、新規登録の窓口ってどこなのです?

 久しぶりすぎて、忘れてしまったのです。」


 冒険者ギルドに入るやいなや、冒険者達の目線が実達に向かう。そんな中、アルテリアは何時ものように、ふらふらと窓口に実達を引っ張りながら向かった。


「おぅ、ここは子供の来るところじゃねぇぞ。」


 やはりというか、こういう場所には一般のイメージ通りの粗野なおっさんが居るものだ。アルテリアはおっさんに気づかなかったのか、無視して窓口に向かっていたが、おっさんの方は無視されて面目を潰されたと思ったのであろう。激昂して怒鳴り込んできた。


「無視すんじゃねぇ!このガキが!」


 アルテリアはようやく自分の事だと気が付いたかのように立ち止まると、おっさんの方を見て言った。


「煩いのです。ここでプラプラしてる暇があったら、とっとと依頼受けて仕事してこいなのです。それすらできないのなら、冒険者辞めて地道に働いた方が世のためなのです。」


 その内容は辛辣すぎた。おっさんは、羞恥と怒りで顔を真っ赤にすると、


「このガキぁ!」


 と掴みかかってきた。

 アルテリアは半歩引いておっさんの手を躱すと、そのまま掴みかかってきた腕をとっておっさんの突進力を利用してくるりと半回転し、そのまま足を引っ掛けておっさんを転ばせた。とっさの事で受け身を取る事も出来なかったおっさんはそのままごろごろ転がって、窓口のカウンターに激突してしまった。どうやら、そのまま気絶したようだ。

 あっけにとられた周りの人達がアルテリアを見ると、何人かのベテラン勢から、驚きの声があがった。


「おい、あれはアルルじゃねぇか!?」

「あの『魔女』か!?二十年くらい前に暴れまくってたが、ふと見なくなって引退したんじゃないかって話じゃねぇか。」

「一緒に居るのは、もしかして息子と娘なのか?」

「しっかし全然変わんねぇなぁ。流石に魔女ともなると、歳とらないのかね。」


「母ちゃん、どういう事なの?」

「昔の話なのです。それに、今は実達の登録が先なのです。」


 周りで囁かれている話をまるっと無視して、改めて新規登録窓口へ向かうアルテリアと実であった。




「アルテ…アルル様、大変お久しぶりでございます。」

「トーラスさん、お久しぶりなのです。もしかして、出世されたのです?」

「今ではここの支部長をさせて頂いておりますよ。ところで今日は何用で?」

「息子と、その友達の冒険者登録なのです。何にも知らないから、引っ張って来たのです。」


 アルテリアと、丁度奥から出てきた細マッチョな男性が懐かしそうに話している。どうやらここの支部長らしいのだが、アルテリアの正体も知っているようだ。


「息子の実です。いきなり連れてこられたのですが、冒険者って誰でもなれるんですか?」


 あまり話が脱線しすぎるのも良くないので、適当なところで話に割り込む。支部長はにこやかな顔をして返した。


「アルル様の息子さんかい、支部長のトーラスです。君のお父さんと、アルル様のパーティーに参加させてもらっていたんだよ。ジョブは戦士だったけど、アルル様に魔法だけじゃなく剣の腕でも負けてたから、大したことなかったよ。

 さて、冒険者登録についてだね。年齢こそ十五歳以上となっているけど、それ以外は特に条件はないかな。基本誰でも登録できるよ。アルル様の息子さんとそのお友達だし、優先的に処理させましょう。」

「普通で良いのですが、時間もあんまりないので、宜しくお願いするのです。」

「すいません、宜しくお願いします。」

「宜しくお願いします。」

「了解。じゃあ、ホルン、こちらの方々の登録やっといて。アルル様、その間どうなされます?」

「どんな依頼があるのか見てみるのです。もし、簡単なのがあれば、受けてみようとも思うのです。」


 こりゃあ完全に依頼受ける気満々だな、と気付いた実は、登録作業を急いで終わらせる事を決め、ホルンと呼ばれた実と同じくらいの歳の、ブラウンのポニーテールが良く似合う受付嬢に頭を下げた。


「はた迷惑な母親ですいません、宜しくお願いします。」

「おまけのようなものですが、宜しくお願いします。」

「あ、いえ、こちらこそ宜しくお願いしますね。

 それじゃあ、まず、この書類に必要事項を記入して下さい。」

「「はい。」」


 書類を受け取り、必要事項を記入する。氏名は王族であることは隠したいので木葉実だけにしてミドルネームは記載せず、生年月日もこちらの暦に合わせて正しく記入する。出身地は地球と書くわけにもいかないから、一応ベアル王国にしておこう。あと得意な武術、もしくは魔法の欄があるが、ここは何て書いたら良いのか。


「この得意な武術、魔法のとこなんですけど。」

「剣術とか、槍術とか、魔法ですと土魔法とか風魔法とかですね。パーティーメンバーを募集する時に教えあうことで、お互いに必要としているかどうかを判断するのに使われます。特になければ、アルル様と組まれるでしょうし書かなくても大丈夫ですよ。」


 それなら書かなくてもよいだろう。というわけで、書類を書き上げた実はホルンに渡した。早苗も書き上げたようで、ホルンに渡している。


「では次は、賞罰や以前に登録していないかの確認をさせて頂きます。

 このプレートに右手を載せて下さい。」


 ホルンが書類を横に置くと、机の下から一枚の木枠にはめられた黒いプレートを取り出した。

 実が右手をプレートの上に置くと、プレートが突然光りだしていくつかの情報を浮かび上がらせた。ホルンはそれを手早くチェックしていく。早苗も同じようにプレートに右手を置き、チェックを受ける。


「…はい、確認できました。ではギルドカードを発行しますので、なくさないようにしてください。」

「ありがとうございます。」


 ホルンが薄い金属製のカードと先程とは違うプレートを取り出して机の上に置くと、そのプレートの上に先程記入した書類を置く。

 プレートから淡い光が少しの間発生すると、書類を取って今度は金属製のカードを置いてから、何か操作を行った。


「ギルドカードを発行しました、こちらになります。再発行は有料となりますので、失くさないようにして下さい。

 あと、他の規則等は、こちらの冊子に記載してありますので、予め一読しておいて下さいね。」

「あ、ありがとうございます。」


 実は情報が記載されたカードを受け取る。表面には書類に記入した名前と生年月日、そして出身地が記載されている。裏面には、発行した支部の支部名と発行日、担当の名前が小さく記載されている。


「登録祝いに、プレゼントなのです。」


 アルテリアが、実と早苗に何やらグッズを渡す。確認してみると、チェーン付きのカードケースのようだ。牛革製品のような材質の、なかなかシックな一品だ。


「私とお揃いなのです。嗣治さんも同じものなのです。」

「ありがとう。」

「どうも、ありがとうございます。」


 柔かに微笑むアルテリアにお礼を言っておく。冒険者カードは、確かに気を付けないとすぐに失くしてしまいそうだ。家族でお揃いなのはどうかとも思うが、地味に抑えられたデザインは好感が持てるものだ。


「早速依頼を受けてみるのです。もう候補は選んであるのです。」

「もうかよ。で、どんな依頼なの?」

「討伐依頼が三件なのです。」

「え?いきなり討伐依頼なんですか?」

「他にもありますが、二人には討伐依頼がお勧めなのです。」


 是が非でも討伐依頼を受けさせたいようだ。当然、アルテリア自身も一緒に行くつもりだろう。だが、登録したばかりで、いきなり討伐依頼もどうかと思わないでもない。


「せめて最初の一回くらいは討伐依頼以外にしようよ。採取とかやってみたいなぁ。」

「残念な事に、採取依頼はロクなのがなかったのです。さぁ、この三件を選ぶのです。」

「もしかして、三件から選ぶんじゃなくて、三件を選ぶって事?」

「そうなのです。三件ともここから遠くないし、強さも手ごろなのです。」


 こうなったアルテリアを翻意させるのは大変だ。実は心の中で溜息をつくと、せめて内容くらいは教えてほしいとお願いした。


「先ずはこれ、草原の野ウサギ狩り二十羽なのです。」

「これは確かに簡単そうだな。」

「そうね、私達でも何とかなりそうね。」

「次に、その草原の先にある林にゴブリンが巣を作っているらしいので、ゴブリン討伐の依頼なのです。」

「ふむ、聞くだけなら大した事はなさそうだ。」

「この前のリベンジには、丁度良い相手だと思うわ。」

「最後は、ここから隣のタバル市へ行く途中の峠に現れた、ワイバーンの討伐なのです。」

「おい、いきなりハードル上がってないか?」

「えっ、ワイバーンって、あの空飛ぶやつ?それってまともに戦えるの?」

「ハードルは上がってないし、ちゃんと戦う事もできるのです。」


 明らかに前二件と最後の依頼では難易度が違うっぽいのだが、アルテリアはそんな事は無いのです、と言い張った。実は仕方なく三件の依頼を受注するため、再度窓口へ並ぶ事にした。



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