ex002 ミハルさんの里帰り ~その1~
閑話です。
ミハルさんメインのお話になります。
時系列は、47話の少し後になります。
「うーん、久しぶりの実家はやっぱり良いなぁ。」
ミハルは地球の実家で、昼間っから風呂に入り背伸びをしていた。女の子の体になって、最初のうちは戸惑いしかなかったが、もう慣れたものだ。
「今日は、久しぶりに買い物に出かけようかな。でも、知りあいには会いたくないしなぁ。」
召喚事故で女の子になってしまったミハルの事は、近所ではあまり話題になっていない。ミハル自身が殆ど家に居ないというだけではなく、両親が巧みにミハルについての話題を避けるため、近所の人も慮ってあまり口にしない為である。だが、ミハル自身が出歩いているのを見つかると、すぐに噂になってしまうだろう。
「ちょっと変装して出かけるかぁ。」
変装と言っても、眼鏡と帽子で顔を隠すだけである。そして、スカートとブラウスを着れば、どこから見ても男の子であった坂本美晴ではなく、女の子ミハル・サカモトであった。
「おかーさん、出かけてくるねー。」
「ちょっと、大丈夫なの?平日と言っても学生さんとかはこの時間でも居るのよ。」
「大丈夫大丈夫、今のこの恰好で僕って分かる人はいないよ。」
「そう?あまり遅くならないでね。」
「はーい、行ってきまーす。」
ミハルは靴を履きながら言うと、ドアを開けて、すぐ閉めた。会ってはいけない人を見てしまったからだ。
「こんにちはー。美晴くん帰ってますー?」
この声は、先程見てしまった幼馴染のものであった。彼女はこの恰好でもばれてしまうだろう。何と言っても年季が違うのだ。生まれたときから殆ど一緒なんだから。
「あら、洋子ちゃんじゃないの。今日は学校じゃないの?」
「今日は創立記念日で、休みなんです。ところで、今出かけようとしてたの美晴くんですよねぇ。何で女の子の格好してるのか教えて欲しいなぁ。」
やばい、ばっちり見られてた。隠れたくても、家の中で隠れる場所なんかないし、玄関の外には洋子がいる。
「お母さん、どうしよう。」
「洋子ちゃんなら、大丈夫じゃない?何と言っても付き合い長いんだし。ただ、結婚はできなくなっちゃったわねぇ。」
「け、結婚なんて元から考えてないよ!」
「ほぅ、それは私の事がキライだと?」
「そんな事はないよ!好きだけど、まだそこまで考えて無かった…ってわぁっ!」
いつの間にやら、洋子は玄関を開けて美晴の背後に張りついていた。くんくんと匂いを嗅いだり、美晴に分かるか分からないかくらいの微妙なタッチで体中を撫で回している。
「な、何やってんの!」
「んー、美晴くん、もしかして性転換手術しちゃったの?」
「手術はしてないよ!女の子には…ってあっ!」
「へぇ、何でそうなったのか聞きたいなぁ。」
目を輝かせて迫ってくる洋子に、美晴はため息をついて説明することにしたのだった。
「というわけで、僕は向こうの世界の神様の一人になっちゃったんだ。だから、こっちにはあんまり帰ってこれなくなっちゃったんだよ。」
「そうなの。でも、見た目はあんまり変わってないから、神様って言われてもぴんとこないね。」
「まぁ、こちらの世界では普通の人とあんまり変わらないから。」
美晴の説明を、洋子は疑わなかった。美晴は、こういう場では嘘をつかない事を洋子は知っていたからだ。
「それで、美晴くん…女の子だから美晴ちゃんの方がいいか、はどこに行けばいつも会えるようになるの?」
「い、異世界…。」
「こっちの世界で!」
「うーん、やっぱり高瀬川高校かなぁ。でも、いつもは無理だよ。」
むぅ、とむくれる洋子。
「じゃあ、帰ってくる時は決まってるの?」
「だいたい月の真ん中へんで三日くらい帰ってるよ。
…誰にも言わないなら、帰ってきた時に連絡するけど。」
「本当!?やったぁ!」
なんとか機嫌を直してくれたようだ。
「それじゃ、せっかく帰ってきたんだし、一緒に遊びに行こうよ。」
「えっ…。」
確かに買い物に出かけようとは思っていた。だが、それは知人に会わないという前提があっての事だ。洋子と一緒なら、絶対に中学時代の友人にも会うに違いない。美晴はそう思った。
「あらあら、ごめんなさいね、洋子ちゃん。この子、こんなんなったから、外で知り合いに会うのを怖がっているのよ。」
「あっ、そうですね。うーん、なら、親戚の子って言う事にすれば良いんじゃない?私とは美晴くんを通じて知り合った事にしとけば問題ないでしょ。」
「そう、そうだね。」
そうと決まれば、気も少しは楽になる。美晴は洋子と一緒に出かける事にするのだった。
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