第45話 ダルマン再び
今回、かなり書き溜めが進まないです。あと2話くらい投稿したらちょっと書き溜め期間をとるかもしれません。
「では国王にも、宜しくお願いします。」
「分かりました。必ずお伝えします。」
結局、夕方からの晩餐を兼ねた会談は時間があまり取れなかったため、次の日にも行われた。と言っても使者としての会談と言うよりは、新しくできた友人との会話を楽しむといったものであったが。
そして、会談終了後、早速実達はベアル王国へと馬を走らせた。この会談の結果を早く持ち帰って報告したいというのと、ナーダのたまごが孵るのを見たいと言うのが主な理由であったが、それ以上に早苗と二人でゆっくり過ごしたいという想いが強かった。それは早苗も同じだったらしく、二人並んで馬を走らせている姿は、まさに息の合った夫婦のようだった。
「そういえば、あの商人まだいるのかなぁ。」
「どうかしら。さすがにもういないんじゃない?」
行きの宿でちょっかいかけてきた、雪だるまとかなんとか言ってた商人を思い浮かべる。体型は確かに雪だるまだったが、顔と性格は最悪だった。ただ、実の脅しが効いたのか、最後はプルプルと怯えていたので大丈夫だろう。
「そろそろ、あの宿に着くな。」
「ゆっくりできるといいわね。」
そんな事を言いつつ、街へと向かった。
「で、なぜ私達だけ泊まれないんですかね?」
「うちも商売なんでな。長いモノには巻かれろって事だな。」
どうやら、ダルマン商会絡みらしい。これで三軒連続のお断りであるが、他の宿もダメであろう。実は宿の主人にダルマンの居場所を聞いてみたところ、あっさりとこの街一番の高級宿の名前を挙げた。
「向こうは、お前が泣きを入れるのを見たいようだがな。」
「そんな事するわけないじゃないですか。『魔女』の弟子なんですから。」
その言葉を聞いた主人が、とたんに怯えた表情になる。『魔女』のネームバリューもさることながら、実自身の出す気が主人に重圧を加えているのだ。
「早苗さん、行こうか。」
「う、うん。」
実が早苗を促し、宿を出ていく。重圧のとれた宿の主人は、ダルマン商会の行く末を案じていた。
「それでどうするの?」
「勿論、だるまのところに行くさ。」
心配そうに尋ねる早苗に、可能な限り冷静を装って実は返した。装っているのが分かってしまうのは、それだけ怒りの度合いが強いからだ。
「安心してくれ。犯罪は、見つからなければ犯罪じゃないんだよ。」
全く安心できない台詞を言う実に、あきれた顔をする早苗。心配はしていないあたり、だいぶ実を信頼しているようだ。
そうこうしているうちに、目的の宿が見えてきた。実は最近見に付けた新魔法『認識阻害』を自分と早苗に顕現させる。この魔法は、顕現させられた人物や物体を他者から認識できなくするというもので、斥候職がよく使う魔法である。
「やっぱり最上階だったね。」
「何でこういうやつらは、高いところが好きなんだろうね。」
実と早苗は、その最上階に到達していた。あちこちに護衛が居たが認識阻害で認識されないし、下手に手を出すと煩わしくなってしまうので、無視していた。
階段の影に隠れた実は自分の認識阻害を解除すると、素早く術式を展開し、周囲に結界を顕現させる。この階のみ、何が起こっても他の階へは漏れないし、他の階からこの階に来ることもできない。外からも侵入は不可だ。
結界が正常に顕現した事を確認した実は、護衛達の前へと姿を現した。
「ダルマンはどこだ?」
「お、お前は!」
良く見ると、護衛の一人は先日ダルマンと一緒に氷壁に閉じ込めた護衛のようだった。どうやら解雇はされずにすんだようだ。
「ほぅ、まだあんなやつの下で働いていたのか。だが、俺と相対するには足りないものが多すぎだな。」
「何を言う!ガキのくせに!」
実は、わざとらしく悪役口調で挑発する。護衛達はまんまと乗せられ、実を包囲しようと動き出した。そこへ認識阻害のかかったままの早苗が護衛達の後ろへ回り込むと、一人、また一人と手刀で意識を刈り取って行く。頭に血が上った護衛達は、仲間が気絶していくのに気付いたがもう遅かった。
「ホント、足りなかったわね。」
早苗が護衛達を全員気絶させて、認識阻害を解除したのはそれから二分後の事だった。
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