第44話 対面
待ち構えていたのは、宿屋の主人だった。考えてみれば当然である。
「お客さん、これはどういう事だい?」
実がこの状況に至った経緯を簡単に説明すると、主人はびっくりしたような顔をした。どうやら、ダルマン商会というのは、聖王国で一番大きな商会らしい。良い噂より、あまりよくない噂の方が多い商会だそうだ。
「それで、どうするんだ。いつまでもこのままは困る。」
主人に言われて、実も改めて周囲を見回す。居るのは宿屋のロビーであったが、そこのほぼ半分以上を氷の壁が覆っている。確かに邪魔物以外の何物でもない。
「それじゃ、取り敢えず解除しますか。」
実が魔法を解除すると、半分凍えた状態のダルマン達が現れた。幸いにも、気を失ったり、どこか凍りつかせたりはしていないようだ。
「おい、ダルマン。次に俺達に手を出してみろ。商会がなくなるからな。」
「ひ、ヒイッ!」
ダルマンは、氷壁に閉じ込められた事で実に恐怖を感じるようになったようだった。
「こりゃ、やりすぎじゃないですかい?」
「うーん、そうだったかも知れませんね。」
取りあえず、主よりはまだマシな護衛に、今後ちょっかいかけたらこんなものでは済まさない事を強く言った上で解放した。今後は絡んでこない事を祈るばかりである。
「こんなもんですかね。」
「ほーっ、見事なもんだな。」
「いやいや、本当に凄い人はもっといるでしょ。」
実はそう言うが、実際のところ実以上の人材となるとアルテリアや浩子クラスになり、そのクラスの魔術師はあまりいない。実はその数少ない人数の一人であるのだが、比較対象がアレなので自覚は全く無いようだ。
「あぁ、あと、明日出発するよ。お代は明日の朝清算でいいかな?」
「勿論だ。雨がやむと良いがな。」
「まぁ、その時は魔法で何とかするよ。こんな事したから、今更魔力とか隠しても意味無いしね。」
あと一日の距離でもあり、山道や沼地等路面が不安になりそうなところも無いので、魔法で自分達の上に障壁を張って傘代わりにしようというのであった。
勿論、普通なら二時間もやると魔力が枯渇してしまうのだが、実は魔力も多く、制御も上達して普通の魔術師より、消費量が少なくできる。あまり目立ちたくはない実ではあったが、三日も足止めされてはそうも言っていられないのであった。
「それじゃ、とりあえず飯食って、今日は部屋で休みますか。いいかな?早苗さん。」
「ええ、いいわよ。」
二人は食堂へ向かって行った。後に残されたダルマン一行は、まだ震えていた。
「いやぁ、晴れたねぇ。」
「そうね。昨日までとはうって変わって、すばらしい晴天ね。」
次の日は、それまでの雨が嘘のように晴れていた。空には白い雲がぽつん、ぽつんとあるだけだ。そんな中実と早苗はアルファンケル侯爵の館がある街へと馬を進めていた。
馬も長雨でストレスがたまっていたのか、いつもより速足の速度が速い。手綱を緩めると、そのまま全力で走りだしそうだ。
さすがに二人ともそんなそんな事はさせられないのでそれなりに速度は抑えたが、それでも予定よりは早く、午後の早い時間には街に到着した。
「さて、今日中に面会の申し込みをしておこうか。早苗さんも来るでしょ?」
「ここに居ても仕方ないしねぇ。」
二人は使者としておかしくない程度の格好に着替えると、アルファンケル侯爵の館へと辻馬車を乗り継いで向かう。二時間程度で館の近くまで来ることができた。
「さて、門番に取り次ぎをお願いしないとね。」
実は、門番に面会の申し込みのみをしに来たことを告げ、使者であることを証明する紋章入りの金細工を出てきた執事へ渡した。執事は一旦奥へ下がったが、すぐにまた戻ってくると、二人に告げた。
「旦那様は、もしお二人が宜しければ、今からでも会って構わないとの事ですが、如何致しましょう?」
「そうですか、ありがとう御座います。会わせて頂きます。」
「では、此方へどうぞ。」
執事の後をついて、廊下を領主の部屋へと向かう。他国の者が相手なのに、目立った警戒はしていないようだ。
「此方で御座います。」
扉の前で服装を軽く整えると、執事がドアをノックする。
「開いている。」
部屋の中から若い男性の声がすると、執事は扉を開けて館の主人に告げた。
「旦那様、ベアル王国の使者をお連れしました。」
実達が一礼して入ると、そこには三人分の席が用意されたテーブルがあり、席の一つには館の主人らしき男性が柔かな表情で座っていた。
実とナーベステアル・アルファンケルの初対面であった。
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