第43話 氷壁
サブタイトルが思いつきませんでした。
土砂降りの雨が降り続いて三日。実と早苗は、アルファンケル侯爵の住まう街まで一日の距離まで来ていたが、ここで季節外れの土砂降りが続き、足止めされていた。
「もうちょっとなのに、なかなか止まないね。」
「こればっかりは仕方ない。日本ならまだしも、こっちの道路事情は決して良くはないからなぁ。」
実際、魔法を使えばなんとかなりそうではあったが、長距離を顕現させたままでは消費される魔力も膨大なものになる。実ならできそうだが、あまり目立つ行動はとらない方が良いだろうと、他の旅人と一緒に宿に泊まっているのだった。
「あと何日待てば良いのだ!商談に間に合わないではないか!」
「そう言われましても、天気は私共では…。」
「ふん、役に立たぬやつらだ。」
声のする方を見ると、煌びやかな雪だるまがいた。いや、よく見ると、豪勢に着飾ったおっさんだった。雪だるまがこちらを見ると、好色そうな目を光らせ、護衛の一人に小声で命令した。護衛は早苗の前に来ると、一見下手に、だが高圧的に言った。
「そちらの女性に用がある。こっちへ来てもらえないか。」
「それはできません。彼の護衛も兼ねていますので。」
「あちらのダルマン商会会長、ウィッキー・ダルマン様の御用だ。拒否はしない方が良いと思うが?」
「そんな、雪だるまおやじなんか知りませんよ。」
「こっちが下手に出れば付け上がりおって!」
早苗に護衛が掴み掛るが、それを早苗は軽くよける。護衛は更に掴み掛ろうとしたところで、足が動かなくなっていることに気が付いた。
「いやがる女性を無理矢理に連れて行こうとするのは、流石にどうかと思いますよ。」
「実君!」
「くそっ!何をした!」
「見ればわかると思いますが。あぁ、無理に動かそうとすると、砕けますからね。」
護衛の両足は、完全に凍り付いていた。確かに無理に動かそうとすると、両ひざの下から砕け散ってしまい、両足は使い物にならなくなるだろう。
「さて、そっちのおっさん、人の仲間を呼びつけてどうしようってんだい?」
「ふん、お前のようなガキに用はない。そっちは中々見栄えがよいから、わしの下に来るのを許そうと言うのだ。」
「この人馬鹿なの?さっき断ったじゃないの。」
「それはわしを知らなかったからじゃろ。ほら、来い!」
ダルマンが早苗の腕を掴もうとしたその時、実が割って入った。
「止めてもらおうか。これ以上無理を言うなら、ただじゃ済まさない。」
「ふん、ガキに何ができる!」
両足の凍った男以外の護衛に合図をすると、護衛達五人が実達を包囲する。ダルマンはその外側に移動すると、更に護衛達に言った。
「あの女は傷をつけるな。ガキの方は最悪殺しても構わん!」
その言葉を合図に、一番右側を陣取った魔法使いらしき男が術式を展開させる。残りの四人のうち正面から右寄りの二人が実に、左側の二人が早苗に襲いかかってきた。
「なんだ、こんなもんか。」
「その辺のオークの方が速いんじゃないかしら。」
実は双剣を抜き放って二人の斬撃を受け流すと、術式を展開する。早苗は小太刀で二人の間を抜ける間に小手を強かに峰打ちにした。
その間に魔法使いが魔法を顕現させようとするが、実が先に氷魔法を顕現させ、魔法使いの周囲に氷の壁を作り上げる。
「なっ!」
「正直、肩慣らしにもならないな。あぁ、ついでに俺らの周りも氷の壁を作ったから、逃げられないよ。」
ダルマンが驚いて周囲を見回すと、確かに氷の壁が自分達を囲んでいた。しかも、わざと空気を入れて、曇りガラスのように外からは見えづらくしている。
「さてと、これから交渉といきましょうか。」
「何だと!ふざけるな!」
「ふざけてるのはどっちだ。いらぬちょっかいかけてきたのはそっちだろう。」
「お前みたいなガキにその女はもったいないから、態々声をかけてやったのだ。感謝されても良いぐらいだ。」
「…話が通じないな。早苗さん、俺達は明日にはここを出よう。ついでに、ここはそのままにしとこうか。」
「そうね。でも、他の人の邪魔にならないかしら。」
「な、何を言っておるのだ!」
「聞こえなかったのか?お前達はそのままにして、俺達は明日にでも出発すると言ったんだ。」
「こんな壁、すぐに破壊してくれるわ!」
「それじゃ、頑張って破壊してくれや。あぁ、下手に触るとそこから凍りつくからな。」
最初に足を凍らせた男も、足は解除したものの、他の護衛と一緒にダルマンから隔離された氷壁の檻の中にいる。彼らは最初に氷壁に剣で斬りつけたが、その瞬間に剣を通して手が凍りつきそうになった為に何もできずにいた。
実はダルマンとの間に壁を作って隔離すると、自分達の方の壁を取り払って氷壁の外に出ると、そこにはある人物が待ち構えていた。
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