第42話 宿場町にて~その3~
前書きのネタが尽きてきました…。
「そういえば、宿は一部屋だったわね。」
「そうだねぇ。まぁ、俺はこっちのソファに寝るから、早苗さんはベッドで寝なよ。」
「えぇ、それは悪いよ。一応私は護衛って事になってるんだから、実君がベッドで寝なよ。」
「そりゃ建前だろう。実際はそんな事に関係なく、見て回ってこいって事だから関係ないよ。」
宿で確保した部屋は、一応二人泊まれる部屋ではあった。だが、ベッドはダブルタイプの一つだけだったので、宿に戻ってからずっと二人はどちらがベッドで寝るかを話し合っていたのだ。
「あぁ、もう。それじゃ二人で寝ましょ。」
「えぇ!?」
「だってこのままじゃ、埒あかないし。それに、一緒の方が私は嬉しいしね。」
後半の言葉は小さかったので聞こえなかったはず、と早苗は思っていたが、実にはしっかり聞こえており、内心ではかなりテンパっていた。
「それじゃ、お風呂は早苗さんが先に入りなよ。」
「そうね、わかったわ。」
お風呂に関しては、早苗も素直に入りに行った。実は当然覗きに行くわけもなく(ちょっとだけ思ったのは内緒だ)、備え付けの椅子に座ってこれまでの事、これからの事に頭を悩ませていた。
「うーん、もうこんな時間か、そろそろ寝ようか。」
「そうね、それじゃ私こっち側で寝るから、実君はこちら側ね。」
「うん?なんか俺の方狭くない?」
「そんなことないわよ?」
「そうかなぁ?」
「そうなの!ほら、入って入って。」
「う、うん。それじゃ、お邪魔します。」
「ふふっ、ベッドに入るのにお邪魔しますってなんかおかしいね。」
「そうかなぁ。それじゃ明り消すよ?」
「うん、あ、それと腕枕。」
「腕枕?」
「うん、男の人なら、やっぱり女の子には腕枕くらいしてあげなきゃ。」
「そんなものかね、はい、これで良いかな?」
「うん、おやすみ。」
「はい、おやすみ。」
そうは言っても、当然二人とも寝れるわけでもなく、沈黙の時間だけが過ぎていく。腕枕は、当然腕が届く範囲に相手が居る必要があるため、実と早苗の間はかなり近い。しかも早苗が細かく動くたびに更に近づいているようだ。目を閉じているプレッシャーに耐えきれず、実が目を開けて早苗の方を見ると、早苗も目を開けて実の方を見ていた。
「キス、してもいいかな。」
「…うん。でも、その先は今はダメよ。」
「そうだね、うん。…早苗さん、こんな状況でなんだけど、好きだよ。」
「ふふっ、私も好きだよ。」
「ん、戻ったらうちの親と早苗さんの親御さんにも挨拶に行かないといけないかな。」
「まだ気が早い気はするけど、その時は頑張ってね。」
二人は何度か口づけを交わすと、そのまま再度眠りにつくのだった。
実が苦しくて目を覚ますと、顔に何やらやわらかいものが押しつけられていた。このままでは息がし辛い為、それをどけようと右手でそのやわらかいものを掴んだところで、更に顔に押し付けられる。
「んっ、実くん、ちょっとそこはダメだよ。」
「ん~、ん!ご、ごめん!」
どうやら、寝ている間に早苗が実の頭を抱えるような格好になったらしい。つまり、実の顔に押し付けられ、掴んだのは早苗の胸であった。
慌てて起き上がった実は、真っ赤な顔の早苗に謝り倒し、着替えて朝食を食べるために一階へと降りて行こうと提案する。
「そうね、わざとじゃ無いのは分かってたし、私の寝方にも問題があったから謝らなくていいわよ。それで、着替えだけど、流石にまだ一緒に着替えなんてできないから、どっちかは浴室になるわね。」
「それじゃ、おれが浴室で着替えるよ。終わったら呼んでくれればいいから。」
「うん、じゃあお願いするわね。」
実は、着替えを持って浴室へ向かう。早苗は浴室のドアが閉まるのを確認すると、鼻歌を歌いながら着替えをバッグから取り出し、寝巻代わりのジャージを脱ぐのだった。
「それじゃ、今日は野宿で、明日には聖王国に入るから、今までより余計に気をつけて行こうね。」
「了解!じゃあ、街を出る前に回復薬とか買っておく?」
「うーん、今のところ不要かな。この前買ったのまだ全然使ってないし。」
「そうね。それじゃ、矢だけ買い足しましょうか。この前狩りに少し使っちゃったし。」
「それなら武器屋だね。あぁ、そこにあるな。ちょっと寄って行こう。」
二人は、街を出る前の準備を行っていた。この街を出たら、仮想敵国である聖王国に入る事になる。準備は直前まで入念に行っておいてもし足りないという事はなかった。こうして、準備を整えた二人が聖王国に入ったのは、次の日の、やがて日も落ちようかという時刻であった。
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