第4話 帰還後の話と再来訪
やっぱり一話当たりの文字数が安定しません…。
「というわけで、ウォースさんは校長に全てをぶん投げましたよ。」
しれっと言う実に、一見にこやかながらもこめかみに浮かんだ青筋を隠しきれなかった校長が応じる。
「ウォースさんや嗣治の頼みだから、今回は聞くけどね。」
「すいません。」
「あと、アルテリアさんも呼ばないといけないわね。」
机の上のインターフォンで大陸公用語担当教諭、アルテリア=トルアメイスト=木葉を呼びだし、無言ながらも事情を知りたがっている二人に説明を開始した。
「木葉君が王子様だったなんて…。」
「今の王の息子ではあるけど、王位継承権とかどうなってるか知らないし、この留学が二回目の里帰り(?)だから、王子と言っていいのかわからんよ。」
「いや、普通に王子様だろ。」
「しかも、王妃様が学校で教師やってるだなんて。こうして目の前にしても、ちょっと信じ難いわね。」
「ふふん、上手く化けれたのです?」
「地じゃないか。誰だって学校一の暴れん坊教師が王妃だなんて思うかい。」
「実は、今日の晩御飯要らないみたいなのです。」
「滅相もございません。母上様。」
アルテリアもやってきて、改めて説明をした感想がさっきの発言だった。まぁ、確かに普通ないよなと実も思う。
アルテリアは、身長は百五十五センチ程度のスレンダーな体型で、顔もちょっと大きなつり目が印象的な童顔である。そのせいでとても高校生の子供がいる年齢には見えない。というか、アルテリア自身が、高校生以下にしか見えない。しかも行動は多分に気分屋的なところがあり、特に喧嘩の仲裁なんてさせようものなら、いつの間にか自分が中心になって暴れている事もあったくらいだ。
「実、ウォースが来週呼び出した理由はわかるのです?」
「多分、一昨日の件絡みだと思う。あれ、どう考えても不自然だったし。」
「え?斑大熊の件でしょ?何が不自然だったの?」
早苗が聞いてくる。自分に関係がありそうな事だから気になるようだ。そこで、実はウォースが嗣治に説明した内容と同じ内容を説明し、更に付け加えた。
「ゴブリンの数も、この時期にしては多すぎだし、調査団が遺跡に来ると同時ってとこに作為的なものを感じるんだよな。」
事故ではなく、事件である事はウォースと話して、ほぼ確定していると言っていい。問題は、誰が何の目的でそんな事をしでかしたのかという事だ。
「背景の洗い出しと、手廻しに一週間必要なんだと思うのです。多分、魔族至上主義の過激派達だと見当つけているんじゃないかと思うのです。」
「ふーん、まだ活動してるんだ、あれ。ベアル王国史の最後の方にちょこっとだけしか出てこないから、てっきり解散してるんだとばかり思ってたよ。」
「まだ活動してるようなのです。でも、その諦めの悪さは仕方ないのです。魔族にとっては、とても大事な事だったのです。まぁ、結局内乱にまでなってしまったのは、誤算だったのです。」
元々、ベアル王国は魔族が住む国だった。ところが、種族としての行き詰まりを感じて開放路線をとろうとする一派と、魔族は至高の存在なので、他の種族と交わるべきでないという一派の抗争が過激化したために、国がおおいに乱れてしまったのだ。
結局最後は王族も支持する開放路線派が勝利し、立役者である嗣治が恋仲であったアルテリアと結婚、「嗣治=ワーロック三世=トルアメイスト=木葉」王となったのだ。長すぎるし、木葉の姓を前に出すと、トルアメイスト王家が降ってしまったように捉えられてしまうので、通常はワーロック三世=トルアメイスト王と言われる。そのため、「木葉」の姓が新しい王家を示すことがあまり知られておらず、先日の短期留学でも気付いた教師は皆無だった。因みに、実も正式な氏名は「実=トルアメイスト=木葉」となるが、面倒なので余程の事が無い限り、トルアメイストの姓は出さずにいた。
「あの頃の嗣治さん、とっても強くてカッコよかったのです。」
「その情報は、特にいらないです。」
少々脱線しつつも説明は終わって、一応解散になった。早苗と浩一郎は、流石に今日はまっすぐ家に帰るそうだ。
校長は神棚に向かってお辞儀をしながら、間の神に嗣治からの依頼をお願いしていた。
「あちらから、来週お願いしますとの事ですが。」
「あちらの方は、多少落ち着いてきたと思ったのですが、まだ時間がかかる様ですね。あちらの神からも聞きましたが、嗣治さんも苦労してることでしょうから、来週は間を空けましょう。」
「ありがとうございます。」
校長は、より一層深くお辞儀をした。
「実、この後実習棟へ行くのです。」
今の実の実力を確認するため、母親と校長に連れられた実は実習棟へ向かった。
「それじゃ、まずは魔力制御を見るのです。違う魔法の術式を、可能な限り展開してみるのです。」
「了解。」
授業でやってみたように、魔力の塊を適度に分割してそれぞれを術式に展開する。
とりあえず三十程展開したところで、更に指示がとぶ。
「シールド展開したから、展開した術式で攻撃してみるのです。」
「了解。」
アルテリアが展開したシールドを認識すると、そこに向かって攻撃魔法を顕現させた。土魔法による槍や礫、風によるウィンドカッター、水によるウォーターカッター、火による炎撃等、実が顕現できる攻撃魔法の全てがシールドへ襲いかかる。
「…とりあえずは及第点なのです。基本の授業しか受けてなかったら、この程度なのかと思うのです。」
「アルテリアさん、多分普通の人は基本だけではここまでいかないと思いますけど。」
「そうなのです?」
そう言っている間も実の魔法がシールドに攻撃しているが、シールドはビクともしない。流石にベアル王国史上最高の魔力の持ち主であり、『全てを統べる魔女』とまで言われた人だけのことはある。
結局、実が放った魔法はシールドに傷一つ入れる事ができなかった。
「来週までに、展開速度と威力の向上を行うよう補習を行うのです。目標は術式百個の即時展開と、先程のシールドの破壊にするのです。」
「ちょっと待って!術式百個はともかく、あのシールドを破壊するなんて無茶じゃないの!?」
「そんな事ないのです。あのシールドは私の中で一番弱いシールドだから、実でもすぐ壊せるはずなのです。」
結局この目標が覆ることはなく、次の日から、実にとっては地獄の日々が始まり、夏休みで補習を受ける必要のない身でありながら、毎日実習室に籠る事になるのだった。
「おかえりなさいませ、王妃様。」
「どうせ公式な帰省ではないのですから、こんな時まで畏まらなくてもいいのです。」
「そうは参りません。こう言う時こそ、きちんとしなければなりませんぞ。」
転移門を抜けてきた木葉親子に対し、筆頭宮廷魔導師ウォースが敬々しく挨拶をする。
アルテリアは肩をすくめると、背後に控える実に向かって言った。
「ウォースったら、私の小さい頃からこうなのです。もう少しフランクになってくれてもいいのにと思うのです。」
「いや、それはどうだろ…。」
実も困ったように返す。
そこへ、もう一人がおずおずと声をかける
「あの…、私も一緒でいいのかしら?」
早苗である。彼女は先日の斑大熊との戦いで何もできなかった事が悔しく、せめて事件の犯人達に仕返しがしたいと、アルテリアに頼み込んで実と共に特訓を受けて来たのであった。
「伊倉様ですね。勿論宜しゅうございますよ。」
にこやかにウォースが言う。実が「こいつ、絶対何か企んでるだろ」と思ったが、言っても否定されるだけなので黙っていた。
そんな中、嗣治が和かな顔で現れた。
「久しぶりに、一家全員揃うんだし、ゲストも居る。取り敢えず城に戻ろうか。」
「あそこは肩が凝るからイヤなのです。」
「緊張するから、ちょっとイヤかな。」
「ゲ、ゲスト、ですか?そこまでして頂かなくても…。」
せっかくの嗣治の提案に、地球組が即座に否定する。その後嗣治がいじけるのを無視して、アルテリアがウォースにそれなりの宿を手配する様に指示したが、ウォースも嗣治に頼まれたか城行きを主張し、しばらく平行線をたどるのだった。
「取り敢えず、久しぶりの再会に乾杯!」
嗣治が必死に頼み込んだせいで、結局城に行く事になった一行は、使用人達が使っている食堂での一家団欒となった。ウォースは流石に遠慮して自宅へ戻っている。
出てきた食事は、アルテリアと実の手製の家庭料理だ。アルテリアは、王妃としては色々と規格外ではあるが、料理に関してもその実力を発揮していた。そして実は、そのアルテリアすら凌駕する家事スキルの持ち主であった。
「久しぶりのアルテリアや実の手料理、やっぱり美味いなぁ。」
「王様なんだから、いつでも最高のシェフとかが作ってくれるんじゃないの?」
「いやいや、そんな事はないぞ。どんな宮廷料理だって、愛する家族の手料理には勝てないんだからな。
それに、家族で食卓を囲むのも久しぶりだから、尚更だ。」
「お世辞はいいから、ちゃんと食べるのです。」
「木葉君、私も料理は下手ではないんだけど、ちょっと自信なくすレベルだわ。いつか教えてくれない?」
確かに早苗というゲストが居るとはいえ、親子三人で食卓を囲むのは、本当に久しぶりだ。前に地球で、一緒に食事したのは二年程前になる。王の仕事はやはりそれなりに忙しいらしく、なかなか戻ってこれないのだ。しかも、今回のように魔族至上主義者達や他国が絡むと、王自ら動かなければ事態が動かない事もあるため、余計に忙しくなるのであった。
だったら、母子の方が頻繁にベアル王国へ来れば良さそうなものだが、アルテリアは堅苦しい王宮生活を避けたいとの思惑があり、なかなか帰ろうとしない。息子の実に至っては、父親がベアル王国の王である事を知ったのが高校に入る時になってからである。これはアルテリアが隠していた為であり実自身のせいではないのだが、何とも言えない気分になるのだった。
そんな早苗も含めた四人の団欒は、夜が更けるまで続いたのだった。
朝、城の中庭で四人の人影が、日課にしている魔力制御の体操と、簡単な組手を行っている。四人とも動きやすいようにジャージ姿だ。異世界だと違和感が半端ないが、動きやすさを優先した結果である。
そこへ、出仕してきた筆頭宮廷魔導師も訓練に付き合うためか、比較的動きやすい格好でやってきた。こちらは流石にジャージではないが、宮廷魔導師にしてはかなりラフな格好である。
「おはようございます。本日も皆様方の調子は宜しいようで、何よりです。」
「あぁ、おはよう。」
「おはようです、ウォース。」
「おはようございます、ウォースさん。」
「おはようございます。ウォースさんもお早いですね。」
それぞれ挨拶を交わすと、ウォースも交えて魔力制御の訓練を再開した。既にかなりの制御力がある夫婦に比べ、やはり実の制御力は少々劣る。しかし、それもアルテリアとの特訓のおかげで、先週よりはかなりマシになっていた。早苗は元々魔力がそこまで多くないので、効率的な魔力制御の方法をアルテリアに習い、訓練している。
「一週間でここまでとは。アルテリア様には、是非とも学院で教鞭をとってもらいたいものですな。」
「褒めてもらえるのは嬉しいけど、これは実を小さい頃から見てたからなのです。他の子まではここまでできなのです。伊倉さんは、元々筋がいいので、放っておいてもいずれはこのレベルに達せたのです。」
どうにかして王妃に戻ってきて欲しいウォースが学院の教師の職を餌に釣ろうとするも、アルテリアは上手く躱していた。
「王様、朝食のじか…って王妃様!?」
メイドが嗣治を呼びに来た。どうやら朝食の時間らしいが、予想だにしない人達に驚いたのか、フリーズしている。
それを見た実がある事に気がつくと、ウォースに尋ねた。
「そう言えば昨日の晩御飯は俺らが作ったけど、朝ご飯ってどうなってるの?」
「王が、メイド長に伝えているものと思っておりましたが…。」
まだ若いメイドが、自分は聞いていないとばかりにぶんぶんと頭を横に振る。その反応を見るに、どうやら嗣治がメイド長へ伝え忘れていたらしい。その嗣治を見ると、脂汗をだらだらながしながら目を泳がせ、今にも逃げ出しそうな体勢をとろうとしている。
「嗣治さん、後でお話があるのです。」
食べる事も大好きなアルテリアが、凄まじいオーラを放ちながら嗣治に処刑執行の宣言を行った。
「今回の事件だが、やはり魔族至上主義者の仕業で間違いないようだ。」
あの後、実と早苗がすぐに厨房へ駆け込んで母親や自分達の分の朝食を作ったおかげで、なんとか許してもらえた嗣治が言った。但し、かなり絞られたようで、あちこちに擦り傷や切り傷が見えて痛々しい。
「一週間で裏が取れるような、杜撰な組織なの?」
「斑大熊を西の森で調査団にぶつけることができるくらいだから、俺もそう思ったんだがな。他の複数の情報源からも、奴らがやった事には間違いないと言う報告が上がってきている。」
「それで、俺と母ちゃんを呼んだ理由は?」
「一つは、お前もアルテリアも全く姿を見せないのが至上主義者の気に触るらしいから、一回里帰りって事で姿を見せて、人心を鎮めると言う事。もう一つは、そろそろお前も戦いの一つでも経験させた方が良いかと思ってな。」
「戦いの一つでもって、軽く言うなよ。」
「実際、至上主義者達の捕縛はメインを王国警備隊が行う事になっている。お前と伊倉さんは臨時隊員として、指示に従っていれば良いよ。
警備隊隊長はかなり経験豊富だ。その行動は、きっとこれからの役に立つと思う。」
「イマイチ引っかかるけど、了解。」
「それで、実行はいつなのです?
いくら夏休みでも、一週間以上先は二学期が始まってしまうのです。」
「今週中を予定している。その間、アルテリアはすまんが一緒に玉座に座っててくれないか。
やっぱり帰って来たなら、他の人の目に触れないと噂にもならないからな。」
嗣治の言葉に、心底嫌そうな顔をするアルテリア。彼女は幼い頃からこういう堅苦しい事が本当に苦手であり、何かと理由をつけては城を抜け出して街中に逃げ込んでいた。
「里帰りで帰ってきてるのを知らせたいなら、逆に街中に出かけた方が良いと思うけどね。伊倉さんも、先週の短期留学の時に来ただけし、俺も殆どいないから、街中の案内は不十分だしね。」
実がアルテリアに助け船を出す。母親の性格が分かっているので、逆に街中に出かけた方がすぐに噂になって良いと思ったのだ。
それに、言った通り街中が不案内なので、誰かに案内してもらいたいというのもある。
「うーん、やっぱりそうなるか。護衛の事も考えて城の中に居るようにしたんだけど、やっぱり無理だよな。」
「護衛なんて要らないじゃん。」
「二人とも、結構失礼なのです。でも、反論できないのが悔しいのです。」
アルテリアが如何にも悔しそうに言うが、希望は通りそうなので口はにやけている。
それを見た嗣治と実は、やれやれと肩を落とし、街中へ繰り出せると知った早苗は顔を綻ばせた。
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